Ⅱ《電子生存》(1)
CAUTION
一 分かりやすい文章ではありません。文体も重めです。
二 容赦なく人が死んでいくスタイルです。苦手な方はご遠慮ください。
三 ある程度の航空軍事用語を知っていると楽しめます。それを前提としている部分もあります。
四 明らかに有り得ない設定が無数にあります。架空と割り切ってお楽しみください。
五 多少の差別的表現、汚い言葉が含まれます。敏感な方は閲覧を非推奨します。
六 筆者の軍事知識は並み以上マニア以下といった所です。四にも書きましたがご理解ください。
この戦争は終わりそうにない。そう錯覚させる日々が続いている。全軍挙げてのRゾーン攻略作戦。その幕開けとなったのは予定通りの無数の巡航ミサイルだったが、彼の予想通りその約半数は撃墜された。それでも迎撃を掻い潜り着弾したミサイルは海岸防衛網を多少なりとも弱体化させている。その隙を持って五隻の空母艦載機がSEADに従事、エスコートジャマー、護衛機を伴いながらレーダーの破壊を行う。敵の迎撃も凄まじくSAMは無論、敵戦闘機の迎撃も熾烈を極めた。結果として第一波のSEADは撤退を選択、同時に制空装備を施した部隊が発艦する。それなりの損害は与えたとの事だが、脅威となるSAMの目を完全に失わせるほどの事ではない事など誰にでも分かる事だった。航空軍の部隊も出撃しているが、あまり奥地まで進出すると帰還が出来なくなる。海上に降りられる海軍機と異なり、せめて最前線基地に降りなくてはならない航空軍機は往復、海上での短い空戦を行ってそれで終わりだ。最前線基地から全てが発進できればそうとも限らないのだが、作戦に参加する機体の総数は約300機。とても三つの基地で管理が出来る数ではない。航空軍として戦力のあてになるのは後方に控えるAWACSくらいのもので、その管制能力はサイズに制約がある艦上機の管制機とは比較にならない。空中給油機の数にも限界はある。
しかし、当初の予想と大きく異なったのは半島の挟まれた半径300キロではなく、エマンスド海峡上空全域での戦闘が行われている事だった。これには上層部も作戦の立案し直しを行わざるを得ず、より全面にて同時攻撃を行う事となる。更なる内陸からの増援部隊を呼集、迎撃よりも大きな戦力で押し込む物量作戦。
そんな中、アセンダンシィに課せられた任務は空中戦闘偵察。その航空戦闘能力よりも管制機に負けず劣らずの索敵能力と足の速さを生かして広範囲の索敵を行い、敵機に遭遇した場合は攻撃を行う戦闘任務。上層部はこの驚異的な戦力ではあるが高価な代物を本格的な空戦に投入するつもりはないようだった。
*****
「バールより各機へ。エリア210にアンノウン。速度M1.4。高度66000。機数は一。IFF応答なし。ボギーだ。迎撃を許可する」
「バットリーダーラジャー。此方ではコンタクトできない。誘導を頼む」
「了解。戦術誘導開始」
戦闘空中哨戒任務中の三機のアーレイ共和国所属制空戦闘機が警戒管制機の誘導を受けて飛行。アフターバーナー点火。最大推力で目標に追従する。
「ボギーワン?」
「管制機の野郎曰くな」
「なんだ、あの足の速いヤツか」
「違うらしい。速度はM1.4程度だと。ヤツならM5以上で逃げ切るさ」
「はぐれ機体?」
「このボロじゃ55000が限界だってのに」
「与圧服もないんだぞ。45000以上は無理だ」
管制機より通信が入る。
「バットリーダー、コンタクトはまだか」
「ネガティヴ。レーダーノーレスポンス」
「レーダーに異常はないのか」
「当機並びに編隊の三機に異常はない」
「了解」
「捕捉できない。目標を指示せよ。当編隊は高度45000以上は上昇できない」
「了解…ボギーが高度低下。32000。同高度で真っ直ぐ突っ込んでくるぞ。距離120」
「バットリーダーラジャー」
「EWRに反応あり」
約百メートル間隔で飛行する編隊三機が同時にレーダー照射を受ける。
「ミサイル接近!ブレイク!ブレイク!」
「レーダーコンタクト」
編隊の右翼と左翼を狙ったミサイル攻撃。正面からだ。バットワン、スリーが回避行動を取る。同時にバットツーがレーダーに反応確認。
「バットスリーFOX3」
しかし発射がされない。気づくとレーダーに反応はなく、ミサイルも目標情報を失っている。一瞬だがレーダーに反応はあった。間違いない。
「バットワン、スリーロスト!」
悲鳴にも似た二番機の無線。回避行動をとったにもかかわらず二機とも撃墜された…?
「落ち着けバットツー。ん…?此方も反応をロスト…」
「バットツー、ノーレスポンド」
「パターン変更。再補足を試みる。警戒待機せよ」
「EWR反応!脅威度が高い、ミサイルだ!ブレイク!」
真正面から放たれたミサイルに対してビーム機動。最大推力で離脱を図る。それも空しく、その速度の倍以上で迫るミサイルでバットツーは被弾。破片を吸い込んだエンジンがフレームアウト、出火。燃料カット。自動消火装置が作動するも効果はない。キャノピーが飛び、射出座席が作動する事なく機体は地上へと炎上しながら落下していく。指向性の弾頭は確実に敵機を捉えていた。その破片は機体を貫通、副次的な効果としてパイロットを死に至らしめていたのだった。脱出したところで下は海。助けが来る保証もない。
「こちらバールより周辺機へ。エリア210でボギー確認。バットチームが撃墜された。援護要請」
「了解」
ステルスか?そんな管制官の疑問もつかの間、管制機に向かって飛来するミサイル一基を確認した操縦手は回避行動。EWRがけたたましい音で鳴り続ける。オートマチックでチャフ、フレア散布。効果なし。
「ダメだ!」
目標命中。翼を破壊され揚力を失った機体は落下していく。鳴り響く警告音。機動力は皆無のターボプロップの管制機は無残にも撃墜される。援護要請は間に合わなかった。どんなに速くても援護機が駆けつけるのには五分はかかる。しかもここは空域の端。それ以上の時間がかかっていたかもしれない。
一瞬の出来事だった。警戒管制機、並びに戦闘機三機が撃墜された。
「ボギー4消滅。撃墜と思われます」
「了解」
「A9-9任務終了。帰還する」
平凡な任務の筈だった。言わば足の速い警戒機として空域の端を飛行していたタリオニスは四発の長距離ミサイルと二発の短距離ミサイルを腹に抱え、ウェポンポッドの代わりにコンフォーマルタンクを装着する長距離飛行装備でRゾーンの端を飛行していた。正面から殴りこむ事だけが戦争ではない。それが空中哨戒任務中の敵機と警戒機をレーダーに捉えた事で状況は変わった。機体の電子戦装備は想定通りの性能を発揮、見事に三機の戦闘機からは発見されることはなかった。警戒機のレーダーを解析後はそちらへのジャミングも行う。晴臣は乗り気ではなかったが、アリスが「偵察戦闘任務だ」と言い張るのでそれに従った。確かに数を減らした方がいいはいいだろう。そんなに戦闘の部分を強調しなくてもいいのに。
「またミサイルを撃っちまった。嫌な顔される」
「それは何故ですか」
「タダじゃないからな」
「外したのならともかく撃墜しているのですから良いのでは」
「この部隊は金がかかりすぎるのさ」
「それ以上の価値があれば」
「そうもいかないのが人間だ」
高度上昇。スロットルを押し込む。2万メートル。超音速巡航高度。基地への帰還進路を取る。
「そういえば」
「なんだ」
「このマキナって何処まで上がれるんです?」
「仕様書に書いてあっただろ、2万5千ってトコか」
「実際はどうなんですか?」
「さあね。俺もそれ以上は上がった事がない。ただ」
「ただ…?」
「三番機曰く、3万5千までなら上がったことがあると言っていた気がする」
「じゃあ実際は後1万メートルは上がれるという事ですか」
「オータスとタリオニスは違う。オータスが可能だったからと言ってマキナシリーズ全機が出来るかと言えば分からん」
「フム」
無線越しの会話。宇宙服と言っても過言ではない飛行装備。マキナを全ての領域で完全に操るには搭乗員自体もそれに対応しなくてはならない。機械が完全であるとはいえ人間は完全ではない。コックピットは軽く与圧されてるとはいえ気休め程度。被弾時に機体を内側から破壊する恐れがある為に最低限しか施されない。この高度でも与圧されていなければ人体は体液が沸騰して死に至る。
探知音。メインパネルが拡大表示。機数一。
「…?」
「どうした」
「距離150、アンノウン。一機です。高度は…A120」
「馬鹿な。幾らなんでも高すぎる」
「速度M1.5。当機に向けて追従してきます」
同時にEWR警報が響き渡る。データにない周波数。タクティカルコンピューターが未知の脅威としてデータ化、表示する。警告音が鳴る中、晴臣は冷静に指示を出す。
「IFFは」
「IFF受信…。あちらから発信してきました。識別上は友軍機です。ですが当機のデータに照合なし」
「どういう事だ」
「戦術航空軍の固有コードは含まれています。ですがリストにありません」
「そいつは困った。無線封鎖解除。司令部に問い合わせだな」
「了解…アンノウン高度降下。高度82000」
「ん…合わせてきたか。警戒を怠るな」
「こちらA9-9。PANPANPAN。無線封鎖解除」
「マッドナー、状況を知らせよ」
「識別にない友軍機を発見。指示を請う」
「再度状況を知らせよ」
「戦術航空軍のコードを含むも当機のデータには照合なし。照合を請う」
「了解。コード送信されたし」
データリンクでIFFコードを送信。晴臣の手には不安の汗がにじみ出る。
「コード照合完了。当該機は108戦術偵察部隊所属の機体であると思われる。接近して確認されたし」
「了解。アウト」
「だそうです、大尉。どうしますか」
「どうしますかってなあ…行くしかないだろ」
「そうだとすればあの速度と高度にも納得がいきます」
「だろうな。もし共和国側の機体だったとしたら新兵器だったところだ。IFF返答。タリオニスである事を伝えろ」
「了解…。IFF確認。大尉。交信を行いますか」
「許可する」
「こちら09SQ、A9-9である。貴機の状況を知らせよ」
「PANPANPAN、A9-9聞こえるか。こちら108TRSQ、R4。RCOミートマン。航法装備の故障により飛行が維持できない。誘導支援を求む」
「針路、高度を保ったまま飛行せよ。速度はM1.2を維持。レーダー照射は貴機のものか」
「そうだ。偵察用の合成開口レーダーを利用している」
「了解」
EWRに周波数を友軍データとして登録、とアリスに指示を出す。ほどなくして警告音が鳴りやんだ。これだけでも随分と心が落ち着くものだ。
晴臣は胸を撫で下ろされた気分だった。少なくとも敵軍ではない。燃料には余裕がある。
レーダーシンボルに合わせて接近。アリスが逐一状況を報告する。後部座席は電子索敵手段に頼っておりほぼ視界がない。そろそろ見えるはずだ。レーダーコンソールに目をやる。
「視認」
「了解」
のっぺりとした無尾翼機が見えた。R-45SP。カラーリングは紺とも黒とも見えない独特なもの。これは地球が蒼く光るように見える程の高高度に到達する機体を下から視認した際、その背景に溶け込む迷彩塗装。基本的には速度で迎撃を振り切る事を目的としているが、何らかの要因で速度が低下する事もないとは言えない為である。その機体サイズは非常に大きく、大型機であるマキナシリーズと比較しても1.5倍から2倍はゆうにあると見える。
「A9-9。視認した。航法装備の故障との事だが飛行に問題は生じるか」今度は晴臣がコール。
「操縦系統は問題ない。だがマッピングシステムと座標システム、天体観測航法装置が動作しない。少しでも生還率を上昇させる為に支援を求む」
そう。彼らの使命は収集した情報を持って必ず生還する事。撃墜、墜落は絶対に避けなければならない。生産数も少なく一機の損失が大きな損害を生む事となる。その為には使える手段なら可能な限り使わねばならないのだった。
「了解。速度を上げる。M2.0だ。可能か?」
「燃料は余裕がある、問題ない。協力に感謝する。用途外だが偵察レーダーで追尾は可能だ。基地周辺までの誘導は任せた」
「A9-9、マッドナーへ。機体は108TRSQ所属、R4と判明。装備の一部が稼働不能、当機支援の下で帰還する」
「マッドナー了解」
高度2万メートル、超音速巡航に入る。彼等が本気を出せばあっという間に振り切られてしまう。その速度はM5.0以上。未知の領域だ。戦闘機としては戦術航空軍トップの最高速度を誇るマキナでもM3.2が限界速度である。しかも持って数分の命。それをR-45SPは偵察ミッション中は延々とM5以上で飛行し続ける。その速度たるや迎撃ミサイルより速い。空力を優先した結果としてRCSも低下、探知が難しい。敵に索敵された時点で目標上空を通過する程の速度であり、発射された迎撃ミサイルは“追いかける”形となってしまう。無論、通常の戦闘機では追いかけても無駄な結果であり、ミサイルでも離されないのがやっとと言ったレベル。結果として永遠に撃墜されない。
覗き屋と言う通称で呼ばれるが、そのあまりにも繊細な機体を操るドライバーと電子装備士官は明らかなエリート中のエリートである。
「凄いですよね。あの機体」
「あのデカブツが音速の5倍で吹っ飛んでいく。ちょっと恐ろしい」
「あれには思い出があるんです」
「へえ」
「初めて大尉にお会いする前、管制塔でずっと滑走路の発着を見てたんですけど一番インパクトがあるのがあの機体でした」
「だろうな。ありゃおかしい。狂気だよ」
「でもタリオニスが一番迫力はありました」
「どっちだ」
ウェポンマスターアームオフ。
基地上空に到達。加熱された機体の冷却の為に旋回飛行するR4に別れを告げてタリオニスは基地に降りる。誘導ビーコンを受診するのでもう迷う事はない。去り際、R4パイロットから「感謝する大尉」と何処かで聞いた事があるような声がしたが気に留めはしなかった。ランディング。
タキシング中、司令部より通信が入る。
「私だ。悪いんだが…」
「なんだ大佐。何かあったのか」
「予定外だがエリア641周辺で大規模な空戦が発生した。焦った上層部が増援部隊の投入を決定したんだ。確かにここを抑えられるとまずい。当部隊にも作戦参加要請が打診された。投入数は四機。うち、三番機と九番機を御指名だそうだ。装備換装用意は出来ている。その後、直ぐに空域に向かってくれ。既に一番機と八番機が上がっている」
「了解」
「すまない」
「一つ頼みがある」
「なんだ」
「食料が尽きた。人間様の補給もお願いするよ。それと」
「ん?」
「四機撃墜。確認はとれていないが恐らくそうだ。キルマークを頼む」
「やりやがったな」
晴臣が補給を要請したのは専用の食糧だった。酸素マスクを外せばエネルギーバーだろうとバナナだろうと食べる事が可能な通常装備とは違い、ヘルメットと与圧服を完全に嵌め込むこの装備ではとてもそんな真似は出来ない。よって口元付近の小さな穴からチューブで食事を摂取する。これはR-45SPと同じである。違うのは服に耐G機能が備わっているかいないか、後はパーソナルカラーだった。種類は以外にも豊富で単純なエネルギーゼリーからクラムチャウダーまである。
「お前は何が好きなんだっけ」
「ココア・ムースです」
「ムースと言うよりかはチョコレートベビーフードって感じだが」
「お腹がすきました」
「呑気と言うか図々しいと言うか…感心する」
滑走路脇には確かに武装を満載した車両が待機していた。コンファーマルウェポンポッドを装着する際は専用の設備が必要なために今回は行わない。それに今回はフューエルタンクを装備している。
エンジンカット。キャノピーオープン。ラダーを掛けられて作戦書類を渡される。要約すると制空任務だった。即座に給油と武装搭載が始まる。降ろす筈だったLRAAMは撃ち尽くしていたから予定よりも時間は早く済んだ。機内燃料搭載量と外部タンクを併せた総量は凄まじい量だろう。
書類に目を通すと手を外に放り出す。武装システムに手を掛けていない合図だ。エンジンが動作しておらず電源がカットされている為に動作する事はないが習慣づいている物であるから仕方ない。セーフティーピンが抜かれた事を示すハンドサイン。
それらの作業が終わると作業員の退避を確認してJFSスイッチオン。右エンジン始動。続いて左エンジン。二基の超大推力エンジンが吠える。辺りに響き渡る轟音。アイドリング出力に移行。管制官からの無線指示に従ってタキシング。一人のクルーがマーシャラー役を務めて周辺の確認後、滑走路に障害なし、離陸せよとのサインを出す。確かこの先任伍長は誘導員資格を持っていた等と思いだすと、そのクルーが急に踊りだした。普通、アセンダンシィ所属機は地下ハンガーから移送、そのまま管制官の指示を受けて離陸を行うので地上誘導員の誘導を受ける事はない。踊りながらも的確な手順は踏んでいる。晴臣は感心する。アリスはこれが見えないだろう。通常通りハンガーから顔を出した三番機が離陸していく。
「大尉、ご武運を」
晴臣は敬礼。ガッツサインを出してそれに応える。離陸に必要なエンジンパワーはミリタリーパワーで十分だった。だが、少しでも時間を短縮するためにアフターバーナー点火。最大推力で離陸する。
「テイクオフ」
「了解」
コンディションを読み上げるアリスの声が聞こえる。その獰猛な翼を広げ離陸。そのまま戦闘高度まで上昇する。上空待機していた三番機と合流、戦闘隊形を組む。可変翼を前身形態から巡航形態へ移行。超音速巡航へと入る。M2.0。まもなく基地の管制圏から脱する。
「もう終わっていたりしてな。現代の空戦は数分で片が付く」
「どうでしょうか。敵の増援にもよります」
「サジタリウスは持っていない。ネクサスとグングニルだけか」
「混戦でしょうから良い選択だったのでは」
「だと良いんだが」
アリスが座る後席のシート、備え付けられたディスプレイにエリア641周辺のデータリンクを表示。確かに機数が多い。互いに二十機程度が入り乱れる混戦模様だ。
「管制機に頼らなくていい。此方にはA9-3がついている」
「了解。支援要請は最低限にします」
エリア641までは十数分といった所か。通常機の約二倍の速度でだからこそ出来る芸当だ。内陸の基地からでも前線基地から発進した機体と変わらない時間で到達できる。武装マスターアームオン。武装の使用権限が解除される。
「A9-3上昇。戦術偵察高度につきます」
「了解。今のうちに食べておけ」
オートパイロットシステム作動。晴臣は良く見ずにチューブの蓋を外すとヘルメットの穴に通す。
「ん…これココアだな…」
ドロドロの溶けたマシュマロとココアを組み合わせたような食感。
「こっちはエネルギーゼリーの味です」
「渡す種類を間違えたのか。まあいい」
珍しい事だった。緻密なスケジュールの下で運用が行われ、Rゾーン攻略作戦には今まで参加していないに等しいアセンダンシィに緊急の要請とは軍は余程このエリアを重要視しているようだ。確かに海峡の中でも最も中央付近と言える場所。だが友軍、敵軍共に艦艇の姿はなく純粋な対空戦闘である。マキナの真髄が発揮される。
「距離300。レーダーコンタクト。大型目標」
「エンゲージ。落ち着いて行け」
「了解」
「クソ、足の長いミサイルを持って来れば良かったか」
タリオニスがレイヴンを背に乗せて戦場に死をまき散らす。
目には目を。その名の示す通りに。そのままに。