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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第三楽章 黒と朱の狂詩曲
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惑楽





「へえ…………なるほど、正直予想以上ですね」


院内で目にする技術(テクノロジー)は日頃から埒外の魔導識に触れている私から見ても高度な代物だった。

もちろん妹の反則気味な術式やかつて見たかの魔導学始祖の遺産には到底及ばないものの、分野によれば虹の大陸で栄えている技術にも劣らないものもあった位だ。


「まあ、正直これが我が国の技術の結晶だ──とは口が裂けても言えんのだがな。実を言うとこの院にいる技能士(アルティザン)の過半数が虹の大陸より勧誘してきた者達だ。それを我が国の国土を活かしたものへと昇華したい──と思ってはいるが、まあそうそう上手くはいかん」


「当然でしょう。魔導学はそんな底の浅い代物ではありませんよ。千五百年もの時間をかけておきながら、未だ大きな技術革新(ブレイクスルー)が存在しないのですから」


始祖、ジールークが生んだ基礎技術体型が殆んど変わらず今も使用されているのだ──長い時間の中でも魔導学の進歩といえばそれらのちょっとした応用レベルでの代物ばかり。多様化はしても進化は碌に無い。


「とは言え…………応用性では最も優秀と言える炎禍の霊力(オド)が溢れるこの国ならば、期待は出来ると思いますよ」


気休め程度にそう言っておいた、のだが。


「はいっ!アザク様の期待に応えるために、我等技能士一同職務に励みます!」


と、シャルちゃん──本名はエイシアル・サンシュドルというらしい──が真面目な顔で声を張り上げるので、なんか悪いことした気分になってしまった。ついてない。


「ああ、朗報を待っている──さて、もう案内は充分だろう?そろそろ本題に入るとしよう」


「は、はいっ!では三階の第三審識室にて、報告します!」




▼△▼△▼△▼△▼△▼

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲




案内された部屋の奥は様々な霊分界機構(デコーダー)が設置され、中央のテーブルには霊像転写機があった。


「研究室も兼ねておりますので、少々粗雑な部屋ですが……その、鑑識結果等をご覧にいただくにはこの部屋が最も適していると判断しまして」


「構わんよ。それでは始めてくれ。初見の者もいるので一からになるがな」


「…………お手数をおかけして申し訳ありません」


と、一応弁明しておく──無論私だって仕事として来るまでに今回の一件についてはちゃんと勉強している。が、まあ復習というか、改めて把握しておいても損はあるまい。


「はい。今回我々が解析した現場は三つ。ベークノーツ、スブォン、ミミドット。いずれも暴動の痕跡が比較的明瞭だった町です」


比較的、か。


「いずれの町にも皇国軍の駐在所が存在し、そこを目標とした暴動が起こりました。それぞれの町は十年内に我が領土となった場所で、扇動も容易だっただろうと思われます」


確かに離れてはいるものの、いずれも国境付近の町である……つまり少し前までは他国の国民だった者達が住んでいたワケだ。

これ以上戦沙汰に巻き込まれたくない、という気持ちは理解できなくもない──その為に自分達でゴタゴタを起こしていては世話がないとも思うが。

よりにもよって私にんな事思われたらおしまいだぜ?おい。


「暴動の鎮圧自体はそう難しいものではありませんでしたが、町民の被害を最小限にとの命令が下っており、結果こちらの被害が大きくなる事になりました…………致し方ない事だと思いますが」


まあ、暴動ってのは相手は国民だから、それを悪戯に傷付けるワケにゃいかないからなぁ。

故に暴動起こす側も調子乗って、結果泥沼化しちゃうんだけども。

で、今回は案の定泥沼化しちゃったと。


「その結果、規模も期間も他の地域で起こったものと比べ長大なものになった模様で、解りやすい痕跡が残されていました──手元の資料をご確認願います」


と言われ、書類に目を通す…………が、正直パッとしないというのが感想だ。

それらは暴動があったか、どんな暴動だったのかを判断するには確かな証拠となるものばかりだったが、私達が知りたいのは『どうして暴動が起こったか』である。

こんな暴動自体の証拠を見ても、そうそう得られるものがあるとは思えない──そもそも着眼点からして違っているだろうと思う。

もちろん、その他に調べるものがないということなのだろう…………完全に黒幕は霧の中というワケだ。


「…………念のため訊きますが、扇動者がいるということ自体には確信があるんですよね?」


「無論だ」


「その根拠は?」


「そんなもの決まっているだろう──────」


と、一息おいてから、アザクは不敵に言った。




「勘だ」




「実家に帰らせて頂きます」


「まあまあまあまあ待て待て待て待て」


席を立って帰ろうとする私の襟首をひっ掴むアザク──いやふざけんなや離せクソガキが。


「いやホント勘弁してください投げ遣りにも程があるでしょうなんなんですかソレは無駄な時間を過ごすのは割かし嫌いじゃないですが他人のせいで時間を無駄にするのは大嫌いなんですって私は」


「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。状況証拠しかないのは確かだが、そうでもない限り暴動が起きるとは考えにくいというのはお前だって同意見だろう」


「それにしたって大雑把過ぎるじゃないですか。ようするに『多分黒幕がいるっぽいから適当に当たりを付けて大雑把に捜査していく』って事でしょう?」


「まあそうなるか」


「はいご迷惑をお掛け致しました失礼しますー」


「だから待てと言うに。金を払ったんだからちゃんと働け」


「ぐぅ…………」


まあそれを言われるとアレたが。

はー退屈な仕事になってきちゃったなあもう。


「…………そうなると暴動を起こした民衆達に重きを置いた方が良さそうですね」


「無論そっちの方も疎かにしているワケでは無いが…………芳しい成果は無くてな。視点を変えての調査としてここに依頼したのだが……」


「お、お役に立てず申し訳ありません……」


「気に病む暇があれば調査を進めてくれ。ダメ元で構わん、ありとあらゆる方法でだ」


「了解しました!」


と、勢いよく頭を下げるシャルちゃんだった。

ひとまずそこで会議は終わり──院を出る。

城へ向かって、私達は再び馬車の中へ。

そこで、改めて雇い主に訊ねてみた。


「…………下手な鉄砲が当たるようなら、私達を呼ぶような事にはなっていないと思いますが」


「そういうな。おれとしてはどうも魔導関係が絡んで来ているように思えるんだよ」


「…………その心は?」


「勘だ」


…………何処のベテラン刑事だってんだテメーはよ。


「…………まあ、それには私も同意しますが」


「ほう?何故だ?」


「簡単な話ですよ。何度も言っている通り、今回の暴動は範囲と頻度が極めて高い。それが全てです」


「全てとは?」


「つまり──黒幕なんかが扇動しての結果と仮定する場合、扇動する方にもかなりの手間と苦労がかかるというワケです。そもそも民衆の扇動なんてのはそう簡単なものでもありませんしね」


「まあ、簡単に出来れば世の中革命家とテロリストまみれになるだろうな。国なんぞ到底成り立たん」


「ええ。しかし、こうも様々な場所で次々とほぼ間断なく暴動は起こっている──これが扇動されてのものとするなら、相手方は『|民衆のコントロール方法(・・・・・・・・・・・)』をある程度確立し(・・・・・・・)、それを複数名が行使できる(・・・・・・・・・)と考えられます」


「…………我々としては頭が痛くなる話だな」


顔をしかめるアザク──正直私も同じ心境だ。

っ当に、つまんない仕事になりそうである。


「そして、そんな容易く人身掌握術を習得する方法があるとすれば──やはり魔導識(スペルコード)が頭に浮かびますね。何しろそれが魔導識の最大の長所だから」


「応用性と、利便性──生活に浸透するほどに容易く使用できる、か」


「まあ、本来は才能が何よりモノを言うジャンルでもあるんですがね。ただ、その才能故に、自分の技術を容易に規格化することも可能、という事です」


「ふむ…………そうなると、暴動犯を院に数人送っておくべきかな」


「そうなるでしょうが…………細心の注意を払うべきでしょう。さっきの仮定が当たっているとすれば相手は恐ろしく優秀な識者(ウィザード)ということになりますから──っと」


私はそこで会話を打ち切る。


「…………どうした?」


「噂をすれば、ですかね?殺気です。そこそこの数の」


「ほう?」


「どうします?私は護衛なんですし、守りに徹しましょうか?」


「それもいいが──そうなると、お前のモチベーションが更に落ちそうだからな」


「────きひっ」


分かってらっしゃる。


「……何人は生け捕りにしろよ」


「この分じゃ単なる当て馬でしょうし、大して意味無いと思いますが…………まあ、善処しますよ」


そこまで言って。

私は馬車の中から姿を消した。



まどうがく。





説明回です。飛ばしていいです。

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