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――幕間―― 白い花のブックマーク

「こんなに綺麗なのに、すぐに枯れちゃうなんて、もったいないなぁ」

 昨夜開花を見守った月待ち草に囲まれて、少し寂しげに呟いたルチアを笑顔にしたくて、アルベルトは白い花を見つめて思案した。

 一週間前に初めて婚約者として顔を合わせたばかりのルチアが、アルベルトは愛しくて仕方ない。まっさらで純粋なルチアのためなら、何だってしてあげたいと思うほどに。


 家同士で婚約を決めるのは、貴族なら当然のこと。

 生まれながらに輝くような美貌を持ち、幼少の頃から溢れるほどの才能を開花させていたアルベルトは、どこに顔を出しても自分の娘と婚約を、と強引に縁談を進めようとする者たちに囲まれ、齢五つにして既に、貴族社会というものに辟易していた。

 そういう貴族たちは、親も親だが娘も娘だ。ゴテゴテ着飾っておきながら、まるで私も強引な縁談に困っているんです、とでも言いたげな顔をして、これ見よがしに父親の後ろに隠れ、そのくせ媚を売るように視線を纏わりつかせてくる様には嫌気がさす。二人になれば途端にやたらと距離を詰めてくるし、香りもきつい。

 そうした経験から、アルベルトは女の子たちが苦手だった。


 出会う令嬢のほとんどが年上であったことも災いしたのかもしれないが、父親に連れられ王都に出向く度に女性不信になってしまうような目にばかり遭ってきたアルベルトは、婚約者が決まったと聞かされた時にも、まるで死刑宣告を受けたような心地がしたものだ。

 しかし、嫌々連れて行かれたアルメリアで初めて顔を合わせたルチアは、それまでアルベルトが出会った令嬢たちとは何もかもが違っていた。


 天使のような可憐な容姿に一瞬で目を奪われ、発せられた声の美しさに聞き惚れ、純真で朗らかな心根に強く惹かれた。

 品のあるシンプルな装いに、仄かに漂うのは清潔な石鹸の香り。小難しい話をしても興味深そうに聞き入り、純粋な瞳で真っ直ぐに見つめ返してくる。眩さすら感じる晴れやかな笑顔に魅了され、その一挙手一投足から目が離せない。そんな子に出会ったのは初めてだった。

(僕の婚約者。僕の特別な女の子…)

 ああ、これが恋なのだ、と驚くほどしっくりときた。早熟で冷めた感情しか抱けなかったアルベルトに、初めて芽生えた心を大きく揺さぶる感情。

 たった一日で、アルベルトの世界の中心はルチアになった。


 初恋に踊る胸を何とか落ち着けながら、アルベルトはそっとルチアの横顔を見つめる。

 月待ち草の花は、開花から三日ほどで枯れてしまう。せっかく昨夜、ルチアとともに開花を見守った花々を、何とか形に留めておきたいのは、アルベルトも同じだった。

「ねえルチア、それなら、この花でお揃いのブックマークを作らない?」

 月待ち草の花は薬としても用いられる。先程、家の者たちが薬に使用するための花を摘んでいたから、その中から二輪くらい使わせてもらっても問題はないだろう。

「お揃いのブックマーク?素敵だね!」

 アルベルトの提案に、ルチアが瞳を輝かせた。美しい瑠璃の瞳が眩しくて、アルベルトは思わず目を細める。

「それじゃあ早速、邸に帰って押し花を作ろう。今日作れば、滞在中にはできあがるはずだから」

「うん!アル、ありがとう!」

 ルチアの花のような笑顔が見られて、アルベルトの顔も自然と綻ぶ。

 二人は手を繋ぎ、足取り軽く馬車へと向かって行った。

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