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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第三楽章 黒と朱の狂詩曲
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与満






「まってハイマ!!」


ずっこけた。


「…………なによ、ラピカちゃん」


倒れ伏したまま、自分へ声をかけた少女に訊ねる。


「…………コパンと、戦うのよね?」


「………………んー。まあ、そうなるんだろうね。私としても歓迎できる事ではないけど」


「…………そうよね。あの子は、『豺虎の牙』のメンバー…………今はこの国に仇なす、外敵…………」


うつむき、自分に言い聞かせるように言う皇女サマ。


「けど」


だった。


「だけど、あの子は──」


けど、次の瞬間顔を上げたら、そこにいたのは──


「あの子は、コパンは──悪い子じゃ、ないわ」


ありふれた、何処にでもいる、友達を心配する女の子だった。


「…………おれも同感だぞ、ハイマ」


ついでに、隣に立つその兄も。

ふぃー、と溜め息を吐き、私もまた口を開いた。


「──うん。知ってるよ」


よーく、知っている。

嫌ってぐらいに。…………嫌ってぐらいに。

そんな事は、わかりきった事。

だからこそだ。


「大丈夫だよ、二人とも」


だからこそ私が──


「私が、あいつを──」


『私』が、あいつを──


「あいつを、守るから」











あいつを、■すから。











「邪魔っ!だあああああああああああああああああ!!」


黒い疾風の如くに駆け、目指すのは妖炎なる皇城、ソレルニーガ。

驟雨降り注ぐ城下街、有象無象の刺客達を蹴散らしながらすり抜けるように進んでいく。


「…………そろそろ、仕掛けてくるはずよね」


それはまず間違いない。

『豺虎の牙』には『(ハイマ)』の事が知られきっている。

この一大事を仕掛けた以上、私が立ちはだかるのは当然承知済みだろう。

そして、承知した上でこうして計画を実行に移しているということは──私への対策もたてているはずだ。

そしてそれの実行役には、私と共に仕事をこなしてきたコパンが適任のはず。

あいつは必ずやってくる──


「問題は、何時、何人で、どんな手を使ってくるかってこ──ホぉ、ほォおおォぉお?」


一瞬で、視界が黒に呑まれる。


「へぇお、ううはへあ?」


下顎と舌が空回りし、呼吸が剥き出しの喉から搾り出る──ってああ、何かと思ったら下顎から上の頭部を斬り飛ばされたのか。

即座に存在が回帰され、数テンポ送れて視界が戻ってくると、そこには──


「あらららら、堂々と。暗殺者失格じゃないの?」


「お前が暗殺者を語るかよ。お前が。お前が。お、ま、え、が」


──盲目の暗殺者。

コパンが、そこに立っていた。

そこ(・・)に。

詰まる所──空中に、である。

白黒のダイヤ柄なコートを着込み、その白髪と、双眸を覆う赤い包帯が夜風に靡いていた。


「きひひひひ。まあ確かに私なんかが言う台詞じゃあないね。暗殺者(アサシン)としちゃあ私なんて三流もいいとこだし」


「自覚あったのかよ…………ったくよ」


「きひひ、きひひひひひひ。あるよあるよー、こう見えて私、割と自分の事は客観的に観るクチですよ──だから」


私は言う。

嗤いで口を歪めて。


暗殺者(アサシン)としちゃー三流でも──殺人鬼(マーダー)としてなら一流だって、ちゃーんと自覚してる」


「…………そりゃ結構なコトで」


そう言い終わると、まったく身動ぎもしないまま中空で佇んでいたはずのコパンは、突如そのまま落下し──一切の音を立てる事なく着地する。


「だったら殺ってみろよ、殺人鬼(マーダー)暗殺者(アサシン)がお相手してやるさ」


「余計な言葉は不要ってか。まあ同感だけどね──」


キヒ。

と私が零したその嗤いが引き金(トリガー)

刹那先、私達は互いに業を放つ。


「──《散乱する赤の咎(ウィンチェスター)》ッ!!」


「──躬蛇羅(ミジャラ)


赤き散弾が私の両掌から放たれると同時に、コパンのコートの袖から雷光の如き勢いで『何か』が射出される。


「甘いッ……!」


が、そう易々と当たってやる気は無い。

身体を捻り、見切った射線を回避する。

刹那、スレスレの距離を唸りながら通り過ぎる『何か』──


「──針?鋲?いや…………」


邪眼が捉えた姿は、ライフル弾に近い代物だった。

弾速もソレに匹敵するのではと思うほど。生身で発射したとは普通思えない。

が、これは間違いなく純然な身体能力と技術で放たれたものだというのが邪眼の観察結果だった。


「そら、まだまだあるぜ……!」


コパンがそう告げると同時に、次々と襲いかかってくる鈍色の弾丸。


「そりゃこっちも同じだっての……!《喰い散らかす紅雨(ブローニング)》ッ!」


紅の銃血を、雨の如くにぶっ放した。

互いに足を止める事なく、城下街を縦横無尽に飛び回りながら、雨霰と弾丸を撃ち交わす。

みるみる内に皇都の街並みに大量の銃痕が刻み込まれてゆく。

弾速、弾数は共に私の方が上だ。吸血鬼としての能力を使用して放つ分、単純な生身の業であるコパンのソレよりも単純に高性能なのは当然だろう。

だからこそ、その私の銃血と互角の撃ち合いを演じるコパンのそのチープな筈の技巧は、控え目に言っても驚愕の神業だ。


(…………けど、それさえも目眩まし。でしょ?コパン)


コパンが暗殺者(アサシン)である以上、それは間違いない筈だ。

確かに私は暗殺者としては三流でしかないが、逆を言えば曲がりなりにも暗殺者ではある。だから理解できる──今行われているのは所詮は演舞に過ぎないと。

共に仕事をしてきて、さっきの不意討ち程度じゃあ私にとっては大した痛打にはならないことはコパンは百も承知の筈だ。

しかし、決定的なイニシアチブを握っておきながら、あの程度の先制攻撃で済まし、私の前に姿を現した。

そしてその姿を特に隠す事もなく、こうして堂々と私と撃ち合いを演じている。

つまりは、こうして撃ち合う事で、私の意識を逸らそうとしているということだろう。


(で、肝要は…………『何』から気を逸らそうとしているのか。『何』をこの銃撃戦の裏で企んでいるのか、だ)


…………そもそもこの程度の弾丸、何十発喰らったところで私にとっては掠り傷の部類だ。コパンだってその程度は分かっている。

だからこれは、死合の前の挨拶。デモンストレーションのようなものだ。

本当の勝負はこの弾雨の裏。互いの腹の中で起こっている──!


「──この辺りが潮時か」


コパンは銃撃を止め、そう呟く。

その言葉が誤用ではなく、本来の意味でのものだとすぐに察した。


「──来るか」


私は意識を張り詰め、コパンの姿を邪眼でつぶさに観察し続ける。

ここからが暗殺者としての──血雨降る、暗闘の始まりだ。




よみち。





前にもどっかで書いた気がしますが、この物語の根底に流れるテーマは「自業自得」です。

だから登場人物どいつもこいつも、やってる事は裏切りで仲間割れな同士討ちの不毛極まりないいたちごっこばかり。

駄目だこいつら、はやくなんとかしないと。

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