洞猟
「──《戦爆熱波》ッ!」
もはやお馴染みの炎禍術を放ち、私達を呑み込んだ巨大芋虫の臓物をぶち抜く。
「…………いやー酷い目にあったもんだわ。日頃の行いかねぇ、くわばらくわばら」
「喰われておきながら呑気なもんだなこの阿呆め…………くっそ、臭いとか大丈夫なのかコレ」
「んなもん気にしてんじゃないの男でしょうが。私が女としてかなーりの屈辱に耐えてるってのにさー」
「…………ちょっと待て臭うのか?臭いのかおいこらこっち向け」
「さー、先を急ごう…………てかそもそも何処なんだここ?」
『存在回帰』により臭いなんて直ぐに消えてしまう私は騒ぐアザクをスルーして辺りを見回す。
「随分暗いねえ。まあ私は暗い方が邪眼が利くから別にいいんだけども…………んー、洞窟?いや、地下っぽいかなぁ」
今いる空間はかなりの広さだった──まあ背後のワーム野郎の大きさから考えれば当然とも言えるが。
見渡す限りの岩と砂。無論私達には何の影響もない、どころか心地いい位ではあるものの、気温も随分高かった。いつかの火山島もかくやという程に。
「んー、おしっ。結果的に炎禍の霊力がかなり濃いトコまで来れたみたいじゃん。結果オーライ結果オーライ」
「行き当たりばったりもここに極まれりだな」
「はいうっさいー。さっさと進むよ。芋虫がここまで来れたって事は充分な通路が在るでしょ。まあなるべく霊原点に近付くよう心がけつつ、地上を目指そっか」
「はあ…………わかった」
もうだいぶウンザリしてる様子のアザクではあったが、帰るつもりは無いらしい。
一応、まだ私を信用してついてくるようだ──真面目だなあ(他人事のように)。
「じゃあ行こっか…………んー、離れないようにね。なんか変な臭いするから」
「やっぱ臭うんじゃねえかふざけんなこの」
「あーあーあー、違うっての離れんなって言ってんじゃんか。アザクじゃないよこの臭いは。まあ…………芋虫臭いから、ひょっとしたらここ、巣穴なのかもしれないねー」
「…………勘弁してくれ。あれが何匹も犇めいているところなんぞ見たくないぞ」
「そりゃ私の台詞だっての。まあ今度は喰われたりしないよ。多分」
「そこは絶対と言え。何のための護衛だ」
等と軽口を叩きながら歩きだした私達ではあったが──幸いな事にその会話は半分程しか的を得ていなかった。
どでか芋虫はどうやら親虫だった模様で、あのサイズの個体はついぞ目にすることは無かった。
そして、ここが巣穴だという事自体はその通りではあったものの、私が再び芋虫に悪戦苦闘することは無かった。
何故なら。
「…………へーえ?」
巣穴にいる残りの芋虫達、親虫程ではないもののかなりの巨体を持つ個体から、孵化してもいない卵まで。
その全てが──既に息の根を止められていたからである。
「──ようやく出てきたのかよ」
私達を目にするなり開口一番そう告げたのは。
黒衣を纏い、そして──赤い、赤い、包帯を両目を覆うようにして巻いた、白髪の少年だった。
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「あんま好き放題にフラフラ動き回られるのは困るな。こちとらずーっとあんたらを追い回さなけりゃなんねぇんだし」
「それはおれではなくこの女に言え。風船もかくやというほどにフラフラプカプカとあっち行きこっち行き…………無謀無軌道無責任、三拍子揃った有り様だ」
「ほっとけぃ!!」
そう吐き捨てて早足で進む──自覚はしてるからな!?言っとくけども!!
「っ当に…………あんたら二人揃ってあの虫けらに呑まれてからどんだけ走り回ったと思う。別途手当もらわなけりゃ割に合わねえぞ。さんざん追いかけ回してようやく追い付いたかと思ったら、地中に潜りやがるし…………咄嗟にワイヤーを芋虫の身体にぶちこんでそっからは一緒に地中の旅にご同行ときた」
…………いや、無理じゃないのかそれ?
どうやって息してたんだよ。
「まあその辺は企業秘密だが…………とにかく、もう同じことは二度とゴメンだな」
「あー…………そうか。まあそれについては了承した。随分と苦労をかけたようだな」
「苦労なのか徒労なのか……………頼むから金輪際こういうのは無しにしてくれよな」
「うむ…………というか、依頼変更でなるべくお前もこれからはおれの目の届く場所にいてくれないか?このままだと流石に身が持ちそうにない」
「それはこっちから頼もうと思ってたトコだ。またぞろ見てない内にとんでもない面倒を起こされちゃたまらねえよ」
「うるしゃい!!見てない内って何さハナから見えないでしょうが!!」
好き勝手に言いやがる男共を怒鳴って、一人前を歩く。
──後ろの白髪少年は、噂の『豺虎の牙』期待の新人らしい。
誰恥じる事の無い立派な暗殺者とのことで、アザクの側について回るワケにもいかず、遠巻きに私達を護衛していた、とのことだが──
「いやいや、だとしても火山帯入ってからは合流してよかったでしょうよ。誰かに見られるワケでも無いのに!」
「顔は見せないに越したことねえだろ。今更ご挨拶ってのもめんどくせえし」
「むー…………」
無論、私も暗殺業を営む者の端くれとしてその辺の事情は十二分に理解は出来るものの。
依頼人があの数の魔物の大群を前にして出てきてくれないというのは薄情通り越して不実とさえ言えると思うのだが。
「──と!そうだそういえば、あの魔物の大群はどこ行ったの?」
「さーな。お前らを芋虫が呑み込んで地中に消えた後は、みんなどっか行っちまったよ」
「どっかってどこ?」
「知ーるーかっての。魔物全部纏めて勢いのまま走ってっちまって、そこまでだオレが見たのは」
──ん?
「勢いのまま?」
「?ああ…………それがどうかしたか」
「いや…………なんか、ヤな予感が…………」
えー?
勢いのままって、それは詰まるところ…………
「あ゛ー…………ま、今のところはいいや、どうでも。取り敢えず今は地上へ出ること、だね」
「うむ」
「だな」
そう言うと、岩と砂の中を進んでいく──のだが。
『ギヂヂヂヂヂ「邪魔っ!」グチャ。
『きしゃらららら「うぜぇ」ブツン。
『ブブブブブブずしゃ。
『ドゴゴコゴゴばかぁん。
ぐさっ。
べしっ。
ベギ、ばきどかメリぎぎぎぎぎ、バギィ──
「──雑魚、ウッザぁ!!」
うんざりしてきた私が叫ぶ。
少年、アザクも共にめんどくさそうな表情を浮かべていた──当然か。
地下とは言え、流石は霊原点ということだろうか──あらゆる魔物が絶えず襲撃してくる。
無論、地上で出くわした大群程ではなく、数自体はそれほど多くないが、何せ間断が無い。
数匹倒せばまた次がそう時間を挟まずにやってくる。
強さは雑魚敵としてはまずまずといったところで、苦戦はしないが片手間で倒せもしない。
逃げてもいいのだが地上での事もあり、なるだけ数は減らしておきたい気持ちになり、結果雑魚散らしに骨を折る羽目になっていた。
「あーくそ!別に目立った損害とかは無いけど…………流石にめんどいよこれは。今んところはいいけどその内手強いのが来るかもだし…………」
「…………てか、これ地上に近付いてんのか?さっきから下り坂ばっかじゃねえ?」
「いや、そうだけどその前は上りっぱなしだったじゃん。多分プラマイで言えば上がってる…………と、思うよ?」
「……………………これまでで上り坂が五十三、下り坂が四十八だ。歩数で出したおおよその距離的には上っていても二、三百メートルだろうな。…………ちなみに見える地層から判断するに、今現在いる場所の深さは地下──」
「「地下?」」
「………………………七千メートル前後、といった所かな」
「「……………………………………………………………………………………」」
ん?
え?
あれぇ?
…………もしかしてこれ、詰んでね?
どうりょう。
直ぐに登場させる予定だったのにかなり話数かかっちゃいました。
ともあれ、ひとまず今章のメインメンバー集結って感じですね。