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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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歪和異






火山島であるハケナ島には、当然炎禍の霊力(オド)が満ちている。

そんなワケで、最近やたらとストレスフルな生活を送っていた私はのんびりと足湯に浸かっていたのだった。


「う゛~~~~~~あ゛~~~~~~」


ぎもぢいい~~~。

炎禍の属性がたっぷりと混ざった天然温泉にとっぷりと足を浸けながら、私は女子としてはかなりアレな声を漏らしていた。


「そーいやこの諸島、リゾート地って設定だっけ。いや~いい湯だな~あ~」


私の中に確かに息づいている日本人の心が、いま感涙を流してやまなかった。

ふぉーえばー温泉。びば足湯。

こんな事なら依頼(クエスト)とか抜きで姉妹水入らずの旅行で来たかったもんである。


「ふう~~…………感動だねえホント。さあて存分に堪能したし、明日に備えて寝るとしよ「今早朝だけど」


ツインテを解いたロワーヌに、鋭いツッコミを入れられた。


「ええ…………もういいじゃんメンドクサイ。大自然の恵みに感謝して、明日を懸命に生きていこうよ」


「今日を生きなきゃ明日なんか無いわ」


「ごもっとも~」


んー、念のため改めて解説しとこう。

格闘少女ロワーヌ。

タメ歳らしい。

真面目なまとめキャラ。

せっかく説教からエスケイプ出来たかと思ってたのにぃ…………


「別に良いんじゃないのー?ロワーヌー。そーんな目くじら立てなくたってさぁー。まだまだ朝早いんだしー。ちょっくら二度寝するくらいだいじょぶだと自分は思うけどなあー」


魔導少女ミネルラ。

歳はいっこ下。

キャラはよくわからん。

馬鹿っぽい馬鹿か馬鹿っぽい曲者かのどちらかだろうと私は睨んでいる。


「あ、あの。カイレンは多分、朝食を終えたら直ぐに発つつもりだと思うので、あまり時間は無いかと…………」


修道少女ネリム・トリムトール。

歳はいっこ上。

純粋で健気な美少女。

──なのかどうかはまだ判断出来ない。なんせこれまで私の身の回りに清廉潔白な人物なんざ、ただの一人も登場してこなかったのだから。

疑心暗鬼な私の心をどうか溶かして欲しいものである。

いや、マジでマジで。


「はーん。で、その本人はもう起きてるワケ?」


「いえ、まだですが…………きっともうすぐ目が覚める頃だと思います」


生い茂る植物の向こうに微かに見える水色のテントへと視線を移しつつ、ネリムは言った。


「そなの?そんじゃあ、私も適当に身体慣らしとこっかなー」


なんて言いつつ足湯から上がり、軽く身体をほぐしてみる。

何度も言う通りにウォーミングアップ等は吸血鬼である私には意味はまったく無いのだが、何故だかやっておかないと気が済まないのである。

ポーズ的なものなのだろうとは思うものの、仮に吸血鬼の体質が無ければこんな風に生真面目にすることは無かっただろうと考えると、何とも言えない気分になった。


「うっし…………取り敢えず終了っと」


改めて確認してみたが、体調は万全の状態にまで『回帰』出来ているようで一安心出来た。

他の能力も特に問題無く発動出来るようである。

…………考えてみればあんな風に敵から光芒術を撃ち込まれたのって、何気に初だったからなー。

ついつい色々と確かめちゃったぜ。


「…………おー、お前らもう起きたのかよ。早いな」


そこでそんなよく通る声が響き渡り。

水色の少年がテントからこっちへ歩いてきた。


「…………いつもみたいなノリでこっちに来ないの。今は他の女の子もいるんだから、少しは気を遣いなさい」


「ん?ああ、そう言えばそうだったな。悪い悪い」


「あたしに言っても仕方が無いでしょう?ちゃんと本人に言いなさい」


「あーはいはいっと。悪ぃなクレア」


「………………ま、文句は言わないでおくよ」


その馴れ馴れしさには一言二言物申したい所ではあったが、そう突っかかっていくのもアレなので自重する。

私も我慢ぐらいできるのだ。


「しかしアレだな。お前濡れた脚メチャメチャエロいな゛っ!?」


我慢出来なかった。

即座にボディブローをキメた。


「ぐ、ぼお゛、おおお…………ナイスパンチ…………」


「…………一応訊くけどさ、こいつっていっつもこんな感じなワケ?」


「こんな感じね」


「こんな感じかなー」


「こんな感じです…………」


「………………」


やたらと影を濃くした顔で三人同時にそう言った。


「苦労してんだね…………」


「「「そりゃあもう」」」


……………………

これからは私もなるたけメリルにかける負担を軽減するように努めよう。

なるべく。

できるだけ。


「あ゛、ああー。まあ、おはよう」


「うん、おはよう。で、今日は一体どうするのか教えてもらえるかな、リーダーさん」


「あー、まあ面白味も無い探索がメインになるんだろうな。せっかく人手が増えたんだし、二手に別れるとしようぜ」


「でもカイレン。どんなカラクリ兵が出てくるかも分からないのに──」


「そんなに心配することねえだろネリム。せっかく大戦力が増えたんだから、ここで強気に行かずにどうすんだよ。もちろん、ヤバくなったらすぐに救援を呼ぶ。これは当然だ」


「ふーん…………」


意外と私は信用されてるようだった。

もっとも、この信用は【黒】の冒険者(トラベラー)というネームバリューにちなんだもので、同時に自分(カイレン)に対する自信でもあるのだろう。

まあ、一応は自分と同格とされている奴が来たのだから、見くびったり出来ないのかもしれない。


「で、探索ったって具体的にはどうすんの?」


「もちろん、お前が来るまで俺たちが呑気に観光にしゃれこんでたってワケじゃねえさ。もう、三分の二は探索し終わってる」


「へーえ………随分手際良いんだねえ。私達はまだまだ一件の全貌を理解するには至ってなかったってのに」


当然、これは嘘だ。

メリルとクティナちゃんが魔導機兵から分析した情報を考えれば、大方の予想はつくし──さらにぶっちゃければここに来るまでに大体の事情は聞かされている。

が、今回の私の目的の為には、親切にそれを教えてやるワケにはいかなかった。


「ま、と言ってもこれといった発見は無かったんだけどな、情けねえ事に」


「そうなの?」


「ああ──せいぜい、あのカラクリ兵共の発生源(・・・)が、このハケナ島の火山、ブレイジオ山の火口にあるってぐらいだ」


「へえ…………えええええええ!?」


「おお、驚いたか。ははーん、まあ【黒】を名乗り、【氾星】の称号をいただいたからにゃあこれぐらいの手柄は立てねえとな」


いや、マジに驚いた。

メリルとクティナちゃんから聞いた話から、てっきり発生源もウィウェル島に在ると思い込んでしまっていた──いや、だって『女王蜂』とかやたら大仰な事いってたら誰だってそう思うのが当たり前でしょうに。

『女王蜂』がいる場所が『巣』じゃないだなんて、誰が思うものか。


「そ、そうなんだ…………それじゃあ、そこを潰せばこの一連の騒動が丸く収まるかもしれないってワケか」


「へへ、そう言うことだ──つっても火口に在るからと言うからにはそう簡単にはいかねえ。流石に山の山頂から入れるようなわざとらしい構造じゃねえらしいからな。この島のどこかに巧妙に隠されてる筈なんだ、あのカラクリ兵を生み出してる発生源への道がよ」


「ふぅん、まあ、それが当たり前だよね」


火口なんかに入り口を設置してメリットがあるとは思えない。まあ、確かに入りづらくはなるかもしれないが、逆に発見はされやすくなるだろうし。


「そんでもって、もう島の大半は捜索済み──ってワケだ。なるほど、それじゃあ楽な仕事かもね」


「そうね、『かも』しれないわ」


肩を竦めつつ、ロワーヌが言う。

まあ確かに…………既に三分の二までを捜索して、手がかりがまるで無しというのは少々不自然に思えなくもないかもしれない。

もちろん残りの三分の一に隠されていて、それを見つけられれば楽な仕事間違いなしだろうが──仮にそれで梨の礫と来た暁には、もう途方にくれるしかない。

手がかりが何一つ無くなったもの探し程虚しいものはありはしないのだ。


「やっぱり闇雲に探すのは無謀だったでしょうか…………」


ネリムがうつ向きつつそう呟くと。


「だーから自分もっと考えて探そうよって言ったじゃんかー」


と、ミネルラが口を尖らせて言う。

そんな様子を見て、真面目なロワーヌが黙っている筈も無く。


「…………一番やる気が無かったあなたが言うの?」


「えー、だって自分識者(ウィザード)だしー。肉体労働向いてないしー」


「だったら肉体労働以外でもなんでもやれる事があるでしょ!あのカラクリ兵に関してはあたし達の中では唯一あなたの専門分野と言えるシロモノなのに!」


「自分戦闘特化の識者(ウィザード)だっもーん。生産系の術式なんてまるっきり門外漢だっもーん。識者(ウィザード)だって色んなのがいんだから、十把一絡げにしないでよー。自分の了見の狭さをアピールしたいのー?」


「……………………(ピキピキ)」


おー、怒ってる怒ってる。


「あーもう、喚くなよお前ら。ゲストもいるんだぞ」


そんなリーダーの鶴の一声で、一先ずその場は収まる。


「取り敢えず二手に別れての捜索、とっとと始めるぜ。こうしてる間にも、カラクリ兵が生まれてるかもしんねえんだからな」


「はいっ」「はーい」「はい」


…………なんやかんやで、良いパーティらしかった。


「そんじゃ…………私もせいぜい頑張らしてもらおうかなっと」



わいわい。




考えてみればこんな大勢での会話は何気に初かもですね。

楽しんで書けました。


さて、ここで一つ重大なお知らせを。



ス ト ッ ク 切 れ た



とうとう追いつかれてしまいました……第二楽章終了まで踏ん張ろうと思ってたんですが、四月からの新生活の準備に追われ(言い訳)、さらに予想以上に話が膨らみ(自業自得)、こんな所で捕まる事になりました……

毎日楽しみにされてくれていた方々、申し訳ありません……

遅筆のクセに見えを張るとこうなります。

これからもなるべくこまめに更新していくつもりですが、毎日はちょい厳しいかもです。どうかご容赦ください。

もちろん物語はまだまだ続くので、どうかこの先も見て頂ければ幸いです。

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