表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

Ⅰ《未確認後部領域》(1)

CAUTION

一 分かりやすい文章ではありません。文体も重めです。

二 容赦なく人が死んでいくスタイルです。苦手な方はご遠慮ください。

三 ある程度の航空軍事用語を知っていると楽しめます。それを前提としている部分もあります。

四 明らかに有り得ない設定が無数にあります。架空と割り切ってお楽しみください。

五 多少の差別的表現、汚い言葉が含まれます。敏感な方は閲覧を非推奨します。

六 筆者の軍事知識は並み以上マニア以下といった所です。四にも書きましたがご理解ください。


上記の六つをご理解頂ける方は是非お読みください。


「…A9-9、マッドナーへ。着陸許可を要請」

 「こちらマッドナー。A9-9、着陸を許可する。現在、貴部隊のA9-4がA滑走路にて離陸態勢にある。B滑走路を利用せよ」

 「A9-9了解。ランディングビーコンキャッチ」


 黒い凶鳥(レイヴン)が帰還した。巨大な鋼の体と無機質と有機質のコンピューターを背に乗せて。

 そのランディングは芸術的とも言える。武装を使い果たし、通常機体を遥かに上回る過剰推力と揚力を持つ機体は正に「舞い降りる」という表現が妥当だった。戦場という戦場を渡り、あらゆる対象へ公平に死をもたらす渡り鳥。第二四航空師団第九飛行部隊アセンダンシィ所属の九番機がボックス基地へと降り立つ。まるで獲物に警告を与えるがのごとく、タッチダウン後に動翼という動翼を立て空気抵抗として利用、通常のそれとは全く異なる短距離で急激な制動を行う。速度低下後、右エンジン、続いて左エンジンと最大推力でエンジンを稼働させ排気。その音量たるや凄まじく、滑走路脇の地下型半埋め込み式監視室にいる軍曹は防音工事が行われていないのではないかと毎回の様に疑いを持つほどだった。ボックス基地の地上にいる人間の大半がその帰還を知る事が出来るほどのパワー。

 「あれがA9-9。通称タリオニス。パイロットはハルオミ・シマ大尉。少尉が後部座席に座る事へなるであろうアセンダンシィの九番機。どうかね…?」

 管制塔、その基地周囲を見渡す管制室に於いて、慌ただしく指示を送る管制官を横目に佐官クラスの軍服に身を包んだ初老の男と極めて若い女性が、黒く光を反射しない巨大な戦術戦闘機を双眼鏡越しに捉えていた。

 「話には聞いていましたが予想以上です」

 「彼は良いパイロットだ。そして駆る機体は最高の機体だ」

 「ここで一日、アグレッサー部隊、戦略偵察部隊、その他…。この基地に所属する部隊の航空機を見続けましたが…その全てを遥かに上回るのを一瞬で確信できました。別次元と言っても過言ではない」

 その口調は確信に溢れている。彼女は双眼鏡を目から離す。

 「大佐、私に棺桶の死人は務まるでしょうか」

 「適性検査では良好、としか言えん。少尉ならやってくれると信じている」

 「…」

 「さて、彼も帰還する。ブリーフィングの時間だ」

 「了解」

 翼をスマートに収めた黒い凶鳥は牽引車へその身を委ね、滑走路脇のエレベーターへと移送されていく。ボックス基地は巨大な地下構造を持ち、地上には滑走路、管制塔、スクランブルハンガー、通常飛行部隊ハンガー、基地対空防衛網、通信設備と言った“どうしても地上に必要なもの”しか存在しない。これは基地が内陸に存在し、有事の際は直接攻撃ではなく弾道弾等の広範囲攻撃を受けると予想された為である。しかし、その予想に反して戦争の今日では半ば前線基地と化しており、最前線基地からの要請によりスクランブルや支援を行う事も珍しくない。戦術航空軍として最も予算が分配されており、規模も最大、所属部隊も優先度が非常に高いばかりとあって防御は非常に硬く、最前線基地のAS-13、AS-14、AS-15を第一次防衛ライン、EB-87、EB-88、EB-89を第二次防衛ラインとする形で守りを敷く。エマンスド海峡を隔てた先は敵地であり、その地理上、洋上戦闘が多く航空機同士の空戦は頻発する。侵攻中のアーレイ共和国は戦略兵器等の装備は貧弱だが、通常兵器の質、数共に戦略兵器の貧弱度を補うように充実しており、戦略兵器を用いない事で国内の反戦派に妥協をさせる連邦の手を拒み続けている。連邦としては侵攻の足掛かりとなる最優先目標として、共和国として制空権確保は防衛の最優先目標となり、エマンスド上空は双方が制空権を欲して睨み合いを続ける屈指の激戦地である。この海峡が国境であり、ここを奪取しない限りは宣戦布告を宣言したものの一向に侵攻は始まらない。それだけに互いが互いに必死の覚悟であった。


 牽引されるタニオリスと入れ替わるようにして、アセンダンシィのA9-4、純白の機体色を持つ四番機ヴィクセンがB滑走路から離陸、最大推力で上昇していく。ハイレートクライム機動。戦闘機と言うよりかはロケットといった方が的確な凄まじい上昇速度。続いてC滑走路から戦術偵察部隊のR-45SP高高度強行偵察機が二機、離陸態勢に入る。高高度に於ける高速巡航性能に特化した機体は、自らのフィールドに於いてはマキナをも振り切る程の性能を有する。反面、運用には異様なほど制限が多い。戦術航空軍、並びに情報軍の虎の子だ。

 コックピットに収まる二人の内の一人、タニオリスライダーの晴臣は後部座席のノット大尉にアセンダンシィへの転属を持ちかけていた。

 「大尉の才能は極めて高く評価します。どうですか、転属の気はないですか…?」

 返事がない。この機体は索敵を電子手段に頼っている事もあり、前部座席から左右前方、上方への視界は良好だが、電子機器の棺とも称される後部座席への視界は非常に悪い。まともに見えない為にバックミラーも設置されておらず、基本的には声のみのやり取りである。

 回線を司令部へと繋ぐ。

 「A9-9。司令を呼び出せ」

 「了解」

 

 アセンダンシィ中央司令部。暗闇に包まれた室内。正面に各部隊機やデータリンクで得た情報を表示する光り輝く巨大なメインディスプレイがあり、その後方では通信担当員やレーダー管制官が割り当てられたモニターに表示される情報を解析し続けている。その内の一人が振り返り、作戦担当や副司令とミッションプランを合わせていた第二四航空師団第九飛行部隊司令官、バッカス・オノンネル大佐へと九番機から通信が入った事を示すハンドサイン。オノンネルの無線機に通信が接続される。


 「ハリーか。どうした」

 「大佐、後部電子棺室(バックコフィン)にて負傷者一名。生命反応はあるが返答がない。ハンガーに救護班を待機させておいてくれ」

 「またか…そいつで何人目だ?何処から借りたヤツだったかな」

 「強行偵察部隊(ピーピング)

 「また出頭か。頭が痛い。なぁ、お前は俺を銃殺刑にでもしたいのか?」

 「そうじゃない。耐えられなかったこいつのせいだ。次はアグレッサーから呼ぶ」

 「全く泣かせてくれる。それはそうと救護班は待機させておく。間違っても到着までに死なせるな」

 「了解」

 おい、戦闘負傷者だ、電子戦士官の応答がない、救護班はハンガーにて待機しろ…とオノンネルは声を張り上げた。オペレーターが衛生課へと指示を回す。


 視界が暗闇に閉ざされる。航空機昇降エレベーターの天井ハッチが閉じた。赤色灯の明かりが点灯する。地下へと降りて行く感触を感じる。牽引車のドライバーから無線が入り、機体の簡単な損耗具合を伝達。およそ一分ほどで地下ハンガーへ。再び格納位置まで牽引される。

 キャノピーオープン。超高高度まで上昇する推力を持ち、機体が持つ能力を最大限に発揮する為に通常の装備に加えて全身の与圧、保護も行う密閉式の飛行装備を身にまとった人間二人が姿を現す。それと同時に待機していた救護班は手際よくラダーを掛け、気を失ったノット大尉のヘルメットを外すと、かなり強引に担ぎ出して担架に乗せた。ただでさえ狭いコックピット内、しかもこのような重装備とあってはクルーの補助がなければ身動きの一つも満足に取れない。ハンガークルーが前部座席にもラダーを掛け、晴臣のヘルメットを外し、昇降を手助け、機を降りる頃には既に姿は見えなくなっていた。アセンダンシィ所属の全機を格納するこのハンガーは全長約二百メートルほど、高さも八メートル程度ある。機を昇降させるエレベーターは三つであり、そのエレベーターの大きさも三十メートル四方の正方形という巨大さ。緻密な運用プランによって運用される飛行部隊機はスクランブル等は行わず、全て決められた時間に上がり、決められた時間に降りてくる。全機が同時出撃する事など滅多になく、また、実戦への出撃頻度も参加するに値する作戦に該当するかはまちまちであり、このような態勢の方が機密隔離、安全管理、何かと都合が良いのだった。

 キャノピー下部、前席部分には「H SIMA(MAGIC)」と記されている。後席部分には何も記されていない。

 晴臣は機から降りる。手渡されるのはスーツ内の空気循環を行うクーラー装置。ケーブルを左脇腹の辺りにあるスーツのコネクタに差し込み電源を起動。モード設定。稼働開始。代わりに機体の専任整備士が乗り込んでいく。自己診断プログラム起動。タニオリスは何本かのケーブルを機体に繋がれ、外部から供給される電力によって稼働する。通常のオリーブドラブカラーではなく、機体と同色の黒に染められ、通常の戦闘機パイロットが身に着ける物とはまるっきり異なる飛行装備は異質さを醸し出していた。ハンガー脇の装備室で厄介な代物から身軽なフライトスーツへと着替えた晴臣の目の前に姿を現したのはバッカス大佐。晴臣は略式の敬礼を取る。戻れと大佐。二人はブリーフィングルームへと歩き出す。

 「まただなお前。さっきも言ったが俺を殺す気じゃないだろうな。基地司令部、相手の所属部隊、航空軍中央部、その他諸々に始末書を送りつけなければならん。いい加減にしろ」

 「大佐、俺だってやりたくてやってる訳じゃない。電子機器の扱いに慣れてるピーピング野郎なら大丈夫だって確信していた」

 「同意したいところだがそうともいかない。確かに連中は電子機器の取り扱いと操縦技術に関しちゃ一流だろうが空戦機動を行う事はないし、その機動の中で機器を操作する事も、あの独特のポジションにもなれちゃいない。ある意味は当然の結果だ」

 「後見はいないのか、ヤツの」

 「最初のナビは優秀だったな。だが、タニオリスが前線基地に展開した際に食中毒事故により死亡。通常部隊から引き抜いた二代目は病院送り。空母航空要員の三代目は古巣へ帰還。今回の四代目は戦術航空部隊推薦のエリート。彼がどうなるか分からないが、恐らくは部隊を去る」

 「次はアグレッサーから引き抜こう。高G機動にも状況対応にも慣れてる。俺たちを除けば最も技量が高い部隊だ」

 「そうしたいが私もこれ以上の始末書を書き続けるのは御免だからな。大尉には謹慎として一週間の作戦行動参加の禁止を言い渡す。これは軍事法廷は通していないが上官命令だ」

 「だろう。前回もそうだったからな」

 「だが、後席の五代目については手配している」

 「何?」

 「情報軍から引き抜いた異色の経歴を持つ人間だ。身体能力、電子機器の扱い共に申し分ない」

 「情報軍…?あんな身体弱者のインテリにマキナのECOが務まるとでも?」

 「君が予想したのは情報屋だろうが、件の人間が所属していたのはそれではない。情報軍の中でも対外作戦部、いわゆる諜報員(スリーパー)だった人間だ。元陸軍特殊作戦部隊、情報軍対外作戦部を経由している。現在は文字通り情報屋だが」

 「ふむ」

 「情報屋となっては一か月程度。身体の劣化は少ないだろう。航空機適性試験でも合格の結果を見せている。最近の演習では五人の攻撃(ハッカー)役を相手に中枢システムを模したダミーオブジェクトを守りきったほどの電子戦能力を持つらしい」

 「なかなか面白そうだ。手配の話が勝手に進んでいたのは残念だが期待できる」

 「仕方ないだろ。情報軍の腐れ縁から連絡が来たのさ。どうだ、使わないかって。どちらにせい、空いた後席が埋まるのは良い事だからな。シミュレーター訓練では既に現役のマキナECOとも比肩する成績を叩き出している。期待してもらっていい」

 「それについては同意する。期待もする。で、そいつは何て名前なんだ?」

 「アリス」

 「アリス?童謡(ナーサリーライム)みたいな名前だな。女性か」

 「アリス・ロードス少尉。そうだ。女性だ」

 「…ふむ」

 ハンガー端、ブロック移動用エレベーターに乗り込む。このエレベーターはアセンダンシィが運用するブリーフィングルームへと直結している。壁面のパネルを操作すると上昇を始める。オイルとオフィスが混ざり合った何とも言えない匂いが鼻を突く。ガーという稼働音。静粛性は考慮されていない。

 「一週間の謹慎としたが、その間は少尉との訓練飛行に努めろ。その為の作戦参加禁止だ。いくら私と言っても上層部からの作戦要請は断れない。だが、形式的にでも謹慎中となればそうでもないからな」

 「了解」

 「訓練スケジュールに希望はあるか?」

 「特にはない。ただ、実戦形式の訓練を行いたい。それこそアグレッサーが適任だろう。頼めないか」

 「可能な限り対処してみよう。期待はするな」

 「俺はアンタを信用するさ」

 扉が開く。正面の格納庫全体を映し出すモニターが目に入るが人影はない。他の部隊員はいなかった。四番機のヴィクセン、そして九番機のタリオニスが今日の出撃スケジュールだった。出撃機の搭乗員以外がこの部屋を利用する事は滅多にない。ただ、視界の死角からガタガタと音がしている。先に大佐が降りる。続いて晴臣。


 マシンの動作音。コーヒーの香り。

 コーヒーマシンの目の前に銀色の髪を持つ女性がいた。女性と言うよりかは少女に近かった。幽霊のように透き通った肌。晴臣は感づく。後部座席に乗る少尉ってのはまさか。


 「紹介しよう。今日付で我が第九飛行部隊、アセンダンシィへと配属されたアリス・ロードス少尉だ。これからタリオニスのECOを務めてもらう」


 予感は的中した。


 「初めまして。ロードスです。戦術航空軍精鋭中の精鋭、更にその中で最も名声高い九番機、タニオリスドライバーの大尉とお会いできて光栄です。今後、タリオニスのECOとして配属されます。よろしくお願いします、大尉」


 強烈な違和感を感じた。それはこの部屋に三人しかいなかっただけで、他の出撃メンバーや管理課の清掃員、とにかく何らかの人間がいれば全ての人間が同じ感触を覚えたに違いない。明らかに場違いだった。元陸軍特殊部隊、諜報員、情報部隊。それらの経歴が全て偽りに見える。

 晴臣は何も言葉を発する事が出来なかった。それは予想以上の衝撃だった。無機質を操る有機質のコンピューターとして空を駆るマキナドライバー。何時如何なる時も冷静沈着であり、正確な判断を下し、完璧に機体を操る。極限の戦術眼を持って任務を遂行する。そのマキナドライバーの中でも特に最高峰との呼び声高い九番機、タリオニス。タリオニスドライバー。その頭が真っ白になる状況だった。大佐が何かを察するような視線を向けている。

 「大尉?」

 「…」

 何故、このような年端も行かぬ少女がこんな場所にいる。これは明らかに少女だった。あらゆる問題が整理されない。意味が理解できない。どうしたらいいのか分からない。

 一先ず、彼女に背を向けてシートに腰かけた。こうする事しか出来なかった。その姿を見ている事は出来なかった。モニター越しの格納庫、そこに映し出されるタリオニスへ問いかける。お前はどう思う、この人間を乗せたいかと。

 もし仮に、タリオニスに人格と呼べる物があったなら答えはイエスだろうと容易に想像できる。機械にとって操り手は操り手でしかなく、そこには能力しか求めるものはない。完璧に任務を遂行する事。その為の優秀な人材。有機質なコンピューター。そうだ。

 しかし晴臣にとってこの状況は呑み込めなかった。受け入れられない。優秀だとか、性別だとか、航空機への搭乗経験が無いとかの問題ではない。次元が違う。


 「時間はある。受け入れろ」


 バッカス大佐が背中から声を掛ける。コーヒーマシンの動作音が止まる。

 晴臣の手元、紙コップに淹れられたコーヒーが静かに置かれた。

 えー、ここまで読んで下さりありがとうございます。ネタバレになりますが、彼女はとても優秀な才能を持っています。某タリオニスドライバーのハリーとも打ち解けないと話が進まなくなってしまうので、現時点ではその方向を維持したいと思っています。まあ、いきなり自分の部署に人形のような人間が配属されたら誰でも驚きますよ。かなり颯爽としつつ予想外の場所からダメージを受ける。彼はそういう状態です。特別に強い人間ではないんです。しかもそこは戦場。年端も行かぬ人間が姿を見せてよい場所ではないのですから。


 だが、そんな事は関係ねえと美少女が目に入った瞬間、マッハでペロペロしだすような変態が知り合いにいない事を神に感謝しつつ。あれ、いたか。

 また電子の海でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ