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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第三楽章 黒と朱の狂詩曲
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腑栓






影を渡り馬車の外へ抜け出し、改めて敵さん方を伺う。

走っているのは街道のど真ん中だ。言うまでもなく人目は多い。

これまで碌に尻尾も掴ませなかった相手が易々と姿を見せるとは思えない。恐らくは雇われ刺客だろう──万が一尻尾だったとしてもどうせそれは既に切り離されたモノに決まっている。

私もあまり人前で大っぴらに動きたくはない──手の内を見せることになるし、今後動き辛くなるのも避けたい。

そんなワケで正直言うとあんまし気乗りしないのだが、まあ久しぶりに身体を動かせるのだから良しとしよう。


「ま、何にしたってあくまで護衛なんだし依頼人からあまり離れるのはよろしくないわよね…………飛んできた蝿を潰す程度にしときましょうか」


と、そこで幾つもの火球が馬車へと飛んでくる──


「──闇に惑え影に怯えろ、無音を齎すは死の花弁──《死瞑葬華(リアンアントス)》」


闇の花びらが火球を蹴散らす──この精霊術(エレメンタル)は継続するタイプなので、未だ幾つかの花弁は残り、馬車の周りを漂っている。


「もう少し追加しておこうかしら…………吹き荒べ炎嵐、惨めな刃を砕き散らせ──《轟火顕嵐(カロルトロン)》」


更に火炎の大渦を喚び出し、守りを固める。


「これでそこらの相手には手出し出来なくなったでしょ──あ、御者さん。この炎は問題ないんで気にせず城に向かって下さいね」


そういうと王家に直々に遣えるだけはあり大して取り乱す様子もなく、御者は馬を走らせてくれた──見習いたい職務精神だ。

一先ず様子見と決め込む事にし、馬車の屋根に座り込む。


「──手を出さないのか?意外だな」


と、下から聞こえてくる声。


「そんな大した相手でも無さそうですし。他の(・・)に任せても大丈夫でしょ」


「……気付いていたか」


「気付かいでか。幾らなんでも護衛が新参の私一人なワケ無いでしょう」


「その通り…………翁──『豺虎の牙』には以前から護衛を頼んでいてな。そこの期待のルーキーに頼んでいる」


「へえ。気配の殺し方からてっきりベテランかと思ってましたが…………そう。ルーキーね…………」


「直に顔合わせはしてもらうつもりだ、お前とは歳も近そうだったな──お前が見た目通りの年齢なのかは知らんが」


「失敬ですね。私は十七です」


「…………マジで?」


「私は嘘は吐かない主義です(嘘)」


──とか言いつつ。

馬車は平穏無事のまま、城へと向かうのだった。




△▼△▼△▼△▼△▼△

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「で、結局何もないまま城へと到着しました」


「なんだ、つまらんな」


と、玉座で退屈そうに洩らすのは、砂炎の国の現皇──アビアス・カイングレイ・ラドルテイズ。

アザクの実父──なのだが、当然魔族なので外見では二十代半ばぐらいにしか見えない。

傲岸不遜を絵に描いたような態度だった──まあ皇なんだからそうじゃなきゃ困るんだけども。


「全く、相手がどれ程のものかと幾らか期待していたのだがな──この分ではその期待は裏切られそうだ。チマチマコソコソと、器の小ささが透けて見えるようだ」


鼻を鳴らして未だ見ぬ黒幕を嘲る皇。


「しかし皇、各地の暴動は僅かながらも確実に我が国の力を削ぎ落としています。このままでは──」


「そんな分かりきった事をほざく暇があれば働けバルタール…………そのために我が息子を始め、家臣達が動いているのだ。何も恐れる事などあるまい?」


その態度はなるほどアザクの父親という感じのふてぶてしさだった──今回の一件を特に大した事とも思っていなさそうである。

皇はフン、とまたしても軽く鼻を鳴らし、改めて確認した。


「今現在暴動の起こっている町は?」


「…………ビォラ、ヌデーフ、キッセトの三つです。何れも直に鎮圧されるでしょうが」


「では、これから起こる(・・・・・・・)と予測される地域は?」


「っ、いえ、それは…………検討もつかず」


「父上、あくまで個人的な推測程度なら──」


と、そこですかさずアザクが口を挟んだ。


「そろそろ、相手も本腰を入れてくる頃かと。皇都近辺に目を光らせておいた方が良いかも知れません」


「…………その根拠を訊ねてもよいでしょうか?皇子」


「わざわざ言わせるなバルタール…………勘だ」


「………………」


ダメだこのおーじさま。


「構わん。お前の勘はそれなりに当てになるからな」


「いえ、勘のみというわけでもありません。ただ、これまでの暴動が皇都から人員を引き離す事が目的だというならそろそろその目的は達せられたのではと思ったまでです」


「そうか。だが、人員がいくらか出払ったとはいえ、皇下騎士団を始めとした国軍の主力は未だ皇都内、またはその近辺に居る…………この状況で事が起こせる程の力があるというならば、そんな小細工を弄さずともよさそうなものだがな」


「その通りです、皇よ。我等騎士団が存在する限り、そのような些事が起ころうとも捻り潰して見せます!」


「結構。…………それでアザク。これからキャラギュラへ向かうのだったか?」


「ええ、これまでで最大規模の暴動が起こった街です。何かしらの手がかりを掴むならあそこしか無いでしょう」


「ふむ。ならばさっさとうっとおしい羽虫を潰してしまえ。この先我が国は更なる戦火に身を投じねばならんのだ。こんなところで足踏みしている暇などありはしない」


極めて静かに、しかし眼光をギラギラと煌めかせ告げるその姿は、皇としてこれ以上なく相応しいものだった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「アザク様は随分とおっかないお父上を御持ちですね」


「まったくだ。向こう百年は現役だろうな」


苦笑しつつ言うアザクと共にガタガタと身体を揺らしつつキャラギュラへと向かう。

ただ、今回乗るのは馬車ではなく、駱駝車とでもいうべき乗り物だった──何せ往くのは砂漠の真っ只中だ。

砂炎の国の名の通り、エヴィメーラは国土の八割が砂で覆われている。加えて砂漠特有の様々な魔物が跳梁跋扈する中、単なる馬では到底踏破など出来はしない。

故に、王家御抱えの優秀な魔物遣い(テイマー)が御者となり、手懐けた火繰駱駝(フーシャモ)という魔物が車を牽いている。


「まーなんと言いますか、皇に相応しい態度と言えばその通りだと思いますが…………敵の多そうな方でした」


「まったくだ。だからおれ達がこうして苦労している」


「私が言うことでも無いでしょうが、好戦的な印象を受けましたね。流石に戦闘狂とまでは言いませんが」


「まあ、戦闘が目的と成るにまでは至っていないさ。あくまでも戦は手段と考えておられる…………まあ、『今のところは』と付けなくてはならんのが悩み所ではあるのだがな」


「そうして愚痴を溢すところは、ようやく年相応という風ですね」


「こればかりは老若男女誰でも違いは無いだろうよ。身内の悩みぐらい皆等しく持っているだろうさ」


「まあそうでしょうが…………と、そろそろ確認しておきましょうか。この先の事について」


「ああ、キャラギュラの暴動は、ちとこれまでのモノとは毛色が違いそうでな……詳細は聞いているか?」


「いえ、これまでで最大規模のものとしか」


「ああ…………規模もそうだが、注目すべきはこちら側、皇国軍の被害だ」


「被害、ですか?」


「ああ。無論規模から考えれば被害は大きくなって当然と言えるが…………所詮はあくまで一般人。皇国軍が手こずるまでもない相手のはずだ。しかし、それにしては不自然なまでに被害が大きすぎる──重要なのはこの『被害』は皇国軍だけでなく、暴動を起こした暴徒側を含めてのものだということだ」


「はあ、まあ暴徒とはいえ元は国民でしょうし、暴徒の被害も立派な国としての被害でしょうね…………」


となると、確かに不自然だ。

このファンタジー世界において、一般人と戦いを職にする人間との力量差は『私』がかつて存在していた世界のものとは比較にならないほど大きい。

魔法やらなんやらを使える者と、只人とでは到底覆せない程の差が、そこには生じるのである。


「つまり──その暴徒達は只人ではなかった。皇国軍が手加減しづらい程度の、あまつさえ被害を与えられるだけのもの達であったということだ」


「ん?なら話は単純じゃ──」


「ないんだよ。捕らえた暴徒達はどこから見ても単なる一般人だった。皇国軍を痛め付けた者達の筈がな」


「逃げられたってワケでもないんでしょう?」


「ああ。確かにその者達が暴動に参加していた本人だった」


「なるほど…………確かに、不自然。そして胡散臭い」


「というワケだ。働いてもらうぞ」


「勿論ですとも」


仕事だからねぇ。




ふせん。





まだだ、まだバトらんよ。

この章の見所の一つは、ハイマのボロボロな敬語だったりします。

ご自由にツッコミつつ、御覧下さい。

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