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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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嘆顕





「ひゅー。おみごっとん」


パラパラパラ、と気の無い拍手を送る。


「は、別にこの程度のポンコツ壊したところで誉められるようなこっちゃねえだろ」


と、バラバラになった大型魔導機兵の上でカイレンは肩を竦めた。


「ありゃ、けっこう謙虚じゃん」


「単なる事実さ……どうよこのストイックさ。自分に厳しい俺、惚れるだろ」


「そだね、あんたの墓穴とかを今にも掘りたくなってくるねー」


テキトー極まりない相槌を打ちつつ、今いる場所を見回す。

四人パーティ+ソロでの探索によりようやく魔導機兵の発生源への入り口らしき地点に目星を付け──手強い機兵達を何度も何度も片した果てにようやく海の底から機兵が出入りしていると悟り、海底大探索を経た後に付け──ながーい洞窟を攻略し、気付けばハケナ島のシンボルとも言えるブレイジオ活火山、その内部へと【氾星】カイレン・ムノマテリナとその一行、プラス私は足を踏み入れていたのだった。

いやはや、海底温泉涌き出る海底洞窟から出てきているとは思いもしなかった。

まあ私はカナヅチなので陸でサボ……もとい英気を養っていたのだけども。

まあ兎にも角にも何とか発見し、カイレンの手を借りて溺れる事なくダイビングし、ようやくここまでやってきた。

きた、のだが。


「あああああついよう~カイレン~そんなとこでカッコつけてないでこの気温どうにかしてよう~!」


…………先に進むにつれ上がっていく気温に、ミネルラが文句を垂れ始めた。


「ええい喚くなミネルラ。そういうのは識者(ウィザード)の仕事だろうが。お前がどうにかしてみせろよ」


「自分の個体属性は風蘭なんですう~知ってる筈でしょそれくらい」


「だったら尚更じゃねえかよ、風送ってみんなを涼ませろよ」


「え?いいの?そんなことして。この明らかに軽く五十度越えちゃってる気温の中で風起こしちゃっていいの?いーいーのー?」


「あーあーわかったわかった俺が悪かったよ!ハァ……んで、これからのことだけども」


半ギレになりつつも、さっさと話を切り替えるカイレン。


「ようやく見つけたポンコツ共の巣穴だ。ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと終わらせようぜ」


「同感よ。この辺りはちょっと暑苦しすぎるわ」


「そお?ちょうどいいぐらいだと思うけどなー私としては」


などと私が軽口を叩くと。


「炎禍属性持ちはいい御身分よね……この熱風の中でも平気なんだから」


「確かにまあ心地いい風程度だね。だけどもどんどんこの先熱くなるとおもうよ?随分な規模の炎禍の霊点(オドレイク)があるっぽいからねー」


「うえ゛ええええ…………まぢかよ……あーくそめんどくせえ、遣うしかねえか。我等を抱くは穏やかなる水面──《水淡濂膜(スワベデルガード)》」


カイレンが遣った精霊術(エレメンタル)によりパーティ全体が水鏡の霊力(オド)に包み込まれる。


「くうはあああ!すーずしいいいいい!!ったく変にもったいぶってないでさっさと遣えば良かったんだよー!怠けだよ怠慢だよサボタージュだよー!あーあ、とんだブラックパーティに所属しちゃったなあ悲惨だなあ不遇だなあ我が身を儚まざるをえないなあー」


「…………なあクレア?こいつ殴っても良いよな?客観的に見て鉄拳制裁を行使するのもやむを得ない状況だよな?な?」


「止めた方がいいと思うよ、現在の愚痴が百倍位になりそうだから」


「ぐぎ、ギギギ…………」


ヤミ金の取り立て人もかくやというような羅刹の如き表情で堪える勇者様の末裔であった。

…………まあ実際のハーレムってこんなもんだろうなあ。

男が絶大な支配力持ってなけりゃ女尊男卑極まれりだろうなあ……世間体を気にする必要があればどうしたって男が不利になるもん。

そもそも一対一(サシ)での付き合いだって対等な関係を目指せば色んな食い違いが頻出するってのに、複数ってなりゃあ、まあ無理ゲーだわな。

その男が女全員に全霊で尽くすだけの覚悟と甲斐性、そして女同士での相互理解が必須だね。


「私は絶対ヤだなー。めんどくさい……男女の関係は一夜限りで充分だわ」


「あら悪女発言ね」


……耳聡くロワーヌが聴いてやがった。


「私は自由を愛するだけだよ。誰だって背負う荷物は軽い方がいいでしょ」


「そうね、『荷物』なら」


と、なにやら思わしげに溢すロワーヌ。


「……何が言いたいのさ」


「人が背負うものは荷物だけじゃありませんよ」


そう笑顔で言ったのはネレムだった。


「きっと貴女だって背負っている筈です。とっても重い、だけど荷物なんかじゃない大事なものを」


「…………」


私は何も言わず、前を向いて歩き出す。

多分、しかめっ面で。


その後、ニヤニヤ笑いを浮かべるカイレンをハッ倒しつつ、火山のさらに奥深くへと足を進めた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「うーわー、萎えるわーこれ。なにさこの『ここからが本番だぜ☆』とでも言いたげなゲートは」


ながーい行軍の果てに目前に現れたのは恐らくは機兵達が出撃、帰還するゲートだった。

ここに来るまでに散々機兵達をちぎっては投げちぎっては投げを繰り返した果てにこれでは、確かにミネルラでなくたって愚痴りたくもなるだろう。


「……どうするの?このままゲート内を進む?」


「まあそれしかねえんじゃ……」


「いや、それは無いでしょ」


私は言う。


ここ(・・)が魔導機兵の基地なのか研究所なのかそれとも他のなんかなのかはわからないけども、あの魔導機兵達は人の手で造られたもんなワケでしょ?」


「…………そうらしいですけれど」


「ってことは人間が往来出来る道だってどっかに在るでしょ。完全な密室だとしたら空間移動の手段でも持ってなけりゃ出入り出来っこないんだし、まさかここを造った連中全員がそれを持ってたワケでもないだろうし」


「ふーん、そりゃそうだねー。んじゃ……音無沙汰無形無の道標よ、我が指に集えー。《指針風来(レヒトインディチェ)》」


ミネルラが右人差し指を掲げると何処からともなくやってきた凄まじく細い糸状の風蘭の霊力が絡み付き、渦を巻く。


「………………おーし。つっかまっえたー。道在ったよ。こっちこっちー」


気の無い声と共にテクテクと歩き出すミネルラ。


「ルート探索の術式か、便利だねえ。しっかしほぼ無風のこの洞窟内でやってくる風を捕まえるとは…………」


「いい腕してんだろ?」


「なんであんたがどや顔なワケよ。すっこんでろ」


「鰾膠もしゃしゃりもねえ!!」


うはー、バカをぞんざいに扱うのって気分いいなー。


「おいこら待て!今なんかものスゲーお前にだけは言われたくねえ事心ん中で言いやがっただろ!」


「はいぃ?ナンノコトデスカナー」


「超絶棒読みじゃねーか!ふざけんなコラこっちこい」


「ヤダー、カイレンくんが乱暴するー」


「最低ね」


「最低だねー」


「最低です……」


「最低なのはどう考えても(おまえら)だろオイ!よってたかって精神的にリンチしやがって!泣くぞ!?」


ふはははは、泣くがいい、喚くがいい、この場に貴様(おとこ)の味方などいやしないのだ!


「ほらほらあんなのほっといて先行っちゃおうよ」


「さんせー。てか置いてっちゃわない?」


「いい案ね。どうせ大した役にも立たないんだし」


「え、えーと……」


「おいネレム!同意すんなよ!?長いものに巻かれんなよ!?」


「……………………」


ネレムは横目でカイレンを一瞥し。


「………………」


一瞬逡巡を経た後。


「…………」


黙って私たちに続いた。


「神は死んだあああぁぁぁ!!」


などと背後で喚きながらのたうち回るバカを尻目に、私達女の子はさっさと先を行くのだった。




○○○○○○○○○○○○

○○○○○○○○○○○○




私の予想はズバリ的中したようで、見つけた通路の先には一体の魔導機兵の姿も無く極めて平穏な道中となった。

識者ウィザードであるミネルラは興味深げに色々と喚いていたが、私はあんまし興味無いのでズッパリと省略させてもらうことにする。

んで。


「おー……如何にもなトコに出て来ちゃったねえ」


魔導機兵施設内を進んだ先、最奥と思しき場所にあったのは――


「えーと……これは、魔導炉ってヤツ?」


目の前にはドーム状の巨大な魔導機器が凄まじい量の霊力オドを精製していた。


「みたいだねー……スゴイよコレ。現代の最新式魔導炉をも上回るスペックだー……ロストテクノロジー、ってやつかも……」


ミネルラは終始圧倒されているような口調で言った。


「……ま、そういうのは後にしようぜ。取り敢えずこれを止めりゃ魔導機兵はストップすんだろ?」


「うん、そのはずだよー」


「そっか、んじゃ手っ取り早く――」


と。

そこまで言って、ようやく私は気付いたのだった。




この場に顕現しようする――埒外の存在に。






たんけん。






結構仲良くやってるご様子。

クレアレッドのコミュ力は割かし高めなのです。

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