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Ⅱ《電子生存》(4)

CAUTION


一 分かりやすい文章ではありません。文体も重めです。

二 容赦なく人が死んでいくスタイルです。苦手な方はご遠慮ください。

三 ある程度の航空軍事用語を知っていると楽しめます。それを前提としている部分もあります。

四 明らかに有り得ない設定が無数にあります。架空と割り切ってお楽しみください。

五 多少の差別的表現、汚い言葉が含まれます。敏感な方は閲覧を非推奨します。

六 筆者の軍事知識は並み以上マニア以下といった所です。四にも書きましたがご理解ください。


 タリアテッレのラグー(ボロネーゼ)、サラダ、コンソメスープにライ麦パンという昼食をたいらげる。士官に案内されてやってきた食堂はいかにも基地内部の一施設といった趣で、アセンダンシィ本拠地であるボックス基地の内部歓楽街へと赴いて好き勝手に食べる食事とは感触が異なっている。交代制とはいえ基地が抱えるほぼ全ての人員の腹を満たす為に存在するこの場所はその広さもまたそれに見合うものだった。二人は士官から渡された訪問者用のIDカードをリーダーにかざし、厨房のスタッフ――民間の請負業者だ――からメニューが乗せられたトレーを受けとった。

 「知ってるか、ボロネーゼってのはスパゲティじゃない。このタリアテッレ(平うち麺)で食べるのが本来の作法なんだ」

 「へえ。じゃあこの食堂は作法に則っていると」

 「さ、それについては分からん」

 「そんな代物をわざわざ仕入れますかね。大尉の言う通りで間違いないのでは」

 「そうだとは思うけどな。確証がないだろ確証が」

 「そういう問題ですか…」

 受け取り口にほど近い、それ即ち返却口にも近いテーブルの端に腰を下ろした二人だったが昼時という事もあって大勢の視線の注目が集まるのは仕方のないことだった。黒いフライトスーツ、無愛想な男と銀髪の少女。肩にはアセンダンシィのパッチとタリオニスのパッチ。二人の意思に関わらず、それらは己の存在を強烈に主張する。

 「戦闘飛行装備はともかく通常任務用のこのスーツ、これにまでパーソナルカラーを適用するの廃止にならないんですか」

 「前に具申したことがあったけどダメだったな。正確に言うと今も回答が来ないってだけだが」

 「何故でしょう」

 「少尉…既に君も分かってはいると思うが部隊に課せられた任務はただ戦闘を行うだけではない。装備の開発を行いテストし、無論だが戦闘も行い、時には他部隊の教導も行う。その中には戦術航空軍の宣伝も含まれている。虎の子ともいえるこの部隊は逆にその存在を主張しなければならない。厄介なことに敵にも味方にもだ。逆にこうして視線を集めてこそ役割を果たす(ロールプレイ)とも言える」

 「ロールプレイですか」

 「そうだ。人にはそれぞれ役があるんだ幼き少女。人なんぞ与えられ、生まれ持ち、追加される役割を果たす為だけの駒に過ぎない」

 「幼き少女、というのが引っ掛かりますがそれは大尉ご自身の言葉でしょうか」

 「私自身のだよ。無論それも役割だろう」

 「人が何かをする、という事象を役割と」

 「いや、もっと大きい…」といって晴臣は喋る事をやめる。

 「ほら、早く食べないとせっかくのボロネーゼが冷めちまうぞ。食った食った」

 「話を振ったのは大尉だと思うのですが」

 「それに喰いついてきたのは君だろう。御託はいいからさっさと食べる事だ」

 アリスは不満の表情を顔に出しつついかにも軍用といった趣の質素なフォークを手に取り、それをやや強引にラグーとタリアテッレの山に突き刺すと大振りで口に放り込んだ。数秒後、彼女の顔には隠しきれない笑みが浮かぶ。

 「意外と良い味してるよなコレ。だから食べろって言ったのに」

 己の言葉を無視して急にかきこむアリスを見て、晴臣は彼女の過去を何となくだが想像が可能だった。かきこんで食べつつも奇妙なまでに冷静なのだ彼女は。普通、ファイターパイロットという存在は地上に降りたら騒ぎまくるか大人しくなるかの二択である。ある者は機械仕掛けの翼を失った事を悲しみ、またある者は地上へ生きて戻った事を神に感謝する。しかしこの女子はそうではない。地上と空の間の存在する筈の境界線が全くないのだった。生きていれば、首が繋がっていればどんな環境だろうと十分だと言わんばかり。元情報部という経歴以外の物を伺わせる、そんな食いっぷりを見て思考回路を巡らせる。

 「お前はハムスターか」

 「ふい?」

 明らかに頬が膨らむほどに頬張っている事を忘れたのか、噛む事を中断してしまったアリスは胃に流れていかないボロネーゼを詰まらせてむせた。そして晴臣を睨みつける。


**********


 「はい…お疲れさん」

 「いいデータは取れたのか」

 「当たり前だろう。私が担当しているのだから」

 モーリスが小型の携帯端末を片手に抱えながらシミュレーターを降りた二人を迎え入れた。幾度なくリテイクを繰り返し、数分で片が付くACMを繰り返す。撃墜判定。非撃墜判定。判定不能。双方撃墜。その回数すら忘れかけた頃にやっと二人はその任から解放されたのだった。

 「ひどい扱いだな。俺に戦争条約は適用されてるのか」

 「お前は捕虜じゃない。軍人だ。その任を果たすだけの事だよ」

 「全く。技術屋(ホワイトカラー)ってのは容赦がない。俺たちブルーカラーの体調も考慮してほしい所だが」

 「何を言ってる…お互いにグリーンカラー(戦争屋)さ」

 晴臣とモーリスがそんな会話を繰り返す中、アリスは平然としつつ装備を着脱する。

 「おや、アリスクンは全くもって平気なようだが大尉はどうしたのかね」

 「勿体ぶって言いやがって。いや、マジメな話このシムはよく出来てる。凄い完成度だ。基地に備え付けのTVゲームみたいなシムとは訳が違う」

 「それは光栄だな」

 「ただ、やっぱりどうしても根本的に違うんだよ。キャノピーを舐めて過ぎ去る空気とかそういったものは当然だがない。そうした違和感がどうしてもある。脳が錯覚を起こすんだ。だから異様に疲労する」

 「興味深い話だが更に興味深い話をするとしよう」


 …?

 三人は移動する。最初に訪れた一室へと戻り、そこで再び画面を猛烈な勢いで蠢くプログラミングを片目にやった。

 「FAM-201(エゴ)の搭乗経験はあるか?」

 「いや、ないな。あのエゴ(自己中野郎)の事だろう。今は転換の継続訓練としてFA-181(ルーラー)だけだ」

 「そうか。では根本的なコトから話そう。恐らく大尉はシムでの訓練経験はほとんどないだろう」

 「ああ。実機訓練がほとんどだ。俺がヒヨコの頃はこんなリアルに近いシムもなかった」

 「分かってもらったと思うが今はこうして現実に近い環境で訓練が行えるようになった。よってエゴのパイロット予備軍と言うのはほぼ実機訓練を行わないのだよ。あくまで搭乗するのは転換後、戦闘部隊に配属される直前の事だ」

 「なに?」

 「戦闘機というのは途方もないコストがかかる。それは君もよく分かっていると思うが。だからこそこうしたシムで仮想戦闘を行わせる。現に実戦配備が行われているエゴだが演習での成績が良好なのは知っているな」

 「知ってる。データリンクで確立された戦闘を行い計算されつくした戦術――だったか。AWACSやら何やらの指示を一手に引き受けるんで自己中なんて名前がついちまったアレ。空中目標だろうが地上目標だろうが的確に仕留めるんで群狼戦術なんて呼ばれたりしたな」

 「ふん。あの優秀…と言えるハズのパイロットは訓練シムで作られ、そして実機に乗り込んでいる。だがそれでも十分な力量を発揮している。今や空中戦に必要とされるのは卓越した機を操る技量や第六感でもなく、無事に離陸し電子戦闘を行い基地に帰還する戦闘機乗り(ファイター)ではなく操作員(オペレーター)だ」

 「仮に支援がない場合はどうするんだ。空戦が何時もデジタル化しているとは限らない」

 「では逆に聞くがデジタル化していない空戦など体験したことはあるか。レーダーで索敵、指示を受けて目標に攻撃を行う。ここの何処に第六感が働く場所がある。そもそもエゴは格闘戦を想定していない。第六感が働く以前に片を付けるのがやり方だ」

 晴臣は複雑な感情を抱いていた。確かに空軍の空戦機の中で最強と言われ、その力に比肩する物は何処にもないと讃えられるマキナの神髄は電子機器だった。敵を必ず見つけ出し、してその姿を見せる事はなく何事もなかったかのように葬り去る。接近戦に縺れ込めばその圧倒的な空戦性能で撃墜する。これらを第一に支えているのはコストを度外視したマキナの装備の数々。電子戦闘を最優先に開発されたFAM-201ですら追従不可能な能力だった。第一に電子装備、第二に基本性能だ。

 「だがアセンダンシィが最強の飛行隊たる所以は決して機体の性能ではない」

 「ほう。それは何故だ少佐」

 「どんな最強の飛行物体があろうとそれを動かす人員がいなければ機体は能力を発揮しない。限界まで能力を引き出す必要がある。それにはそれ相応の人材がいる。これはやはり戦闘機乗りでなくてはならぬ」

 「なんか矛盾してるように思うんだが」

 「してませんよ大尉。少佐が言ってるのはアセンダンシィは量産できないと言ってるんです」

 ずっと口を閉ざしていたアリスが急に語りだした。

 「戦闘機というのはカネがかかる。その人間を育てるのもまた同様。それらを極限まで排除して省コストで育成する代わりに進化したハード側でそれを補う。結果として同等の戦力を得るしか選択肢はない…」

 「ふむ」

 「空軍中から集められた精鋭。予算度外視の部隊にして虎の子にして最大の宣伝力。マキナという極限の原石を加工する為だけに存在するプロフェッショナル。これらは簡単に“作れる”モノではないし、ましてや通常の部隊でも持て余す。少佐がいう空戦のデジタル化とは単純なものではなく時代に適応した新たな空戦を行う不可欠な要素であり存在なのです大尉」

 大の大人が黙って聞いていると更にアリスは留める事なく続ける。

 「しかしそれは常識内という前提がある。限られたコストの中で最大の戦果を発揮しようとなれば今や人間を簡単に超えるコンピュータを活用する方向へと進むのは間違いない。ただ、それが無尽蔵ともいえるコストと最強を維持する使命があるなら話は別です。空というフィールドに於いて全てを脅かすもの。群れずに単体で敵を相手取る。勝利する。任を果たす。そんな部隊は一つでいい」

 「それはなぜだ」

 「スタンダードになるからです大尉。我々はハイ・スタンダードなのです」

 彼女の言うことが何となく分かるような分からないような何とも言えない気持ちにさせられつつも、核心を隠し延々と回りくどい事を語られる事に飽き飽きした晴臣は「ほう」とだけ返すと何時しか主題がずれにずれた話に区切りをつける。最初は確かシムと現実では明らかに差がありそれの“差異”によって疲労する…とかいう話のはずだったが。

 「まあ少尉は元々が戦闘機乗りじゃないだろう。だから違和感を感じにくいのかもしれない。それとも元々が戦闘機乗りなのか?まさかとは思うが」

 そう、それだよと晴臣は内心で思う。俺の言いたい事はそれだ。

 アリスはモーリスの問いに対しては沈黙と軽く首を横に振ることで応える。その姿はまるでさながら玩具の人形だった。ゼンマイを巻くと首を振る少女。ある一定の年齢になるまでは頻繁に酷使され、その可動部分がダメになる頃には興味が失われて捨てられるか、もしくは何処か愛着が湧いて飾られるようなドールだ。少し服装が人形にしては過激な事、そして恐らく後者だろうと思った。晴臣の祖国で売られている普及された人形ではなく、海外土産に知り合いから貰うような、そんな。

 「どこか具合でも悪いのですか、大尉」

 「ん、どうかしたのか」

 「それは此方の台詞です。何かを考えているそぶりでしたが目に動きが全くなかったので」

 「ならそう判断してくれ」

 「勝手ですね」

 「二人とも仲が良いことで結構結構。空軍最強と名高いタリオニスのECOが次々ダメになったと噂で聞いたときは肝を冷やしたが今となってはその心配も杞憂だ。まあ上手くやれよ」

 「なにを言うんですか。大尉はクソ野郎です」

 「おーおっかないなぁ相変わらず。所属は違えど一応これでも上官なんだが。なあ大尉、あちらでもこんな感じなのかね?」

 「無論。大佐にもこんな調子だからたまったもんじゃない」

 「なに、まあ階級は無意味と言われる場所だがな。完全な実力制。憧れないこともない」

 「だったら今からでも来ないか」

 「何を言う。私には私の階級を信じて慕ってくれる忠実な部下が必要なのさ。君の尻に敷かれるのはまだ嫌だな。私にもプライドってもんがある」

 「俺はコイツの尻にひかれてるが」

 「それはどっちの“ひかれてる”なんだ?」

 「全部だね」

 ずっと黙って聞いていたアリスは「ほんとクソ野郎」と半ば呆れかえった様子だった。

 「喧嘩するほど仲がいいって言うんだろ、大尉の祖国で」

 「この場合、喧嘩ではないケドな」

 「いいじゃないか。それにしても良好なデータが取れた。感謝する。配備を心待ちにしていてくれたまえ」

 「楽しみにしてるよ少佐」

 先ほどの士官が再び二人を案内し部屋を去る。モーリスは片手を挙げて二人を見送る。

はい。という訳で久しぶりすぎる投稿です。久しぶりすぎてストーリーとか設定を忘れてました。

いやーやっぱりデスクトップは快適ですねー。そもそもCPUが違いますから。今回組んだPCはRYZENだったのでマルチスレッド性能が異常です。この価格でこの能力、Coreシリーズと比較すると問題がないわけではないですがいい時代になりましたホント。2019年にZEN2が出るとの事なのでそれも楽しみ。なのでそれを見越して5の2600Xを乗っけましたけどこれでも十分にイイですネ。やっぱりクロームを10タブぐらいつけながら同時にソフトを何個も動かせるってのはありがたいです。グヘヘ。無論ゲームも絶好調。というかフルAMDで作ってみました。やっぱりミドルレンジは色々とAMDいいですね。オススメです。

という訳で環境も整いましたので再開しますよー。また読みに来てくださいね。ばいちゃ!

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