触れる
「いやー、うまい具合に馬車に乗れてよかったな」
今俺たちは馬車の中にいる。一つ前の町で積み荷を降ろしているのを発見し、空いたスペースに乗れないか交渉したところ、次の町での積み下ろしの手伝いを条件に快く承諾してくれた。
「これでちょっと楽できるな」
次の町はかなり遠いし高低差もあるから出発するのを逡巡してたところだった。
積み下ろしは長距離の移動に比べると大したことはない。
「そうだ、この前言ってた筋力強化の魔法、積み下ろしのとき試してみてもいいな」
今までは魔物との戦いは、ノアの詠唱時間を稼ぐために注意を引いたり受け流したりだった。強化魔法がうまくいき、俺でも魔物を切り倒せるようになればかなり楽になりそうだ。
「そう考えたらやっぱりワクワクするなー」
別に自ら魔物を殺めたいわけではないが。
「ん?声がでかいって?」
でかい独り言は変な奴だと思われそうだと言っているのだろう。そう思うなら喋ってほしいものだ。
「……ん」
寝ていたようだ。寝られるぐらいだから平坦な道を走ってるな。
「…ッ!?」
ノアも寝ている、俺にもたれかかるような体勢で、だ。
落ち着け…落ち着け…いくら近いっていっても寝顔ならいつも見てる…
女慣れしてないからって慌てすぎだ!大人になれ、俺…!
「ん?」
どうやら体勢が後ろに傾いているせいか、揺れたとき頭が壁に当たって痛そうだ。
「間に布でも挟んどいてやるか…」
手が髪に触れた
「柔らかいな……違うんだ」
別に気持ちいいとか思ってない、てか誰に言い訳してるんだ。
ついでだ、もっと撫でといてやろう。
「寝てないと触れることもできないとか…変態かよ…」
バカバカしくなってきたから俺も寝ることにした。
「乗せてくださり、ありがとうございました」
数日で町に着き、作業も問題なくも終わった。ちなみに強化魔法は効果が弱く、使い物にならなかった。悔しそうだったから次はうまくいくだろう。
「さて、今日は休むか」
ふいにノアが屈めというようなジェスチャーをしてきた。なんだなんだ、地面で筆談でもしようってか。
「はいはい、なんでしょうか」
俺が屈むとノアは立ち上がった、何がしたいんだ。
そして、俺の頭を掴み、
「は?…うわ!?いたたたたた!」
思いっきり頭を引っ掻き回してきた。
「痛ぁ…えぇ…なに…?」
どうやら満足したようだ、もう俺のことなど見えていないかのようにさっさといってしまった。
「もしかして俺が撫でたからそのお返しとか?」
いや、お返しというより仕返しだな。力が強すぎた。てか、
「バレ…嘘だろ…」
あのときの呟きも聞かれていたとなると、かなりヤバいやつって印象が付いたハズだ。
でももしかしたら本当にお返しかもしれない、さっきも嫌悪の感情は(たぶん)無かった。そう思うことにしよう。
だとしたら力加減を考えるようにさり気なく言っておこう。次ノアに頭を撫でられる人が驚かないように。