宝石
「ふぅ…そろそろ休憩するか?」
俺たちは広大な平原を黙々と歩いていた。体力の無い俺にとってはかなりキツかったのだが、相棒にとってはそうでもないようだ。何故なら俺をすごく睨んでいる…おそらく俺の体力のなさに辟易しているのだろう。
「あの…ノアさん…?」
返事が無いのはいつも通りだが、今日は目がちょっと怖い。
「いや、はい…俺が休みたいです…」
俺が白状すると、ノアは少し満足げな表情をすると、率先して休憩出来る場所を探し始めた。
「なんだ…自分も休憩したかったんじゃないか」
俺の呟きはどうやら届かなかったらしい。
「じゃあ、日があるうちにもう少し進みたいから30分だけ休もう」
頷いている、それでいいらしい
「…そういえば、さっきの町でアクセサリーか何か買ってたけどあれなに?」
俺の問いに答えて、ノアは宝石を見せてくれた。
「おぉ〜綺麗な赤い石だな。やっぱり魔法石?」
魔法石だそうだ。だが、気になる点が、
「買ってたのってネックレスじゃなかったっけ?」
そう、聞くまでもなくネックレスだった、そしてノアも頷いている。
「宝石以外の部分はどこへ…?」
ノアはカバンを引っ掻き回すと、宝石がはまっていたであろう部分だけ窪んでいるネックレスを見せてくれた。
「あーまあそういうことだよね…わざわざ取らなくても…」
これだから素人は、という目でこっちを睨んでいる。
「はいはい分かってますよ、魔法使いには魔法石だけが必要なんだろ?」
そんな目で見なくてもいいじゃないか、なんか悔しくなってきた。
「あーあ!もったいない!そのキレイな宝石のネックレスを綺麗なノアがつけたらさぞかし似合うだろうにね!」
はぁ、なに言ってんだか俺は
「そろそろ行くぞ…ん?」
休憩の時間も終わろうというのにノアは俺に背を向けゴソゴソと何かを弄っている。
「おい、何やってんだ?見せ…ちょっ痛!叩くなよ!」
たく、なんだってんだ。
「叩くことないだろ…うわ!」
ノアが突然立ち上がった。依然背を向けたままだが、その背中には何か威圧感がある。
「お、おい、どうした?さっきので怒ってんのか…?」
キレられたらヤバい、マジで小指一本でも負けるレベルの実力差がある。
なんでキレてんのかわからんが、恐らく宝石の件のどっかだろう、取り敢えず謝らないと
「さ、さっきのは悪かったって、謝るから怒んないでくれ…うわ!」
ノアは突然振り返りこっちを見据えてきた。表情から察するに、キレては…なさそうだ。
「よかった…あれ?ネックレスじゃん」
何故かネックレスをつけている、それも外していたはずの宝石が付いた状態で。
俺が呆然としている間も、ノアはずっと俺を見ていた。こういうときは何か伝えたいことがあるときだが…
「あっ」
違ったらかなり恥ずかしいが、言うしかない
「よく、似合ってるよ。俺が思った通りだ」
なんとか振り絞った
そして、どうやら的中したようだ、ノアは満足そうに頷くとさっさと歩き始めてしまった。
「あ!置いてくなよ!」
前を行くノアの足取りは少し楽しそうに見えた。
まさか、俺に「似合ってる」と言われたのが嬉しかったとか?…まさかな。自意識過剰もいいとこだ。
聞いても答えてくれないし、そもそもそんなことを聞くほど俺は恥ずかしい人間じゃない。
さて、終わったことはもう置いておこう。会話はないけどなんだかんだ楽しい道中、わざわざ気まずくする必要もない。
「よし!」
気合いを入れ、歩き始めた。
今日は、寝る前にいつもよりたくさん話をしようと思った。