【第一章】第七部分
各方面からイジメを受けていた鰯司は、小さい頃から被害者妄想にまみれていたのである。この件は湖線に体当たりされたと思ってしまったのである。
「ハクション。誰かワタクシのウワサをしてるのかしら。まあ、常に注目の的なんですから、仕方ありませんわね。むしろ、ウワサの数が多すぎて、風邪を引かないように予防しないといけませんわ。ウワサで雑菌が増殖したみたいですわ。ガラガラ、ペッ。」
湖線はいきなりうがいを始めた。
「ケガレが取れないでちゅわ。うわ~ん。」
突然泣き出した湖線のからだが、幼児のように小さくなったように見えた。
「クスリが切れたのでちゅわ!ヤバい、ヤバい!うえ~ん。」
湖線は常用している風邪薬が切れると、からだが小さくなり、泣き虫になるのである。
そんな風になったのは、わりと最近である。
「な、なんでちゅの、これは!」
今は、それだけでなく、背中に黒いもの、小さな翼が生えている。
「これじゃ、まるで天使ではありまちぇんか!」
黒い翼は、天使ではなく、悪魔属性である。もっと言えばほぼ魔獣である。
「これは何かの間違いですわ。いつもの通り、風邪薬で、一過性の病気を治しますわ!」
湖線は風邪薬を瓶ごと飲んだ。
翼を含めて、からだは元に戻ったが、湖線の表情は暗い海の濃紺に染まっていた。
光葉もこれまで校外学習はうまくいったためしがなかったので、今日の成果を振り返る、つまり、自分の描いた絵を見ながらニンマリしていた。ふだん仏頂面の光葉の笑顔は、一般生徒にはブキミにしか見えないであろう。
「鰯司が一緒にいるとうまくいくことがたまにあるけど、わたしが鰯司の命を守ったこともあったよな。特にあの夏祭りとか。」