世界一短い手紙に乗せて
『秋の歴史2022』に参加しようと思っていたのに、何故か恋愛ものが書けてしまいました……。
よろしければお楽しみください。
秋の空は蒼く高い。
『東京には空がない』は『智恵子抄』だったか。
今の俺にも清々しいはずのこの空が、まるでブルーシートで作った偽物みたいに、重苦しくのしかかってくるように思える。
「しくじった、かなぁ……」
一昨日、準備に準備を重ねた文化祭が終わり、片付けを終えた後。
文芸部の部誌が完売し、眼鏡がずれるほど跳ねて喜ぶ麗美先輩の可愛さに、つい口が滑った。
『俺、先輩の事が好きです』
五秒ほど止まった後、荷物を持って全速力で帰った麗美先輩。
昨日の代休に連絡しようと思ったけど、何を送っていいか分からず、ベッドでごろごろ悶えていた。
あぁ、どうしよう……。
と考えていたら、学校に着いてしまった。
とりあえず授業の間に謝る言葉を考えよう……。
あぁ、放課後だ……。
今日は特に文芸部の活動はないけど、部室棟に行ってみようかな。
麗美先輩いるかもしれないし。
……いたらどうしよう……!
でも会って話さないと何も進まないし……。
全てが終わるかもしれないけど……。
あー! 俺は何であんな事を……!
「……?」
ぐるぐるした頭のまま下駄箱を開けると、見慣れた靴の上に見慣れないものがあった。
下駄箱に、手紙?
綺麗な封筒だ。
一体誰だ?
……いつもの俺なら「ラブレターか!?」なんてはしゃぐところだけど、今の俺はこんなものにときめくほど、心が浮きたっちゃい
『古世羅 麗美』
なあああぁぁぁ!?
麗美先輩!?
な、何で!? どういう事!?
お、一昨日の返事って事、かな……?
開けるのが怖い!
見たくない!
見たくないって思ってるのに、手が丁寧に封筒を開けていく!
「……?」
中には一枚の便箋。
そして一文字『?』とだけ。
……どういう意味だ?
「あ……!」
俺は靴に足を突っ込むと走り出した!
これはあの手紙のオマージュだ!
俺が好きだと言った作品の作者が、出版社に売れ行きを尋ねた、いわゆる『世界で一番短い手紙』!
奥ゆかしい麗美先輩の想いが、この文字から聞こえてくるようだ!
『本当に私でいいの……?』
部室棟の階段を駆け上がる!
文芸部の扉を開ける!
いた! 麗美先輩!
「……!」
眼鏡の奥で、麗美先輩の大きな瞳が見開かれる!
本来は紙に『!』と書いて渡すべきなんだろうけど!
もうそんな一瞬すらもどかしくてたまらない!
勢いのまま麗美先輩を抱きしめる!
「!?」
「……俺、麗美先輩じゃなきゃ嫌です……! 俺の彼女になってください……!」
「……」
麗美先輩は返事の代わりに、俺の背中にきゅっと手を回した……。
読了ありがとうございます。
歴史物を書こうと歴史的に有名な手紙ネタを調べていたら、こんな結果になってしまいました。
大人しく武田信玄が高坂昌信に書いたと言われる恋文でコメディー書いておけば……。
いや、これが正解ですね、うん。
お楽しみいただけましたら幸いです。