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Ⅱ《電子生存》(6)

 



“戦争をゲームとして捉えてなぜ悪い。実際問題、これはゲームなのだから”



 ゲーマー。FAM-201AF(エゴ)戦闘機のパイロットはこう呼称される事がある。エゴは従来の空戦とは根本的に違う、あらゆる情報を統合した強大なデータリンクと完璧に統率された指揮によって視程外交戦を行う事を主眼とした最新鋭機だった。その目的を果たす為、ミサイルキャリアとしての積載量を支える強力なエンジン、燃料消費量と強大な航続距離を両立させる従来からすれば圧倒的な機内燃料搭載量、ウェポンベイを抱えながらもステルス性を重視する機体は非常にずんぐりむっくりとしており、流麗なラインを描くFAM-184(クレイオ)等と比較すると否が応でもその姿には一種の醜さがある。肥えた狼だ。群れで獲物を追い詰め、その命を頂戴する。ある意味では生物的、本能的ともいえる行為を高度な電子化によって実現する何とも皮肉な機体だった。実エンジン出力は強大と言えど空気抵抗が大きいボディ、更に電子機器によって圧迫され増大した重量は一世代前どころか二世代前とも言える運動性能をもたらしている。おおむね想定通りの能力を発揮し確実に戦果を上げているとはいえ実戦投入回数も少なく、まだ生産数も少ないことから一基地のみでの運用。そんなエゴを羽の生えた豚と揶揄し、既存機体のパイロットは良しとしていない。空戦はミサイルを放ち、もつれこめば機関砲で決着をつける。そういった主流とも言える思考の中、そうした類に属しながらも“次世代”機を複雑な感情を抱いて捉えている部隊がある。

 アセンダンシィではない、もうひとつの孤高の戦闘飛行部隊。ノーフェイサー。顔をもたざる者達の意を冠する、孤高かつ孤独な部隊だった。


*****


 「“少佐”どの、ご昇進おめでとうございます」

 最近、やたらとアリスが流暢になっている。無口で変なヤツ、という最初の印象が強かったが、今ではただの変なヤツになりつつある。人と比べたらまだ話す方ではないが、こういった分かりやすい冗談も利くようになったのは大きな変化だった。ただ単純な慣れではなく、内面的ではなく表に出る感受性の方から少しずつ豊かになってきたと言える。平たく言えば人間性が増した、という事だ。

 実際問題、アリスの言う通り晴臣は昇格した。これは階級が実質的にあまり意味をなさないアセンダンシィ内部だけでなく、外部との接触の際に大尉という身分では彼自身が負う役割と任務の大きさに違和感を持たれる事が多かったからでもある。そうした事情を考慮し、オノンネル大佐の推薦とややこしく極めて面倒な昇格試験、上層部の監査期間を経て晴臣は少佐へと正しい位置に身を移す事となった。

 「と言ってもやる事は変わらない」

 しかし、この間にタリオニスとその搭乗員である二名の思考ロジックで作動するACMシミュレーターが配備されたのは二人だけでなく空軍にとって大きな朗報だった。タリオニスの飛行データから直接的に産み落とされた掴みどころのない、幾ら仮想とはいえ無力のまま撃墜される恐怖。更には同型機の筈なのに圧倒的な機動飛行を見せるスクリーン内部のFA-181に対して論理を組み立てた空戦――リアルなGがないからこそのゲーム的に行われる仮想戦闘は空軍中のパイロットを虜にしている。晴臣とアリスがアストバーンの地下で体験したようなフルシミュレータではないからこその計算する戦闘だ。開発主任であるモーリスは適当な男だったが、晴臣と同じく自身の役割を理解し果たす事のできる男でもあった。

 FA-181/TALIONISを“撃墜”すればデータベースに自身の名が冠されるという、まるでアーケードゲームのような方式で必死に行われる仮想戦闘。しかしそれでも撃墜判定を下す者は出現せず、撃墜するかではなくどれほど生き延びるか、戦術AIがどれほどの戦闘評価スコアを出すかがベンチマークになってしまっている。FA-181(ルーラー)FA-194(アブソリュート)。純粋な空対空戦闘のみを目的とする制空戦闘機はこの二機であり、これらのパイロットからテストは開始されたが勝利する者はおらず、続いて戦闘攻撃機のパイロットも参加したが結果は奮わない。アグレッサー、テストチーム。これらも結果は同じだった。例え複数機による同時戦闘でもAIの勝率は極めて高い。有人ではなく無人戦闘機のプロトタイプ制御プログラムでも意味を為さなかった。

 こうした結果に満足したのか、モーリスは時折、晴臣に電話を掛けてきては笑いながらこう言うのだった。「キミらの空戦技術は技術を超えている、同性能の機体を複数相手にしても引けを取らない。同害復讐を果たす者はおらず」と。そして全ての空軍パイロットとAIのコンバットログは閲覧が可能であり、端末から思い出したようにログを見ては「DESTROY 0」の表示が二人を形容つかぬ不可思議な気分にさせる。増え続ける交戦記録、変わる事のない0の数字。しかしそんな中で、唯一、自らとその連れを基としたAIに対して勝利するのではないかと密かに期待を抱いている部隊が晴臣にはあった。

 ノーフェイサー(顔持たざる者達)。空軍パイロットの中でも上官反抗、命令無視、犯罪、危険思想、その他諸々…一括りに言えば厄介者認定されたものの、腕は確かな三癖もあるような変わり者ばかりが集められ、識別番号も何も与えられない部隊。FAR-184(AAER)、通称ノーフェイスと呼ばれる制空戦闘機のみを有する空軍版の特殊部隊とも言える存在。

 AAERタイプは現在でこそ戦闘攻撃機として進化、改良を重ねたE型が空軍の主力を担っているものの、開発当初は広大な国土を防衛する為の局地迎撃軽量戦闘機として開発されたFAR-184の初期生産ロットであるA型を強化延命し能力向上改修を行った機体――として認知されているが、実際の改修具合は認知されているような半端な物ではなく、書類上で通すだけのカバーでありほぼ新造と言っても過言ではない機体である。

 それもその筈、エンジンや火器管制系装備はマキナシリーズのテストヘッドとして開発された物であり、マキナのような全周囲レーダー等の装備こそなく、機体サイズの関係もあって性能は落ちるものの通常機と比較すれば比べ物にならない程の高性能を有する。こうしたマキナの開発計画の中で製作された十機弱の試験機を実戦配備したというのが実情であり、優れた空力性能と追加されたカナード、細やかな設計改修や強大なエンジン出力から生み出される運動性能は非常に優秀で、マキナ並みの強力なエスコートジャマーを伴い格闘戦闘に持ち込む事で戦果を上げる特殊な戦闘方式をとっていると晴臣は聞かされていた。最新鋭の制空戦闘機であるFA-184をも上回る特殊空戦機動を行う事が可能であり、正に軽量戦闘機としての名を欲しいままにする戦闘機としての頂点とも言える。マキナはそうではない。あくまで最高の兵器としての位置づけであり、その立場に戦闘機というプラットフォームが選ばれたに過ぎない。

 このシミュは搭乗員の機体のデータを用いて動作する。あくまで仮想戦闘ではあるが一世代前の機体であるFA-181に、最新鋭機であり更には高いステルス性能や電子性能を備えるFA-184が勝利できないという事実は上層部を焦らせる結果となり、空戦の在り方を根本的に覆す可能性として原因の究明の為にAIの空戦機動を徹底的に解析しても、それらの行為は意味を為さなかった。恐らくはモーリスが最もよく知る事実(第六感は二度とない)に違いなかっただろう。よってノーフェイサー達はAAERタイプのデータで仮想戦闘を行う事になる。戦術航空軍の最後の砦だった。FA-181/TALIONISを食い止める最後の砦だ。温存されて本格的な戦闘には滅多に投入されないアセンダンシィとは対照的に、戦争の犬として駆り出されるノーフェイサーは激戦という激戦の中へ放り込まれている。戦車部隊を壊滅させる第一段階として作戦区域上空の制空権確保、レーダー陣地を壊滅させるSEAD任務の先鋒として強行偵察(嫌がらせ)、敵制空権内部に強行侵入しての威力偵察など、命など最初からないと言わんばかりの危険な任務に従事しながらもとにかくしぶとく生還し続けていた。

 敵地上陸という大きな任を果たした今、足の短い空軍の出番は相対的に減少しており、航空戦力の主力は空母戦闘攻撃群が擁する艦載機となっている。空軍機が離着陸できる敵地での簡易基地もラッシュで建設が進められているものの妨害や物資の問題から満足なレベルには行えておらず、それらが整うまでは爆撃機の護衛任務や空中哨戒が果たせる役割の限界だった。無論、アセンダンシィや戦術偵察部隊、偵察型FA-137を運用する飛行隊は連日のように出撃を繰り返していたが、それらも主な任務は偵察だ。敵の迎撃ラインと出撃基地の距離関係では急激に燃料を消費する空戦に使える燃料は残らない。こうした状況を踏まえて、戦争という戦争に身を投げ続けたノーフェイサーにも出番が回ってきたという訳だ。


 例え直接的な戦闘に参加する事は少なくとも、晴臣の激務は止まる事を知らない。次第にアリスは地上では副官兼秘書のような立場へと移行し、他の部隊員も信頼を置く存在へと成長していた。中でも同じ女性同士だからか、四番機(ヴィクセン)の搭乗員とは特に親しくしている。彼女らは優雅な昼食を共にしており、今、晴臣は上官であるオノンネルと共に休暇を返上、戦術軍総司令部が置かれるフルームへと赴く事になっている。

 「御老体、ペースメーカーの準備はできてるか」

 「上官に対してなんて口の利き方だ。これでも前は現役のドライバーだぞ。そんな地上勤務のエンジニアと一緒にされちゃあ困る。戦闘機搭乗資格は今でも維持してるんだ」

 「だったらいいんだ。だがマキナはレベルが違う」

 晴臣は人の手を借りながら飛行装備を一通り身に着け終わると、先に手短に通常の飛行装備を身に着けたオノンネルは「俺だけ死にそうだな」と冗談をかます。

 それもその筈、司令部への訪問は部隊のアピールと機体の性能を示す為、正式なスケジュールを組んでの部隊機運用を行う事が決定している。一番機であるゾーイと九番機のタリオニス、この二機での“親善訪問”飛行だった。軍内部には未だにアンチが存在するアセンダンシィのトップとその腹心で意気揚々と乗り込むという、何とも強烈なインパクトを持つ今回の任務だが対照的に重要な意味を占めている。戦闘に直接参加しないなら部隊(アセンダンシィ)は不要だとする強硬派に対しての牽制、更には視察に訪れると噂の政府高官や王族等への展示も兼ねていた。これらがなければわざわざオノンネル自身が赴く事もなく、そもそも総司令部への呼集なども行われないだろう。伴ってそれなりの数の部隊から機体が飛来するとオノンネルから聞かされている。言ってしまえば平時の基地公開の規模を縮小し各部隊のデモ飛行をお偉方に見せる事で軍のスポンサーである政府へのアピール、“戦争への投資”を行ってもらおう、これに尽きた。オノンネルはアセンダンシィの中でも特に絶対の信頼を置く一番機(ゾーイ)九番機(タリオニス)にこの任を託したわけだ。

 「それにしてもアンタまで乗っかってくるとは思わなかった」

 「仕方ないだろう。まさか一人が移動する為に機体を手配する訳にもいかん。マキナの兵器倉に収まる訳にもいかんからな」

 「ああ、快適な空の旅ではないことは確かだ。俺がラックを強制開放したら地上へ真っ逆さまだぜ」

 「人間爆弾にされるには少し時期早々って事かな」

 こうしたオノンネルと晴臣の真面目なのか冗談なのか判別がつかない会話はアセンダンシィの中でも名物だが、これを真横にしても全く動じず、興味を示す事さえない一番機のロード大尉、ピジョン中尉はフロストの通称で呼ばれる寡黙な男たちだった。まるで凍ったかのような表情と、冷却されて固められたつららが一気に落下するかのような迅速な行動。非番であっても決して遊ぶ事はなく、機体の整備とACMを脳内でシミュレートし続ける生粋の飛行機乗りだった。タリオニスが最強の戦力であると言えば、ゾーイは最高の機動力と言える。彼等にとって戦争や部隊は「史上最高であろう飛行機」に乗り続ける為の場所であり機会でしかないのだ。限界まで機体の能力を引き出し、もはや芸術的とも言える飛行を見せるゾーイは今回の任務に適任だった。カラーは通常の制空迷彩であり、濃度の異なる複数色のグレイ系によって構成されるデジタルパターンは黒一色のタリオニスとはまた違った印象を見る者へと与える。タリオニスが異形の怪物であるならゾーイは極限まで擬態した怪物とでも言うべきだった。

 「さて、そろそろ上がろうじゃないか。地上に這いつくばっている必要などない」

 飛行装備の装着を行っているフロスト達にオノンネルが別れを告げると、二人は最低限の動作で上官への返答を行った。装着中につき敬礼を取る事はできない為、静かな頷きだった。そして直ぐに自らがこなすべき一連の動作へと戻る。装着の補助を行う要員も同じ動きを見せた。

 「どうもお前とは別の意味で連中には人間味がない」

 巨大なハンガーを横切り、タリオニスへと向かう足取りの中でオノンネルはそう漏らした。一歩後ろに随行する晴臣がそれを聞く。

 「俺に人間味がないだって?」

 「ない…ないな。言ってしまえば人間の皮を被った非人間、この場所は怪物の集まりだ」

 「だったらあんたも十分な化け物だよ。二度の戦争を経た猛者にしてアセンダンシィ司令。それだけでも十分にイかれてるとは思ってしまうんだが」

 「まだ若いな青二才」

 「そうだな、俺もヒヨッコだ」

 黒い、まるで周囲のモノを唐突に吸い込み始めるのではと錯覚するような黒い機体。タリオニス。

 「いつ見てもこう…おっかない」

 「戦争する機械さ。おっかないのは当然だ…大佐」

 機体搭乗用のラダーに手を伸ばし、クルーの手を借りながらコクピットへと収まる。一方、オノンネルは年を感じさせない身軽さで単独で収まった。ベルトの着用などは流石に手を借りる。各種装備接続。安全装備が接続されている事、機体自身の自己診断プログラムに異常がない事を診断したタリオニスはメインシステムをアクティブレディ。晴臣、メインシステムをアクティブへ。機内通信が同時に起動する。

 「どうだ大佐。視界的には慣れそうか」

 「正に棺桶だな。実際に収まってみるとよく分かる」

 「重ねるが吐かれると困るからな、アリスの文句は聞きたくないんだ」

 「了解だ機長どの」

 地上クルーが各部点検に走る間、二人はキャノピーの外へと手を放り出して時が過ぎる事を待つ。接続ケーブル越しに異常なし、との報告を受けてキャノピークローズ。機体に電力を供給する接続ケーブルが外される。牽引車によってエレベーターまで移動。

 「全く、ほとんど見えるのは天井しかない」

 「こっちからの視界は良好だぞ。今からでも席変わるか」

 「自決する気でもあるのか」

 「いや、ないな」

 巨大な扉が開き、消えるかのようにしてタリオニスが姿を消すのを遅れながら機に乗り込んだフロスト達が視野に入れる。二重の防護壁越しに地上へのエレベーターに乗せられると、役目を終えた牽引車はエレベーター脇のスペースへと退避。キャノピーとバイザー越しに敬礼を見ると、此方も返す。

 「A9-9へ。こちらマッドナー。エレベーターの動作許可。機体の最終確認を実施せよ」

 「A9-9了解」

 管制室からの指示でエレベーターが作動。地上到達までの時間で機体の最終確認。

 「大佐、特に何もする事はない」

 「そうだな、何も触ってないが画面が勝手に映り変わってる」

 「高度に自動化されてるお陰だ。“こういう場合”それなりに助かる」

 行きも帰りも赤色灯だ。こればかりは変わらない。ただただ無機質な音と単調な視界。動翼の動作確認。後席のオノンネルは未知への遭遇と言ったところか。視界が果てしなく上昇し続けるなど滅多にない機会だろう。程なくして上昇が止まると第一隔壁作動。開放後、前方へとスライド。第一隔壁閉鎖後、続いて第二隔壁開放。

 視界が急激に明るさに包まれる。直ぐに慣れると思いつつもスモークバイザーを降ろす。エレベーターの床面後部のジェットブラストディフレクターが立ち上がり、発進準備が整った事を管制官からの指示で確認。

 「大佐、準備はいいか」

 「オーケー。問題ない。今の立場的に言うなら…ウィルコだ」

 晴臣はエンジンマスタースイッチをオン、JFS起動。異常なし。右エンジンに点火。作動の安定を確認すると左エンジン点火。ターボファンエンジン特有の甲高い動作音がタリオニスに魂が宿る確かな事実として二人に簡潔に伝える。テストスイッチ作動。異常を示すレッドランプは点灯しない。ブレーキ解除、タキシング開始。直ちにブレーキの動作テストを行うも問題なし。完全に視界が晴れる。地上から見ればロールケーキのような形をした移動用エレベーターから抜け出したのだ。

 再びブレーキ動作、エンジン出力を規定値まで上昇。レーダーを始めとする火器管制装置並びに戦闘装備を作動開始。各種計器、並びに機体の数値異常なし――離陸準備。

 「A9-9よりマッドナーへ。離陸の許可を願う」

 「滑走路並びに当該空域に異常なし。離陸を許可する。神の加護を(ゴッドスピード)

 張り詰めた緊張の中、晴臣が口を開いた。

 「大佐。”特急”と”各駅”、どちらがお好みか」

 「特急で頼む」

 「了解、目を回すなよ」

 ブレーキ解除。機体が前方へと進みだす。同時に晴臣はアフターバーナーに点火。あまりに獰猛すぎる最大推力は機体に莫大なエネルギーをもたらし、最大に動翼を広げたタリオニスは最短速度で地上から空へと身を移す。まるで我は地に縛られる者とは次元が異なると執拗に主張するように。車輪格納。自身が持つ最大性能を発揮した戦闘機動でズーム上昇を行うタリオニス。基地管制のレーダーにはその様子がハッキリと映っているだろう。そしてまた言われる筈だ。「やりやがったな」と一言を添えられ。

 オノンネルの激しい息遣いが無線越しに耳に入る。荒々しいその様はオノンネルの年齢と衰えを始めている肉体を着実に表していた。それでも気絶しないだけでも充分だ。軍の中枢、オノンネルと同程度の将校を乗せようものなら間違いなく気を失って泡を吹いている。それだけならまだしも最悪、死亡する可能性だって否定はできない。そんな状況でも苦しみながらも耐えている、晴臣はオノンネルに対する認識を改める必要があった。

 絶対たる神のごとき存在に歯向かう。重力からの脱却。翼は空を掴み、自身の体を更なる高みへと持ち上げていく。信じられる物は計器だけだ――。タリオニスはロール旋回を行いつつ、緩やかに水平へと機首を戻して目的地へと進路を取る。

 オノンネルはタリオニスの獰猛かつ秀麗な肌に直接触れた事を少し後悔していた。

 「こいつは凄まじい。管制塔から見る姿とは意味が違う」

 まだ整わない息を抑え込むようにして発せられるオノンネルの率直な感想だった。

 「現役時代の戦闘機とは訳が違うぜ御老体。そして今ある戦闘機の中でも比類する機体なんてない。しばらくはオートパイロットだ。不味いだろうがエネルギーバーでもかじってくれ大佐」

 陳腐な表現だが、吸い込まれるような蒼い空だ。何度見ても。オノンネルは尚更大きく感じているに違いない。地上で這いつくばっている人間が地に別れを告げ、空へと飛び立つ。

 「この姿勢だと食いにくい。上手く下に流れて行かない」

 「棺桶で食事するいい予行演習だと思ってくれ。アリスだけじゃない、マキナのECOは全員こうして食っている。普段ならチューブ越しのゼリーだけどな。乗る事で初めて理解する事もある。多少は大変な仕事だろ?」

 「だろうな…ん?」

 「どうした」

 「メインディスプレイにヴィクセン。基地上空、高度を上げている…四番機の作戦予定は夜間までないはずだが。おっと何か表示が出たがこれは触らない方がいいんだろうな」

 「触らない事を推奨するよ大佐。此方でも確認した。だがヴィクセン?間違いじゃないのか」

 「いや、確かにヴィクセンだ。A9-4VIXEN。戦術コンピュータによるIFFコード自動照合開始…結果確認。間違いない。速度M2.0、尚も増速中」

 「一番機のゾーイは上がっていない?」

 「ディスプレイには確認できないな」

 「FCOディスプレイにもなし…当たり前だが。一番機の不調?」

 「何とも言えない。どうする機長殿」

 「どうするって…このまま飛び続けるしかないだろう。この速度じゃその内に追い付かれる。ヴィクセンの高度はA40から尚も上昇中…高いな。高度を稼いでからの巡航で追い付くつもりか」

 「無線はどうだ」

 「まがりなりにも作戦行動中だ、封鎖している。封鎖解除信号でも送ってみるか…と、あちらから来たよ先に」

 ヘルメット内に通知音。マキナリンクを通じての自動無線解除。

 「A9-4よりA9-9へ。A9-1の機体不調により代役として離陸した」

 「A9-9了解。詳しい話は後だ」

 「了解」

 晴臣は大きく溜息をつき、そして切り出した。

 「代役だと大佐。ゾーイは機体不調により離陸不能。ヴィクセンが緊急離陸したって寸法らしい」

 「飛べるのはA9-4だけか」

 「ゲームとオータスが電子偵察、インソムニア、タイム、シェードが空中給油受けて侵攻攻撃。予定通りなら今頃ドンパチ終わってRTBだ。ヴィクセンは夜間の単独偵察に駆り出される予定で離陸準備は整ってる。逆に言えばヴィクセンしかいない」

 「クソ、よりによってあのじゃじゃ馬娘どもか」

 「仕方ない。どうしようもないさ。さて遅めだがランチタイムにするとしよう大佐。私はピーチゲルを頂くとしよう。エネルギーバーとどっこいどっこいだが」

 「どっこいどっこいって事はないだろうよ。固形の方がまだマシ…再度ヴィクセンよりCALL。開くか」

 「なんだ、開いてくれ。ディスプレイの表示に従えばいい」

 「機長殿、了解」


 耳慣れた声がした。

 「少佐…一人でとはどういう事で…」

 明らかなアリスの声だ。晴臣は握りしめるピーチゲルが入った容器を強く握りしめる事と同時に口から胃に流れる筈の桃味の物体を吹き出しそうになった。何故ヴィクセンから彼女の声が…?

 「今すぐに封鎖してくれ。危うくピーチゲルをメット内にぶちまける所だった」

 「分かった…封鎖確認。だがロードス少尉に出撃許可は出ていない筈だが」

 「知った事か、それより飯の続きだ続き」

 搭乗員二人の意思や思考など関係なく、タリオニスはただひたすらに設定された情報を基に目的地を目指すのみだった。彼、いや彼女に思考はないのだから。

先日、カラオケに行き星空のディスタンスを歌唱したところ「えーオジサン~」と言われ大変ショックを受けましたのでRECORDの執筆は一時停止とさせていただきます。代わりに流行の主人公チート系を描いてみようかと思います。自分でも何言ってるのかよく理解できていませんがよろしくお願いします。

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