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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
48/90

亞今






『ギュオオオオオオオッ!!』


咆吼を上げ、鉱石に包まれたその巨体を以て吶喊してくるのは、(ドラゴン)にも匹敵するとも謳われる魔獣──《臥塊咼(ギュルテルティア)》。


「…………いや、アルマジロにしか見えないんだけどね。もうちっと小さければなあ」


嘆息しつつ──体長三十メートルはあるその回転する体躯を、真っ正面から受け止める。


「──おっ、らああああああああああああああああああ!!」


渾身の巴投げ。

は、サイズ的に無理だったが──とにかく、背後へとその巨体を投げ飛ばした。


「めーりるー!いったよー!」


「…………そんなに大声出さなくても聞こえてますよ」


クールにそう言うと、メリルは仕込んでいた霊陣(キルクルス)を起動させる。


「終わり無き供道を今此処に、涯無き彼方へと数多の血涙を纏いて衝き進め──《紅婁海昇(ヴァダパート)》」


紅の飛沫がまるで滝の如き勢いで、しかし垂直に昇ってゆく。

これがホントの滝登りか──などと思っていると、それに《臥塊咼》が打ち上げられ、天高く昇っていく。

無論、その水圧により《臥塊咼》の堅牢な鎧には皹が入りつつあった。


「ひょっとしたらこれで決まるかとも思いましたが……そこまで甘くはありませんか。姉さん、任せます」


「りょーっかい!──今、崩壊は訪れた。瓦解の音色を奏でつつ、屍共は何を願わん──《潰滅煉魔(リュテリチァール)》!」


──闇絶と炎禍の混合霊術。

破壊と破滅の黒き爆炎は、轟音を立てて魔獣へと炸裂した。


『ギュアアアアアアアアッ!!』


「おー、まだ耐えるか。かったいなあホントに。けど──」


私は腰から愛剣を引き抜き、空へと目掛けて振り抜く。


「──終わりだよ。紅剣・紅藤」


紅の連閃。

既にその甲皮をあらかた破壊されていた《臥塊咼》になすすべなどあるはずが無く──魔獣は断末魔を上げる事すら許されないまま、紅炎に燃え尽きた。



▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△



「いっやー、大分《赤紅朱緋(わたしたち)》の評判も上がって来たんじゃないの?」


「ですね──まあ、何度か危ない場面もあったワケですが」


「ぐうぅ…………」


言葉も無い。

メリルのカバーが無ければ、何度評判が地に墜ちていたか分かったものではないのだから。


「いや、自分から墜としにいったようなものでしょう…………いやー、あの時キレて貴族を半殺しにしたときはどうなることかと思いました」


「い、いやー、その。あいつメリルを変な目で見やがってたし」


「スルースキルが有るのか無いのかわかりませんよね。裏ギルドを潰すついでに街まで半壊させた時はこりゃ終わったと思いましたよ」


「…………むしろ、あの時のメリルの隠蔽の仕方の方がエグかったよねー。何人木偶人形にしちゃったのよ」


「小さな犠牲です。ちゃんと裏ギルドの活動に少なからず協力してた輩を選んだんですから、それも仕事の内でしょう」


「そう言えば、あいつらって結局どうなったの?」


「《使役鬼(ゼルドナー)》にしてそのままキープしてます。そのうち役に立つかも知れませんし」


「えー?それでも陽の下では活動出来ないでしょ?」


「大丈夫ですって、地下に籠らせてますから」


「…………それでも色々と厳しそうだけどなあ」


「別に、今日日家に籠って仕事に励んでばかりの人間なんて珍しく無いですよ?夜になったらちゃんと移動出来るんですから、心配要りません。ヤバくなったら削除しますし」


「…………ま、下駄を預けるよ。私にゃそういうの向いてないし」


「自覚はちゃんとあるんじゃないですか。無自覚よりはましですよ」


などなど、討伐した《臥塊咼》の素材を採取しつつ、そんな会話を交わす。

今日で嶽の月二百三十三日。

【黒】の冒険者(トラベラー)となってから、一月以上がたった。

これまでに随分と様々な依頼(クエスト)をこなして来たものの、しかし余り歯応えの無いものばかりで、残念である。


「──とは言っても、周りからすれば偉業らしいけどね…………けどさあ、順当に順位で考えるならさあ、私よりも格上の冒険者が、後十六人いるワケでしょ?」


【黒】冒険者が、末席の私を含めて十二人。

その上の【虹】の冒険者があのグクリを含めて五人。


「それだけじゃなくて、師匠みたいに冒険者じゃないってだけで他にも強い人達はたくさんいる筈じゃん?何で私達ってこんなに持て囃されてるワケ?」


「…………まあ、色々と理由はありますよ。単に女二人ってパーティ構成が珍しいって言うのから、どこのギルドにも所属していない、金銭面への頓着が薄い、なにより──他の高位冒険者で真面目に働いている人が余りいない、とか」


「はっはーん!美少女二人大活躍してるワケだからねえ!そりゃ確かに注目もされるよねえ!」


「…………ま、否定はできませんね。所詮冒険者も客商売ですし」


あらかたの素材を《黒箪(パンドラ)》へとしまったメリルは、一息吐く。


「しかし、そろそろ暢気にしていられるのもここまでみたいですよ」


「?」


「《黒天十二星》──その十一位。【氾星】が魔大陸から帰ってくると小耳に挟みました」


「へーえ。私の一個上かあ。ま、あんまし期待しない方がいっか。私が上がるまでは最下位だったワケだしね」


「どうでしょう?余り馬鹿に出来ないと思いますよ──馬鹿が馬鹿に出来ないと思いますよ」


「何その酷い訂正!」


「何しろ彼はあの、《六曜刃》のリーダーの祖先と言われているのですから」


「…………《六曜刃》の?」


《六曜刃》。

【魔眼大帝】の血戦を制し、『魔眼大戦』を終戦へと導いた六人の英雄達だ。


「…………《六曜刃》を知ってて何でグクリ・キルブーを知らないんですか…………ゴホン。ええ、あの英雄、《シスイ・ムノマテリナ》の子孫と言われています」


「へえー。……しっかしそんなの本当かどうかわかんないんじゃないの?ハッタリ野郎かもしんないじゃん」


「ええ、証拠はありません──ただ、あの《黒天十二星》筆頭の【極星】がそう言ったそうです。彼には確かに英雄の血が流れていると」


「…………んんー?《六曜刃》の英雄って……確かオチとしては同じく《六曜刃》の一人である聖女サマと結ばれてめでたしめでたしじゃなかったっけ?」


「ええ。栄えて二人は、かの陽王国の王と女王になったワケです」


「…………うん、知ってるよ」


それは。

よーく、知っている。


「じゃあ何で?つまりは陽王国の王族ってワケ?」


「いえ、そうじゃなくてですね。あー、まあ、ざっくり言えば」


と。

やや目線を逸らしつつ、メリルは言った。


「妾の子の、子孫らしいです」


「………………はあ」


なるほど。


「あー…………そう言えば、あれか。シスイってハーレム持ちだったっけ」


「ええ、英雄ですからね。好色家だったのでしょう」


要するに、【極星】ともかなりの遠縁ではありますが、親戚というワケです──とメリルは言った。


「しっかし、じゃあその【氾星】ってのは自分の血筋は知らなかったんだよね?」


「らしいですね……フリシオンの小さな街で生まれ育ったそうですが、しかしその街は確かにシスイ誕生の地として有名な街だそうです」


「ふーん。シスイの幼馴染みでもいたのかねえ」


よくいる、メインヒロインに幼い頃から想い続けてきた主人公をかっ拐われるサブヒロイン的な。

まあ、ファンタジー世界だから股にかけ放題だしな。

ハーレムエンドでハッピーエンドだ。


「なるへそ。まあ、確かに陽王国の王族は聖女の血筋が濃く出てるからねえ。いや、周りが聖女の血族なんだから当たり前なんだけどもさ。それに引き換え、シスイの地元ってんなら血筋は似たようなのばっかだろうし、そりゃそっちの方が血が濃く出るわな」


…………なるほど。

ここ数年、東っ側がキナ臭くなってきてたのはそれが原因──とまではいかなくとも、要因の一つではありそうだ。


「…………そりゃ面倒な事になって来そうだ」


「まったくですよ。陽王国は既に彼を勧誘し始めているようです…………当然でしょうが」


「きひひひひひひ、【極星】とくっつけちゃえば、さらにすんげーサラブレッドがデキるんじゃないの?」


「そう言う事ではありません…………峨々帝国がいよいよ痺れを切らす頃ですよ。『魔眼大戦』が終わった途端に戦力拡張に着手した国ですからね。この大陸に覇を唱えるのではとまことしやかに囁かれている所です」


「宵王国は例によって既にズダボロ。フリシオンは平和ボケ。まともな障害は──陽王国、月王国の二つか」


「もっとも、言うまでもなくフリシオンは《虹の大陸》最大の大国です。単純に《混合国家フリシオン》に所属している戦力となれば、他の国では及びもつかないでしょうが…………」


「所詮この国も寄せ集めだからねえ。いざって時にはかつての国々が、各々の利益だけを確保しようとするでしょ。種族間の壁が取り払われた、なんて言ったところで最後の最後では自分種族(トコ)を優先するだろうしねえ」


もちろん、それが間違っているとは私には思えないが。

しかし『混合国家フリシオン』の存続にかけての話なら、悪手でしかない。


「地理的に」


と、私は言う。


「他の国からすりゃ、断じて放ってはおけないからねえ。なんてったってこの大陸のど真ん中中心だもん。他国を狙うなら先ずもってここを抑えるだろうし、狙われる側からすりゃ抑えられるワケにはいかないし」


「周りがどう動くにせよ、この国が戦禍に見舞われる確立は高いですね…………嫌な話です」


と、そこまで話したところでメリルが怪訝な顔で訊ねて来た。


「…………なんだか、政治面では随分と良く喋りますね。いつもの『知らん』。『わからん』。『どうでもいい』。はいったいどこへ行ったんですか」


「いや、そんなに言ってるかな!?」


「言ってないと?」


「…………いえ、言ってたかも」


かも(・・)?」


「…………言ってました。ごめんなさい」


素直に謝った。


「はあ、それじゃそろそろ行きますよ。さっさと仕事を終わらせましょう」


「ほいほーい」


──流し目で、北西の方角を一瞬だけ見た後。

私は、妹の後を追った。



あいま。




少々冒険者稼業も板についてきたようす。

次回から、本格的な冒険に乗り出します。

例によって例の如く前置きなげーな。

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