【第一章】第二十一部分
静かさの理由は、至ってシンプルだった。2つの悪魔的なニラミが教室内の空気を急速冷凍したからである。
「二条院さん、魔獣だわ!「小暮さんは鬼だ!」
この直後、魔獣の湖線、鬼の光葉と渾名兼異名がふたりについていた。
3人の座席は教壇の真ん前で、センターが鰯司、左側に湖線、右側に光葉というシフトであったが、担任の理解の下、左右は毎日交代するというルールになっていた。
湖線は椅子の音を思いっきり立てて立ち上がった。意図的に大きな音を出して、回りの生徒を威嚇したのである。
「ワタクシが委員長に立候補しますわ。」
湖線は声高らかに宣言した。
光葉は沈黙を決めていた。
「エントリーはひとりだけですか。締め切りますよ。」
日が陰って、サングラスに自分の顔が映った。牙が生えていた。
「鬼になってる!」
『ガタッ!』
光葉も自席で立ち上がった。もちろん、現実の光葉には糸切り歯しか持っていない。
『キラッ。』再び太陽が教室に入ってきて、赤いメガネに光が差した。
「それではミスコンは2名ということでエントリー完了とします。」
担任は黙って黒板にふたりの名前を書いてから、教壇に戻った。
「それではミスコンを始めますので、教室を移動してください。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「どこに行くの?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
再び生徒たちはざわついてきたが、とりあえず全員が担任のあとについていった。
「「「「「「「「「「「「「「「「「ここでミスコンをやるの?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
ほぼ全員が大きな声を出さざるを得なかった。まだ春先で肌寒い季節である。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「プールでミスコン!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
再びクラスメイトたちはどよめくしかなかった。さらに、担任の発言に、クラスは色めきたつことになる。
「ミスコンは水着で行います。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「えええ?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
驚愕する生徒たちに対して、担任は至って冷静であった。
「みなさん、ミスコンって言ったら、水着審査がメインではありませんか?」
「そりゃそうだね!」「やれやれ~!」「水着万歳!」
数人しかいない男子がヤンヤと喝采した。
『ジトっ。』
ヤンヤの歓声は無数のムスッとした女子視線により、瞬殺された。
その始終、鰯司は当然の如く、ヤンヤ不参加であった。




