廻伌
目が覚めると、知らない天井だった。
「…………………………ふぇ?」
間抜けな声を出して起き上がる──見ると、布団で寝ていたようだ。
寝起きはあまり頭が回らないので、しばらくそのままアホみたいに呆けていた。
数分後、ようやく意識が冴えてくる。
「ん…………えーっとえっと。メリルと、クティナちゃんと一緒にジレガー山道を歩いてて……変な奴らに絡まれて……そいつらを蹴散らして……情報聞き出そうとして……そしてらなんか爆発して……崖から吹っ飛ばされて……落下中に狙撃されて……喰らって……それでも何とか凌いだかと思いきや川に落ちて……」
落ちて……落ちて……落ちて?
そこから──どうなったんだっけ?
えっと…………何か偉そうなセリフをくどくどと聞かされたような。
んーダメだ、ボヤけてる。
「まあ、わからない事は棚上げにするとして……んじゃ、まず、ここどこだ?」
改めて周りを見渡す…………どうやらテントの中のようだった。
「あーくそ。何か私、気ぃ失って知らない場所で起きるのに慣れてきたな、もう。ぜんぜん嬉しくない成長だけども…………」
何度目だよこの展開。
ここまで来るとお約束だなもう。
「いや、しかしこうなるともう流石にこの先の展開が読めるぞ。大方そろそろ──」
その時。
予想通りに──テントの入り口から誰かが顔を覗かせる。
「お、起きたか」
「はあ…………まあ、起きましたよ。で、どちら様で?」
「お、よくぞ訊いてくれました」
水色の髪を靡かせつつ、彼はニカリとどこか幼げな笑みを浮かべ、言った。
「カイレン・ムノマテリナ──《黒天十二星》の末席、じゃなかった第十一位だ。【氾星】って呼ばれてる。ま、よろしくな」
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「いっやー偶然だなあ!まさか話に聞いてた新入りの【黒】に会えるとは!これも運命ってヤツかねぇ?」
「あー、うん。そうなんじゃない?」
取り敢えずテントから出ての会話。
適当に話を流しつつ、私は訊ねる。
「で、ここって一体ドコなワケ?」
「ここか?そりゃあババルノーア諸島に決まってんだろ」
「あーうん、そだね。ちなみに私が訊きたかったのはここがババルノーア諸島の何島なのかって事なんだけどさ」
「んだよー。そうなら何島かって訊けよー」
唇を尖らせて文句を垂れる…………えーと…………なんて名前だっけな。
「…………それ男がやってもキモいだけだから。さっさと教えなさいよ、ここ何島?」
「ひっでえ事言うなあ、おれ命の恩人だぜ?ま、何島かと訊かれれば、ハケナ島だと答えるしかないんだけどな」
「ふーん…………ってはあ!?ハケナ島!?」
確か、別動隊の冒険者共が行ってた火山島──だったような気がしないでもない。
「…………今何日?」
これもお約束になってきたが、それでも訊ねないワケにもいかない。
「261日だが」
…………んー、ってことはあの日から二日か。
まあ、そんなもんかな?
「おれからも質問だけどよ。お前らヌムル島の担当だっただろ?それが何でこんなトコに居るんだ?」
「いや、それは私が訊きたいんだけども…………私、どういう経緯であんたに見つかったワケ?」
「経緯も何もねえよ。海岸に流れ着いてたのを見つけたってだけだ」
「…………ふーん」
そりゃまた、ワケがわからんなあ。
吸血鬼としての縛りとして『流れる水を渡れない』──というのがある。
まあ、大雑把にカナヅチで済ませてもらっても構わないんだが。
とにかく水に沈むなり浸かるなりするとダメージを受けるワケだ。
それは影の無い状態での直射日光よりは数段軽くはあるものの、しかし確実に吸血鬼の存在を蝕む。
今の私でも水に落ちれば持って二、三十分で消滅するだろう。(ちなみに影無し日光なら多分五分持たない)
そんなワケで、あの時川に落ちた時はマジで死んだと思った。
が、ご覧の通りの有り様である。
まあ、吸血鬼最大の弱点である日の光を克服した今なら、カナヅチぐらいものの数ではない──と考えられなくもないかもしれないが、しかし私に課せられた天罰がそんなに安いものなら苦労はしていない。
やはり、どこか作為的なものを感じざるを得ない──どうにもこうにも、誰かに何かしらを掌握されたような感覚を消す事が出来ない。
無論、根拠など在りはしない──一から十まで余すところ無く直感である。
そして、私の勘は当てになるとも当てにならないとも言えない、至って普通の勘だ──まあ、常識的に考えれば単なる気のせいだろう。
気のせいなんだろう。
だけど、だけども、うーん………………
少なくとも今考えてどうにかなるもんじゃない、という事ぐらい自分でもわかっちゃいるんだけども。
あー、なんだか気に入らないなあ、もう。
「…………どうした、スゲー不機嫌そうな顔してるぞ」
「べっつにー。まあ、私が何でここにいるのかは、私にもわかるっちゃわかるしわからないっちゃわからないんでね。先にあんたらの方を聞かせてくんない?」
「そりゃ別にいいけど、おれそういうのあんまり得意じゃねえんだよな…………っと。おー、ちょうど良いタイミングに来た来た。おーいお前ら」
水色少年が手を振る先からは、三人の少女が歩いて来ていた。
「そんな大声出さなくたって聞こえてるわよ…………あら?」
「もう目を覚まされたんですね、良かった…………」
「あははは、ネレムちゃんは心配性だよねーホントに」
──順番に、動きやすそうな軽装に身を包んだツインテールの少女。
豪奢な法衣を纏った金髪金眼の短髪美少女。
そして長い緑髪を靡かせた何だか軽そうなローブの少女。
「…………ハーレム勇者?」
「はあ?おいおい人聞き悪ぃな。おれは勇者なんて胸糞悪ぃ人種じゃねえよ。アクティのヤツと一緒にすんな」
…………否定すんのそっちなのかよ。
「だいたい【極星】は勇者サマじゃなくて聖女サマでしょうが」
「ああ、そうだったな。ま、おれの仲間だよ。ご覧の通りに女しかいねえから、おれより話しやすいだろ?めんどくせえ話はあいつらに訊いてくれや」
そう言うと、スタスタと水色野郎は歩き出した。
「ちょ、あんた、どこ行くワケ?」
「んー、取り敢えずは見回りかな。何が起こるかわかったもんじゃねえし。取り敢えずは情報交換だ、終わったら言ってくれや」
そう言い捨てると、水色馬鹿は視界から消えた。
「…………何あいつ。いくらなんでも適当過ぎんでしょ」
「ええ…………ごめんなさい、いつもあんな感じなんです」
最初に金髪少女が頭を下げた。
「いや、別に謝ってくれなくても良いんだけどさ…………えーと、取り敢えずは自己紹介からかな?クレアレッド・フラムルージュ。一応【黒】の冒険者です」
「これはご丁寧にー、あははは。自分はあのお馬鹿の仲間で、ミネルラって言いますー。識者やってまーす」
緑髪の少女が手を振りつつ答えた。
「あたしはロワーヌ。格闘士。よろしく」
簡潔にツインテ少女は答えた。
「……ネレム・トリムトールです。カイレンがご迷惑をおかけしたみたいで、申し訳ありません」
最後に、法衣着用の美少女がペコリとお辞儀した。
…………なんか、どことなくメリルに似てるなこの子。
苦労性っぽいトコとかが、特に。(他人事のように)
「ま、私は新参者なんで先輩に偉そうな事は言えないから。別に畏まらないでいいよ」
取り敢えずは愛想良く挨拶しておいた。
「で、私としたらまだ何が何だかって感じなんで、まずは状況を教えてほしいトコなんだけども」
「はい…………わたし達ハケナ島担当の冒険者は、活火山島であるこの島の調査を依頼されていたのですが」
「なーんかおかしなカラクリ兵がウジャウジャ湧いて来ててねえ」
「そいつらのせいで冒険者連中は散り散りになって、今に至ってるわ」
「ふうん…………まあ、私達とだいたい一緒か」
「そうなんですか?」
「まあね。ヌムル島の住人達は多分ウェル島に避難してるっぽいから、多分大丈夫だとは思うけど──」
そういやそれも確認出来てないままだな。
「それで私はウィル島からウェル島に渡るトコだったんだけど、途中で変なのに襲われてね。気絶させられちゃって気付いたらこの島ってワケなんだけども…………」
…………改めて口に出すとメチャクチャみっともないな。
はづかしー。
「ウィル島からこの島までって…………そんなに遠くはないけど、かといってさして近いってワケでもないよ?」
「ふーん、そうなんだ。やっぱおかしいんだ」
「ふーんって…………あなたも中々緊張感が無いわね」
「よく言われるよ」
主に妹に。
「それで、あんたらは一体何してるわけ?」
「もちろん依頼の為にも諸島の住人達の為にも、このまま放置しておくワケにはいきません。今のところは、あのカラクリ兵を調査しているところです」
「ふーん…………」
そんじゃ、私はどうしたもんかな。
ウィウェル島にとんぼ返り──は嫌だな。めんどくさい。
どうせあっちにはメリルがいるんだし、ほっといても大丈夫だろ。
「んじゃ、私もそれ手伝おうかなー」
「え?いいんですか?」
「良いも悪いも、私だって冒険者だからね。依頼は果たさなきゃなんないよ。幸いここには先輩がいるんだから、気楽にやれそうだしねー」
──もちろん、私だってただ怠けたいが為にこんな事を言っているワケでは決してない。
私だってそれなりにメリルの事は心配である。
だが。
ここで私の同格である【黒】の一行を見つけた以上──放っておく事は出来ない。
決して。
断じて。
私達がこの諸島にやって来た──目的の為に。
めぐりあい。
新キャラ続々登場。
こいつらはかなり初期から考えてたやつらなので、出せて嬉しいです。