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――幕間―― 薔薇の花束

(誕生日、ただルチアを迎えに行くだけでは物足りないな)

 時は夏期休暇の前日。

 ルチアを女子寮へと送り届けたアルベルトは、足早に男子寮へ向かっていた。

(ついさっきルチアと別れたばかりなのに、もうルチアに会いたい。僕のルチアへの思いは、留まることを知らないな)

 アルベルトはふっと自嘲気味に溜息を吐いた。一週間後にはルチアとアルメリアに行く約束だが、その一週間がとても長く感じる。寮の玄関ホールから、少し寂しそうな顔で手を振るルチアの顔が思い出され、胸がぎゅうっと絞られたような切なさが襲う。

(今夜はなかなか寝つけないだろうな。どうせなら論文を進めておくか)

 アルベルトは足早に男子寮へと向かった。


 翌朝、アルベルトは寮まで迎えに来た馬車に乗り、研究所へと向かっていた。昨日の快晴から一変、嵐のような雷雨で、重苦しい雨雲から轟く雷鳴が寝不足のアルベルトの頭痛を誘う。

「アルベルト様、ご体調が優れないようですが、このまま研究所に向かって大丈夫でしょうか?」

 アルベルトが生まれる前からベニーニ侯爵家に仕え、幼い頃から身の回りの世話をしてくれている老従者が、心配そうに声を掛けた。

「ああ、少し寝不足なだけだから問題ない。それにしても、今日はひどい天気だな」

「左様でございますね。近くに雷が落ちる音も度々聞こえておりますし」

 老従者が窓の外に目を向ける。

(この悪天候が、ルチアの帰郷に影響を及ぼさないといいが…)

 窓を激しく打つ雨粒が心配を募らせた。


 馬車は水を跳ね上げながら街を走る。

 いつも利用している薬草問屋の通りに差し掛かった時、アルベルトはふと思い立って、御者に声を掛け馬車を止めた。薬草問屋の数軒隣にある花屋の存在を思い出したのだ。その花屋には先日、たまたま実験に使える花を見かけて立ち寄っていた。

(そうだ。一週間後にルチアを迎えに行く時、花を持って行こう。僕の気持ちが伝わるような)

「いかがされました?」

 馬車を止めたアルベルトに、老従者が尋ねる。

「急にすまない。ルチアに送る花を買いたいと思って」

(何の花がいいだろうか。僕は花の効能などは知っていても、花言葉には疎いからな…)

 アルベルトが思案に暮れていると、老従者がにこにこしながら言った。

「それでは、薔薇の花はいかがでしょうか?贈り物の定番ではありますが、愛に纏わる花言葉を持っていて、本数や色によりその花言葉も違うのですよ」

「そうなのか?お前が花言葉に詳しいとは、以外だな」

「ふふ。私も伊達に年を重ねてはおりませんので」

 アルベルトの言葉に、老従者がにっと不敵に笑う。彼が愛妻家なのは、ベニーニ侯爵家では有名な話だ。何度も妻へ花を贈っているのだろう。


「そうだな…それでは、僕の気持ちが伝わるような花言葉のものがいいな」

 ルチアの顔を思い浮かべると、自然に頬が緩む。そのアルベルトの表情を目を細めて見守りながら、老従者が頷く。

「では、99本の赤い薔薇はいかがでしょう?99本の薔薇の花言葉は”永遠の愛”です。さらに、赤い薔薇には”告白”の意味もあります」

「”永遠の愛”を”告白”か。それにしよう」

「かしこまりました。では、アルベルト様を研究所にお送りいたしましたら、早速手配いたします」

「ああ、頼む」

 少し照れくさそうに横を向いたアルベルトを、老従者は嬉しそうに見つめた。 

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