特技は夢オチです。
私には、特技がある。それは、夢を見ている時に、それが夢であると自覚できることである。
遠くから聞こえる生徒達の掛け声、そよそよと流れる風の肌触り、まだ夕方とは言えないと感じる陽の光。それは一見、リアリティ溢れる感覚だ。
「…あ、これ夢だ」
学校の屋上に佇んでいた私は、唐突にそう自覚した。
「あり得ないよねー。だって、今の私は社会人だしー。高校の卒業式って何年前だっけか」
コツは、あまり強く自覚しないこと。意識して記憶を掘り起こそうとすると目が覚めてしまう。それは、もったいない。
「よし、ひさびさに私の超絶爆裂魔法をお見せしよう! 【顕現せよ】!」
シュバッ…!!
屋上の床いっぱいに描かれる魔法陣。『わたしがかんがえたさいきょうの』紋様が光り輝く。
「光と風の精霊よ、我が願いに応え、その力を―――」
◇
でもまあ、しょせんは夢である。
「…おい、起きろ」
「そのちからをー、かいほうしろー」
「起きろっての、バカ姉貴!」
ごすっ
「うごっ…」
「…目、覚めたか?」
「…覚めました。おはよう、ナオくん」
「おはよう。まあ、もう出勤時間には間に合わないけどな」
「…えっ。ええええええええええっ!?」
バタバタ
ぽちぽち
「…あっ、ぶちょーですか! すいません、今日は1時間遅れて出社します! …はい、はい…い、いやだなあ、寝坊だなんて。私はただ…はい、寝坊です。…はい、はい、では」
ピッ
「はあ…」
私の特技の欠点、それは、夢の中に入り込み過ぎて、寝過ごしてしまうこと。記憶を強く意識すれば目が覚めるわけで、諸刃の剣と言えよう。
「『諸刃の剣』を誤用してるぞ、それ」
「ナオくん、私の心を読んだ!? え、もしかして次の夢の中!?」
「声に出てたぞ」
「うそん」
「そのちからをー、てのもな」
「きゃー」
呆れた顔で淡々とツッコミを入れてくるナオくん。マンションで一緒に住む、大学生の弟だ。
「…朝飯、食べるか?」
「食べる。ナオくんはまだいいの?」
「今日の講義は午後からだからな。もう作ってあるからはよ来い」
そう言って、私の部屋から出ていくナオくん。大学が近いからと、私と同居して2年は経つ、ポンコツな私と違ってよく出来た弟である。
成績優秀、眉目秀麗、それでいてスポーツもできる。なものだから、モテるモテる。バレンタインデーとかはそりゃあもう何袋も抱えて帰宅するのが定番である。
「なのに、なんで彼女作らないの? もぐもぐ」
「妄想を特技とか抜かす姉貴のせいじゃねえかな」
「妄想じゃないもん、夢だって自覚してるもん」
「なお悪いわ」
まあ、ナオくんが私に構わなくなったら、毎朝寝坊する自信がある。そんでもって、一週間でクビになる自信がある。今のところ、ナオくんのおかげで十勝一敗の戦績である。
「それもたいがいだからな?」
「また私の心読んだ!」
「またじゃねえ。人前で独り言言うクセも直せよな」
「ナオくん、優しい」
「常識人なだけだ。ほら、そろそろ出ないとマズいんじゃないのか?」
「きゃー」
焼き立てパンをあわてて口に突っ込み、コーヒーを流し込む。せっかくナオくんが起こしてくれたのに、一時間の猶予が切れてしまう―――
◇
でもまあ、しょせんは夢である。
ドゴオオオオオオオン!
「…はっ!?」
「起きろ! 敵襲だ!」
「くっ…異世界のやつら、魔法大隊を一個師団投入してきやがった!」
私には、特技がある。それは、夢を見ている時に、それが夢であると自覚できることである。
「目が覚めたか!? 行けるか?」
「…うん、覚めたよ。よし、ひさびさに私の超絶爆裂魔法をお見せしよう! 【顕現せよ】!」
でも、この夢だけは、夢であるとなかなか自覚できない。
禁忌ネタな上にn番煎じっていう。