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赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第一楽章 赤と黒の小夜曲
22/90

惨赧寤



「………ってさああんねええんごおおおおお!?」


「五月蝿い」


厳しい言葉と共に、翠色の剣閃が疾る。

斜めに傾けた赤月で受け流し、反撃しようとするも──


「甘い」


逸らした筈の剣がもう二の太刀を見舞ってきた。


「ちょ──迅っ過ぎっ──」


強引に地面を蹴り、間合いをとろうとするも──


「鈍い」


私を追い空中へと跳んだ師匠が更なる追撃を加えてきた。


「っ──!糸遊の絣よ、色めき揺らめき凶音を厭え──《眩む炎幕(イスグノシス)》!」


遣った精霊術(エレメンタル)により、大気が揺らめき私の姿を歪める。

容赦の無い剣閃は空を斬ったが、その攻勢は止まることなく私を攻め立てた。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、待って待って待って待ってぇ!」


剣戟が空中にて繰り広げられるが、実力差は歴然だ。

丁度十合目で大きく体勢を崩され、決着の一刀が放たれた。


「迅斬・瑞風」


師匠の一振りにて生み出された迅風が渦を巻き、私を大樹の幹へと叩き付けた。


「ぶげっ!」


風圧の塊を受けしばらく張り付けになっていたが、やがては重力に従って地面へと落ちた。


「……その悲鳴は女としてどうかと思うぞ」


師匠バルティオが手にした霊剣、銘を霜楓(そうふう)というロングソードをしまいながら言った。


「そんなこと言ってもあれを喰らえば致し方ないでしょう。あー利いたあ………」


仰向けになりながらそう零す。


──私ことクレアレッドがこの闇樹海へとやって来て師匠と出会ってから五年、メリルと出会ってから三年の月日が流れた。

もう身長は百八十前後まで伸び、師匠を自然と見下せる高さまで──


「………」


「い、いだっ!いだっいだあ!ちょっししょー!蹴らないで臑蹴らないで!」


「五月蝿いバカ弟子。くそ、背丈ばかりデカくなって………頭の中は相変わらずパッパラパーのクセして」


「パッパラパーて!どんな頭ですか私の脳は管楽器ですか!」


「ふむ、確かに管楽器程デリケートではないな。きっと打楽器だろう。太鼓に違いないな、うん」


「空っぽじゃないですかあ!」


「空っぽだろうが」


「ひどー!」


──あんまし師匠との関係は変わっていない。

嬉しくもあり悲しくもある。

いつまで変わらずにいられるものか。

見ものだった。

まあそれはさておき、あんまし変わっていないと言ってもやはり違う所は確かにある。時間は優しくもあり厳しくもあり愛しくもあり惨たらしくもあるが、何よりこの世で唯一の平等が時間の経過なのだから。

などと悟った風な口を利きつつ。

メリルと出会ってから一年程、弟子入りしてから三年の歳月を掛けた頃に、ようやく私は師匠に直接剣を交えてもらえるようになった。

それまでは私が一方的に師匠に打ち込むだけで師匠が反撃する事は一度も無かったが、メリルとの出会いを経て色々あったお陰で二年前にようやく師匠に反撃させる事に成功した。

それから更に二年が経ち、ようやくなんとかギリギリ戦闘訓練と言えるものまで出来るようになったワケだ。

まあいつもほとんど一方的に押されているだけだが。


「てかもっと手加減してくださいってー。いつも最初にちょっと攻め立てたらあっという間に猛反撃が始まるじゃないですか。防御ばっかし上手くなってる気がしますよ」


「お前にはそれぐらいがちょうどいいだろう。下手に攻撃一辺倒になられては堪ったもんじゃない」


「………自分の手加減のヘタクソさを棚に上げてるだけじゃないっすか」


「なんか言ったかバカ弟子」


「ごふっぼはっべへえ!ハラパン止めっぶっ!」


「手加減はしてやってる。ただ攻撃されると反撃せずにはいられんだけだ」


「それ手加減がヘタクソなのよりずっと厄介ですよね………せっかく手加減しても意味ないじゃないですか。うーむ、案外私は師匠似なのかも知れませんねえ。バーサクバーサク」


「アホか、お前と一緒にするな」


「うへへへへ、そんな照れなくとも良いですよー」


「ええい、くっつくな鬱陶しい」


すげなく私を振り払う師匠。

かーいいなあ。


「まあ確かに、師匠霊術はほとんどダメダメですもんねー。まあ、霊剣あるから別に良いでしょうけど」


「お前のようにノーリスクであそこまでポンポン撃てるのが異常なんだよ。まったく、才能が無いとか適当なことほざきおって……」


「あははー、それは勘弁してくださいよ。私にこんなもんが出るなんて思っても無かったんですから」


コートの袖を捲り、右腕を網羅する黒の紋様をさらけ出す。

これは精霊紋というらしく、高位の精霊との契約時に、精霊と契約者を繋ぐ媒介として機能するらしい。

そしてこれは闇の属性を司ると言われる、最高位の『星霊』の紋様──「闇絶紋」と伝えられているとか。

詳しい話は面倒なので、いざ回想。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「クレアぁ!そそそそそそそれぇぇぇ!!」


「うおっ、どしたのメリル」


「ううう嘘!嘘嘘嘘嘘!嘘、嘘っだあ!いやいやいやいやでもでもでもでも!旧ヴァエストーク王朝の遺跡から発見された《八星ノ天枢儀(オクタウムステルラ)》の八大星霊紋の一つにうわあああああ!!」


「………メリル落ち着け、取り敢えず帰ってからにしよう。その方が説明し易いだろう」


「そそそんな悠長な事言ってられませんて!これは歴史的な発見になりかねな──ウグっ」


師匠は黙ってメリルの首筋に手刀を打ち込んだ。

トン。というアレだ。

見事にぐったりしたメリルを背負い、溜め息を吐きながら師匠は歩き出す。

私はメリルの豹変に未だ面食らったまま、師匠の後に続くのだった。


で、メリル宅に到着し、目を覚ましたメリルは再び大騒ぎしながら、屋根裏の書庫へと飛び込んで行った。

ドタバタと音を立てている、おそらくは本棚を漁っているのだろう。

しばらく二階の研究室にて待機していたが、数分でメリルがリフトで数十冊の本と共に降りてきた。


「さあ!もいっかい見せて!あの精霊紋!」


まだ降りきっていないリフトから飛び降りて、私の右腕に飛び付くメリル。


「…………………………………………………………」


一瞬の内に顔付きを変え、鋭い表情で書物と私の右腕を見比べる。

凄まじい速度で捲られるページに驚きながら、私はポカンと間抜けな顔しているだけだった。


「何度見ても模写と同じ紋様……『死亡』を意味する……『破滅』と『終焉』へと通じる………うん、間違い無い」


さっきとは打って変わった声色でメリルは告げた。


「確かにこれは世界の均衡を保つ八大星霊の精霊紋の最後の一つ──闇絶紋だよ」


一瞬の静寂。


「……本当なのか?」


ほんの少し固い声で訊ねる師匠。


「断言しても良いです」


「そうか……ならばハティの奴が動いたのはそういう事か。成る程な……」


師匠は天井を仰いで言う。


「やれやれ……流石に……いや、これは随分とまあ……」


師匠は何かをブツブツと呟く、意外とこんなのは初めてだった。


「……因果なもんだな…………ったく」


最後にそう独りごちた師匠は私へと向き直った。


「……いつからそれが現れた?」


「え、えーと……今朝着替えた時に気付かなかったってことは、やっぱりあの時、霊術?を使った時だと思いますが………」


「そうか………なら精霊に関して何か思い当たる節はあるか?」


うーん。

流石にそれについては自分でもさっきから考えてるけど………


「んんんー。なーんかあったようななかったような………」


「上位精霊なら普通は特殊な場所でしか出逢えなくて、ましてや霊契約(プロトコル)なんてもってのほかなんだけど。星霊ともなれば想像を絶するような出来事があったんじゃない?」


「いっやー、全然覚えが無いなあ。ていうかそんな事があればメリルや師匠が気付くでしょ」


「うーん、まあどんな書物にも詳しくは残っていない事だから、一体どういうものなのかはサッパリ分からないんだけれど………本当に何も心当たり無い?変な声が聞こえたとか、おかしな幻覚を見たとか」


「いやいや危ないおクスリやってるわけじゃないんだから、流石にそれ、は──」


と。

そこで脳裏を闇色が覆い尽くす。


「……あ………」


「何か思い当たった?」


「いや、スゴくあやふやで朧気な感じ何だけど………えーと、メリルを助けて気絶したとき変なトコへトンでたかも」


「変なトコって?どんなトコ?」


「どんなトコもあんなトコもこんなトコもそんなトコも………どうもこうも無かったね、真っっっ暗だったよ。で、何か誰かと話したような……」


「どんな話を?よく思い出してみて?」


「んー、んー………えーっと確か、プロペラとコンドルがどうとかオプティミストとキュウリがこうとか。そんなワケわかんない事を聞いたような」


「………………」


「………………」


「………ぶっ!やめ、ちょ、何!?何で殴る──あだあ!師匠髪引っ張らないで下さい女の命に何するんですかあ!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



まあそんな事があり。

その後メリルと師匠に理不尽に怒られながら聞いた話によると、私はどうもこの世界を運行している八体の精霊。

正確には星霊と呼ばれる内の一体──『闇絶星霊オプスキュリダー』とやらと契約してしまったらしい。

何でも八大星霊の中でも最も詳細が明らかになっていない謎に満ちた星霊だとか。

んなこと言われても私としては、知らないし知ったことじゃない。

などと言ったら、またしても二人にハっ倒されたが。

まあそれから私はメリルに精霊についての講義を一月かけて延々と聞かされ、気付くと精霊術(エレメンタル)が遣えるようになっていたわけである。


「まあ霊術が使えるようになったのはフツーに嬉しかったんでいいですけど。魔導識(スペルコード)よりはかなり性に合ってる気がしますし」


「その場のノリと咄嗟の機転が重要な霊術だからな……一時のテンションのままに生きているお前には丁度良いだろう」


「まったヒドい事言いますねえ、単なる事実なのは百も承知ですが……さて、んじゃあそろそろ仕事に行きましょうかね」


「その前にメリルの所に寄っておけ、話したいことがあると言っていたぞ」


「へーい、わかりました」


ぴらぴらとおざなりに手を振り、私は目を閉じて霊文(ゲベート)──霊術の発動に必要な口上──を紡いだ。


「闇は導、踏み往くは影、波打つ憂いは我が隷──《影繰渡り(スキアルート)》」


闇絶属性精霊術を遣うと、私の体が徐々に地面に──否、影に沈み始め。

三秒程で私の視界は闇に融けたのだった。



さんねんご。




またまた時間が飛びましたが、これで最後なのでご安心を。

取り敢えず、このクレアレッドがデフォルト状態です。

ここから、改めてクレアレッドの物語が始まると言っても過言ではありません。

……ホント、前置きにしては長すぎるよなあ。

だけども、自分としてはだいぶ端折りました。

もう、引き伸ばしがどうとか口が裂けても言えません。

心機一転し、頑張っていこうと思いますので、良ければこの先の物語を見てもらいたいです。

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