声
「終わった終わった、一旦休憩しよう」
旅をしていると道中魔物と出会うことはまあそれはある。そんなとき頼りになるのが俺の相棒である魔法使いノアだ。
「というか、俺1人じゃ勝てないんだけどね」
そんな呟きにノアは、わかればよろしい、と言わんばかりのドヤ顔をしている…もとが無表情のノアにしては、だ。
「はぁ〜あ、俺も強かったらなぁ」
俺は産まれる前から勇者になることが決まっていた。そして、それを誇りに思い日々研鑽を積んできた…ハズなのだが
「なんでこんなに弱いんだ…」
勇者として、同年代より少し早く剣術を始め、周りより良い指導者に教えを乞うた。が、俺のセンスの無さは桁違いだった。
それが顕著に表れたのは12歳の頃にあった剣術大会でのことだ。一言で言えばボッコボコにされたのだ、一回戦で。
大衆の前で醜態を晒したことにより、俺への見る目も変わってしまった、「"勇者のくせに"弱い」だの「それで"勇者"を名乗り、恥ずかしくないのか?」だの、まったくその通りである。
「いや、座学はよかったんだよ…」
昔を思い出し、自分を慰める言葉が口をついて出てしまった。そんな俺をノアは怪訝そうな表情で見つめている、そんな目で見ないでくれ…。
「そうだ、ノアはなんでそんなに強いんだ?」
まだ少女という年齢のノアが強いのは何か秘密があるのだろうか。
案の定答えてくれるはずもなし、そもそも声聞いたことあったっけ?
俺とノアの会話(?)は俺が質問して、ノアが肯定否定を首を振って伝える、という形式が取られている。つまり、俺の知らない分野の話をするのはめちゃくちゃ難しいし、「何故」という質問には一切答えない。
だから、「何故そんなに強いのか」には答えてくれない。
「あー、うーん。なんて聞けばいいんだろ」
最近は慣れてきたし煩わしさも感じなくなってはきたのだが…
「はぁ、普通に話せたらもっと色々聞けたんだけどなぁ」
そんな俺の言葉にノアは驚いたような表情を見せた。
「…どうした?」
ノアはハッとするといつもの無表情に戻ってしまった。
なんで驚いてたんだ?やっぱりあれか
「俺が、弱いからか」
少し、感情が昂ぶってきた
「俺みたいな雑魚とは話なんかしないってことだろ」
ノアはすごい勢いで立ち上がると思いっきり首を横に振った。
「いいよ、今さらそんなに必死に否定しなくて。わかってるから。思えば、強いとことかかっこいいとこなんて見せたことなかったな」
俺はいつからこんな後ろ暗いやつになったのか
「もうどうでも…わ!?」
か、肩を、両肩を掴まれた!
「な、なんだよ!ちょっ近」
突然の出来事に狼狽えていると
「あなたは」
とても澄んだ声が聞こえてきた
「あなたは、弱くなんかない。それに」
「そ、それに?」
一呼吸置くと
「かっこいいところもある」
かっこいいことろ?俺に?…てか
「し…しゃべった?」
言うだけ言うと、俺に背を向けてしまった。
それからは何度声をかけてもしゃべってはくれないし、いつにも増して無表情だし、ついには目は逸らされるし散々だった。
いつか終わるこの旅で、あと何度あの声を聞けるだろうか。
勝手なことだが、俺はあの声を聞くに相応しい勇者になろうと思った。
昔のことなど、とうに頭から消え去っていた。