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天京の聖杯  作者: はぐれイヌワシ
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魏忠賢の死

魏忠賢暗殺の試みは心ある官民によって幾度も企てられていたが、その何れも失敗に終わって来た。

元衛兵の猟師に矢を射かけられたこともあるし、

賄賂の紹興酒に毒が混ざっており、こっそり飲んだ給仕が頓死した事もある。


しかし、王恭廠の爆発事故以降はこういった事も絶え果て、

明国はあたかも魏忠賢という名の絶望を受け入れたかのようになった。


あちこちで魏忠賢を称える祠が建立された。

彼は自らの事を皇帝専用の『万歳』に千歳足りない『九千歳』と称した。


『尭天舜徳至聖至神』。

これが、「魏忠賢を孔子と同等の聖者と扱うべき」と進言したある監生が発案した魏忠賢の称号である。


今や、明国において、一人の宦官は、神と同等だったのである。


***


翌年の八月、由校と魏忠賢は紫禁城の北西にある離宮の水辺で舟遊びをしていた。

魏忠賢の船が由校の船より大きかったが、文句を言う者がこの場所にいるはずもなかった。


ふと、風が強く吹いた。

魏忠賢の船は大きく揺れても持ちこたえたが、由校の船はあっさり転覆した。


すぐさま由校は引き上げられたが、旧暦の八月である。

北京では既に気温も水温も下がり始めていた為、体温は奪われ、間もなく由校は熱を出した。


慌てたのは魏忠賢である。

何せ今の由校には子がいない。

さすれば、次の帝は必然的に由校のたった一人の弟、由検になってしまう。


由検は兄とは全く違う性質で、手先は不器用ではあるが張嫣に影響されて読書するようになっている。

決して魏忠賢が意のままに動かせる男でないことは分かりきっていた。


すぐさま魏忠賢の息がかかっている尚書・霍維華が由校に『霊露飲』という、五穀を蒸留した甘い水薬を献上した。

しかし、効果はなく、やがて由校の全身に浮腫みが出てきた。


魏忠賢は成人している全ての皇族を北京に呼び寄せようとした。

それを遮ったのは、他でもない張嫣である。

「陛下には信王という弟君がございます。徒に皇位を争わせるべきではないでしょう」


最期を悟った由校は、由検を枕元に呼び、後事を託した。


「私は子がない故、お前に託す。魏忠賢は忠実で正しい。国家の重要事項は彼らに任せろ

―――お前は私が為せなかった事をしてくれ」


数時間後、由校は崩じた。数えで二十三歳だった。

廟号は『熹宗』だが、日本では年号が『天啓』だったので『天啓帝』と称される。


***


新帝・由検が最初に行った仕事は―――魏忠賢の排除である。


張嫣と示し合わせ、ついに臣下が『魏忠賢の十の大罪』を発表したのである。


・皇帝と並んだ

・皇后を虐待し、皇帝の子まで流した

・武具や兵を私物化した

・泰昌帝をきちんと祀らなかった

・皇族の土地に無断で手を加えた

・孔子と同等の聖者と自称した

・爵位自分の親戚と手下に乱発した

・満州との戦いに勝利した袁将軍の功績をまともに評価しなかった

・民にまで酷刑を加えた

・皇帝と臣下を分断した


以上の旨を、魏忠賢の面前で発表した。

部下を介して許しを求めたが、逆にその臣下が罷免された。


***


魏忠賢は、太祖の出身地である安徽省・鳳陽への赴任を命じられた。

その途上、まだ河北省も出ていない阜城で紐が由検から届けられ、

次いで『あなた様を逮捕するための部隊が追っております』との報せが届いた。


終焉を悟った魏忠賢は、あっさりと首をくくって死んだ。


その場に埋められた遺体は追ってきた部隊によって掘り起こされ、都に送られた上で刻まれ、首は晒された。


『死んでてもいい、皮剥がしてから刻もうぜ!』

『畜生、なんであいつが楽に死ねたんだよ!』

『みんな苦しめまくった上で殺したくせに!』


あるいは、その紐は由検なりの『慈悲』だったのかもしれない。


***


魏忠賢の一族は全て処刑されて死体を野晒しにされ、客印月は鞭によって肉体を破壊されて死んだ。

客印月の死顔を見て、張嫣は『張裕妃の死顔に似ている』と感じた。


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