調子にのりました
ギルドマスター室。
「いやぁ~ん、ごめんねぇ~。わざわざ来てもらちゃってぇ~?」
ギルドマスター、ゼグイが椅子に座りながら言った。
その言葉を聞いたメイカは、
「…本当ですよ……私は依頼受けたかったのに……」
すごく、いじけていた。手を後ろで組み、足元に小石でもあるみたいに軽く蹴る。顔は斜め下を向き、まるで「ケッ…」とでも、言っているようだ。
その様子を見たゼグイのこめかみがピクピクと動いている。
「…お金持ってないのに……」
まだ、いじけている。
「…野宿なんて嫌ですよ私」
まだまだ、いじけている。
そしてついに座り込んだ。
「…はぁ……きっとこのまま暗くなって、依頼も受けれず、お金も手に入らず、この寒い中、凍えながら外で過ごさなくちゃいけないんだね……何て可愛そうな私……」
座り込んだまま床に、の、の字を書き始めたメイカ。しまいにはうそ泣きすらしはじめた。
ゼグイは、そん彼女を見て……まだ、我慢していた。
たしかに、いきなり呼んだのはワタシだ。記憶喪失とは聞いたが、お金がないとは聞いてなかったので、そこは悪いと思う。だから、この程度の愚痴は許してやろう。と言った感じに。
だが、何も言わないゼグイにメイカは何を思ったのか、ゼグイに対して一番言ってはいけない禁句の言葉を言ってしまった。
「………ハゲオカマ…………」
「……っ誰がハゲオカマじゃおんどりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!! しばくぞこのクソガキぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ぴぃ!? ごめんなさい! 調子にのりました! ごめんなさい! 許してぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
結局怒鳴られるメイカだった。
それからしばらく。
「それでねぇ~ん? ここにメイカちゃんを呼んだのはぁ、聞きたいことがあったのよぉ~」
いつもどおりの乙女? に戻ったゼグイがメイカに言う。
メイカ目にためた涙を指で拭き取りながら、首をかしげる。
「…なんですか? ゼグイさん?」
「あなたねぇ~…もしかしてものすごく強かったりしない?」
ゼグイの問いに、メイカは何言ってんだこの人? と、思っているかのような目を向ける。
「私が強いわけないじゃないですかー。嫌ですね。今日だってここに来るのに、すごい逃げ回りながら、必死に来たんですからね!」
やれやれ、といった感じにため息を吐いた。
ちなみに、メイカが逃げたのはカメレオンもどきの時だけである。しかも、それからはこれといって危険な生物には出会わなく、むしろ、楽しげに寄り道をしたりしてここに来ている。たいへんな悪女である。
「…そう…そうなのね。わかったわ。答えてくれて助かったわ。もう行っていいわよ。それと、はい」
ゼグイが取り出したのは、数枚の通貨…お金だった。
メイカはこれが何なのか分かっていないみたいで首をかしげる。
「これは答えてくれた報酬よ。1万ルンあるわ」
ルンと聞いたメイカが、目をキラキラさせてゼグイの持っているお金に目を合わせた。
「わあぁ! ありがとうございます! ゼグイさん優しいですね!」
「これでこのギルドの隣にある宿にでも泊まりなさい。治安が良いところだからね」
「はい! ありがとうございます!」
手渡されたお金を見ながら元気良くお礼を言うメイカ。手にぎゅっと持ち、絶対になくさないぞっと意気込んでいる。
そして、「それでは!」と言い、ルンルン気分で部屋を出ようとする。
…だが、その瞬間、
ゼグイが何かしらのスイッチを押すと、周囲の音が消えた。
ゼグイが立ち上がりメイカに向けて足を進める。
メイカはお金の事で頭がいっぱいなのか、音が消えたことに気づいていないようだった。
そんなメイカの後ろにくると、ゼグイは拳を握り振り上げる。
「……っ!?」
ゼグイの拳がメイカに当たると……ゼグイの拳の骨が折れた。周囲の音が消えているため、折れた音はしないが、確かに折れたのだ。
ゼグイは苦痛に顔を歪めた。
そして、棚に置いてあったガラスの瓶を取ると、勢いよく飲み干した。
その間にメイカは扉を開け外に出ると、一回ゼグイの方に振り向き、「失礼しました!」と元気よく挨拶をし出ていった。
ゼグイはメイカが出ていった扉を見つめている。
そして、テーブルに置いてある、スイッチを押すと、音が戻ってきた。
「…殺気は感じられなかった。メイカはワタシが殴った事すら気づかなかった。スキルも魔法も使われた形跡はない」
…なのに、ワタシの拳が壊れた。
単純に恐ろしいとゼグイは思った。
記憶喪失と言っていたが、嘘を言っている様子ではなかった。
今のメイカは、自分の力を知らない可能性がある。
メイカが一体何者なのか純粋に気になった。記憶喪失になっているメイカには聞いても答えられないだろうが……
もし、メイカが自分の力をを知ったらどうなるのか……
けど、今のメイカの性格なら大丈夫だろうとゼグイは思った。
…だが、もし…もしも……記憶が戻り、メイカの性格が残虐性だった場合は……