【第一章】第三部分
「遅刻だよ~!モグモグ。」
食パンをくわえて走ってやってきたのは、湖線たちの同級生の川添鰯司である。
眼鏡をかけた、ひ弱な丸顔の非イケメン。雑に七三分けしているアホゲ。身長は、湖線と光葉の真ん中ぐらい。引っ込み思案でおっちょこちょい。女子なら、どじっこという避難場所があるが、男子がそれだとゴミ要素を付加したに過ぎない。運動できない、成績は下から数えて一桁以内。美術、音楽も小学生レベルである。
鰯司の決め台詞は、これである。
「天は百万分の二物しか与えなかった!」
パーセンテージに引き直すと、0.0000002%。それはもはやなにもできないのと同義である。
そんなハイパーダメ中学生である鰯司であるが、ツートップとは幼馴染みで、気軽に話すことができた。モブ生徒にとって、湖線は高嶺の花であり、光葉は常態サングラスの近寄りがたい人物であることから、鰯司とツートップの関係性は、学校の七不思議の最上位にランクされていた。
「直線なんて、この世界から滅亡させてみせますわ!」
「今から日蝕を引き起こしてやる!」
背中合わせになって、シュプレヒコールしている湖線と光葉。ライバル関係で仲は悪いものの、幼馴染みゆえ、側にいることは意外に多かった。
特に今回は、ふたりが唯一苦手とするものを共有しているという、奇妙な連帯感が心の低流に流れていた。
そんなツートップの前に、鰯司が現れた。というか、鰯司が走り込んできた場所に、ふたりが座っていたというのが正しい。
「遅刻って、鰯司さん、今いったい何時だと思ってますの?これは午後の授業ですのよ。」
「そうだぞ、鰯司。今出ました!って言う蕎麦屋の出前でも、こんなに遅れることはないぞ。」
ふたりは鰯司に対してダメ出ししながらも、表情は柔らかい。
一方の鰯司は、勢いよく迫ってきたふたりに対して、明らかにビビっている。