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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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訣課






ふて寝から目覚め、翌日。

無断借用したベットから降り、一階への階段を下る。

リゾート地らしく数多くあったホテルの中で、気に入った部屋に勝手に泊まっていたワケだが、まあ誰も文句は言うまい。

朝食がわりにこの仕事に望む前に買ってきたお菓子をバリボリと食しながら、メリル達が魔導機兵を解析しているロビーへと辿り着いた。

高級ホテルの中に薄汚れぎみのカラクリがあるのはなかなかのミスマッチだったが、これもまた文句を言うヤツは誰もいないのだから別に良いだろう。


「おっつかれー」


手を振りながら魔導機兵の側に横たわっている二人に歩み寄る。


「──ありゃりゃ、寝落ちてるや」


クティナちゃんはホテルの高級そうなふかふか絨毯に大の字になって涎をたらしつつ眠り。

メリルの方は照破紅柩(ヴィシニザルク)の上に顔を乗せ、静かに寝息を立てていた。


「…………起こしちゃ悪いかな」


私は静かにロビーを出て、食堂へと入った。


「んー、やっぱここにも何もないか」


私もあの後即座にふて寝したワケでは無く、他の冒険者(トラベラー)達と一緒にこの町をさらに詳しく調べて回ったのだが、住民は発見出来なかった。

が、まるで収穫が無かったワケでは無い。

昨日メリルが言ったように、住民達は最近消えたというワケでは無さそうだが、しかし神隠し的にドロンと消えたワケでも無さそうなのだ。

何故なら、食料を始め日用品等が持ち去られているから。

まあ、住民が消え去った後に何者かが火事場泥棒的に持ち去った、という線も無くは無いが、それにしては町全体の物品がくまなく無くなっている。

つまりは住民達が自ら持っていった、と見るのが妥当だろう。

そうすると港に他の船が無かった事にも説明がつく──きっと物資をあらかた船に乗せて、住人達は他の島へと避難したのでは、というのが有力な見解だった。

そしてその通りだとすれば、多少は安心できる──少なくとも物資を船へと運び込む余裕は有ったと言うことなのだ。案外他の島々の住人達で固まって避難しているかも知れない──無論推測であり、希望的観測だが、しかしその可能性は高い。


「案外大事にはなって無いのかな?まあ、少なくとも住人達は一人残らず魔導機兵達に虐殺されちゃいましたー、なんて事は無さそうだ」


私達がこの島、ヌムル島へと派遣されたのは、観光客等の島外からの人間達が数多く帰ってきていないからという事だが、この分だと無駄足だったかも知れなかった。


「んー、確か他の二班が向かったのは一番大きいウィウェル島と、火山島であるハケナ島だったよね。…………んーん、住人探しならウィウェル島へ向かったほうが良さそうだなーっと。お、ジュース発見と。やりぃ」


非常食倉庫のような部屋を奥で見つけ、瓶ジュースを一ダース箱ごと運ぶ。

他にも乾パンやチーズがあったが、この程度の食料なら船に置いてあるため必要無い。


「どーしよっかなあー、あんましグズグズしてると先越されちゃいそうだしなあー。ま、取り敢えずはメリル達の解析待ちかな」


ジュースをらっぱ飲みしつつ改めてロビーに戻ると、二人が目を覚ましていた。


「ありゃ、お目覚め?おっはろー」


「あ、姉さん。珍しく早起きですね。さては外は大雨ですか?」


「いやいやいやいや…………時計見なよ。もう十時だから。」


「知ってますよ、狙って起きましたから。まあそうですね、早起きとまではいきませんでしたね」


「…………ふあー、おはようございますお二方。ああ、夏の朝日が眩しいですねー」


クティナちゃんも伸びをしつつ目覚める。

…………しっかし寝起きいいなーこの子ら。

ちなみに私は完全覚醒まで軽く十分はかかる。


「あ、奥でジュース見つけたけどいる?」


「いただきます」


「あ、自分も拝借しまーす」


そう言うと、二人は早々に私の手から瓶を取り、飲み始めた。

ちなみに二人ともお上品な飲み方である。

…………この差はなんなんだろうなー。


「んっく、んっく…………!?ぶぅーー!クククレアレッドさん!これお酒じゃないですか!」


「えぇ?んー、あ、ホントだ。ごめんちゃい。ま、別に良いじゃん似たようなもんだし」


「ににに似てませんって!うう……自分お酒だめなんですよう……」


「大丈夫ですか?クティナさん。馬鹿姉が申し訳ありません……」


「あ、いえいえ大丈夫です。一口ぐらいでしたから」


「そーだそーだ、大したことないよー。だからメリル、お姉ちゃんにその冷たい視線を浴びせるのは直ちにやめなさい」


吸血鬼(わたしら)にとっちゃジュースも酒も一緒くたじゃんか。

区別なんてないんだもん。


「はあ…………まあいいでしょう。それより、この魔導機兵についてでしょうし」


メリルは背後の魔導機兵に向き直り、語りだした。


「まず、この魔導機兵を動かしているのは魔導識(スペルコード)です。組み込まれている術式(コード)は無数ですが、その中でも中核を担っている主要術式(メインコード)は昨日クティナさんが指摘した通りに雷鼓の術式。したがってこの魔導機兵は雷鼓の霊力(オド)をエネルギー源として動いているわけですね」


「ははあ、なるほど」


「で、昨夜はそれ以外の術式の詳細を調べてみたワケですが…………この魔導機兵には大きく分けて三つの命令術式(オーダーコード)が組み込まれている事が解りました」


「ん?三つ?」


「ええ、三つです──まず一つ目は『戦闘術式』。まあ、単純に戦闘の為の術式ですね。しかしこれは至ってシンプルな構造でした。そこらのありふれた魔導土兵(ゴーレム)とさして変わらないレベルのものですね」


「ん、だろうね。動きが単調極まり無かったし」


「で、二つ目──『吸収術式』。機体の周囲の霊力(オド)を吸収し、内部に貯蓄する術式」


「…………」


「三つ目……『転送術式』。一定以上の霊力が機体内に貯蓄された場合、即座に指定した場所へと蓄積霊力(オド)を転送する術式」


「…………結論は?」


私が重々しい口調で訊ねると、メリルは疲れた風に答えた。


「つまり、あの魔導機兵達は霊力を集める働き蜂の役割なワケです。それがどういう結論を示すのかと言えば──」


「──じょ「女王蜂の存在、ですね?メリルさん」


「ええ、その通りです」


「……………………」


クティナちゃああああん!

何故に横からかっさらっていったああああ!

一体私が何をしたって言うんだ!


「お酒飲ませたでしょう」


「…………はい、ごめんなさい」


因果応報。

自業自得。


「で、で。その『転送先』は逆探知できたの?」


「ええ。てっとり早く魔導機兵に霊力をチャージさせて、実際に転送の様子を『観た』ので。転送先は──」


メリルは言った。


「──ウィウェル島です」



けっか。




目的地が決定。

……したんだけどもヤバいストック切れそううあどうしよもうだめ

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