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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
59/90

拒羽統






ジレガー山道もほぼ降りきり、いよいよウェル島に辿り着こうといった頃。

わたし達は相も変わらずひたすらに走り続けていた。


「まだ追って来ますか…………クティナさん、まだ大丈夫ですか?」


「ふっ……ふっ……まだまだ行けますよー!このぐらい丁度良い運動です!」


まあ、険しい山道と言えど下り坂を降りた程度でくたびれているようでは冒険者(トラベラー)なんてやっていけないか。

数時間に渡る逃走劇も、そろそろ終劇が近いようだ。


アレ(・・)もおそらく海上で襲ってきた特攻機兵と同じく、一点ものの機体でしょうね。『厭霊翡翠(ネフリティス)』のコーティングもしてありますし…………」


唸るような轟音を響かせつつ、わたし達を背後から追い立てるのは、全長五メートル程の人型魔導機兵。

骸を思わせる頭部に肋骨の如き装甲、そして六つの腕に付いた翠色の刃を振り回しながらわたし達を執拗に追跡してくる。


「クレアレッドさんがいればあの斬撃を捌きつつ、間接部を狙って解体してくれたかもですが…………あたし達とはどうも相性が悪いですねえ」


苦笑いを浮かべつつ、ひた走るクティナさん。

いや、クティナさんの剣技ならあの嵐の如く苛烈な剣撃にも対抗できなくはないと思う──これまでの戦いで充分に伝わったが、クティナさんの実力は到底【灰】の冒険者(トラベラー)などには収まることは無い。

控え目に見たってまず間違いなく【白】に匹敵する実力の持ち主だ──そしておそらく見せた全てが実力というワケではないだろうから、【白】の中でも【黒】に近い者程の実力は有るのではないだろうか。

しかし、その実力も相性によっては空回りしてしまう事となる。

識剣士たるクティナさんの剣技は、やはり剣技一本に絞った同格の者に比べればどうしても劣ったものとなってしまうからだ。

無論、そこに魔導識(スペルコード)を加える事で格段に実際の実力は跳ね上がる事となるワケだが──今回の相手に限れば、残念ながら魔導識(スペルコード)による戦術はあらかた通じない。

もちろん、『厭霊翡翠(ネフリティス)』と言えども完全に霊術をシャットアウトできるというワケではないだろうが──やはり大幅な減退は避けようが無いのだ。

事実上使えるのは自らを強化する付与術(エンチャント)ぐらいだ。それだけでも素よりはかなりの強化が果たせるものの、実際の実力はせいぜいマックスの七割が良いところだろう。

わたしに至っては、言わずもがな──だ。

わたしの肉弾戦の技術は最低限のものなので、あんなのと真っ向からやり合えるような腕っぷしは持っていない。

自慢の魔導識(スペルコード)も半減されてしまうようでは話にならない。

まともに戦えば勝ち目は──無い事は無いものの、それでも持久戦は免れないだろう。

そしてそれは最低最悪の展開だ──ここで襲撃者達に追い付かれるワケにはいかないのだから。


「土嶽術での足止めは出来ませんか!?メリルフリアさん!」


「厳しいです!確かに『操作』の術式で造り上げた素の状態の障害物なら『厭霊翡翠(ネフリティス)』の耐性を潜り抜ける事が出来ますが、霊力(オド)を込められない分耐久性は著しく低くなります。アレを止めるのは少々難しいでしょう!」


時間稼ぎにもならない──霊力(オド)を無駄に消費するだけだ。

やはりアレを壊すには、物理に重きを置いた攻撃が一番だろう──もちろん、それが無いからこそこうして慌てふためきながら山道を駆け降りる事になっているのだけど。


「っ!──メリルフリアさん!来ます!」


そこで六刀機兵は轟音を立てつつ、わたし達へと飛び掛かって来た。

翠の剣閃が、山道を切り刻んで行く──わたしは何とかそれを眼で観切り、クティナさんは長剣でそれらをギリギリ弾き、逸らし、流し、回避し続ける。


「っぐ、キッツぅ…………」


痺れた手を振りながら、クティナさんは愚痴を溢す。


「時間制限さえ無ければいっくらでも勝ち筋は有るんですけどね…………メリルフリアさん、このままで良いんですか!?」


「構いません!今はひたすらにウェル島を目指しましょう!」


「わかり──ましたっ!」


剣を弾きつつそう言うクティナさんと共に、ジレガー山道をとうとう抜ける。


「このまま北東まで走ればウェル島です!」


「了解しましたっ!」


あと少し。

もう少しで、辿り着く事が出来る──


「っキャア!」


そこで。

剣撃を捌き続けてきたクティナさんが、とうとうダメージを負った。


「く、う…………」


傷を負ったのは間の悪い事に、右脚。

眼に見えてクティナさんの走るスピードが落ちる。

それを相手が見逃す筈もなく──六刀の衝きが、クティナさんの真上から降って来た。


「嘗め、ないでよっ!爆ぜよ旋風、罵る悪鬼を討ち祓え──《空裂烈破(エアロスフェラ)》!」


炸裂する風撃の風蘭術を足元へと放ち、クティナさんはそこから大きく吹き飛ぶ。

その緊急回避の結果、魔導機兵の六刀は虚しくも空を衝き、地面へと突き刺さる。

そこへ。


「邪魔っ!しないでください!」


わたしが思いっきり照破紅柩(ヴィシニザルク)を振りかぶり──


「てやあああああ!」


骸骨風の魔導機兵の頭部へと叩き付けた。

姉と比べると大きく劣るとは言え、吸血鬼の剛腕での渾身の一撃に、魔導機兵は物言わぬまま、しかし大きくバランスを崩す事となる。


「……そこぉ!集うがいい、世を撫でる颶風!我が指を統べ、九空を駆けよ!──《九天透弩ヴァンノーノ》!」


長剣を背にしまい、両手を水平に構えたクティナさんが霊文(ゲベート)を唱えると、その指先から九つの風弾が放たれ、六刀機兵の足元へと着弾する。

大地を抉ったその風弾は、地中でさらに炸裂し、そして──六刀機兵を完全に転倒させた。


「──よっし!」


「今のウチです!麗らかなる清水の流々、汝を誘うは蒼き祈りなり──《清瀧流々(フルフィウス)》!」


殴りかかる前に展開し始めた霊陣(キルクルス)を完成させ、発動。

清らかなる水流が凄まじい勢いで湧き出て、わたし達を押し流した。


「加速しますよぉ!疾風は鷹、迅雷は馬、飛翔ぶは我らの心なり!──《烈閃疾駆(ブリッツガスト)》!」


雷鼓と風蘭の複合術式により、更にわたし達は格段に加速する。

そのまま水流に乗り、六刀機兵を置き去りにしてウェル島まで一直線に突き進んだ。


「…………クティナさん。こんな付与術(エンチャント)使えるなら、さっさと使えば良かったんじゃないですか?」


「いえいえ。流石に全力疾走しながら防御しつつ、その上で複合術式を構築するのは流石に厳しいですって」


「どうでしょうね。識剣士ならそれが出来てこそだろうとも思いますが」


「あははは、考えすぎですってばー、メリルフリアさん」


ニコニコと笑うクティナさんだったが、あいにくと警戒を解くことは出来ない。

結果的にわたしの手札をまた一枚晒す事となった──まあ、その分クティナさんの手も観れたのだから損はしていないが。

確かにまあ考えすぎだとは思うが、用心に越した事は無い。せいぜい油断しないようにするとしよう。


「……もうすぐですね、背後はどうですか?」


「大丈夫ですよ。流石にこの速度には追い付けっこ──ありゃ?」


クティナさんの間抜けた声に釣られて背後を振り返って見ると。

そこには背から霊力(オド)を放出し、何とかわたし達についてくる六刀機兵の姿があった。


「うっそぉ…………まさかこれについてくるだなんて、いくら何でも無茶苦茶過ぎじゃないですか」


「いえ──おそらくは特攻用のシロモノなのでしょうね。このまま逃げ回っていれば、十中八九霊力(オド)切れで稼働しなくなると思いますよ」


「なるほど、その通りですね……だけど、そんな時間は有りませんよね?メリルフリアさん」


「その通りです。あそこ(・・・)から仕掛けますので、サポートは任せましたよ、クティナさん」


「はいっ」


そしてわたし達は水流に乗ったまま、海へと着水する。


ウィル島とウェル島の狭間には海が広がっており、それがウェル島の防護力を決定付けているのだ。

そのまま海上を駆け、ある程度の所まで来たところで──停止する。


「…………ここまでに霊力(オド)が切れてくれれば助かったんですが。まあそんなに甘くありませんよね」


未だ劣らぬ勢いで突っ込んでくる六刀機兵──といってもわたし達との間に有った距離を縮める事は出来ていなかった。


「無窮なる壁よ、今ここに。猛き叫びを押し流し、全てを抱きて統べてを鎮めん──《練空絶壁(ヴェントヴァント)》!」


巨大な風の壁を発生させる霊術──他の属性での壁とは違い、風蘭はでの足止めは風という力の性質上、込める霊力(オド)を最小限に留められる。

もちろん『厭霊翡翠(ネフリティス)』の耐性を前にダメージは一切与える事が出来なかったものの──しかしその勢いはかなり殺す事が出来た。


「今です、メリルフリアさん!」


「はい──決めます。虚ろなる青孔、現を呑み干し深淵に眠るがいい──《青収斂竅(カウムタラッタ)》」


展開したその霊陣(キルクルス)を発動すると、海上にポッカリと底の見えない孔が空き、そのまま六刀機兵はその中へと堕ちて往く。


「──サヨナラですよ」


そのまま小さくなっていく六刀機兵を見詰め続け──豆粒程になった所で術を解除。

一切霊力の伴わない純粋な水圧に、魔導機兵は封殺される事となったのだった。



きょうとう。




なかなか良いチームワークの様子。

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