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Ⅰ《未確認後部領域》(4)

CAUTION


一 分かりやすい文章ではありません。文体も重めです。


二 容赦なく人が死んでいくスタイルです。苦手な方はご遠慮ください。


三 ある程度の航空軍事用語を知っていると楽しめます。それを前提としている部分もあります。


四 明らかに有り得ない設定が無数にあります。架空と割り切ってお楽しみください。


五 多少の差別的表現、汚い言葉が含まれます。敏感な方は閲覧を非推奨します。


六 筆者の軍事知識は並み以上マニア以下といった所です。四にも書きましたがご理解ください。




上記の六つをご理解頂ける方は是非お読みください。



 そうとは言いつつ、未だにアリスの過去が気になった。適当に食事を済ませ、自室に戻った晴臣はシャワーを浴び終えると端末で彼女の名前を検索。マシンは軍のデータベースに登録されている情報を拾い上げてくる。年代物のブランデーを引っ張り出し、煙草に火をつける。

 やはり何回やっても結果は同じなのだ。変わる事はない。アリス・ロードス。分かるのは名前と年齢、所属部隊位のものだった。その過去は不明。確かに陸軍特殊作戦部隊に所属し、その後は情報軍へと移動した事は明記されている。それにしてもあまりにも情報が少なすぎる。追加されたのは戦術航空軍第二四航空師団第九飛行部隊所属の文言のみ。軍への入隊時期すら明記されていない。

 まるで、不釣り合いな過去を強引に隠し通すかのような限られた情報。晴臣は画面を静かに見つめる事しか出来なかった。チューリップグラスへと注がれたブランデーが香る。バリエンテ社のロストフィフティー。失われた五十年が意味する通り、その半世紀もの時を過ごした古酒がブレンドされている。とにかく濃厚ながらもキレのある風味、重く琥珀色に輝く液体。それらを全く主張しないシンプルなボトル。バリエンテ社自体が規模の小さな家族経営のブランデーメーカーで生産数が少なく、ロストフィフティーに至っては年間数百ケースしか生産されないという希少性を持つ。こんな事が出来るのも専用の個室を与えられるマキナ搭乗員ならではだろう。

 この酒とアリスは何処となく似ていると晴臣は思う。外見からは想像できない主張の強さ。

 濡れた髪が下りてくる。視界を覆う。その前髪を跳ね上げると腰を上げてドライヤーで髪を乾かした。鏡に自分の顔が映る。あまり健康的ではない。

 自分に嘘はつけなかった。彼女の事は信頼している。彼女は優秀なマキナライダーであり、タリオニス(目には目を)の後部座席に座る資格があり、能力がある。オノンネル大佐が書き続けた始末書に終止符を打った存在でもある。それは間違いないのだが、経歴、本人、その他諸々の晴臣が“感じる”事の出来る情報は納得が行かない。信頼していないわけではないのだが、それとは違う何かが未だに残っている。

 晴臣は酒豪ではない。安酒を流し込むタイプではない。基地内の繁華街にはバーもあるが、そういった場所にはあまり通わない。こうして一人でコレクションを抱えながら少しずつ飲むのだ。しかしここ最近は落ち着いて飲む事ができていない。どうしてもアリスが脳裏に浮かぶ。それを掻き消そうと更に飲む訳にも行かないのだった。再び席に戻ると一人呆然としながらロストフィフティーを口に含む。

 時刻は深夜に差し掛かっている。幾ら昼夜の再現は可能な限りされているとはいえ、こうした地下空間では時計頼みの節がある。空に上がれば星が綺麗に見えるだろうなどと考えてみるが、幾らアセンダンシィは越権行為が暗に認められているとはいえ私用の為にマキナを飛ばせられる程ではない。只でさえオンリーワンの機体であり、高出力エンジンの代償として燃料搭載量も大きく、交換の為の機体部品も高価であり、サイクルコストは通常機の何倍になっているのかはマキナドライバー、マキナライダーも知る由がない。その為の孤高の部隊であり、一線を画す部隊なのだから。

 重い味だ。嫌になる重さではない。ついでだからと余っているスキットルにロストフィフティーを注いだ。何個かあるスキットルの内、一つは常にウィスキーを詰めている。

 端末から発せられる光がグラスを照らしている。緑色の光が琥珀色の液体と重なって幻想的だ。部屋の灯りは最大照度ではなく夜間モード。最低限に視界が確保される程度なので余計にそう見える。今年度のロストフィフティーは味が非常に整った優等生で、あまりに野性的だった昨年の物とはかなり異なっていた。

 うんともすんとも言わない端末に飽きを凝らし、今度は晴臣自身の情報を表示させてみる事にした。自身のIDを入力すれば一発で情報が出る。

 これが正しい。入隊時期から部隊移動、戦功、その他諸々、彼が起こした不祥事までが詳細に記録されている。実際にはもっと悪さを働いているのだが、それらは存在しない事実だと処理されている。アセンダンシィにケンカを売った飛行部隊とバーで喧嘩なんてのはまだ良い方だ。実際はその立場もあって恨みを買う事も多く、必然的にトラブルも多い。しかし戦闘機搭乗員の割にやたらと腕っぷしが強いマキナ搭乗員達を相手に大概は敗北する。晴臣はボックス基地待機の内の六機に割り当てられていたのでその場にはいなかったが、以前、空軍の大規模演習で首都近郊の航空基地に飛来した際は各軍から百名ほどを集めて夜分に外出、街中のバーでチンピラと乱闘騒ぎになった事もあったと聞いた。流石に警察沙汰になり謹慎が命じられたのは覚えている。「その場に俺はいなかった」というジョークまで生み出される程、世間を大いに賑わせた大問題だった。


 そんな事を考えている内、テーブルの上に置かれている携帯端末が鳴り出した。こんな夜中に誰だと思いつつも手に取る。アリスからのメッセージ。

 <道に迷いました>

 どうしたものかと晴臣は思う。この状況に対して適切な対応はなんなのだろう。警備部に連絡して迎えを寄越すべきだろうか。それとも俺に聞くなと返すべきだろうか。

 酒が不味くなった事だけは確かだ。

 一先ず、現在位置を聞いてみる事にした。近くなら迎えに行って部屋に送り届けてもいい。

 <居場所はどこだ>

 <B3G4A21>

 随分と似合わない場所に迷い込んだらしい。生活空間のブロックスリー、その地下四階、エリア21となると俗にいう慰安街だ。ここは軍隊。特に民間の法律が適用されるわけではないが、あまりそれでも気分がいいものではないだろう。この地下構造の特異な基地に配属されてまもないのだ。迷うのも不思議ではない。しかもアセンダンシィ搭乗員のIDカードがあれば余程のセキュリティレベルでもない限りどのゲートも通過できてしまう。

 <警備部に連絡するからそこを動くな>

 <それが…>

 <どうした>

 <良く分からないのに絡まれてます>

 通話に切り替える。

 「おい、何がどうなってんだ」

 「うぅ…」

 「…」

 酔っ払いか何かに絡まれているのだろう。E21はとにかく治安が悪い事で有名である。六番機(インソムニア)の二人組がエリアのパワーバランスの頂点に君臨しているとかいう話を聞いた事がある事を思い出し、その二人にコールを掛けてみる。

 双方とも出ない。インソムニアの出壁スケジュールは組まれていなかったから、それこそ遊びまくっているのだろうかと思いつつ、こんな真夜中に勤務人数が少ない警備部に連絡したら迷惑だろうなとも考え、晴臣自身の興味も兼ねて足を運ぶことにした。

 E21、話には聞いてはいるが実際に行った事はない。

 「いいか、とにかくそこを動くな」

 「…」

 酔っぱらっているのか、それとも相手が軍人とは思えない出で立ちで舐めてかかっているのかは分からないが、晴臣が不思議に感じたのは大の大人でも数秒で片付けるアリスが全くの無抵抗と言う事実だ。助けを呼ぶ事など滅多にないのに。

 ちょっと腕を掴まれるだけでも腕をもがれる程に感じ、不愉快に思うようなら相手が誰であろうと平伏させる。元特殊部隊の在籍は伊達ではないらしく、彼女をからかったような男どもは全員痛い目を見る事を己の目で確認している。最も、そのような連中には良い薬で晴臣は何も言わなかった。

 晴臣はTシャツに短パンと言う部屋着の上から、フライトジャケットを羽織る。綿は入っていないサマータイプだ。アセンダンシィのイメージカラーである濃いグレー。部隊員に支給されるもの。タリオニスのブラックではない。フライトジャケットと言いつつもマキナは専用の飛行装備を身に着ける為に飛行時には着用しない。その為、地上用に限定され無数のパッチが貼り付けられている。

 アセンダンシィの天使と女神をモチーフにしたスコードロンパッチ、ネームタグ、マキナパッチ、マキナマスコットパッチ、ボックス基地パッチと言った基本的な物から、下士官同盟協会パッチ、子供を作るのに金はいらないなるパッチと言ったジョークの類も貼られている。無論、タリオニスドライバーであることを示すタリオニスパッチ、ミサイルローンチパッチ、飛行時間パッチ、空軍戦術戦闘学校卒業を現すパッチ、その他諸々、無数に覆われて異様に鮮やかだ。晴臣が以前に所属していた外人部隊時代の物も貼られている。それらの上にアセンダンシィの物が重ねられているのだ。決して過去を蔑にするような人間ではなかった。

 ジャケット自体が耐火素材、更に無数に縫い付けられたパッチで異様にゴワゴワして着にくいが、それでも半袖短パンと言う格好でうろつくよりかは様になる。フライトスーツを着ても良いのだが、やや面倒くさい。少しグラスに残っているロストフィフティーを一気に煽るとタバコとライターが入っている事を確認。先ほど入れたスキットルもポケットへと放り込む。同様にIDカードも突っ込んだ。

 部屋の電気を落とす。一気に暗くなる。

 ここからE21までは二十分程度だろう。同じブロックスリーであるから階層と多少の移動だけで済む。

 晴臣は部屋を後にする。口の中にはまだ、急いで煽ったロストフィフティーが香っていた。

おはよう、こんにちは、こんばんは。アイシェードです。

遅くなりました。この時期はどうしても忙しくなります。

先日、またまたメモ代わりの設定を投下したところ自分でも驚くほどの予想以上のアクセスを頂きまして非常に嬉しかった限りでございます。反面、新規閲覧の方は殆どいませんでした。読んでいただける方が固定されてきたのかもしれません。今回はかなり短めですが、話の区切りもいいのでここで切らせていただきました。

さて、ここで余談ですが私のペンネームについて。EYE SHADEと言うのはかの有名なオークレイ社が最初のプロダクツとして販売したアイウェアの事なんです。そこから取りました。奇抜な外見ながら非常に使いやすいです。三十年以上経った代物ですが今でも現役です。昔のオークレイは奇抜なものばかり作っていたんですが、最近はめっぽう大人しくなってしまいました。あの頃のオークレイを懐かしんでしまいます。気になる方はググってくださいね。

外見の奇抜さと裏腹に堅実な実用性。一見読みにくいけど面白い話を目指すとの思いを込めました。

少しずつですが続けていくつもりです。よろしければお付き合いくださいませ。

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