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それは眩しい日々に

真っ青な春を存分に謳歌する高校生達にとって、クラス分けというものは春の一大イベントらしい。

彼等のお目当ての紙が張り出されている下駄箱周辺は、俺が学校に着いた時にはもう大勢の生徒でごった返していた。

──参ったな。

始業式が始まるのにはまだ時間ある筈なんだけど。

腕時計を確認しながら、ティーンエイジャー達の恐るべき活力を侮っていた少し前の自分を呪う。

人が掃けるまで時間をどう潰そうか頭を悩ませながら踵を返したその時、背後からドタバタとした大きな足音と共に聞き慣れた声が迫ってきた。

「こーやー」

不味い。

反射で身構えたものの、もう遅かった。

「まぁ!」

「おわっ…」

通学鞄で思い切り背中を叩く、という非人道的極まりない挨拶をまともに食らった俺は前に少しよろけたものの、なんとか体勢を立て直した。危ない危ない、もう少しで派手に顔面から倒れる所だった。

「おっはよぅ、早いね」

「おっはよぅ、じゃねえよ……はぁ」

なんとか身体を支え切った安心感とありったけの苛立ちがブレンドされたため息を一つ吐いて、声の主、古原小夜(こはらさよ)を睨み付ける。

「 古原ぁ、お前」

「ねえっ、クラス分けもう見た?見たよね?」

他人の話を聞けないのか、こいつは。

「勝手に話を遮るな。こっちは朝から最悪の気分だってのに」

「えー?あっ分かった!」

大袈裟な仕草で俺の顔を指さす。お前に何が分かる。

「さてはさては、愛しの人と違うクラスになっちゃった!とかぁ?そりゃあ残念だねぇ」

「……あのなあ」

「ええっもしかして当たり!?誰?誰なの?佳奈ちゃん?それともハナ?」

「いや全然違うし、とりあえず一回静かにして」

古原お得意のマシンガントークをなんとか収める。こんな猛連射を浴び続ければ、長年の付き合いで耐性がついている俺でも頭がおかしくなりそうになるっての。

「まず一つ。俺の背中を虐めるな」

「虐めてませんー。スキンシップですぅ」

「最後まで聞け。それに鞄はスキンじゃないでしょ」

「む」

「二つ。別にその二人に恋愛感情なんて持ってないから。んで最後、俺はまだクラス分け見てない」

そう言い放ち、さあどう来るかと出方を伺う。当の古原は一瞬驚いたような表情を浮かべたかと思えば、直ぐにそれはにやにやとした不敵な笑みへと変わった。ああ嫌な予感。

「そっかぁ、まだ見てないんだぁ」

「..........」

「じゃあ小山はまだ知らないんだねぇ。ふっふっふ」

得意げに笑う古原を尻目に、まるで判決を言い渡される罪人のような気分で次に発せられる言葉を待つ。

「これから1年間──」

まさか。

「あたしと同じ教室で過ごすことを!」

「.....マジ?」

屈託の無い笑顔で両手を広げる古原と、背後で自分達を祝福するかのように咲き溢れる桜並木。なんだか似てるな、なんて俺は頭の何処かで思いながら引きつった笑みを浮かべる。

「マジの大マジ。信じられないなら見てくるかい?」

言われて下駄箱の方に目をやると、いつの間にか生徒の数はまばらになっていた。そろそろ教室に行く時間か。

「そうするよ。まあどっちにしろ通るしな」

「それもそっか」


そうこうして表を確認するも、俺の名前の真上にどこか誇らしげな様子で鎮座する『古原小夜』の文字がすべてを物語っていた。

二人ともそのまま下駄箱で上履きに履き替え、三階にある自分たちの教室めざして階段を上る。

隣からはその間ずっと楽しみだとか何だとか賑やかなな声が話しかけてきたが、全部スルー。

ああ、まだ四月も六日だというのに。

古宮の方をちらと見る。目が合って一瞬、ピタリと声が止む。

「忙しい一年になりそうだ」

「なにそれ」

二人の笑い声が、廊下に響いた。

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