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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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罰足






その遭遇は必然だった。

が──その切っ掛けは全くの偶然。

行き当たりばったり、とはこんな時にこそ使うべき言葉だろう。


「くっ──そう!!」


空を蹴り、その雷を纏った斬撃を躱す。


「ついているのかいないのか…………」


探索の合間、マレグリーの街で補給していたところを──見つけてしまった。

その姿を一目視れば、吸血鬼(わたし)邪眼()には一目瞭然。

何せ──相手はとんだ有名人である。


「【白】の冒険者(トラベラー)パーティ、任務達成数一位…………《天破八霊(フィシメギストン)》。その一番槍、オッフェンで宜しいですね?」


天破八霊(フィシメギストン)》。

八名の識者(ウィザード)で構成された、有名パーティ。

識者パーティと言えば、と問われれば間違いなく挙がる、成り上がりのバカ姉とは対極的な、結成二十年を越える歴史を持つ大ベテラン達である。

信頼と実績ではそうそう右に出るものはない、まさしく熟練者達。


「ああ、それで合ってる!ったくお互い間が悪いな!」


「そうですねっ!」


いや、本当に。

わざわざ市街戦なんてお互いに面倒なだけだろう。


「そこで提案なんだが、場所変えないか?街に被害を出すのは損しかないだろ!」


「丁重にお断りします!」


確かに間が悪い──が、しかしわたしとしては運は良いかも知れない。

天破八霊(フィシメギストン)》の絶対の真髄である八名によるチームワーク、それをこの場で崩してしまえば──


「なら仕方ない、このまま──全員でかからしてもらうぞ!」


「!!」


途端に『八方』から襲いかかる魔導識(スペルコード)


「……っ!《烈帛崩火(ロブォルバーラ)》!」


姉の精霊術を込めた霊苻(カルティア)を咄嗟に発動させ、爆風による緊急回避を行う。


「ガっ、はッ!」


相応のダメージを受け、吹き飛んだものの、何とか相手の霊術は躱した。

が、吹き飛んだその先は民家。

ド派手な音を立てて壁を突き破り、瓦礫に沈む。


(くっ……!やっぱり余程の事じゃない限りはそうそう八人行動を崩しはしないよね)


あの時見て見ぬフリをすれば良かったか──と思いもしたが、一人を潰せば瓦解する《天破八霊(フィシメギストン)》を打倒できる数少ないチャンスだった。

あそこを見逃せばわたし達が狙われる側になっていた可能性が高い……

失態はあそこで即殺出来なかった事だろう──街を気にして、確実に仕留める選択肢を選ばなかった。

そして、いつ合流するかもわからないあの状況では考える時間すら惜しい──結果碌な手傷も負わせる事も出来ずに戦闘になり、そしてこの有り様である。


「…………情け、ない」


自分の迂闊さに反吐が出そうだった…………くそ、これじゃあの姉に説教も出来やしない。

ほぼ考えうる限りの最悪パターンだった……単身であの八人とやり合うなんて。

うだうだと分断の策を練っていてこれだ。


「そうそう上手く事は運びません、ですか…………」


落ち着け。

頭を冷やせ。

反省も後悔も全部除けろ。

最善を、見つけなければ…………

………………………

そうだ。


「最悪、なんかじゃない……!」


照破紅柩(ヴィシニザルク)を喚び出し、即座に術式を発動する。


「焔よ揺らめけ霞よ集え、狂おしき光を今歪ません──《妖炎浪水裁光纏(オールスジャーマ)》」


炎禍、水鏡、光芒の三つを組み合わせた隠密術式(ステルスコード)

わたしにできる最大最高の隠蔽方法だ。


(市民には悪いですが…………市街戦での利点を最大限活かさせてもらいましょうか)


八人の内の一人でも仕留めれば、形勢は一気にこっちに傾く。

もちろん、それが出来れば苦労はないだろう──向こうは誰が相手だろうともそれを決してさせてこなかった、だからこその《天破八霊(フィシメギストン)》なのだ。

八人それぞれがそれぞれをカバーしあい、鉄壁のフォーメーションを築き上げている。

さっきの集中砲火を鑑みるに、奇を衒う事なく円陣を組んでいるのだろう。

包囲網は──凡そ直径1キロ程か。

仕事の早い事だ。

一人を狙えば他の七人からの集中放火を喰らうこととなる──あの姉を射抜いた射程を視れば、そうそうバラバラに引き離したとしても大した障害にもならない。


(二次元的な戦闘では勝ち目が在りませんね…………立体的に入り組んだこの戦場なら、多少は援護しにくくはなるでしょうが……)


焼け石に水。

この程度でどうにかなるようなら最初から苦労はない。


(…………致し方無い、ですね)


なりふり構っている余裕は無い、相手の土俵で戦り合えば敗北は確実だ。

数と経験で圧倒されている以上、下手な搦め手は自分の首を絞めかねない。


(時間は少ないですが、考えるしか在りません)


一対一(サシ)の実力でなら絶対に勝って見せる。

相手の意表を突きつつ、こっち側へと引きずり込む方法を──




▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽

△▲△▲△▲△▲△▲△▲




天破八霊(フィシメギストン)》の八名は、もう二十年を越える年月を共に戦い抜いてきていた。

互い互いを知りつくし、信頼しつくしている。

炎禍術者のランゴマン。

水鏡術者のリリルエル。

風蘭術者のウヅース。

土嶽術者のギアンテ。

雷鼓術者のオッフェン。

氷麗術者のキャトーナ。

光芒術者のメノ。

闇絶術者のミナ。

誰一人欠ける事なく、この二十年を潜り抜けてきた──この八人が揃っていれば、敗ける相手など存在しない。

向かう所、敵無し。

過信などではない、事実彼らは格上である【黒】冒険者や、それに匹敵する相手をも何度も退けてきた。

今相手をしている少女など造作もない──そもそも戦いでさえない。

もちろん侮ってなどいない、同じ識者(ウィザード)として相手のとてつもない才能は既に見抜いている。

どれだけ努力を重ねようとも精々が一流半がいいところだった自分達とはまるで違う、正しく天に選ばれたというべき才能の宝石。

音に聞こえてきた評判、そして実際に自らの眼で見て、確信する。

自分達とはステージの違う、稀代の怪物だ。

だが。


『勝てる』。


『負けない』。


八人が八人とも、それを微塵も疑いはしていなかった。

どれだけの才能を持とうとも、どれだけの努力を積もうとも、一人の力には限界がある。

だが、八人が力を合わせれば──限界など何処にも在りはしない。

越えられない壁など、存在しない。

その思いはいっそ信仰と呼ぶべき程にまで固く、八人の心に根付いていた。

だから。

その少女の姿が幾つにも増えて現れた所で、大した動揺はなかった。


(…………浅はかだな)


それでどうにかなると思っているのだろうか。

そもそも数ではるかに勝る相手に幻影の数を増やした所で陽動にもならない。

八人の誰か一人でも見抜ければそれは即座に全員に伝わる。


(いや──あれ、手強いわよ。まだ見抜けない……相当なレベルの術式だわ)


(へえ、流石の腕前ってワケだな……ま、関係ねえが)


(だな、どれが本体か見抜けぬなら、全て消せばいいというだけだ)


(おいおい、本体がいるって線の方が薄いだろ。十中八九裏で隙を窺ってるのさ)


(好きなだけ足掻かせてやれ、持久戦なら勝負にならんさ)


(ま、確実にバクチを打ってくるでしょうね。そんな賭け、そもそも成立しないけど)


(『一人倒せれば』、『分断さえ出来れば』、そんな風に考えてる時点でワタシ達の掌の上だ)


(それをさせないからこその我々だ──各々がいつも通りやるだけでいい。それだけで──)


いつも通りに、勝てる。


そんな風に八人がいつも通りに確信した時──メリルフリアの幻影が一斉に行動を開始する。

その数を──瞬時に倍ほどに増やして。


(──!まさか!あのレベルの術式を一瞬で、あれだけの数を並列行使するなんて!)


(落ち着け!やることは何も変わらん!)


少女の幻影達は八方全てに広がり、《天破八霊(フィシメギストン)》それぞれへと襲いかかろうとする。


(……あの幻影!単なる幻じゃねえぞ!市民の肉体に纏わせてやがる!市民を霊力源にしてちょっとやそっとかき消したって術式を継続させるように仕組んでんだ!)


(そうなると暴力に訴えられないワケだ……形振り構わずきてるな)


(全部気絶程度に留めろ!本体はまだ出てきてないか!?)


(そろそろ出てくる筈……!こちらの動揺が消えない内に……)


と、八名全員が幻影の対処と本体の見極めに追われているなか──


(…………見つけた!!オッフェン!足元だ!)


と、その霊波通信が届くか届かないかの瞬間。

オッフェンが立っていた家屋崩れ──砂塵の槍を手にしたメリルフリアが突っ込んでゆく。


「…………っ!遅えっ!」


だが瞬時に雷の刃を形成したオッフェンが砂塵の槍を掠りつつも躱し、即座にカウンターを決めた。

が。


「っ!これも贋作(フェイク)か──がっ!」


幻影を斬り裂いたその背後から──心臓に狙いを定めた光弾が襲う。


「舐めんなよ、こんなもん!」


その光弾をかき消し、即座に弾道を読んだオッフェンは、その情報を仲間に伝える。


(時計台だ!今ならまだ捕捉できる!援護頼む!)


((((了解!))))


即座に聴こえてきた返答を耳にした途端に、最速の付与術式(エンチャント)を自らに施し、駆ける。


ローブを纏ったその影は、時計台の中に身を隠したものの──


「もう終わりだぜ」


時計台内部にて追い付いたオッフェンがそう言い放つまでには、そう時間はかからなかった。


「もう仲間が完全に時計台を包囲してる。勝ち目はねえよ、大人しく降参すりゃあ命までは取らないぜ?」


その言葉に彼女は。

ニッコリと笑って、その顔を晒した。






「そりゃありがたいですねー。まあもちろんあたしはちゃっかりしっかりお命頂戴するつもりですけども」


実にふてぶてしく、クティナ・ライノーレはそう溢したのであった。


ばったり。





多対一。

大苦戦。

逆転の秘策。

そんな感じの回です。

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