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深淵のアリス3 博物館の惑星  作者: 沢森 岳
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1.幽霊船団

光もダークマターもダークエネルギーも、宇宙はまだまだ謎だらけですね。




 光の速度は無限大ではなく、れっきとした速度があって、多分に相対的なこの宇宙において、絶対的な指標として在る。

 無限大でないのは、光もこの宇宙の「存在」である以上は大きさがあり、他の存在と多少なりとも相互に作用するからであって、この光量子ひとつがこの宇宙の最小単位である。


 つまりこれが我々の宇宙の「解像度」と言うべきもので、わかりやすく言うと印刷物や表示物における1画素又は1ドットであり、これ以下はない。例えば宇宙の解像度がもっと高く、最小単位である光量子がもっと小さければ、それだけ光の速度も増すことになるが、この宇宙の存在である我々には、それは求めようがない。


 そこで我々は対消滅反応による作用を利用して時空密度を操り、自らの存在を希薄化することで結果的にA地点からB地点へ、光の速度よりも早く移動するわけだ。


 時空間を跳躍するわけでもなく、また亜空間とかいう仮想のエリアを間借りしてショートカットするわけでもないので、インフレータ・フライト中の宇宙船から見ると、針路前方が凄まじい速度で迫り来る。ように見える。


 パルサーに照らされて複雑に輝く星雲が、次第に角度を変えながら大きくなる様子などは圧巻で、例えば人類の歴史よりも若いカニ星雲などは船乗り達にも人気のスポットの一つである。


 この、宇宙のダイナミックパノラマに魅せられたのは何もレオンだけではなくて、船乗りを目指そうという者たちは、その理由の一つとして挙げることも多い。


 ただ、航宙図にある商用航路は、ジェットを噴射するブラックホールや超新星爆発の残骸、はたまた星系全てを飲み込むほどに老成した超巨星など、見どころとなりそうな事象は大きく避けて設定されていて、安全な分だけ面白味には欠ける。まあ、見どころを廻る観光遊覧船であっても、特定の観覧ポイント以外の大部分は商用航路を使うのではあるが。


 しかし、その比較的安全な商用航路にも危険は潜んでいるようで、主に人為的な要因でもって危険に晒される船舶以外にも、原因不明のままとなる事案が、広大な人類域においてはいまだに散見されていた。


 §


 ここに、ある貨物船団が、光源の乏しい宙域を静かに航行している。それはもう静かに。


 船団が今位置しているのは星系と星系とを結ぶ航路の途中、航宙図の上では針路変更ポイントとなる比較的空虚で安全な宙域である。船団を構成しているのは中型のコンテナ船二隻とこれまた中型の資源運搬用タンカー二隻、それから、この四隻を護衛する駆逐艦クラス二隻の合計六隻であった。


 加速減速や旋回性能などが同程度の船でなければ船団陣形の維持に余計な手間と暇がかかるので、商船同士が船団を組む際には、この船団のように同じような大きさの船同士で組織することになるのが普通だ。


 この船団は、光速の三パーセントほどの速度を維持したまま直進し、この宙域をまっすぐ通り抜けようとしている。その進路の先は、商用航路として設定されている領域の外側で、つまりは宇宙船が航行する際の安全性を検証されていない宙域だ。そしてその更に先は、星間物質の分布すら大まかにしか観測されていない、航行するにはリスクの高いエリアとなる。


 勿論のこと、経済活動の一環として資材や商品を運ぶ船舶が、リスクを承知の上で通るべきところでは決してない。それどころか、よく見ると六隻共に外宇宙航行船舶として定められた灯火を点灯しておらず、船窓などから漏れ出る光すらも全くない。一見して損傷や破損は無く概ね良好な外観を保ってはいるが、六隻ともにもはや何らの信号を発信も受信もしていなかった。



 外観に目立った損傷などは見当たらず、船籍も明確なこの船団には、この時点ですでに生存者は一人もいなかった。

 生存者のみならず、船舶を制御するべきシステムも全てが停止しており、加速も減速も自ら行うことは、もうない。


 つまり、今現在はかろうじて船団を形成している各船舶はこのまま、慣性によって各々まっすぐ突き進むほかはない。いずれどこかの大きな重力源に引き寄せられて落ちるか、さもなければ所謂「幽霊船」として、どこまでも彷徨うことになる。


 居住環境維持機構の働かなくなって久しい船内では、元乗組員であったモノが凍てつく暗闇の中に佇んだままだ。各運搬船だけではない。本来彼らを守るべき護衛の二隻も、状況は同じである。SOSは発せられていなかったし、他船舶等からの呼びかけに応じることもなく、ただただ惰性を維持しているのみ。


 この船団が、合理的な理由があって放棄されたものではない事だけは、明らかだった。



謎だらけだから楽しいんですよね。


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