ないないづくしの私
私はあれを見てから1つだけ思ったことがあった。
ここって、もしかしたら私が知っている世界じゃないんじゃないかって。
だって、おかしいでしょう。あんな生き物見たことがない。あんなのがいたら、昔にテレビで放送されてるよ。
それにこの草原もそうだ。科学が進んだ地球でこんな大草原あるわけがない。外国の大きい密林にだってこんな草原はないよ。
てなわけで、ここは絶対に地球じゃない世界。つまり、異世界だと!! 思ったわけです。
すこし大きめの岩があったので、寄りかかって地面に座る。
…え? あのカメレオンもどきがどうしたのかって? …あぁあれね。なんか、吠えるだけ吠えて襲ってはこなかったんだよね。本当になんなんだよって感じ。襲ってこないなら、吠えるなよ。…べ、別に怖くはないけどね!! ……虚しい。1人ツンデレって誰特なの。
でも、嬉しいこともあってね。あのカメレオンもどきから逃げるために全力疾走したお陰でまだ距離はあるけど、街が見えるの。
思わずガッツポーズした。
ここが異世界だって事がわかって帰りたくはなったけど、帰る方法がわからないし、とりあえずはあの街に行くしかないよね。
「…よし。行くかな」
軽く伸びをし出発する。
歩いてから数分。今度は小さい動物を見つけた。
太ったリスみたいな動物だ。ちょっとかわいい。
おいでおいで、と、手招きする。特に警戒心とかはないのか、真直ぐにこっちにやってきた。
指で頬なでたり頭を撫でたりする。毛がサラサラでずっと触っていたくなる。
すると、何を思ったのかこの子が甘噛をしてきた。
本当にかわいいな~、と思いながらほんわかする。
…あれ、でもこの子の歯、結構鋭くない? かむかむするたびにチラリと見えるんだけど、結構尖っているような?
…まぁ、痛くないってことは、ちゃんと注意して噛んでるってことだよね。
あぁ、やっぱりかわいいなぁ。
と、いけないけない。こんな所で寄り道してる場合ではない。街に行かなくちゃ。
指を離しバイバイと手を振る。ササッとその子は逃げていった。
……ビックリするほど全力疾走だった。なんで?
まぁいいか。と思い、再び歩き出す。
街はもう見えてるけど、道のりはまだ長い。
それからも色々と寄り道をしたりしたが、なんとか暗くなる前に街に着くことができた。
街は大きな壁に囲まれていて、この入り口以外から絶対に入れさせん! とでも、言っているみたいだ。
その入り口はというと、何かいろんな人が並んでいた。その中で一番気になったのは、馬車だ。
あの現代に馬車何てものはない。だって車があるから。やっぱりここは異世界なんだなと再認識した。
街に着いたのはいいんだけど、入り口には何か鉄の鎧を着た人が2人立っていて、街に入ろうとする人に話しかけている。
これは検問…みたいなものなのかな?
もしそうだとすれば、私はどうなんだろうか? もし、検問だったら、ここに来た目的とか聞かれたり、身分証とか言われそうだ。
目的はまだしも身分証なんて持ってない。もし入れなかったらどうしよう。
とりあえず、行くだけ行ってみよう。なるようになれってね。
一番後ろに並び自分の番が来るのを待つ。
そんなには並んでないから、10分くらいでここまで来ると思う。
少しずつ前に進んでいく。今のところみんな通れてるみたいだ。
それと、入り口をずっと見ていたら、2つの事がわかった。
1つは、入る人が何かカードみたいなのを見せていること。これはたぶん身分証か何かだと思う。
もう1つは、何かしらのコインを1枚渡していること。これは…お金なのかなって思ってる。
カードもない、お金もない、ないないづくしの私は果たしてここを通れるのだろうか。
遂に自分の番が来た。
「おっ、これはまた可愛らしい嬢ちゃんが来たな。ここに来た目的と身分証を出してくれ」
鎧きたおじさんにそんなことを言われた。
やっぱり、検問で正解みたいだ。でも、どうしようか。そんなものは一切持ってない。
「すいません。私記憶喪失みたいで、自分の事何も覚えてないんです。身分証というのも持ってません…」
これが私の答え。そう。大人しく本当の事を伝える。
どうするおじさん…! みたいな感じでチラリと見ると、思案顔をしていた。
「うぅん…記憶喪失か。どこからきたのかは覚えているか?」
「向こうです」
と、素直に洞窟があった方を指差す。
「うーん、そっちはウォンティスの草原しかないと思うが……」
「はい。その草原から来ました。近くを見回した所、この街が見えましたので、やって来ました」
「なるほど…」
厳しいか…? 何やら考え込んでいるおじさんを見て思う
「身分証がない場合、通行に1万ルン必要になるが持ってくるか?」
ルン? この世界の通貨かな? でも、残念ながら持ってないのです。
おじさんにむかってフルフルと首を振る。身分証もない、お金もない、通してもらえなさそう。
「それだったらこっちに来てくれ」
おじさんが、壁の方を指差す。
いや、よく見れば壁に扉がついている。あの中に行くのかな。
おじさんは何の説明もしてくれず扉に向かって歩いていくので、私もあとをついていく。
…え、これ大丈夫だよね。変なことされたりしないよね。
ぐっへっへっ。嬢ちゃん良い体してんねぇ。とか、あのおじさんに言われたらどうしよう。
「おーい。こっちだぞ」
おじさんは扉を開け、早くこいといっている。
「あ、あの……もしかして、変なことされちゃうんですか……」
さすがにそれは嫌なので、おじさんのところにいくと目に涙をためてそう言った。
「…ばっ!? そういうのじゃねえよ!? 嬢ちゃんみたいなのは、少し質問して、犯罪履歴がないかとかの確認するんだよ! それに、女には女がつくから安心しろ!」
……なーんだ。そうなのか。うそ泣きする必要もなかった。
「それじゃ行きましょう」
「お、おう…?」
おじさんを押して、中に入る。なんとか街の中には入れそうだ。
それにしてもこのおじさん。何か反応可愛いな。もしや、未婚だな?
ガリックス
太ったリスみたいな見た目。見るからに無害そうに見えるが、侮ってはいけない。その牙は人を簡単に噛みちぎってしまうほど鋭く強い。
鎧のおじさん
未婚。へたれ。
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