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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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閉理由




『ギュオオオオオオオアアアアアアァァァァァ!!』


耳を劈く、と言うよりは身を引き裂くが如し咆哮(ロアリング)を喰らい、私達五人全員の動きが止まる。


「ぐっ……!」


「……ッ」


「キャア……」


「うひゃああああ!?」


「…………!」


突如として現れたその驚異。

ソレがなんなのか──何て、考えるまでも無かった。


「おいおいおいおいおい……冗談だろ?」


「っ、洒落んなんないわよコレ…………!」


私とカイレンは、同時にソレの呼称を唱える──


「「(ドラゴン)…………」」


この世界に於いて最大最強とされる種族。

生ける天災──ソレが目前に顕現していた。

宙を舞う全長は三十メートル程、手足は無く、角なども無い。

竜と言うよりは蛇と呼ぶのが相応しく思える風貌だ。

だがしかし──


『グルルルルルル…………』


あまねく生物をも睨み殺さんばかりのその眼光。

如何なる刃も徹させまいと言うような堅牢な鱗。

万象を噛み砕かんとするような獰悪な牙。

どれだけ無知蒙昧な愚か者であろうとも、この圧倒的存在感の前に悟る事だろう。

目の前に在る、愕然たる格の差を。

底などまるで見えることなき、種と種の間にある断崖の闇を。


「う、ううう……」


「ハァー、ハァー、ハッ…………」


「…………………………」


ネレムが引き攣った呻き声を洩らし、冷静なロワーヌは息を乱し、あのミネルラが完全に沈黙する。


「…………話し合いで解決出来ねえもんかな」


「良いこと言うじゃん。試してみなよ」


私達二人は何とか冗談ぐらい言う余裕は在った──何てワケは勿論無く、冗談でも言わなきゃやってられなかった。

あああああ勘弁してくれ。

なーんでこんな目に遭わなきゃならん。


「…………どーする?逃げる?」


「逃がしてくれると思うか?」


「…………無理でしょ」


目前の存在は容赦なく私達に殺意をぶつけて来ている──いや、何なんですか?何か粗相でもしましたか?ワタクシタチが。


「えーと…………この施設がこいつの縄張りだったってワケで良いのか?」


「確かにそれはお約束な展開だけども、それは無いと思うよ。流石にこんなのの巣だっていうなら何かしら感じてるでしょ…………そもそも、こいつ多分今まさにこの場所に来たんだと思うよ。ついさっきまで何も感じなかったのに…………唐突にとんでもない霊力(オド)が現れた」


「なんでだよオイ。流石に誰か予兆ぐらい感じるんじゃねえの?」


「ほんっとーに突然だったんだって。気づいたらそこにいたって感じ」


この施設…………どころかこの島に居たというなら絶対に私に感じ取れた筈だ。ここまで凄まじい量と質の炎禍の霊力(オド)を見逃すほど呑気していない。


「炎禍竜か…………確かに霊点(オドレイク)なら現れてもおかしくねえかもだけどよ」


(…………ああ、そういうことか)


竜は精霊と同じく、八属性何れかを宿した種に別れる。

そして目前の竜は明らかな炎禍属性。


(霊点から霊点へ、霊脈(オドライン)を通ってやって来たのか…………!)


などと思考している内に、とうとう相手が動き出す。

その牙の合間から僅かに炎が漏れだした瞬間、カイレンが檄を飛ばした。


「お前らしっかりしろ!チッとでも気ぃ抜いたら死ぬぞ!」


それが施設内に響いた瞬間、竜がその牙を鈍く光らせ、飛びかかってきた。


『ギャガァァァァッ!』


「っ!絶ち凪げ赤月!」


愛剣を喚び出し、その牙を真っ正面から受け止める。


「ぐっ、がっハァ…………」


『ギァァァァァ…………』


刹那の競り合いの果ては──分かりきった結果。


「っくぅあああああ!」


私はそのまま壁面へと叩き付けられる。


「ごはっ…………!」


今まで見てきた名剣魔剣霊剣に引けを取らない鋭さの牙々が、私の身体に孔を空ける。


「クレア!くっそがあ!」


カイレンは竜の牙が私をとらえた瞬間、水鏡術を放っていた。


「清廉たる飛沫よ集え──貫け滄滄!《湊滄浪瘡(ドリアングルス)》!」


カイレンの右手に水が溢れだし、カイレンがそれを振るうと飛び散った飛沫がみるみる内に青き槍となり、竜へと飛来する。


『──カアッ!』


しかし、竜が短く一喝するだけで、その全ては瞬時に蒸発した。


「──!ざっけんなよこんちくしょう!」


そう吐き捨てるカイレンだったが、私からすれば十分な援護だった。


「我が五指に宿るは終焉の兆し……《失墜の尖指(ルグレディート)》ぉ!」


開かれた口内に防御不可の貫手を叩き込んだ。


『グッ……ギィヤァアアアア!!』


零距離で叩き付けられる声圧に潰されてしまいそうになりながら、私は瞬時に右手を引き抜き、何とか牙から逃れた。


「はぁーっ!はぁー……援護サーンキュ」


「んなこと言ってる場合かっての!お前傷はっ」


「あーだいじょぶ。自分で()した」


牙が緩んだ瞬間に『存在回帰』で元に戻したので、ダメージは消えた。

とは言っても、もちろん霊力(オド)は消費するため余裕こいてはいられないが。


「さーて、これで完っ璧怒らしちゃったねえ」


「望むところだろ…………オイお前ら、いけるな?」


「ハッ、はい!ごめんなさいクレアさん……」


「謝んのはあとあと。さっさと役に立ちなよ」


「酷い言い種ね……返す言葉も無いけど」


「言葉返せないなら行動で返すしかないでしょー…………行くよみんな」


三人が何とか立ち直り、リーダーが改めて仕切り直す。


「さあーてと、どうやって切り崩すもんかね。真っ向からじゃ流石に厳しそうだが」


「んにゃ、一人じゃ無理でもあんたと私の二人掛かりならいけなくもないと思うよ?」


「…………大した自信じゃない、頼もしい事ね」


「自信じゃなくって確信だよ。……私なら力勝負でも多少は保つから、私が止めてあんたが当ててく感じでいきましょか」


「おっかねえなー、竜とタメ張れる力の女とか」


「茶化すなバーカ。ちょっとは凌げるかもだけど押し勝てはしないから、隙は一瞬だよ。ミスったら私があんたぶっ殺すかんね」


「おー怖。……んじゃ、それでいくか。バックアップ任せるぞ」


「了解です。防御はわたしに任せて下さい」


「そんじゃ自分は攻撃サポートだねー」


「そうなるとあたしは後衛の補助かしら…………情けないけどあれと殴り合う自信は無いわ」


「構わねえよ、やれることをやりゃいいさ。今のお前じゃ近距離で喰らったらヤバいからな…………」


そんな会話の中。

私は別の声に、気を取られていた。


『……マ、……イ』


それが。

目の前の脅威から発せられたものだと即座に理解できたのは──一体どうしてなのだろうか。


『イマイマシイ……グマイナニンゲンドモメェ……』


「──っ」


『セカイヲハメツサセントスガイアクドモメガ……ドコマデオゴレバキガスムノダ……』


「…………」


四人に目を遣るが、その声に特に反応している様子は無い。


(私にしか、聞こえてない……?吸血鬼だから?)


『セカイノフルウツルギタルワレラニハムカイ……ミズカラハメツヘトホヲススメテユクカ……マコトスクイガタイ……』


「………………」


世界の振るう剣、ねえ?

色々重大な事を言ってるみたいだが……んー、かといって話し合いはやっぱし通じそうにないしね。

実に憎々しげな口調だもん。

まあ……想像はつくけどさ。


『ケシテヤル……ネダヤシダ……』


ボボボボボボ、と口から炎が溢れ出す。

尋常でない量の炎禍の霊力の収束に全員が直感した。


死が、迫ってくると。


「白き息吹よ来たれ、災厄を拒み我らを守護せよ!《白聖護宮(アルクスフェア)》!」


「空よ凪げ、天よ裂けろ、怒れる愚者をはね除けよ──《無空崖壁(カルムラティオ)》」


即座にネレムとミネルラが防御術式を発動する。

それと同時に私とカイレンは後方へと跳躍しながら、迎撃の精霊術を放った。


「哮れ、烈火の激情。我が意志は愚者の涙を踏み潰し、全ての敵に鉄槌を下さん──《業火激咆(デストラクションロア)》!」


「暗愚なる者共へと清浄なる憤怒を今解き放たん!《濟怒濤波(コレルフルート)》!」


──カッ。


竜の咆哮(ドラグ・ロア)』。


竜が持つ、最も有名且つ最も強力とされる攻撃法だ。

竜の内包する圧倒的な霊力を収束し、放つ超高密度の霊力咆。

それに対抗するため、まずは私の炎禍術で相殺し、少しでも勢いを削ぐ。

そして即座に有効属性である水鏡術で消火に掛かった。


「くっ……」


「おおおおおお!」


二つの精霊術をぶつけてもなお、勢いを増していく炎禍の咆哮。


「お──りゃああああああ!!」


「だああああああ!!」


鬩ぎ合う三つの高密度の霊力は、入り乱れ、膨張し、収束し──


炸裂した。


とりゅう。





いざドラゴン戦。

これぞファンタジーですな。

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