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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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嫉柵






「んー……それでゴーモンてどうすんのかな?」


私は頭の中を読視(よみ)とった後、白々しく訊ねる。


「え?まあ適当に傷めつければいいんじゃないですか?そういうの得意そうですけど」


「あはは、段々歯に布着せなくなってきたねークティナちゃん。ま、その方が気楽でいいんだけどさあ…………いやいや、拷問の心得は無いんだよねえ。そういうのは、なんというか、試す機会が無かったもんで」


「なるほど~。いつもその前に皆殺しにしちゃうワケですね」


「キヒヒヒ、そゆこと」


その会話の裏。

『識覚同調』により、読視とった情報をメリルと共有する。


「…………やるだけ無駄だと思いますがね。大方単なる捨て駒でしょうし、重大な情報なんてもってないと思いますよ」


メリルもメリルで素知らぬ顔のまま会話を続ける。


「まあまあ、かといって調べないってワケにもいかないしねえ。えーっとどうしたもんか…………まずは目ぇ覚まさせなきゃなっと。んしょ」


ベリッ。

爪を剥がしてみた。


「っ!?ぐ、うぅぅぅうぅ…………」


「ふんふん、結構堪えるね。やっぱ裏の人間だな…………傷みに訴えるのは無理筋っと。んー…………どうしたもんかなぁ。えーとー、人質とかって通じるかな?」


隣の捕虜の眼球目前に指を翳す。


「…………殺せ」


しかし、男達は無表情のままそう呟くだけだった。


「はいこれも無理っと。となりゃ自分から吐かせるしかないワケで…………あーメリルおねがーい」


『眷属創造』で眷属化させれば手っ取り早いが、言うまでもなく人前では使えない。

ま、まともな情報を持ってないってことはすでに読視とっているのだが、ポーズは必要である。


「結局わたし頼みですか…………ま、適当に精神操作の術式(コード)でやってみましょうか」


「あ、だったらあたしがやりますよー。あたしも別に得意じゃありませんが、そういうのは【雷鼓】の分野ですしね」


そう言うと、クティナちゃんは捕虜の額に手を当て、魔導識(スペルコード)を行使する。


「狂言仕掛けの哀れな傀儡、偽を剥ぎ毟りて真を病み嘔け──《謀欺壊解エスクロ》」


嫌な気配を漂わせる稲妻が疾駆り、とたんに捕虜が虚ろな表情で項垂れた。


「うーん…………確かに、大した情報は持ってないみたいで──」


と。

そこで、クティナちゃんの表情が凍り付いた。


「──ヤベ、しくった」


そんなクティナちゃんの素の声を聞いた瞬間──


視界が閃光に覆われた。




□■□■□■□■□■□■□

■□■□■□■□■□■□■




「──!?姉さっ──」


唐突に炸裂した霊光に、わたしは目を閉じる。


「これ、は──!」


無属性(・・・)術式!

八属性を隈無く均等に練り上げ組み上げた末に完成する万能魔導識(スペルコード)

まさか、この威力この完成度の無属性術式なんて、【黒】の識者(ウィザード)でも難しい筈──!


「──クティナさん!?無事ですか!?」


あの姉は正直どうでもいい。

心配するだけ損だ。

どうせ何食わぬ顔で、『あーびっくりしたー』とかほざくに決まっているのだ。

心配なのはあれをゼロ距離で受けたクティナさんの方──


「──エホっ、けほ。ううー、すみません。カウンター術式(コード)踏んじゃいました」


「貴女もですか」


「へ?何の話です?」


土煙が晴れると、クティナさんが身体のホコリを払いながら現れた。


「ま、この様子だと心配いりませんね」


「みたいですね。どうやら殺傷目的の術式じゃないみたいでしたが…………何か仕込まれたんでしょうか?」


自らの身体を見回しながら言うクティナさんだったが、わたしが視る限りでは特に異常は見受けられなかった。


「どういうことでしょう?術式還元(デコード)は出来ましたか?クティナさん」


「いえ、流石にその余裕は無くって、防御術を展開するので精一杯でした…………けど、なんとなく予想はついています」


跡形も無く消し飛んだ捕虜達の身体の在った場所を眺めつつ、クティナさんは言った。


「無属性術式を実際に体験したことはほとんど無いので推測の域を出ませんが──おそらく情報を吐かせようと精神干渉系の術式を使用したら発動するように組み込まれていたんでしょう。手応えからはかなり深部に仕込まれていたようで、そのせいで発見が遅れました……けど、それほどの隠蔽措置をしていれば必然的にもっと効果も範囲も落ちるし、何より起動時間が短すぎました。…………正直、まだ信じられません。挙げ句の果てに他の捕虜の術式まで連鎖起動させてる」


いつもとはうって変わった小さな声だった。

それを聞いて、わたしも分析を始める。


「それほど複雑な術式…………おそらく一人で組み上げたワケではないでしょう。そもそも無属性術式は八属性それぞれに特化した識者(ウィザード)八人がかりで組み上げるのが普通です。そんなレベルの無属性術式なんて──単独で組み上げるにはそれこそあの《五神(いつつがみ)》でもなければ到底構成不可能な筈」


わたしだって到底無理だ──闇樹海という極端な環境で育ったわたしは、もともと複数の属性を組み合わせた複雑な術式は苦手分野なのだ。

どちらかと言えば一つの属性を収斂させ、特化させる術式が得意である──人間により生み出された魔導識(スペルコード)が他種族に余り好まれていない理由がこれだ。

得意属性というものは大きく分けられて二つ──『種族属性』と『個体属性』。

『種族属性』はその名の通り、種族で所有する属性のこと。例えば吸血鬼や闇森人(ダークエルフ)なら【闇絶】。魚人なら大概は【水鏡】である。

ただ、種族属性と言うものの、同じ種族内でも結構なばらつきが有ったりする──特に獣人なんかは氏族によって見かけも属性もバラッバラである。

そして個体属性は種族に関係無く、個人個人が所有している属性である──姉さんなら【炎禍】、わたしなら【水鏡】と【土嶽】。

そしてわたしから分かるように、個体属性は複数所有している場合もある。

つまり、姉さんは【闇絶】【炎禍】の二つ。わたしは【光芒】【水鏡】【土嶽】の三つの属性を所有しているというワケだ。

そして、ここからが魔導識(スペルコード)に関係してくるワケだが──

以前も言った通り、魔導識(スペルコード)は八属性の中にある十八の【因子】を組み上げて行使する。

そして、一属性突出型や術式展開(エンコード)の苦手な使い手は、識者(ウィザード)と区別され、魔導士(ソーサラー)と呼ばれる。

識者(ウィザード)魔導士(ソーサラー)を分ける壁は、複数の属性因子を組み合わせて、術式展開(エンコード)を行える事。

一属性の【因子】を組み合わせただけでは魔導士(ソーサラー)止まりなのである。

姉さんが魔導識(スペルコード)のセンスが無いと言っていたのは、この複数の属性を組み合わせての術式展開(エンコード)がさっぱりだったということである。

逆に今、高度な精霊術(エレメンタル)を易々と遣ってる所を見ると、魔導士(ソーサラー)にならなれただろうと思う。

精霊術(エレメンタル)魔導識(スペルコード)の決定的差異は、術式展開(エンコード)を自分で行うかどうかというところなのだから。

精霊術は、霊力(オド)を霊術として形為す所を霊契約(プロトコル)した精霊に全て任せているのである──無論、精霊遣い(エレメンタラー)と精霊との間で取り決めをして、精霊遣いの望んだ時に望まれた霊術を展開しているのだが。

…………話が逸れた。

えーっと、何の話だっけな…………ああ、そうそう。

で、何故に人間以外の他種族に魔導識が好まれていないのか──というより向いていないのか。

実は人間種には『種族属性』が存在しておらず、所有属性は全て『個体属性』に依るものなのだ。

そして『種族属性』という魂識(イデア)に濃く刻まれた属性が無い分、所有属性でない属性も他種族に比べて非常に修得しやすいのだ。

高位の人間の識者(ウィザード)なら、八属性を隈無く修得しているのもいるのである。

そして、わたしは所有属性の【光芒】、【水鏡】、【土嶽】、そして無論前三つよりは格が落ちるものの、【炎禍】、【風蘭】、【雷鼓】、【氷麗】の四つも修得している──が、【闇絶】属性だけは修得していないのである。

吸血鬼の種族属性は【闇絶】ではなかったのか、とツッコマれそうだが、どうもわたしは吸血鬼となった今でも未だに仇児(あだご)であるらしい──日光を浴びても素知らぬ顔でいられるのはそのせいだろう。

つまり、おそらく姉さんが日光に耐えられるのは別の理由があるに違いない──姉さんは髪の毛の先から足の小指の爪まで余すこと無く純血の吸血鬼なのだから。

あー、また話が逸れちゃったな。

ようするに。

『種族属性』を持つ他種族はその属性に偏ってしまっているため、満遍なく使える人間種の生み出した魔導識(スペルコード)には最初から向いていないというワケである。


「というわけで──複数の敵が、おそらくは今もわたし達をつけ狙っているであろうということです…………そして、あれほどの術式を使いこなす識者(ウィザード)複数が相手である可能性が高い。まず間違いなく強敵ですね。気を引きしめていきましょう、クティナさん」


「あ、はい。それは、うん、その通りです。わかりました」


「では急ぎましょう。ボヤボヤしていると、また襲撃やら(トラップ)やらがやってきかねません。警戒しつつ、ウェル島に向かいます」


「あ、はいそうですね」


「はい、そうと決まれば後はこの山道を降りるだけです。昇りよりはいくらか楽でしょうし、速くしましょうか」


「…………はい」


…………どこか困惑しているようなクティナさんだったが、今は急をようする。とっとと山を降り、マレグリーへと向かわなければ。


「しかし…………厄介ですね。ちゃんと姉さんが《黒白生死波(モノクローム)》で探知は行っていたんですが。あの刺客達が気付かれずにここまでこれたということは、同じ闇絶術で紛れ込ませたか、あるいは光芒術で相殺したのか──」


「あ、あのっ!!」


と、考えていると後ろからクティナさんが声をかけてきた。


「どうしました?クティナさん、何かに気付きましたか?」


「いや、その、気づいたといいますか、なんというか、あのー………………」


少しの沈黙を置いた後。

クティナさんは、苦笑いを浮かべつつ言った。






「クレアレッドさんは、一体、何処に…………?」


「…………………………」


静かに、周りを見渡す。

崖の向こう側を含めて、この場所にいるのはわたしとクティナさんだけだった。















「あ」


しっさく。




またごちゃごちゃと説明がありますが、飛ばしちゃってくれて全然構いません。

残りストックが結構肉薄してきちゃってます。

……この土日が勝負だ!

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