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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第一楽章 赤と黒の小夜曲
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囚啗僉





「哮れ、烈火の激情。我が意志は愚者の涙を踏み潰し、全ての敵に鉄槌を下さん──《業火激咆(デストラクションロア)》!」


赤き砲口が業火を放ち、黒き魔物へと炸裂する。

響き渡る轟音。

トドメの上級炎禍術は、既にかなりのダメージを負っていたホロトゥリオンを跡形も無く消し飛ばした。

が、安心する暇は微塵も無い。

即座に私は地面を蹴り空中で反転、目線の先には今倒したものよりも更に一回り大きなホロトゥリオンが冒険者(トラベラー)達に襲いかかっていた。


「──ちっ、遠い………舐め殺せ紅月!」


空中で手にした愛剣を二つ目の姿へと変え、そのまま紅炎を纏ったそれを振り抜く。


「紅剣・紅霞!」


剣身が霞み、紅炎が揺らめく。

そしてそれが元に戻った時には、紅の斬撃がホロトゥリオンを斬り裂いていた。

一瞬の隙。

いつもならそこへすかさず追撃を入れる所だが──しかし今はその必要は無さそうだった。


「天翔る雷光よ、今こそ我が手に来たりて刃となれ──《雷光刃(ボルトエッジ)》!」


上空から(いかずち)が迸る。本来掌に雷光を宿らせ振り抜く初級雷鼓術であるそれは、上空からの滑空による凄まじい速度と術者の卓越した技量により上級術にも勝るとも劣らないものとなり、ホロトゥリオンを真上から唐竹割りに両断した。

術者の名はセレモ・クレガント。

今作戦にオババからの依頼として参加した、【白】の冒険者だ。

種族は自由を愛する天空の民──翼人族。

手出し出来ない空中へと一族の代表的な特徴である翼を以て舞い上がり、そこから攻撃速度では並ぶ属性の無い雷鼓属性の魔導識(スペルコード)を悠々と炸裂させる手練れの識者(ウィザード)だ。


「クッソがあ!何だってんだ一体!いきなり寄ってたかって俺らの所へご集合してくれやがって!」


コルダムが喚くのも無理は無い。

作戦開始から三日目、これまで作戦通りに全ては進行していた。それが今はこの有様である。

突如として現れたホロトゥリオンの群れ(・・)

既にあらゆる場所に設置されていた筈の霊分界機構(デコーダー)は何の反応も無く、まるで降って湧いたかのような災厄の魔物の襲撃に私達は何とか対応していた所だった。

百人以上いた筈のメンバーは、いつの間にか随分と数を減らしている。

いまだ私達【白】の冒険者は全員揃っているが、しかし他の冒険者達は奮戦しつつも少しずつ、少しずつ数を減らしているのだった。

早い話が、ジリ貧というヤツだ。


「コルダム!とっとと撤退するよ!このままじゃ文字通りに全滅必死だ!」


「んなこと分かってらあ!そうは言ってもこの状況じゃ………」


戦斧(バトルアックス)を振り回しつつ、渋顔で怒鳴るコルダム。

確かに、完全に包囲されたこの状況で撤退など出来るワケも無い。出来るならとっくにやっているだろう。

苦労して練り上げた包囲網作戦の筈が、いつの間にか私達が包囲網の中に捕らえられている。

全く以て皮肉が効いていて、実に笑えない。


「──キヒ!キヒ、キヒヒヒヒヒヒ!」


正しく四面楚歌。

死神の子守歌が聞こえてきそうなぐらいだ。


「光芒術の使い手がいないのはやっぱし痛いなぁ………くっそ」


まあ、光芒術は戦闘以外の分野で活躍する属性なので仕方無いが。

只でさえ使い手の少ない属性、それを冒険者や傭兵などの危険な仕事に社会が就かせるワケが無いのだ。

メリルだって、本職は戦闘じゃないしね。

──無い物ねだりをしても何も変わらない。

この部隊の瞬間火力では恐らく私が最高だ。どうにかして突破口を開かなくては、ヤバい。


「こんなトコで、終われるかっつーのお!──コルダム!デカいのぶっ放すからサポートお願い!セレモさん!一瞬にぶっ放して下さい!」


「「了解!」」


二人の声が聞こえたその瞬間、高く跳躍する。


「………幻日を抉れ、夕噛」


左手に鎖斧を喚び出し、真上に生い茂る枝葉へと縛り付ける。

空中へとぶら下がりだらしない格好ではあるが、言うまでもなくカッコつけてる場合ではない。ここが一番攻撃が届きにくい事は間違い無いだろうから。

直ぐに隣にセレモさんが飛翔んでくる。


「──クレアさん、大丈夫なの?」


「はい、私はまだまだやれますが──他が限界近いみたいですからね。ここで一気に決めましょう」


「わかったわ、目標は──あの方角へと一点突破ね」


流石は【白】の冒険者、一番包囲が薄い所を瞬時に見抜いたようだ。

つまり、残りの三人の【白】もきっと気付いている筈。

影森の蜥蜴(ネグロサウラー)》のコルダム、そしてコルダムと並ぶ冒険者である女剣士フリージョ。

そしてもう一人のオババからの依頼を受けて参戦した冒険者であり、魔導識を付加し放つ魔導弓の使い手、アンテル。


「みんなで力を合わせましょう、クレアさん」


「ええ、はい、そうですね」


と、チームプレイというものにほとほと縁の無い私がいつも通り適当を言いつつ。

準備が、完了する。

他の冒険者達も最後の力を振り絞り、何とかホロトゥリオンを食い止めていた。


「灼き呑め──朱月」


愛剣、第三の姿。

第二の姿紅月とは違い、剣身が全て炎へと変わる。

形状は剣の形を象ってはいるものの、本質的には魔杖(ロッド)等と同様に霊術の補助具に近い。

だがしかし、これから私が放つのは──れっきとした剣技だ。

しかしその前に、セレモさんが先駆けの魔導識を放つ。


「数多の雷槍よ、彼方より天降りて暗きを砕け──《白雷槍雨(ボルトランスコール)》!」


上空に魔導陣が展開され、そこから白き雷槍が雨の如くにホロトゥリオン達に降り注ぐ。


「………まだっ、まだあ!」


そのままセレモさんは霊力(オド)の放出を続け、更に魔導陣を大きく展開していく。

やがて私達の部隊を余すところ無く覆うかのように展開された魔導陣から降り注ぐ雷槍は、戦域内全てのホロトゥリオン達へと襲いかかり、そしてもちろん私達が突破する一点はより多く、より大きな雷槍が貫いていた。

そしてその結果確かに見えた、ドス黒き障壁の、一瞬の綻び──


「………こっこだあ!朱剣・朱華!」


空中にて夕噛の鎖を大きく振り絞り、全身に大きな回転を加える。

多大な遠心力により加速された一閃は文字通りの一筋の閃きとなり、それが狙いの一点に届いたその瞬間──


──大爆炎。


遠目に見れば打ち上げ花火のようにも見えたかも知れない程に、美しくも圧倒的な朱色の暴力は、その先ある全てを灼き尽くし、根絶やしにした。


「まだ、だあああああああっ!朱剣・朱欒!」


そのまま地面へと落下し──着地のその瞬間、朱月を垂直に突き立てる。

一瞬の間──そして周囲の包囲を、地面を貫くようにして巻き起こった朱色の炎が更に敵を燃やし尽くす。


「舐め殺せ、紅月………こっれでえ!おし──まい!紅剣・爪紅ぃ!」


最後の一閃。

抉るような紅の衝きがトドメとなり──ホロトゥリオン包囲網は崩壊した。




▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽

△▲△▲△▲△▲△▲△▲




「………何人、残った?」


魔導弓使いアンテルが、息も絶え絶えになりながら誰にともなく訊ねた。


「んー………三十人、弱、かな」


私はそばの大樹へと凭れかかりつつ、その問いに答える。

【収納の指輪】から霊力回復剤(オドポーション)を取り出し、それを嚥下しつつ周りを見渡した。

死屍累々の惨状──ではない。息絶えた者は即座に丸呑みにされていくのだから、今回の作戦内で死体を見る事は殆ど無かった。

まあ、無かったからそれがどうしたという話だが。

何の気休めにもなりはしない──というか、いっそ死体塗れのがマシだったかもしれない。ここにいるのは命知らずの冒険者共、死体を見るのは皆日常茶飯事だろう。

しかし死の証拠とも言える跡形も無く呑み込まれてしまっては──希望を捨てきれなくなってしまう。

ひょっとしたら、と。

ちなみに。

人を呑んだホロトゥリオンを倒しても、呑まれた者が帰ってこないのは──とっくに確認済みである。

消化吸収は極めて速いらしい。

健康的で、結構な事だ。


「クソっ………!どうしてこんな事に!」


樹に拳を叩き付けながら、アンテルが呻く。

その言葉は、此処にいる私以外の全ての人間が思っている事を代弁したものだろう。

百余人いたのが三十人未満、たった四分の一になってしまったのだ。

他の三人の【白】の冒険者──コルダム、フリージョ、セレモの三人が居ないのは、まあ想像付くだろう。

ここは俺に任せて先に行け──である。

カッコいいねえ。


「………取り敢えず、真っ直ぐコリエンテに戻ろっか。急がないと、ヤバいよ」


「………そうだな。追撃が来たら、皆今度こそおしまいだ」


「いやいや、そういう事じゃあなくってね………」


とのセリフは、誰にも届かない大きさまで落としたが。

ある程度まで予想はしていたが、ここまで派手にやらかすとは思ってもみなかった──正直、考えもしなかった。

ヤツらが(・・・・)

まさか、ここまで愚かだとは──

ギリリ、と長い歯を軋り鳴らす。


闇森人(クズども)があ………!」



しゅうだんせん。




協調性は皆無なヤツですが、一応連携も出来る様子。

で、恐らく大半の予想通りに敵は彼らでした。

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