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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第三楽章 黒と朱の狂詩曲
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暗雲






「──で、なーにやってんのよコパン少年?バイト?」


「違ぇっつーの…………」


随分とまあ面倒そうな表情で、刑死者の衣装から着替え終わったコパンが呟く。


「えー?なになになにさ。てかアザ君は知ってたワケ?」


「当然だろ。雇い主だぞ?」


「うーわそれハブりじゃないの?ひっどいなー二人とも。教えといてくれたっていーじゃん別に減るもんじゃないんだしさー」


「お前もう口調一切気にしなくなってるよな」


「あ?あー、そういうやそうか。まあ良いじゃんかったるいし」


「だったらハナからその口調で良かっただろ。なんでわざわざ変えたんだよ」


「そりゃあれだよ。ほら、あれ、そう、つまるところ──ノリだね」


「だよな知ってる」


極めて投げやりにそう告げるコパンだった。


「まあ、別にどっちが本業でどっちが副業ってワケでもねえけどな…………死事(・・)が無いときは基本的に雑技団(こっち)がメインだ」


──パレードを終えて、今私達二人がいるのはステルニア雑技団の劇場楽屋。

アザクと妹様(ラピカ)はVIP席にて現在も公演を観覧中である。


「てか、仕事放棄してんじゃねーよ。どうしたんだよ護衛は」


「劇場内の警備員と騎士団に丸投げ」


「それでもプロかよ」


「これでもプロだよ」


念のため言っておくとちゃんと許可はとってある。


「…………んー。けどけどしかししかしてことはてことは。このヘルニア雑技団は──」


「…………ステルニアだ」


気だるげなツッコミ。

やる気ねー。


「──ステルニア雑技団、はさ」


「ああ、《豺虎の牙》の──お抱えっつーかなんつーのか…………別に全員が裏で働いてるワケでもねぇんだけどな。まあ、見込みのあるガキ達をそこらからかき集めて、雑技団で使える奴を育てて…………その中でも更に見込みのある奴らは、いずれ裏へ入っていくことになるな」


「へーほー。で、あんたもそのクチってワケだ」


「そういうことだな」


そこまでで、私たちは楽屋を後にする。


「で、皇都での公演するのはどんぐらいの期間なの?」


廊下を並んで歩きつつ訊ねる。


「皇都に滞在するのは二十日程だな。もちろん俺はその後も残るが」


「んんー、オッケイオッケイ。ふーん…………じゃあ、敵さんがお出でなさるのはその二十日間の中で、かな?」


「どうだかな。確かに期間中は人の出入りが激しくなるが、その程度で皇都が墜とせるとは思えねえけど」


「んっんー。それもそうか。あーかったるー。早く攻めてこないかなぁ」


「また元も子もねえことを…………」


と、その時前から駆けてくる姿があった。


「あー!やっと出てきたコパン兄ぃ!もー、サボってないで仕事してよー!」


「あーうっせーうっせー。お前が働けよシグリ。あー、あとロッカーん中の衣装洗濯しとけよ」


「はぁー?なんであたしが!」


「したっぱだからに決まってんだろうが。もちろん芸の稽古もサボんなよ」


「わかってるよもう口うるさいなぁー」


「先にグチグチ言ってきたのはてめぇだろ。いいからさっさと行けよ」


「わぁかぁりぃまぁしぃたぁー!!」


そう捨て台詞を吐き、桃色の髪をたなびかせた少女は足音高く駆けていった。


「…………え?何?あれも妹?」


またかよ。

妹率高過ぎね?


「違ぇっつの。…………ただの団の後輩だ」


「ほーんとにー?」


「嘘だとしたら何の意味があんだよ」


「んー、そりゃそだけどさ」


肩を竦める私だった。


「ま、何にしてもあんま仕事に穴空けないでよねー。ぶっちゃけ私の負担が大きくなるからさ」


「ぶっちゃけてんじゃねえよ…………まあ善処する」


やがて廊下を抜けると、舞台裏へと出た。


「さて、クライマックス──我らが団長のお出ましだ」


その言葉と同時に、客席の歓声が一際大きくなる。


「ほー。あれが『神無技(カンナギ)』のステルニアね…………」


──舞台に立つのは色白白髪の美女。

歳は外見からは酷く判断し辛い──幼い少女のような表情に、女らしい艶やかな雰囲気。

およそ芸をするには向かない荘厳ながらも幅広いローブを纏っていた。


「──」


笑顔を浮かべつつも何も言わないまま、何処からともなくとりだしたのは──ありふれたジャグリングのクラブ。

間もなくジャグリングが始まるが──その芸自体は無論達人技であるものの、しかし目新しいワケでも無い。

しかし。


「うお、クラブが──」


どんどん増えている。

五、六本だったものが──いつのまにやら十数本。そして気付けば──数十本。


「え?いや、あれ──どうやってんの?」


当然。

とても一人の人間の二本の腕ではとても捌ける本数ではない。

それでもいつのまにやらクラブの数は増える一方で──既に三桁まで達している。

クラブ達はステルニアの手から放たれると、まるで空を跳ね回るようにしてグルリと迂回し、時間を掛けて再びステルニアの手へと帰っていく。

もちろんクラブの数が増えるにつれどんどんとクラブの軌道は突拍子の無いものとなり──遂には数えきれない数のクラブが劇場を埋め尽くすようにして空中を駆け巡っていた。

そして──フィナーレ。


パチん。


とステルニアが指を鳴らすと。

突然宙を舞っていたクラブが真っ逆さまに落下して──観客席の一つ一つに、観客の一人一人の手の中に収まった。


一拍の沈黙の後。


劇場全体が、爆音のような拍手で揺らされたのだった──




















公演終了後。

雑技団舞台裏の一室にて。






「準備は整った。もうじきに始めるよ──コパン」


「…………ああ」


「《豺虎の牙》史上最大の仕事となる。期待しているぞ」


「…………ああ」


生返事をして、立ち去る盲目の少年暗殺者。






「──世の中、上手くいかねぇもんだな…………赤いの」





くらうん。





ようやく今章の終わりが書き手の中で形として見えてきた感じです。

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