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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第二楽章 赤と紅の交響曲
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惑死期






《戯れ兎》のホーム内での作業を一時間程で何とか終わらせて、わたしは最上階への階段を昇っていた。

姿をわたし自身のものへと『改変』する。

もう小細工は全て終えた、後は正面突破あるのみである。

最上階、ギルドマスターの部屋の扉をノックもせずに開く──


「ッ!《纏白絹(マーリアルス)》!」


グニャリ、と視界が歪み。

黒い鏃が群れを成して襲いかかってきた。

咄嗟の防御霊術で幾らか減退させたが、数発喰らう。


「くっ………」


何とか逃れ、部屋の中へと転がりこんだ。


「あら失敬、侵入者なんて久しぶりなもので、ちょっとムキになっちゃったかしら?」


クスクスと笑うのは、無論このギルドの主。

広い執務室のような部屋のデスクに、まんま魔女(ウィッチ)然とした女が座っていた。

見かけは若い女の姿だが………


「………いえいえ、むしろ余りに罠も何も無かったままここに来れたもので、逆に不安になっていた所でしたので」


「言うじゃない。もちろんある程度の探知式は張り巡らしているのだけど………見事に掻い潜ってくれたものね。予想以上に手強い相手のようだわ」


「お褒めに預り光栄です──《戯れ兎》ギルドマスター、ツォイト・ムスバーケン」


「……貴女の噂も届いたわよ、突如現れた最上級霊術をも扱う少女。名前までは届いて無かったけれど」


「メリルフリア・リルクリムゾンです。覚えてくれなくて構いませんが」


パンパン、とローブを払い、改めて相対する。


「で──メリルフリアさん、貴女は何をしにここまで来たのかしら?わたしも無闇に事を構える気は無いわ」


「問答無用にトラップぶち込んでくれておいて、言いますね」


「あんなの名刺代わりよ、貴女もなんなく躱したじゃない」


「いや、喰らいましたが」


「ええ喰らった(・・・・)んでしょ?同じ手を喰わない為に。きっともう一度撃ち込んだら、完璧に防御──いえ、弾き返されても可笑しく無いかしら」


「…………」


術式還元(デコード)』を……気取られたか。

どうやら、余り甘く見ない方が良いようだった。


「わたしの目的……ですか」


…………正直。

何故ここに来たのか……自分でもよく分かっていない。

わたしは──姉さんとは違う。迷わずにひた向きに突っ走る事なんて出来っこない。

だけど。

それでも。


「……聞きたい事が、あるんですよ」


そう。

わたしは。

わたしはあの娘を。

カリサさんを──助けたいんだ。


「カリサという少女の母親について」


「…………んん?」


ツォイトは怪訝な顔を見せる。


「あんな女の事を聞いてどうするのかな?まあ、別に聞きたいってんなら教えてあげるわよ」


本当に心底謎だという雰囲気を見せながら、魔女は語る。


「あの娘の母親は腕の良い識者でね、アタシが大枚叩いてスカウトしたの。何だかお金に困っていたみたいだったから、快くウチに入ってくれたよ」


「…………それは調べました」


わたしは言う。


「わたしが知りたいのは──彼女がどうしてああ(・・)なったのか。その真相についてです」


「………………」


ふう、と溜め息を吐き、ツォイトは語り始めた。


「彼女はその実力を活かして、とある邪霊術書を解析しようとしたの。良いとこまでいったみたいだったけれど………結果はあの通り。手に負える代物じゃあ無かったみたいね」


「………同じことを言わせないで下さい」


声に力を込め、言う。


「わたしは真相(・・)が知りたいと言ったんです」


ギロリ、と眼に力を込めて睨み付けた。

魔女は。

ニヤリと笑い、口を開いた。


「あー、はいはい、分かったわよ………アタシがやらせた。というのは違うか、依頼したのよ。邪霊術書を解析してくれと。そしてもちろんキチンと報酬も用意してね………文句有るかしら?真っ当な取引でしょう?前金だってしっかり払った、痛ましい事故が起きちゃったのは残念だったけれど」


「………………」


「………そう睨まないの。ええ、知ってた………あの邪霊術書があれの手に負えないであろう事はね。だが、データは得られるわ。失敗は成功の母。彼女の名誉ある失敗は次の挑戦の糧となった。貴女も識者なら理解出来るでしょう?犠牲無くして技術の進歩は無い………そして彼女の遺したデータにより、アタシは遂にあの邪霊術書を解析出来る確信を得た。後は………」


バン、と魔女はデスクを叩く。


「実物さえ有れば………全てが上手くいく筈だった!あの女が何処かへ隠しさえしなければねっ!」


憤懣を隠しもせずに魔女は吐き捨てた。


「それが貴女の言う真相ってヤツよ………満足したかしら?」


「………ええ、わたしも確信出来ました」


わたしは。

ローブの内から一枚の符を取り出す。


「わたしは──あなたを許さない」


そしてわたしは自らの武器を喚び出した。


「出でよ、我が揺藍──照破紅柩(ヴィシニザルク)


わたしが睡り、そして目醒めるその柩を見て──ツォイトもまた、戦闘態勢に入る。


「あらあら………随分と正義感の強いコなのね、笑っちゃうわ。死んだのは彼女の自己責任………アタシはただ頼んだだけよ」


「下らない軽口を叩き会うつもりはありません………別に、わたしは貴女の所業を咎めているワケじゃないですから。それを言い出したら──わたしはまず誰より先に自分自身を殺さなくてはいけなくなる」


「………ふーん?だったらどうしてアタシを許せないのかな」


「そうですね………許せない、という言葉は卑怯だったかもしれません。訂正しましょう──わたしは、貴女が気に喰わない」


「………………」


「姿を見るとイライラする。声を聞くとムカムカする。言葉を交わすと──殺したくてウズウズしてくる。だから、殺します」


「………貴女、狂っているのかしら?」


「ええ、まあ、そんなところです」


わたしは照破紅柩に霊力を込める。


「そんなワケで死んでください──殺されてください」


「………あー!もう!ツイてないツイてないツイてないツイてないツイてないツイてないツイてないツイてない!何でこう面倒事が転がり込んでくるのよ──クソッタレがぁ!!」


ツォイトは即座に魔導書(レクシコン)を取り出し、叫ぶ。


「このクソガキをブッ殺しなさい──出でよ、『蛇泥蝮(ヴィペルトン)』!」


ツォイトの背後に魔導陣が展開され、そこから泥で出来た身体をもつ大蛇が現れる。


「………『召喚術式(サモンコード)』ですか」


自ら元へ対象を呼び寄せる術式。

その対象を魔物とし、それを使役する事で戦う霊術使い──『召喚師(サマナー)』。

ツォイトはそれに属するようだった。


「やりなさい!」


『ギシャアアアアアッ!』


濁流の如くに迫る泥蛇。

しかし、わたしにとってそれは何の驚異にもならない。


ズズゥン………


「………はっ、どうしたの?それでおしまいじゃ無いでしょう?」


「──もちろん」


わたしの目前で泥蛇は停止していた。

わたしの展開した、紅い符に阻まれて。


「へえ………霊符(カルティア)。成る程、貴女は『符術師(ディーラー)』なのね」


「さあて………どうでしょう、か!」


今度は無数の白き霊符を放ち、それは泥蛇に纏わり付く。


「白銀の抱擁は静寂なる息吹を持って沈黙を齎さん──《白憐黙(バシラシオン)》」


『──ギオオオォォォォォォォォ………………』


泥蛇は霊符の中で吼えていたものの、霊符が収束していくにつれおとなしくなっていった。


「あら………無力化?やっぱり優しいのね」


「別に、倒した所で次のが出てくるだけでしょう?」


『召喚師』と言えど無制限の召喚は出来ない。ならばこのまま戦闘不能にして、召喚させっ放しにしておいた方がいい。

召喚しているだけ相手の手数も霊力(オド)も削っておける。


「役立たずね………消えなさい。《炎武連斬刃(ブレイズキャリバー)》」


ツォイトの魔導書が光ると、無数の炎の刃が泥蛇を微塵斬りにした。


「………『綴術師(オーサー)』でもあるというわけですか」


「というより、こっちが本家でね。『召喚術式』はまだまだ修行中よ」


………霊術には大きく分けると二つの使用法がある。

まずは最もベターな霊文詠唱(ゲベートコール)。これを使えなくては識者として話にならないという基礎中の基礎。

自らの言葉により『術式展開(エンコード)』を行い、放つ使用法だ。

そしてもう一つが、他の『霊媒』を使う使用法。

こちらは今でも開発が絶え間なく続いているので、全てを語ることはできないが、こっちが魔導識(スペルコード)の真骨頂と言われる。

文化、文明として魔導識を活用するには、本人だけが個人のタイミングのみにより使用できる霊文詠唱は不向き以外の何物でもない。

その為に他者や識者でない者も使用するため生み出された『霊媒』による魔導識達。

そして『霊媒』を介して『術式還元』を行う分、識者はより精密な術式を構築(デザイン)できる。

中でもその中心とされているのが──『霊字(イディオマ)』、『霊陣(キルクルス)』、『霊符(カルティア)』の三つだ。

そして、中でも最も緻密な『術式展開』を可能とする『霊字』を使うのが『綴術師』というワケである。


「今日び『符術師』なんてなかなか見ないものだけどね………その棺桶にしまってるわけ?だとするとかなりの量になりそうね」


「さて………それは自分の目で確かめて下さい」


半開きになった照破紅柩から霊符が溢れ出てくる。


「──《紅血花弁符(ブルーメンブラット)》」


照破紅柩を介してわたしの血から造り上げた霊符が──今、舞い乱れる。


「さて………まずは、下手な鉄砲数撃ってみましょうか?《弾閃(リトス)》《流水矢(ティラルク)》《土石針(イーゲル)》、一斉開放」


無数の紅の霊符が一瞬で紅光の弾丸、紅水の矢、紅石の針へと換わり、打ち出された。

わたしの血から霊力により変換させられたそれらは、膨大な数となり、ツォイトへと四方八方から襲いかかる。


「舐めんじゃないわよ………そんな初級霊術幾つ撃とうが──効くかあっ!《焔淵境界(フレアホロス)》!」


上級炎禍術を無詠唱で事も無げに使うツォイト。

相性の悪い水鏡術を連続で浴びても、綻びもしない。


(いくら霊字を記した魔導書と言っても、これ程の霊術を完全な無詠唱ではそうそう撃てる筈無い………【加速】の因子をかなり使い込んでいるみたいね)


恐らく風蘭属性も持っているのだろう………火力特化か。

魔導識は八属性それぞれに宿る、全属性合計で十八種類の『因子』を『呪色現写(スペルドロー)』で練り上げ、『術式還元(エンコード)』で組み合わせる事により完成する。

【増強】と【解放】の因子を秘める炎禍属性、そして【加速】と【遍在】の因子を秘める風蘭属性。

その二つを熟練していなければ出来ない芸当である。

が。

直ぐにその防壁は消え去った。


「【固定】の因子までは組み込めていないようですね………まあ、当然ですが」


火力特化故に燃費は悪い。

持続性等を高める【固定】の因子を宿す土嶽属性を扱えればそれもカバー出来たかも知れないが、相性の悪い【加速】の因子との併用は極めて難しいのだ。

いや、【加速】と同時に【遍在】まで組み込めていれば、それも不可能では………


「《火焔烈波(フレアヴァーグ)》っ!」


っと、蘊蓄を傾けている内に追撃が来た。


「無慈悲なる濁流は汝らの御霊をも圧し流す──《徒波烈濤(ヴェレヴァルナー)》!」


炎と水の烈波が衝突し──塔を大きく震動させた。



まどうしき。




魔導識の説明&戦闘回。

ちなみに投稿順を間違えたりはしていません。

姉妹交互に話が進んでるんです。

ややこしめんどくさい展開でごめんなさい。

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