表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第三楽章 黒と朱の狂詩曲
89/90

雌雄羽






「はい、《赤の指先(ベレッタ)》ー」

銃血を老魔人の眉間へと叩き込む。

すると直後にその姿は歪み、掠れ、煙となって雲散霧消した。


「えーと…………煙魔族っていうんだっけ?」


「ああそうだ。その通り。煙を支配し、操る一族。…………戦禍に飲まれ、その血脈ほぼ絶えてしまったがな」


「ふーん。どーでもいいね」


そう吐き捨て、私は私の依頼人へと向き直る。


「さて、アザク──私が承った依頼。その内容は二つだ。『依頼人の命を護る事』、そして『依頼人の使命を護る事』。まず、あんたの命は私が護ろう。さて、ではでは次に──あんたの意志を教えてもらわなきゃあね」


「………………」


(ラピカ)の手を握ったまま、アザクは目を閉じている。


「この二つの任務だけど、『優先順位』は決められていない。さてさて、私はどうするべきかな?人命第一?使命第一?どちらも護る気ではあるけど、それもまた依頼人次第──さぁ、命令(オーダー)を」


燃え盛る狂気の焔、祟りの火炎は延焼を続け、やがては皇都を、皇国を飲み干す事になるだろう。

その熱狂の中心地で、皇子は高らかに告げる。


「命令は一つさ、ハイマ──『好きにしろ』、だ」


「──キヒッ♡いーね。いーねいーね。好きにしろ、か。そーかそーかそれなら好きにしよう。好きを通そう、押し通そう、貫き通そう。無理を通して道理を引っ込めてやろう」


黒髪と黒衣を翻し、眼球だけを赤々と輝かせながら私はVIP観客席のガラス張りを軽く軽くノックする。

即座にそれは木っ端微塵にぶっ飛び、キラキラと瞬きながらイカれた阿呆どもに降り注いだ。


「んじゃあ往こうよお二人さん。まずは移動だ──あの子達の元へと駆けつけなくちゃあ。なんにしたってそれからだ」


「うわ」 「っきゃあ!?」


乱暴に兄妹をひっ掴み、私は。否々私達は舞い降りる。

狂喜乱舞なお祭り騒ぎ──その渦中へと身を踊らせた。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「何処を取ってもお祭り騒ぎだ。なんとも素敵な見世物(サーカス)じゃあないですか。ねえ?翁」


「抜かせ、ステルニア。お前は結局看破出来なかった、あの餓鬼共の腹の内を」


皇都(ナバルイーリオ)、時計塔の頂上。

奇術師と煙の翁は炎禍を見渡していた。


「他力本願ですねぇ、ワタクシだって所詮は一役者に過ぎないのですよ。脚本を書いた(・・・・・・)のは別人です。ワタクシは自らの役に徹するまでなのです…………はてさてあなたが立っているのはどちらですかね?舞台の上か、それとも外かな?」


「能書きはいい。現状を報告せよ」


その言葉を受けて肩を竦めた後、ステルニアは口を開く。


「『祟り火』はよく燃え広がっていますよ。皇都を包むのは時間の問題でしょう──ええぇーっと、でもすぐに消すんでしたっけ?勿体無いなぁ」


「当然だ。あくまでこの一件はこの国を建て直す為のものなのだ。滅ぼすワケにはいかん。とっととあの餓鬼共を捕まえ、クソッタレの皇を処刑させねばならん」


「随分な嫌いっぷりじゃーないですかぁ。親友の息子さん

らしいのに…………どうでもいいんですけどもね、ワタクシは」


「しばらくの時が過ぎれば掃除の時間だ。この国に溜まった膿を全て処理しなくてはな」


「へーほー。そりゃ重畳ですね。すんばらしい。ただ──」


奇術師の長は、空を見上げる。


「──そう上手く、事が運べばいいですけどねー」


その直後。

空が曇る。


「──何?」


「へーほー」


砂漠地帯のド真ん中。

砂炎の国へと──土砂降りの雨が降り注ぐ。


「なんだ!?この、雨、は──」


「へぇー。これはこれは──厄介じゃないですか」






□■□■□■□■□■□■□

■□■□■□■□■□■□■






「間に合ったか…………!」


「きひひひひひ、やるじゃんあの子ら──」


降り頻るのは鎮静の慈雨。

狂気を包み込み、皹割れた大地を癒す冷たい時雨──


「とーっ!ちゃく!!」


待ち合わせ場所──皇都を囲む外壁砦、その東端へと私達は着陸した。


「おいーっす!ハイマちゃんアザクちゃんついでにラピカちゃん!レノワですよーっ!!レノワ・レーゲンマーチでっすっよー!!」


「帰れ」


「失せろ」


「消えて」


「はい安定の辛辣!それはさておき、頼まれてた仕込みは完了したよー!まあ中々に大変だったけどもさー」


「苦労したのはテメエじゃねーだろが」


「その通りだよアザクちゃん!アタシ見てただけ!楽チン!!」


「…………ほっときましょうよアザク。で、あの子らは……………?」


「向こうで待ってるよ~早く行ったげなよ~」


レノワが示した方へと向かうとそこでは、アザクが手塩をかけて支援してきた魔導技能院の技能士(アルティザン)達が──


「…………死、死んでる…………!」


「いや生きてるだろ。殺すなよ」


その光景は正しく死屍累々。

目の下が隈だらけになった識者(ウィザード)達が、そこら中に倒れ伏していた。


「──シャル!」


その中心。霊陣(キルクルス)のド真ん中で仰向けにぶっ倒れていたシャルちゃん──本名、エイシアル・サンシュドル──にアザクが駆け寄った。


「あ…………アザク、様」


「よくやってくれた…………!お前達の技術(ちから)によって、この国は救われる」


「も、申し訳ないです…………『祟り火』によって発生する炎禍の霊力、それによる放射熱を利用することで雨雲を生み出し、即座に水鏡の霊力を宿した降雨術式を発動させました…………けど、やはり『祟り火』発動からの術式作動までには、時間がかかってしまいました。犠牲者の数を、零にすることは……………」


「馬鹿を言うな。見事な働きだった。技能士諸君──ゆっくり身体を休めろ」


「は、い…………グゥー…………」


アザクの言葉を聞き終えた途端に、あっという間にシャルちゃんは眠りに落ちた。


「…………ホンット、御苦労様だったよー技能士さん方。ここ何日も寝ずに作業してたからねー。まあ術式の構築が終わって、霊陣の配置、作動はアタシ達《雨法師》の仕事だったけど!」


「そっか。感謝しなくちゃねー《雨法師》の構成員のみなさんに」


「ああ、構成員のみなさんにな」


「あはははは、なんか含みありげだねー気にしないけど!さて──」


と、そこでレノワは笑みを消す。


「──で、これからどうすんの?なんとか『祟り火』はシャルちゃん達の活躍で押し止めたけれど、限界はある。この雨も霊術である以上は無限に降り続きはしない。…………《雨法師(アタシたち)》の識者が皇都中で絶えず霊力を注ぎ込んでるから、今しばらくなら持つだろうけどね。まあ良くて──あと半刻ってトコでしょ。どうすんの?」


「──キヒッ。愚問だね。半刻ぅ?そりゃ永遠にも等しい時間だ。全部を真っ平ら(・・・・・・・)にしちゃうには、充分過ぎる時間だよ」


「ん。りょーかい。じゃ、アザクちゃんラピカちゃんはアタシら《雨法師》が責任をもって預かっとくよ」


レノワは片眼でウィンクしてみせた。


「ハイマ。さっき言った通りだ、お前は好きにしろ──おれもそうする。皇子として、おれも使命を果たして見せるさ」


アザクはとてもとても真っ直ぐな、すごくすごく熱い瞳で、皇子としての風格をもってしてそう告げて見せた。


「オッケイ──じゃあ私もいよいよ行動開始だ。まずは!」


私は雨降りしきる砂炎の皇都へと駆け出し、叫んだ。


「あの、恩知らず小僧を──連れ戻す!!」




しゅうう。





舞台はととのいましたかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ