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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第三楽章 黒と朱の狂詩曲
77/90

甲斐折





「詰まるところ証拠が消費されてたんだよ。いやーうまいこと考えるもんだねお相手は」


「わかったから一から順を追って理路整然と解説してくれ。頼むから」


恐らくは満面の笑みを浮かべているであろう私とやけに疲れてそうなアザクは、徒歩でとある場所へと向かっていた。


「いやいや話してみれば単純な理屈でね──まあ、わかりやすい証拠があるとは思ってなかった、否、無いと決めつけていたからこその盲点っていうのかねー?」


「…………話す気あるのか?」


「まあそう焦らない焦らない。多分これから行く場所にはほぼ確実に確かな情報があると思うからさ──で、結論から言うと、あれから確かめてみて暴動犯の全員に炎禍の霊力の欠乏が確認されたんだよね」


「………………何?」


「炎禍の宿す因子は【増強】と【解放】──パンピーの異様な狂暴さも説明つくでしょ?つまりは炎禍術により狂暴性等が、増強され、解放された結果が今回の暴動の正体ってワケ」


「……………………」


「正しく『煽動者』だったって事だね──別に洗脳だとかややこしい事はしてなかったんだ。ただ特定の感情を増幅させただけ。皇家への不満を始め、誰もが持ってて当然の感情を、ピンポイントに、かつ歪なまでに極端に【増強】し、【解放】した──故にわかりやすい証拠が在る筈もない。あくまでも暴動自体は市民達が自発的に行ったものなんだから。…………その発端はともかくとして」


「なるほど…………結果、炎禍の霊力が消費されていたワケだ。…………それにしても、それだけで一切の痕跡も残らず、となるものなのか?」


まあ、確かにその意見はもっともだろう。

なんにしたってなにがしらかの干渉を受けた結果だとするなら、と思いたくもなる。

私の邪眼()が節穴だったと言われても仕方無いかもしれない。

しかし。


「単純な霊術なら、絶対に見抜けてた──けどそうならなかったって事は単純な霊術じゃ無かったって事でしょうよ。否、そもそも霊術じゃなかったと考えることも、できる…………」


が、それだとアザクの立てた「魔導識(スペルコード)による事件」という仮説が崩れる事と成るわけだが。

いや、仮説はあくまで仮説なんだし、外れて当たり前だけども。


「まあ、何にしたって直ぐに解るよ」


「待て待て、その事についてもちゃんと説明しろ」


「えー?もー甘ったれだなあアザ君は。少しは自分で考えればぁ?ダメだよ考えることを放棄しちゃったら」


「……………………」


ああ、殺意。

この視線に込められた感情の名前は間違いなく殺意だ。


「あー…………あれだよあれ。ほらほら、今回の暴動は失態だーってアザ君言ってたっしょ?それはきっと正しい。恐らくは煽動者の想定以上に感情の暴走がいきすぎたって事なんだろうね。で、それは何故かを考えてみて思い付ついたのは──」


「おれ達が向かっている場所、か」


「そんとおり」


エブリーデス獄火山。

世界に散在する霊力の源──霊原点(オドオリジナル)の一つ。

そこが私達の目指す目的地だった。


「まあ霊力(オド)の暴走ってなりゃあそこが思い付くかなー。これまでの暴動現場の中じゃキャラギュラが際立って近い位置だったからね」


「ふむ…………だが、暴走の原因がそれだったとしても、そこに煽動方法についての情報があるとは限らんのでは?」


「あまーいね。実に。霊術を使う者、ましてや暴走の可能性の在る炎禍術を使うのだとしたら──ここを考えないワケがないよ。ただでさえ暴走しがちな炎禍術だってのにさ。それにこの国──いやさこの大陸にはこの火山から伸びる霊脈(オドライン)が張り巡らされてるときた。…………なーんか匂うよねぇ、広範囲で起こった暴動といかにも関係ありそうだよ」


「確かにそう言われればそんな気はしてくるが──結局明確な根拠は無いって事だろう」


「うるしゃい!この流れで言えばもう間違いないでしょうがっ!何もありませんでした~とはならない、なるワケ無い、なったらダメな流れでしょうが!」


「おもっくそ山勘だな…………まあそれについては何も言わんが」


「よりにもよってあんたが言ったら殴るわよ、容赦無しに」


「わかったわかった。もう何も言わんさ…………さて、到着だな。いい加減降ろせ」


「ほいほーいっと」


そこで、私は背中のアザクを降ろした。


「まったく…………駱駝車が使えんのはわかるが、それにしたって他に方法は無かったのか」


「いーじゃんさ面倒臭い。この方がずっと速いんだからさ」


ぶー垂れるアザクにそっけなく答える。

まあ霊原点(オドオリジナル)に生息する魔物の凶悪っぷりは説明するまでもない、何より土台車が通れる道が無い為、おんぶして走るという方法になったワケだが、王子サマはいささか不満のご様子だった。

気にしないけどね。

というか、他人の運転する乗り物に乗るのってそもそも私的に好かないんだよねー。

なんとなくなんだけどもさ。


「しかし…………ここまで運んできて言うのも今更なんだけど、ホントに大丈夫なのあんたがついてきて?」


「いや、本当に今更だな…………構わん。なんのためにお前がいるのだ?しっかりと守ってくれれば何の問題もないだろう」


「いっやー…………ここの魔物となれば私もそうそう余裕かましてる場合じゃなくなって来ると思うんだけどね…………ま、なるようになるか」


ため息を吐きつつ、私達は──この世界で最も危険な場所、その内の一つへと足を踏み入れる事となるのだった。






△▼△▼△▼△▼△▼△

▼△▼△▼△▼△▼△▼






「はぁい無理でしたなりませんでしたー!もう降ろすよ!?降ろすよ降ろすよ降ろすよ降ろすよ!?ありがとうアザ君君を忘れはしないぃぃぃぃ──!!」


「降ろすな!!降ろすな降ろすな降ろすな降ろすな!!ふざけんなよお前こんなアホな死に方死んでもゴメンだ万が一降ろしてみろ地獄の底で延々とお前を呪い続けるからなこの無能!」


私は泣き言を喚きつつ、アザクはそんな私を呪いつつ、エブリーデス獄火山の麓、広大に広がる砂漠地帯を駆け抜ける──その背後には言わずもがな、色とりどりの魔物達がわんさかと列を成して大行進していた。


「いやいやいやいやちょっとちょっとちょっとちょっと無い!ホンット無い!これは無いってマジに勘弁しろよこんちきしょー!数多すぎだろなんなんだ大繁殖か生命爆発か!キリ無さすぎるわどんだけ湧いてくんだどんだけ追ってくんだそんなに私らが美味しそうか!」


などと言ったところで魔物の群れが止まってくれる筈も無いわけで。


「ああくそうっとうしいなぁもう!──遮れ、数多の生を喰らいし断崖よ。いかに爪牙を突き立てようとも、我等の怨嗟は侵せぬと知れ──《死怨絶壁(フォリミュール)》!!」


背後に巨大な闇の絶壁を召喚する──当然の帰結として、魔物の群れは馬鹿正直にそれに突っ込んだ。

それでも勢いは到底止まることなく、先頭の魔物達は後続達に次々と踏み潰されていくこととなる。


「はいっ!くたばれぇ!!」


続いて絶壁から赤黒く染まった幾つもの腕がまるで抱き締めるかのように魔物を包み込み──ぐちゃりと圧殺した。


「…………ふぃー。これで一先ずは──」


ドボォォォォォォォン。


と、前から轟音。


「「………………………………」」


ゆぅぅぅぅぅぅっっっっっっくりと二人揃って前に向き直ると──


ウジュルジジュルルルギジルルラリルルルルル──と薄気味悪い音を口(と思われる器官)から立てて。

巨大な芋虫が地面(砂面?)から這い出してきていた。


「あーもーもーもーもーもーもーもー!相手にゃしないよあんたなんか!てかアザクさぁ!この辺に集落か何か無いワケぇ!?」


「在るワケないだろう馬鹿かお前はこんな場所で生活できる奴らがいてたまるか!」


「いや闇樹海はまだそこそこ町とかあったんですけどぉ!?」


「闇樹海は広大な分、深部でなければ単純な危険度は比較的低い方だ!獄火山(ここ)は他の霊原点と比べても面積は小さい──従って危険度は尋常じゃない!」


「なんでそんな場所入ろうとするかなぁもー!」


「お前が言い出したんだろがああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


ビチョルジビヂャジチャブシャアアアアアア!!


奇声を上げて突っ込んで来たワームを飛び越えて躱す──くっそやっぱ足場が砂だといつもより動きが制限されるな。

いつもならこれで見えなくなるまでスッ飛ぶ事も出来なくは無いのだが──

トン、と中空で『人外通力』により造り出した足場に着地する。

ソコで周りを見渡すと──


「う、わおわあぁぁ!?」


切り裂くようにして炎を纏った鳥が飛来してくる。


「え、待ってよ何さこれは──」


そこから視てみると──なんというか一目瞭然だった。


「魔物が──集まって来ている、のか?」


アザクが溢したその言葉通り。


地上、空中、問わず──また、その種別、形状も問わず──とにかくありとあらゆる魔物が私達へと集結していたのだった。


「あー…………いやちょいまってよ。これは…………本気に洒落になんない」


なんなんじゃいこりゃあ。

多勢に無勢なんてもんじゃないぞ。


「くっそが…………何が何だか。まさかこれもお相手のおもてなしってワケじゃないでしょうね…………」


言いながらも、内心んなワケないだろうとノリツッコミを入れる。

これは…………人間の暴動だの煽動だのとは、規模が違う桁が違う。


「今なら間に合う、退けハイマ!このまま空中を行けば──」


そこで地上(した)から熱光線のようなものが飛来する。


「っぅお!あぶな──」


と、そこからはもう目も当てられない。

空中からの一斉突撃、地上からの一斉射撃が私達二人へと襲いかかる。


「ちょ──待てやおいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!!??」


もう何度目かも数えられない悲鳴を上げて中空を跳ね回り、必死に決死に身を躱し続ける。


「ハイっマ!」


「うっさい!しがみついてろ!──《連鎖狂爆(ペディオマキスポレモ)》ぉ!!」


辺り一面を爆破し──地上へと降り立つ。

一か八かだが地上なら魔物の数が逆に盾となる──かもしれない。

というかなってくださいお願いしますから。

と思って駆け出そうとした瞬間、私は失態を悟る。

何故なら。






急に地面が沈み始め──周囲が瞬く間に黒く影に塗り潰されていったからである。











ばくん。




かいせつ。





そろそろお察しの方も多いでしょうが、書き手は「追いかけられる」シチュが好きです。

ジャンル問わず結構目に付くシーンだと思うのですが、シリアスコメディ、どちらでも見ててワクワクします。

クレアレッドが何かにつけて追われまくるのはそんなワケです。

断じて展開が思いつかない時の逃げ道なぞではないのです。

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