序章 草原にて会話中
青い空に白い雲、まさにその言葉が似合う日だった。時代は着々と進んでいき、第二次世界大戦なんて言葉は、歴史で習う以外では出てこない言葉になった。そのころには、人口は、地球という惑星では、収まり切れなくなっていた。そこで宇宙に人工的な星「天球」を建築し、同じ軌道を周らせた。そこでは、いろいろな国、いや、都市レベルのむらができた。そしてそのむらを転々とする『旅人』・『放浪者』と呼ばれる人たちも出てきた。
草原の真ん中に一人と一頭がいた。その旅人は、ウエストポーチをつけていた。口は閉めておらず、中のポケットには万年筆が、三本ほど入っているのが見えている。その中の一つは、特に光を反射して高級そうだった。中は他に、黒い手帳が一冊入っている。そして、腰の後ろには、ベルトで銃が一つ吊るしており、その旅人の横にはリュックがおいてあった。その人の後ろで草を食べている一頭は、左右に鞄を付けており、左の鞄には、携帯食料や水筒、ランプなど、右の鞄には予備の銃の弾と腰の銃より少し大きな銃、双眼鏡が入っていた。そして、背にはもう一つ鞄がつけてあった。
「おいしいかい、ティグリス。さっき会った人が教えてくれたんだよ。って聞いてる?」
その旅人は、草原に大の字に寝転がり聞く。
「聞いてるよ、ノト」
ティグリスと呼ばれた動物は、草を食べながら言った。
「でもこの前言ったむらで育ってた草が一番美味しいかな」
「そっか。じゃあティグリスもう行こうか。別のむらに行って、そこの草を食べればいいね」
ノトと呼ばれた旅人は言った。
「ごめん。僕が悪かった。この草はとてもおいしいよ。もう少し食べていたいな…」
「わかればいい」
「…とか言って自分も日向ぼっこしたいくせに」
「よし。行くか」
「すいませんでした」
その頃には、日は暮れ始め、ノトの目の前は、橙に染まっていた。
「今日は、ここで野宿だね」
ノトはそういうと、ゆっくり起き上がり、ティグリスにつけてある鞄からランプ、水筒、携帯飲料、ヒマワリの種を取り、ランプのふたを開けた。そして、ヒマワリの種を一粒食べた。
「やっぱノトは、ハムスターになるべきだ」
「ヒマワリの種とハムスターは必ずしもイコールではない」
「すごい。ヒマワリの種の事を言ったことは、分かったんだ」
「野宿するたびにそう言うからね」
ノトは、愛用のオイル・ライター「catbee」をポケットから取り出し蓋を開け、「キーン」という音を響かせた。
「今日の音は、若干悪かったな」
「ハムスターが良い音鳴らせないでしょ」
「明日は、一日中走ろうか」
「僕は何も言っていない。僕は、ノトの一番のアイボウでノトを一番ソンケイシテマス」
「若干棒読みなのは気のせいかな?」
「気のせいだと思う…」
ランプにライターで火をつけ、明かりをともらせた。道の途中で見つけた川で水筒に汲んだ水を、ランプの蓋の上で温めた。そして、携帯食料を食べた。
「そういえば、ノトのそのライターどうしたの?」
「あれ、このライターを勝ち取ったのは、ティグリスと旅する前だっけ」
「そうだよ」
水から泡がでてき始めた。
「今夜は、昔話だね」
「前に住んでいたむらは、本がとても多く、作家志望も多かった。だから、各むらでベストセラーになる本の作家が多くいるんだ。むらの皆には、一週間で一冊は、本を読むようにと義務付けられている。そして、本をより好きになってもらうために、確か地球暦で十二月ぐらいに、年に一回の祭りがあった。名前は………忘れちゃった。とにかくこの祭りは、祭り初日にくじ引きで決定した一つの文をもとに、千字ほどの小説を書く祭りだった。やりたい人だけね。祭りは一ヵ月間で、最初の一週間は小説を書く期間、そこからは国民が小説を読む期間。そのときは、一般の本を読むことは禁止され、書店でも祭りの小説しか売ることができなかった。月末の一日は、一番面白いと思う小説に投票する。そして、優勝者には景品がある」
「それがそのライター?」
「正解。で、僕の時は確か………第二二四回だったかな。それで、文を決めるくじ引きが少し変っていて。箱が六個あって…」
ノトは、沸騰した水を一気に飲み干した。そして片づけた。
「それで?」
「分の単語を箱から引く。それを組み合わせて一文を作る。で、その文は—————」
「その文は?」
「また明日。もう眠い。何かあったら——————————盗賊でも現れたら起こして」
夜空には、星が光っていた。風も心地よく風の音とティグリスの声が響いた。
「ノトは何であそこで止めたんだ。今夜はノトを守るために徹夜か…………」
ため息も響いた。