涜侵
「あちゃー…………これはこれはなんとまあ…………」
「……………………ふん」
駱駝車に揺られ揺られて数日、振り替えってみれば随分と穏便にキャラギュラの街には到着したものの──
「随分とまあ、荒々しく荒れ果てちゃってますねぇ…………そりゃまあ被害が無い筈が無いってもんでしょうが、それにしたって…………」
「当分復興は不可能だろうな…………ここまで来ると、暴動となど言ってられん」
「たーしーかーに。こりゃもうどう見たって市街戦の跡でしょう。兵共が夢の跡でしょう」
辿り着いたその場所は、キャラギュラの街、というよりもキャラギュラの街が在った場所というべきになってしまっていた。
過去形である。
ありとあらゆる建造物は大なり小なり破損しており、ほぼ原型を留めていないものも少なくはない。
周囲を見渡してみると、黒い煙柱が幾つか立ってしまっていた。
「まあ悲惨ですねぇ。控えめに言ってもズタボロです」
「まったくだ。結果を見れば小さくはない街一つが地図から消え失せた事となる…………まったく、笑えんな」
アザクは張り付けたような無表情で歩を進めていく…………まあ当然か。
「しかし…………市民の姿が見受けられませんねぇ。まあアザク様の危険を考えればありがたい事ですが」
「…………危険じゃなくて安全を考えろよ。あー、市民は一先ず隣街へと避難させている」
「はあ、まあ生活出来る状況じゃあないでしょうしねぇ。つまり現状ここにいるのは皇家関係者のみってワケですか」
「いいや、他にもいる…………暴動の当事者達だな」
「ほーう?いいんですか?監獄やらなんやらに移さないで。魔導的な調査なんかも設備が整っているトコのほうがいいんじゃ?」
「いや、それだと二度手間だ。どの道現場検証するために機材も人員もここに来るからな」
「ああ、なるほどね。現に私らがここに来たし──ふむふむ。ならさっさと始めちゃいましょうか」
「ふむ?お前は魔導技術は使えんと聞いたが」
「使えない事は理解できない事にはなりませんとも。まあその辺は百聞は一見にしかず、聞いた千編より見た一編ということで…………まずは人間相手でいきましょうかね。」
キヒッ。
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で、やってきたのは皇国軍詰所。
といっても暴動を起こした者の数は相当数に昇るようで──百や二百じゃ到底足りない──捕縛された者達の全てを収めるにはそこそこの大きさだった(半壊済)詰所でもとても不可能。
というわけで即席感溢れるテント内にて私はちょっとした尋問を行っていた。
あらかじめ人払いはしている──とはいっても雇い主でありこの現場の最高責任者でもあるアザクは外せない為、テント内の人数は三人だ。
目前で席に付いている男は酷く消沈しており、手錠はされているものの、間違いなくそれが不要と判る程度には陰鬱な雰囲気を漂わせていた。
んー、ヤな感じである。
この男、暴動犯の中でも随分な被害を出したらしいのだが…………見る影も無し。
「あー、まあこれから詰問開始だから。質問にはチャキチャキ答えてよね。黙秘やら虚偽やらは立場を悪くするだけだからオススメしない。何より私の機嫌を著しく損ねるから」
「………………………………………………………………………………………………………………はい」
なげぇんだよ沈黙が。
返事もしないのかと思ったぞ。
あーもーこういう空気ウザいっての。
「もう飽き飽きしただろう質問だけれどもちゃんと答えてね。まず、あんたは今回の暴動に参加してた。これは間違いない?」
「はい」
「その際皇国軍に対して暴行したことも?」
「はい」
「その動機は現皇家の軍事態勢を批判してのものということも?」
「はい」
「………………」
イエスマンここにあり。
「じゃあ、ここからが本題なんだけれども──」
と、そこで私は改めて目前の男に注視する。
ためすつがめつ──見る。視る。観る。
観察する。分析する。解析する。
単純な造形、身体能力、霊的資質、果ては──魂に至るまで。
炯々と、赤い邪眼を煌めかせ。
獲物を見聞する、捕食者として。
ゾクリ。
と解りやすく男が身体を震わせた。
「…………あんたのその皇家への批判ってのはさ、自分個人で思い至ったものなワケ?」
「っえ………………」
「んぁ、あーあー、今ん無し。まあこれは質問の仕方が悪かったわね。誰のどんな意見だって『自分だけ』のモノなワケ無い。他人の影響を一切受けないヤツなんていないし…………んー、まあ単刀直入でいっか」
で、私は改めて訊ねる。
しっかりと、目と目を合わせて。
「あんたは誰からその思想を聞いたの?思想とは行かないまでもアンチ皇家な意見、言動、行動。それらは誰を起点として発生したの?」
「…………………………」
ニィィ。
と、私は笑みを浮かべて。
「 コォ タァ エェ ロ 」
「──ワかりマせン」
「──ふぃぃぃぃぃぃ。こいつもハズレか」
げんなりしながら私は嘆息する。
「これで丁度三十人目、進歩無しか…………あー、流石にあれだね。うんざりすんね」
「だな。ハナからすんなりいくとは思っていなかったが…………正直言えば、かなり期待はしていたんだがな」
「ん、そなの?」
「ああ、今回の暴動は言うまでもなく最大規模。被害も同様だ」
「んー…………まあ確かに他よりかは期待出来るかもだけどさ。それでも、これまで一切尻尾を掴めてないんでしょ?だったら今回も相手が上手くやったってことなんじゃ…………」
「おれはそうは思わん。むしろ今回の暴動は十中八九、向こうの失態だと考えている」
「んん?なんで?だって──」
「確かにこれまで最大規模の暴動を起こした。それは単純に考えれば大成功、これまでで一番の上出来となるかも知れん」
「うん。そだね」
「しかし、その後も各地で暴動は起こっているが、どれもここの被害とは程遠い小規模なもの。むしろこれまでよりも鳴りを潜めたかのようなものばかりだ」
「あー、そうなんだっけ?」
「つまり、相手の目的は単に暴動を起こすこと、それによる被害を出すことではないということだ。そうなると──おれにはこの街での暴動は『やり過ぎた』結果であるように思えてならない」
「………………あー、それも──」
「勘だがな」
「あ゛ー、そう…………」
大雑把だなあホント。
んな決めつけてかかってだいじょぶなのか…………単にたまたまものすんごく上手く扇動が進んだってだけかもしれないぞ。
………………
まあ、かもしれないを考えたらキリが無い状況なのも確かか。
そう考えるといっそ決めつけてかかってしまうのも悪くは無い、のかもしれないが…………
「自分で適当に行動するのはいいけども他人の適当で動かされるのはいい気分じゃないね」
「果てしなく身勝手な言い分だな…………」
と、そんなツッコミは無論スルーする。
「んー、しかし…………全員魔導識の痕跡は存在しないね。他者を操る類いの術式は大方雷鼓属性なんだけども…………」
一瞬、栗色の毛の識剣士が頭を掠め──すぐに掻き消す。
「ここまでなんも感じないってなると、魔導識での仕業って線はハズレなのかな」
「お前にも見破れない程の術式、或いは気づけない程に痕跡を消したという線は?」
「無いと思うよ。そんな芸当出来るヤツ見たことも聞いたこともない。まあ私も上手くは説明出来ないけど──私のこの邪眼は魔導識とかとは別次元の視点でモノを視てるから、ここまで念入りに視て気付けない術式なんて存在しないでしょ。万が一そんな腕の識者が存在したとしたら──こんなチマチマしたことする理由がないもん」
「理由が無い、とは?」
「そんだけの実力があったら国の一つや二つ簡単に転がせるってこと」
「──なるほどな」
うんざりしたという顔で頷くアザク。
最悪そういう線もあるとでも考えているのかも知れないが、私はまず有り得ないと確信していた。
私だって着々と着実に成長しているのだ──いくら相手がとてつもない腕前だったとしても、『痕跡を消した』痕跡をも見抜けないとは思わない。
何度見直した所で、邪眼に映るのはいっそ虚弱にさえ見える男だけ。
「そうなると、やっぱり霊術等とは関係無しって事なのか…………」
と。
そこまで言って、ようやく気付いた。
「んん?」
あれれ?おかしくない?コレ。
「どうした?」
「あ、いや、疑問なんだけどさ。暴動犯の中に霊術使えるヤツとかは居なかったんだよね?」
「ああ。だから不自然、と言っただろう?」
「うん…………不自然なんだよね。こんなモヤシ男が軍人に大きな被害を出したってのは」
「そりゃそうだろう。何を今更」
「うん、うん…………なのに魔導識やらの痕跡は無い…………」
在る筈のものが、無い。
だからこその不自然。
無い。無い。無い。
ない。
足りない。
「んん!?」
なんか。
なんかなんだか。
「おい、どうし──」
「ちょいだまって。頭から消えちゃう」
足りない?
うん、足りてない。
不足、している。
何で不足してる?
無いから──いや違う。消されたから──違う違う。
何で、無い?
どうして、消えてる?
無い。足りない。不足。消えてる──
無
不足
消、消、消──消滅、いやそれじゃなくて──
消消消消消消消消──消ひ。
ひ、火?
ヒ!
「──きひっ♡」
「ん?」
「あー!あーあーあーあー!わかったそうだそゆことうんうんうん!了解氷解大解決!」
なーんで見過ごしてたんだろ──あ、そっかここ砂炎の国だったか!
「火だ!そうじゃんか。ひ──消費!使われたから無いんだ!火を消費ね!あー!あーあーあーあー!はいはいはいはい成る程ねー!」
「おいこらまてまて説明しろ」
「おっけもう大丈夫!これでもう大体視抜ける!そうかー、そうなんだ、別に操作ってワケじゃないんだ、最初から自分で言ってたじゃん扇動って!煽って動かしてたんだ!火を扇で煽るね!いやこの世界じゃかんけー無いけども!」
「説明しろおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
とくしん。
お手柄ハイマちゃんな回です。
無論、馬鹿っぽさを損なわないよう心掛けました。




