骨煢
「…………そりゃ無理だな」
無表情のまま、カイレンは答えた。
「キッヒッヒー。ま、そうなるよね。うん。アンタらにも色々事情が有るだろうし──ねぇ?」
「それがわかってんなら話し合いぐらい出来そうなもんだけどな」
「キヒ、キヒヒヒヒヒ──ん、まあそれはその通りなんだけれども」
ブン──と改めて赤月を一振りする。
「あんたらが全面的に陽王国に肩入れしてるって事がわかった以上──ここで戦り合わないようにしたってその内またぶつかるのは目に見えてるしねぇ…………」
「…………やっぱ、どっかの国に遣われて来たのかよ」
「だから、違うってーの。私が勝手に世話焼いてるだーけ。まあ…………余計なお世話の極みだろうけど」
ふ、と息をつく。
「だから、アンタらはここで潰させてもらう──正直言うとあんまし気乗りしないけどね、キヒヒヒヒ」
「それが──答えかよ」
「うん。そーだよ」
そこまで言って、私は床を蹴る。
「赤剣・赤狩」
「──っ!流刃・頻波!」
赤月と水廉──二つの刃が激突する。
「キヒッ────飛べ」
そのまま私は力任せにカイレンをぶっ飛ばす。
「──がああっ!」
「カイレン!──くぅっ」
カイレンはそのまま吹き飛び──その先でロワーヌに受け止められる。
「キッヒー。ナイスキャッチ」
「…………失望したわ」
「ありゃりゃりゃ、それは残念大ショックー」
と、そこで──背後へ向かって回し蹴りを放つ。
《赤い靴》を纏った脚による蹴りは、音もなく迫っていた風刃を掻き散らした。
「問答無用で死角から奇襲か──キヒッ。話が早くていいや」
「…………同意見ー。さっさと戦るよ、ネレム」
「で、ですけど──」
「迷った時間だけ覚悟は薄れるー…………全部承知でカイレンに着いてきたんでしょー?」
「……………………はいっ」
そう言うと、ネレムは杖を構える。
「しかし──随分な自信だねー。四対一で勝てると思ってるのー?」
「だから──自信じゃなくて確信だってば。キヒヒヒ、まあ楽じゃなさそうだけど、あんたら程度なら大丈夫でしょ」
「──安い挑発じゃねえか」
起き上がったカイレンが鋭く私を睨む。
「だからそんなのじゃなくって単なる事実なんだけどなー。ま、戦りゃあわかるよ。とっとと来な」
「ああ、それじゃ遠慮なく──四人でな!」
そこで、頭上へと瞬時に跳んできたロワーヌの踵落としを片手で受け止める。
「殴り合いは消耗してないアンタがメインか──安直だね」
「安直結構。喋っていると舌噛むわよ」
そこから──嵐のような拳撃が始まる。
「うぉっ……とお!キヒヒッ!やるなぁ!」
だが、私からすれば──どうしようもなく軽い。
「捕まえ──たっ!」
枯れ葉のように舞うロワーヌの脚を掴み、そのまま吸血鬼の握力で握り潰──
「せは、しないよねぇ!」
そこでカイレンが飛び込んで来る。
「流刃・落潮!」
「赤剣・赤糸ぉ!」
再び衝突──と同時に。
「天馬の息吹よ今ここに──《飛風吹天》」
真上から凄まじい風圧が私だけを狙って降り注ぐ。
「ぐ、うぅ!?」
「そこですっ!《戦鋭洸槍》!」
「──っ!ヤッバ!!」
三人が絡まり合うように立ち会っている中、合間を縫うようにしてロワーヌ、カイレンには一切の影響無く、私一人をピンポイントで狙うか──
飛び退くようになんとかその光槍から逃れ、仕切り直──
「させてはもらえませんよねっ!」
私を間合いから逃さずに、ピッタリと張り付く前衛二名。
息つく暇もないってか。
「入り込み過ぎんな。足止めしてりゃ後は後衛がキめる」
「わかってるわよ言われなくても」
「おやおやおやおや、そんなこと口に出して言っちゃっていいんですかあ?お二人――さんっ!!」
ワザと大振りなモーションで赤月を振るってみる――が、その誘いにも全くノってこない。
付かず離れず、離れず付かず。
ベッタリと粘着するが如しな間合いの取り方だった。
「こんの──離れろぉ!《連鎖狂爆》ッ!!」
爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆。
私の周囲を根刮ぎに抉る、爆発の嵐。
これで、戦況をリセットする──
「──マジかよっ!?」
爆風の中を意にも介さず──水膜を纏ったカイレンが突き進んでくる。
「赤剣・赤お──」
「遅ぇっ!!流刃・煙波!!」
流水の斬り上げが私の身体を斬り裂いた。
ここで退いたら完全に流れを持っていかれる。
反撃の剣を──
「カイレン──良い仕事よ」
と。
背後からの声が届くと同時に、爆風の合間から脇腹に拳が叩き込まれる。
「げ、フぅ……!」
くそ。
さっきの一閃は、爆風を斬り裂くのもコミかよ!
ちょい待て。
てことはつまり──
「──《凩》」
目前に迫る風の凶刃。
「まだ、だぁ!《黒風闇渦》!」
闇の螺旋を発生させ、防御を──
「怒れる裁きの絶断よ、此処に在れかし──《光洸断罪斧》」
光の絶刀が、闇を斬り開く。
ヤバい。
死ぬ──
「《戦爆熱波》ぅ!!」
爆風による緊急回避で、何とか躱した。
「か、はぁー、ハァー…………」
「自信じゃなくて──何だって?」
「あー…………何だっけな。キヒヒヒ」
ひきつった笑いを溢す。
いやはや──予想以上。
個々の実力は見誤ってはいなかったが、連繋のレベルが桁外れだ。
「数の力を軽く見てたつもりはないんだけどねぇ…………1+1は2じゃないってか?」
「わかってんなら話は早ぇや。とっとと降参しろ。今なら病院送りで勘弁してやるよ」
「キッヒッヒ。何をおっしゃる、勝負はこれか──」
バゴォォォン。
と、轟音を立てて、私の背後の壁面に斬撃が叩き込まれた。
私自慢の髪の毛が数本斬り落とされた。
「キヒ、ヒヒ──」
「…………次は当てんぞ」
苦笑い。
そして。
「キヒ──ヒ、キヒヒヒヒ!キヒヒヒヒヒヒヒ!キヒヒヒヒヒキヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!キヒヒヒヒヒキヒヒヒヒヒキヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!キヒヒヒヒヒキヒヒヒヒヒキヒヒヒキヒキヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒキヒヒキヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒキヒヒキヒヒヒキヒキヒヒヒヒヒキヒキヒヒヒヒヒ!キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒキヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒキヒヒヒヒヒキヒヒヒヒキヒキヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!キヒヒヒヒヒキヒヒヒヒキヒヒヒヒヒヒヒキヒキヒキヒヒヒキヒヒヒヒヒヒヒヒキヒヒヒヒキヒヒキヒヒヒヒキヒヒヒヒキヒヒキヒヒヒヒキヒキヒキヒキヒヒヒヒヒヒヒキヒヒヒヒキヒヒヒヒヒヒヒヒキヒキヒヒキヒヒヒキヒ────《絶望の赤》」
こっけい。
すんません投稿日一日ズレてましたあ!
金曜の朝に驚愕して、やっちまった感に包まれた一日でした……
自分で付けたサブタイにダメージ喰らってます……なんて絶妙な……
チョーシこいて舐めプしたらフルボッコにされた主人公(笑)を扱き下ろすつもりが、おまいう状態に…………面目無いです……
お詫びってワケではありませんが、この三連休で第二楽章終幕まで行きます。
お休み中の暇潰しにでも、宜しければ読んでやって下さい。