【第一章】第二部分
ふたりは中学で常に1、2位を争っていた。優勝同点もしばしばあったが、白黒ついた場面は、それぞれの弱点が出たケースであった。
ある時、美術の校外授業があった。文京区は都心であり、当然田園風景を描くのではなく、ビル群を写生するという課題があった。サングラスの光葉に対して、直線が必須な風景画。午後の直射日光下ではサングラスでもカバーし切れない。スケッチブックに、スラスラと鉛筆を走らせる一般の生徒たちに対して、ツートップのふたりは、絶対的困難というユニットを強制されていた。
湖線は、ひたすら愚痴を言うことで、ガス抜きをやっていた。
「よりにもよって、ビルなんかのスケッチをさせるんですの?風景画と言えば、緑一色の公園や野山や河川敷などでしょう。わざわざ、ブラック企業が入居している、直線ばかりの人間の創作物を描いて、何の価値があるんですの!」
湖線は鉛筆を動かさず、口の端と眉根を吊り上げるドリルを繰り返していた。ついでにツインテドリルをさかんに捻っていた。イラついたときのクセである。
一方で、光葉はぜえぜえと息絶え絶えで、絵を描くどころではなかった。午後の外の直射日光は、グラウンドとは異なり、アスファルトからの照り返しも激しく、サングラスでは到底カバーできない照度である。目がくらくらする光葉は、鉛筆を持つことすらできなかった。
「眩しい。日陰はどこだ?あそこにあるぞ。急げ~!ガバッ。」
「ちょっと、光葉さん、ワタクシに何がしたいんですの?」
光葉は湖線のスカートを日傘として利用していた。
「あっ。ごめん。つい。」
「光葉さん。変なシュミでもお持ちなんですの?今回が初めてではありませんことよ。時折、外でこんな不埒は許しませんよ。」
「そんなシュミはない、断じてない。」
光葉は大慌てで、汗を振り撒きながら、湖線のそばを離れた。
「ヒトはどうしてビタミンDを体内合成できないんだ。わたしが将来化学者になったら、改造人間によるビタミンDの内製化理論を発見・証明して、ノーベル賞をとってやる!」
マッドサイエンティストの第一歩はここから始まった?