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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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実に小気味良く嵌まってくれたものだ、とクティナは含み笑いをしつつ思ったのだった。


「…………なるほどな、二人揃っての行動が少なかったのは手分けしてたんじゃなくて釣りだったってワケだ」


「両方ですよ。ま、メリルフリアさんからすれば八割方後者だったんでしょうけどね。あたし単体じゃまず間違いなくあなた方八人には太刀打ち出来ないでしょうし」


「だからこそ、こっちもそうそう手出し出来なかったんだが…………そんな邪推も降って湧いたような偶然の前には無駄だったな」


「ですねー。しかし、あたし達からすれば運良く良い方向にコトが転がってくれました。街中だったお陰で入れ替わりがあっさり決まりましたからね」


「となると、トコトン俺達には逆風が吹いてるってコトだな……だけどよ」


オッフェンは不適な笑みを溢した。


「まだまだ逆転には、程遠いわよ」


新たにその場に現れたのは、氷麗術者のキャトーナ。


「と言うより、貴女の負け。確かに誘き出されたとも言えるけれど、それが何だって言うのかしら?圧倒的戦力差に何ら変わりは無い──言ってる内に他のメンバーも集まってくるわ。もう一人が虎視眈々と狙っているとしても、我々八人全員の目を掻い潜る事は不可能よ。そして誰か一人が見抜けばその奇襲は決して実ることは無い──それだけのチームワークが我々には」


「在りませんよ」


セリフを途中で遮って、クティナは言う。


「あなた方のチームワークは、既に完全崩壊を喫しています」


決して笑顔を崩さぬまま──クティナは続ける。


「あなた方二人をあたしがここで仕留め──メリルフリアさんが残りを一掃する。それにて一件落着です」


「…………何を言ってやがる?まるで──」


「俺達が分断されたような口振りだな──ですかね?その推察は当たっていますよ」


背負った長剣(ロングソード)を焦らすかのようにゆっくりと抜きつつ言うクティナにイラついたのか、キャトーナは声を少し荒らげて口を開いた。


「おかしくなったのかしら?みんな、さっさとここに──」


(来やしませんって。だーれもね)


「!!」


ようやくそこで──二人は察する。


「お、俺の通信術式を──」


(せいかーい。乗っ取ってます。割かし早い段階から。…………見せすぎたんですよ、手の内を。もっとも、あの機兵に残されていた術式からそこまで解析──というか逆算してカウンターを組み上げたのはメリルフリアさんですがね。ほんっと、どうかしてますよあの人。決して通信術式そのものが残されていたワケじゃ無いのに、まるでパズルみたいにあっという間にあなた方の残した術式の癖や傾向を継ぎ接ぎして構築されたネットワークを視抜いちゃうんですから。…………本当、あの人の眼には──何が映っているのやら)


そこまで見せていた笑みを消し、戦慄を滲ませるクティナ。

が、二人はそんなものに反応する場合ではなく──


「ふ、ふざけんな!いくらなんでもそこまでの芸当を一人でやってのけられるワケねえ!物理的に不可能な筈だ、出会した瞬間から戦闘しつつネットワークを乗っとるなんざ──」


「そですね。だから、『乗っ取り』自体はあたしがやりました。そういうのは──得意分野なものでね」


パリパリ、と雷鼓の霊力を纏い始めるクティナ。


「ハッタリよ!乗っ取る事が出来ても、どうやって会話を成立させるっていうのよ!」


「あー、はいはい。確かにそこがネックでしたね。そこに関してはあたしはノータッチなもんで、答えることは出来ませんよ。あたしの役目は通信の傍受と乗っ取りだけで、あとはメリルフリアさんに丸投げです。偉そうに言ってますが、なんだかんだ殆どがアドリブでしたからね──ま、そういうワケですよ。残りの六人はメリルフリアさんの所です。これで無属性術式は使用できず、チームワークの要である通信術式もおじゃん。あなた方のチームワークを逆手に取った形ですね、いやはや恐ろしいものです」


そこで会話を打ち切り──クティナは戦闘態勢に入る。


「【駆動】と【連結】の因子を宿す雷鼓属性と【停止】と【封殺】の因子を宿す氷麗属性──まあ、コンビネーションには不向きです。これもあの人の計算通りですか、おー怖い怖い」


【加速】と【遍在】の因子を宿す風蘭属性と雷鼓属性、相性抜群の属性を組み合わせた付与術式(エンチャント)を使いつつ、そんな風に嘯くクティナ。


「…………っ!嘗めんじゃねえよ小娘が!」


「調子に乗らないことね──二対一よ!【灰】の分際で【白】を相手に──!」


それぞれが術式を起動しようとして──気付く。

目前に収束していく、圧倒的な霊力(オド)の量に。


【加速】──【駆動】──【加速】──【駆動】──【加速】──【駆動】──


「あ、あなた──一体どれだけの付与を」


「だから気付くのが遅いですってば。作戦自体は予め練ってはいましたが、さっきいった通りにこんな風に済し崩しに戦闘になったのは偶然で──遭遇した時点ではまだ何の準備も無い、アドリブ状態でした。焦りましたよー、いつの間にかメリルフリアさんが絶体絶命でしたから。…………では」


そういう間にも──付与術式(エンチャント)の重ねがけは、止まらない。


「どうしてあたしは、そこから瞬時に戦場に駆けつけ、剰りさえ通信術式を傍受、乗っ取り、入れ替わり──なんて芸当を遣って退けられたのでしょうかあ?」


【加速】──【駆動】──【加速】──【駆動】──【加速】【駆動】【加速】【駆動】【加速】【駆動】【加速】【駆動】【加速】【駆動】【加速】【駆動】【加速】【駆動】


「──っ!キャトーナ!!減退術式(デバフ)を」


「だぁかぁらぁ──遅い。《風雷瞬真速(イニーレウェニーレ)》」


その瞬間、二人の視界からクティナの姿は消失し。


──チン。


と、納剣の音が響く頃には──二人のベテラン【白】冒険者(トラベラー)、オッフェンとキャトーナの首から上は、胴体から離れてしまっていた。




▼△▼△▼△▼△▼△▼

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲




「…………よし、これで分断は出来た…………!」


絶体絶命の状況。

幻影にて時間を稼ぎ、何とかクティナさんの到着まで粘るつもりだったが、予想を遥かに越える速さでクティナさんは相手──大陸有数の実力派識者(ウィザード)集団──の術式ネットワークを乗っ取ってしまっていた。

もちろん、予めわたしが相手の通信術式を術式還元(デコード)し、乗っ取りまでの手段を二人で構築していったのだが──その段階でもクティナさんは予想を越えて貢献してくれた。

これまでのあれこれでクティナさんの【灰】に見会わぬ実力は知っていたつもりではあったが──しかしその認識も随分と甘いものだったらしい。


(もしかすると【黒】にさえ届きかねない実力──少なくとも識者(ウィザード)としては紛れもない一流の腕前ですね)


…………こうなると正直、頼もしいだなんて言ってられなくもなるのだが。


「今は──目前の敵ですね」


わたしを取り囲む六人の識者(ウィザード)を見て呟く。


「…………してやられたな。まったく、化け物じみた資質だ。その年齢で一体どこまでの高みへと登り詰めているというのか」


リーダーである炎禍術者、ランゴマンが厳めしい顔を歪めつつ言う。


「通信術式はもう使えませんか……二人は無事なんでしょうね。もっとも、これ程の事をされてまだ遠距離戦を続ける程愚かじゃありません。全員が互いを視認出来る距離で戦わせてもらいますよ」


水鏡術者のリリルエルが言う通り、もう全員──風蘭術者ウヅース、土嶽術者ギアンテ、光芒術者メノ、闇絶術者ミナの四人を加えた六名が目に見える距離でわたしを取り囲んでいた。

今いる場所はウェル島を囲むウィル島との間にある海上。

ここならもう民間人に気を配る必要はない──いや、あんな風に利用しておいて我ながら今更だとは思うけれど。


「…………ですね。これでお互いに小細工無し、真っ正面からの実力勝負になります」


「随分と余裕じゃないか、もう勝ったつもりかい?六対一だ──君の圧倒的不利は変わっていない」


ウヅースがそんな風に言うものの、そのセリフを言う本人に余裕は見られなかった──少なくとも圧倒的有利がある人間の態度ではない。


「ええ、わたしの勝ちですよ──他でもない、『ここ(・・)』に誘導出来た事でね」


その瞬間──水面下に張り巡らしていた霊陣(キルクルス)を発動させる。

ここはまだそこまで島から離れておらず、従って海底もそこまで深くない──海底に霊陣(キルクルス)を仕込むのも難しくはなかった。

いずれ来るであろう時の為に、仕込んでおいたものである。


「雄叫びを上げる地霊、その怒りは今、槍剣となりて戒めを穿たん──《磊槍連刃帯(スカラーデンス)》!」


周囲一帯の海面から、岩石の剣刃が敵を貫かんと疾走する。


「…………!言いも言ったりだね、何が真っ正面からの実力勝負だ!」


呻きつつ飛び上がったウヅースが相殺するため、土嶽術に相性の良い風蘭術を素早く発動させる。


「なだらかなる風は世の全てを風靡し、静かなる滅びを運ばん──《風連綿靡(アウラフィーネ)》!」


ウヅースの放った風蘭術は、みるみる内に土嶽術を風化させていき、やがて──


「──白き礫の群れ、全ての穢れに裁きを穿たん。《連弾閃群(リトスォーム)》」


間髪入れず放たれた光芒術に、ウヅースは蜂の巣にされた。


「…………カ、ハ」


「──ウヅースッ!」


仲間が叫ぶものの、致命傷である。

そのまま上空から落下、着水し、そしてそのまま海へと沈んでいった。


「…………チームワーク、役割分担、なんて言い方をすれば良く聞こえますけど、実際あなた達は専門家(スペシャリスト)──捻て言えば一芸バカの集まりです。とどのつまり、『それしか出来ない』。少しでもバランスを崩してやれば、弱味が丸見えになる──それしかできないのならそれしかさせなければ良い、という話ですよ。どうすれば誰が動くか、なんて考えるまでもなく丸分かりです」


八属性には全て優劣がある。

炎禍は氷麗に強く、氷麗は風蘭に強く、風蘭は土嶽に強く、土嶽は雷鼓に強く、雷鼓は水鏡に強く、水鏡は炎禍に強い。

そして光芒と闇絶は互いに強く、互いに弱い。

土嶽術を撃ってやれば対応出来るのは風蘭術者であるウヅースだけ──ということだ。

相性差無しでわたしの霊術を相殺出来はしない。

元々、それだけの実力差が在るのだ。


「おのれぇ!!出でよ煉獄の葬火、我らの仇を焼き尽くせ!《喪紅蓮炮(フラムディミオス)》!」


「学習しませんね…………《愚水流咆(エクヴォリ)》」


焔と水の砲撃が衝突し、水蒸気爆発となり炸裂する。


「ぐっ…………無詠唱で相殺──ゴバッ!?」


水鏡術にて海中を経由して回り込み、背後から心臓を《流水刃(アクアエッジ)》にて貫く。


「少し霧で視界が途切れればもう対応出来ませんか。ま、もう風蘭術者はいないので致し方無いですかね?まったく、要のチームワークが崩れればここまで脆くなりますか…………こんなのに姉さんもわたしもしてやられるとは、自分たちの不甲斐なさに腹が立ってきましたよ。まあなんにせよ…………」


ずぼり、と水刃を纏った右手を引き抜き──ペロリ、と舐める。


「あと、半分」


それもリーダー無し。ここまで来ればもう雑魚散らしと同義だった。


「う、うああああああっ!!《水千殺陣(ラピスキーリア)》!!」


リリルエルが叫びながら全方位からの水鏡術を発動させ、他の連中もそれに続く。


「《土崩転鎚(コルヴァッラータ)》!」


「《光輝壊弾(エフケリヒト)》!!」


「《闇荒匣(アラギオンブル)》っ!」


四方からの霊術──が、わたしにはもう目の前の敵がまったく脅威に感じられなかった。

だから──


「──終わりです。 天淵の光華は全てを包み込み、総てを救わん──《聖暈爛々(ウニキラシオン)》」


天から降り注ぐ聖光。

それはわたしに仇なす全てを焼き尽くし、浄化していく。

──たった一人を除いて。

目も眩む凄まじい光が消えた後に残ったのはわたしと──あと一人。


「──!!ハッ、ハッ、ハッ──」


光芒術者、メノ。


「み、み、みんなは──」


「死にました」


端的にそう告げて、海面に座り込む女の胸ぐらを掴み上げる。


「ぐっ……!く、うう」


「姉さんを撃ったの、貴女ですよね?」


返答は待たずにもう片方の手を伸ばし──


──ブチリ。


「ギッ、ギアぁああぁぁぁ!?」


右人差し指を、毟り取る。


「あ、ん…………」


それをそのまま、口の中に放り込んだ。

バリボリバリボリ。


「ヒ、ィ…………!!」


と、掠れた声を漏らしたが、無視。

次は中指。

グ、チィ……


「ガバ、アガァァアアァア!?」


「ふるひゃい。ひょくし中らからしつかに」


次は薬指。

その次は小指。

さらに次は親指。

それも終われば次は左手。

その次は。

次は。次は。次は。

次は次は次は次は次は次は。

次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は。

次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は次は。

次々次次次次次次次次次次次次次々次次次次次次次々次々次次次々次次次次次次々次次次次次次次次次次次々次はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。





















「ごちそうさまでしたっ」






▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽

△▽△▽△▽△▽△▽△▽△




「あ、メリルフリアさーん」


食事を終えてしばらくした後、海上で休憩している内にクティナさんがやって来た。


「お疲れ様です、クティナさん」


「おつかれでーす。取り敢えずこれで一息つけますかね?」


「そうですね。これまで調べた所によると、もう他の競争相手も居なさそうですし──────っ」


会話の途中で、悪寒が走った。


「…………姉さん?」


「へ?」


「いえ──いえ、ちょっとすみません、クティナさん」


断りを入れてから、懐の霊苻(カルティア)を取り出すと──


「…………はああ………………」


大きく一息──溜め息を吐いた。


「え?ど、どうかしました?メリルフリアさん」


「…………先着部隊に付けていた監視術式からの信号が途絶えました」


「──へ?それって」


充電完了(・・・・)、という事でしょうね」


ウェル島へと視線を向けたまま言う。


「充電って……どういうことですか?」


「だから──女王蜂、ですよ。まあ想像してたとは思いますが、機兵達が霊力(オド)を収集していたのは、言わば決戦兵器──秘密兵器──或いは最終兵器と呼べる魔導機兵を起動する為でしょう」


「…………確かに想像はしていましたが──けど確証はありませんよね?」


「ありますよ、目の前に」


「──え」


ウェル島から目を離さない。

じっと──見つめ続ける。


「疑問に思えませんでしたか?このウィウェル島の構造に──あまりにも都合の良すぎる地形だとは感じられませんでしたか?」


「…………え、と。でも、だったら」


「ええ、馬鹿げていますが、呆れる事に事実です。そのまんまに考えれば良かったんですよ。ウェル島に霊力が送られているけど送信先が見つからない?──いやいやそんなことはありません。見つかっていたんですよ──目に見えていたんですよ」


高く聳え立つウェル島。

石像のように。

──人造のように。


「このウェル島そのもの(・・・・)が…………魔導機兵だって言うんですか」


「…………ええ」


心底うんざりした声色が洩れた──ったく、何時の時代にも大馬鹿者はいるらしい。


「実際、欠陥品も良いところですよ。なにせ──起動するまでに千年かかるんですからね」


「………………」


「とにかく、あれが本格的に動き出すまでに機能停止させなければなりません。今はまだスタンバイモードと言ったところでしょう。どうにかして内蔵術式にアクセス──」


と。


そこまで言った所でだった。






わたしの身体から、刃物が生えてきたのは。




「…………………………え゛っ?」



うら。






久しぶりにやったゲームで何回負けたかわからないボス敵に、ちょっと戦い方変えてみたらあっさり倒せちゃった、なんて経験みんなしたことあると思うのですが。

なんて言いつつ、ボス戦は次からなんですけどねっ!

んなワケでボス(1/2)は彼女でした。

書き手もビックリです。

というか書き手が一番ビックリしてます。

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