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赤鬼魂魄


どことも知れない空間が広がっていた。

その空間を言葉で説明することはおそらく私には不可能だろう。

こういうものはフィクションの世界ならば一面に真っ白な空間が広がっているものだが、この空間を色で表現するのはあまりにも的外れだ。

無理やりにでも色で表現しろというのなら──さしずめ色色(いろいろ)と言ったところだろうか。

その空間は白だったかもしれなかったし──黒かもしれなかったし──もしかすると赤だったかもしれなかった。


「──待ってたよ」


そんな声が聞こえてくるのに一体どれほどの時間がかかっただろうか。

一時間かもしれなかったし、一年かもしれなかったし、永遠かもしれなかったし、あるいは刹那だったかもしれなかった。

………我ながらかもしれないかもしれないってうるさいな。

どんなかもしれない運転だ。


「いやいや本当に待っていたよ待ちわびたよ、■は君をずうっと待っていたんだ。危うくカップめんを作り始める所だったよまったく」


三分すら待ってないのかよ。

さっき時間がどーのこーの言ったのがアホらしくなったじゃんか。


「あはは、そいつは失礼したね。いやいや君が感じた事は決して間違いじゃあないんだよ?ここには物質も現象も、当然色も時間もない。ここにある概念は「■」と「君」のたった二つっきりだからね」


さっきからなんか聞こえないトコがあんだけど。

一体なんつってんの?


「ああ、別に気にしなくてもいいんだけどね。まあどーしても気になるっていうのなら「僕」でも「私」でも「俺」でも「我」でも「儂」でもお好みの一人称を入れてくれたまえ。■にとっては意味の無いものだし何より縁が無いものだからね」


だったら別に私もどーでもいーんだけどさ。

んじゃ、そうだな。

鏡よ鏡よ鏡さん、あなたはだれ?ここはどこ?


「いや、鏡さんじゃないよ、神さまだよ」


ええ~……なんじゃそら。


「あはははは、うん、なんなんだろうねえ。■も知りたいんだ、良かったら教えてくれないかな?」


神ならぬ私なんぞがそんな哲学じみたことわかるワケないでしょが。

神さまならそんぐらいわかれや。


「おや、怒られちゃったよ。神さまに説教するとはなかなかどうして君もやるじゃないか。まあそうだねえ、生きるとは自分と向き合うこと、か。生きていない■には到底無理な話だな。はは、うん、これで神さまだってんだから世も末だねえ」


いや質問に答えなされって。

二つ目二つ目!

ここはどこ!?


「ここは「ここ」だよ。「ここ」であり「そこ」であり「どこでもない」のさ。さっき言ったじゃないか、ここにあるのは「■」と「君」だけだって。他には「何もない」さ」


あああああ!もー!

ワッケわっかんねえ!

あんた神さまのクセに何もわかんないのか!


「それもなかなか鋭い指摘だねえ。うん、よく考えれば■はなんにもわからないなあ。ただ「知っている」だけだ」


だったらその知ってることとやらを教えれ!

この神さまが!


「いやだから知ってることを言ってるだけなんだってば。流石に■も怒るぜ?他人にそんな風にプンスカ怒鳴る前に何故自分が怒っているかを考えてみたまえよ」


私が怒ってる理由?そんなもん──

そんなもん──

……………えーっと……

………何だっけ?


「ふっふっふ、それみたことか。最近の若いモンは忍耐が足らないからいただけないぜまったく。君が怒っているその理由はね──


──君が何も知らないからだよ──


──何て、どうだい。今ようやく神さまっぽくなかったかい?」


…………………

神さまが「っぽい」とかゆーな……

まあけど、確かにその通りだな。

私何にも知らないや。

それこそ「ここはどこ?わたしはだあれ?」な状態だわ。

言葉は浮かんでくるのになぁ。

えーっとこういう記憶喪失の名称をなんてんだっけ?

駄目だ、忘れた。


「まったく自分の無知を棚に上げて他人を責めるなよ。神さまに八つ当たりしたのはもしかすると君が初めてかもしれないぜ──「赤紅 朱緋」(あかべに あけび)さん?」


!!!!!

そうだ!!

そうだった!

まいねーみず赤紅朱緋!

今をときめく華の女子大生!

年は二十一歳誕生日は十月九日!

血液型はO型で弁柄大学生徒!

好きなものは揚げシューマイと愛と平和で嫌いなものは甘納豆と嘘と裏切り!

将来の夢は大富豪!

思い出したーっ!

おし!ぜーんぶ思い出したぞっ!

そう!あの記憶障害の名称は……………駄目だ、忘れた。


「うんうん、あのままじゃにっちもさっちも行かないだろうから思い出してもらったぜ。あと逆向性・全健忘状態の記憶障害は「全生活史健忘(Generalized Amnesia)」だよ」


へーそーなんだ、初めて聞いたわ。


「うん、さっさと進めるよ。まあ何にせよよろしくだ、赤紅朱緋さん。いやあー実に真っ赤っ赤な名前だねえ」


いいじゃん別に!気にいってるし!

あだ名は「赤頭巾ちゃん」だったもんね!


「うんうん、女子大生のニックネームじゃないだろってことはさておいて、とりあえず今の状況は把握できたかな?」


全然できてないよ!

確か私は徳川埋蔵金を探して近所の鍾乳洞を探検していた筈なのに!


「うんうんうんうん、ツッコミ所満載だけどツッコまない、ツッコまないよー。えーっととっとと話進めなきゃだからぶっちゃけちゃうとね。赤紅朱緋さん。君、死んじゃいました」


…………………はい?


「いや、だから死んじゃいました。えっとえっとー、死因はっと……あー、「滑って転んで頭打って死亡」………だってさ」


はああああ!!??

そ、そんなバカなぁ!

そんなご老人がお風呂場でみたいな死因でぇ!?

てかひどいくないその死因!?

ニュースでよくやってるみたく「頭を強く打って死亡」でいいじゃん!

仮にその死因が死神のノートに書かれたものなら凄まじい悪意を感じるよ!


「いやー死神のノート云々は華麗にスルーさせてもらうけどね、しかし何の装備も無しに着の身着のままであろうことかヒールで鍾乳洞なんかに突入すれば誰だって死ぬよそりゃあ。いや死ねないか、普通死ねる場所まで到達できないもんな。てか何で徳川埋蔵金なんて幻想を…………」


え、えーっとお……

就活が上手くいかなくて……

ていうかそれ以前に働きたくなくて……


「ダメ人間だねえ。まあ、うん。それもそれでありかな。」


うーわー!そ、そんなバカなぁ!

何で徳川埋蔵金なんて探したんだ私のアホウ!

楽に生きたいなら金持ち捕まえて離婚して養育費をたんまりぶんどるとかお年寄りをターゲットに振り込め詐欺をするとか近所のガキ共に白い粉を売りさばくとか最悪ニートになって実家に寄生してやれば良かったのにいいいいい!!!


「……………うーん、流石にダメすぎるかなあ…………」


はあああああ。で、神さま?

一体私、どーなるの?


「うんうん、よくぞ聞いてくれました。君はね、これから転生するんだよ」


………えーっと、マジでか?


「マジだよ、■は神さまといっても君の──赤紅朱緋の生きた世界とは違う世界の神さまなのさ。まあ君の生きてた世界には神さまなんかいなかったけどね」


マジかよ!

コンチクショー!どーりで神も仏もねえ世の中だと思った!


「あはは、まあそれは置いといて、君はこれから転生する──神も仏も、つまり■がいる世界へとね。そこで話は元に戻るんだよ。■は君を待っていたんだ。」


あー、言ってたね。そういや。


「そう、待っていた。君を──赤紅朱緋ではなく、「君」をね」


どゆいみ?

私は赤紅朱緋だよ?


「いいや、違うね。赤紅朱緋はもう死んだよ、滑って転んで頭打ってね」


それはゆうなあ!


「あっはっは」


うー…………、で!?

つまりどうゆう意味!?

あんたの話回りくどいよ!


「うーん、回してるのは八割方君の仕業だと思うんだけどなあ……まあつまり、■は君を、つまり現在「赤紅朱緋」という人格をインストールされたその「魂魄」を待っていたというワケなのさ」


イ、インストール!?


「ああ、変な意味じゃないよ?別に赤紅朱緋という人格が複製(コピー)だとかそういう意味じゃない。君にはそう言った方がわかりやすいかなーと思っただけさ。そうだね、さらにわかりやすく言えば………

魂魄がゲーム機、人格がカセット、といったところだよ」


………………………

肉体がゲーム機、魂がカセット、とかなら聞いたことあるけど……


「それは色々と間違いなんだよね、肉体がどーのこーの言うのならば肉体がゲーム機、記憶がカセットと言うべきだろう。まあそれはそれとして、つまりは魂魄と人格、もしくは記憶というものはイコールでは結べないというワケなのさ。魂魄を記憶でコーティングし、それが肉体を動かす。つまりはそれが生命というものだ。」


うーむ。まあわかったけれども……しかしDNAとかガン無視じゃね?


「DNA、遺伝子情報に刻まれた本能だって種族単位で観れてみれば単なる記憶だよ………まあまたまた話が逸れたかな、要するに■は君の乗っかってるその魂魄を待ってたってことなんだよ」


うーん、つまり私には用はないと?


「いや、まあそういうわけでもないんだけどさ」


………あんためんどい。


「いやもう本当に本題に入るから、入れるから。ちゃんと聞いてね。こほん。まず、「輪廻転生」っていうのを知ってるかな?」


もちろん!死んだ生物が新しい生物に生まれ変わるってヤツだよね!


「うんうん、まあこの概念は赤紅朱緋が生きた東洋ではメジャーだし、それ以外の地域にも結構見られるしね。」


ふむふむ、それで私もその輪廻転生の環にこれから加わるってわけか。


「それはちょっと違うね、加わるまでもなくとっくに君も輪廻の環の一部なんだ」


ははあ、つまり私にも前世があったわけだ。前世占いでは私ウーパールーパーだって言われたんだけど?


「そう、それ!問題は君の──赤紅朱緋の前世にあるんだよ!」


………無視しやがった。


「その前に多少「輪廻の環」というものについて説明しなきゃね。いや、めんどくさそうな顔しないでよ■だって早く終わらせたいんだぜ?だけども君もワケのわからないまま生まれ変わりたくないでしょ?うん、じゃあ説明するよ。まず基本的に全ての生命は「輪廻の環」に組み込まれている。犬も猫も鳥も魚も植物も、ミミズだってオケラだってアメンボだって、バクテリアだって細菌だってウイルスだって、原核細胞から人間まで余すことなく全て、だ。ここまではいいかい?」


………うん、オッケイ。


「よしよし、で、問題はその「輪廻の環」も一つではなく、様々な種類と特徴があるということなんだよ」


ふむふむ。


「例えば転生の規則性だね、完全にランダムに転生する場合もあれば何らかのルールに則って転生する場合もある。」


ほうほう。


「そして二つ目はその「輪廻の環」自体の大きさや形状だ、一つの世界を延々と巡っているものもあれば常に流動し、二度と同じ世界を通らないものもある……ここまでいいかい?ついて来れてるかい?」


バカにしないでよ、私けっこー頭良んだからさ


「………あーそー。じゃあ本題だ、君の「輪廻の環」について。君の組み込まれた「輪廻の環」はかなり大きいものでね。ありとあらゆる世界を網羅しているのさ。」


ほー!

そりゃいいや、なんか得した気分だよ!


「うんうん、で転生の規則性についてなんだけど、この場合はさしずめ「成長型」といったところかな?」


「成長」?一体何が?


「魂魄が、だよ。ランダムな転生なら転生した存在に応じて魂魄の質や大きさも変化するんだけど君の「輪廻の環」では転生する度に少しずつ少しずつ魂魄が成長していくようになってるのさ。まるでギャグマンガの雪山で転んだキャラみたいにね」


なるほど、例えは悪いけどわかったわ。魂がレベルアップしていくワケだね。


「そう!正にその通り!結論を言うと君の魂魄は経験値とレベルアップを積み重ねてランクアップの時を迎えたという事さ!」


おおおお!なんか知らないけどやった!ランクアップした!うんうん、滑って転んで死んだのも無駄じゃなかったということか!


「いや、無駄というかなんというかねー………」



「いや、言っただろう?問題は君の前世にあるって。」


ああね、問題って何?私の前世って一体何だったの?


「……………英雄さ」


は?


「数百年に渡るとある星と星との星間戦争に終止符を討った英雄、さ」


うえええええ!?

何そのサイエンスにフィクションなキャラ!

「ヴオン」とかいう効果音のアレをつかってそう!


「まあそんな感じの凄まじい英雄でねえ、本来は数十回の転生を重ねて得る量の経験値を一発で稼いじゃったんだよね」


うおおおお………

なるほど!つまりはその大英雄の経験値と因子を受け継いだ私を待ちわびていたというワケだ!


「あーいや、まあそれで間違っちゃいないんだけどさ。ていうか勘違いしちゃ困るけど前世と現世とはまるっきり別物なんだからね?確かに同じ魂魄の上に築かれた人格だけれどしかしもうかの英雄は君にどうしようもなく上書き保存されちゃったんだから」


上書き保存て………


「これもわかりやすいように言うと、だけど。まあ本題に戻るとしよう、君の前世であるとある英雄にはちょっとした問題………というか不運があったんだよ」


不運?何それ、ヒロインを救えなかったとか?


「いやいや彼はきちんとぜーんぶ救っちゃったよ。完璧どころか潔癖なぐらいの腕前だったらしいぜ、ご苦労な事だよね。まあだからこそケタ違いの経験値を入手できたんだけどさ。まあ彼が不運ていうのは違うかもね、心残り無く人生を終えて、みんなが口を揃えてめでたしめでたしと言ったらしいし。けど彼はめでたかったかもだけれど、彼の魂魄はあんまりめでたくなかったんだよ」


どうゆう意味だよ……そろそろこの質問も飽きてきたよ。

何?膨大な経験値に魂が耐えきれなかったとか?


「あー、いや、もうすぐ終わるよホントに。えーっとつまりね、耐えきれなかったんじゃなくて、足りなかったんだ」


足りなかったって………ああ、そういう事か。

私は──赤紅朱緋は、人間だったもんね。


「うんうん、ザッツライト。まあ彼の──つまりは君の魂魄にとっての最大の不運は赤紅朱緋として転生した世界そのものだろうけどね。あそこじゃ人間はトップクラスの存在だった、世界によっては人間を超える種族ぐらいどこにでもいるんだけどね。

君の世界で人間を超えた存在になるには──あとほんっのチョビットだけ足りなかったんだ」


………つまり私の世界にも人間を超える種族がいた──いやいや、どころかそれそのものに私が成れていたかもしれなかったってことか。

………ちょっと怖いな。

いや、怖いもの見たさ──というより怖いもの成りたさが無いわけじゃないけど。

う~む。

ていうか全く身に覚えが無いところで存在なんてものが決まるってなんだかなあ………。


「まあ世界は所詮そんなもんだよ、自分の意志で決められる事なんてほんのわずかさ。ほとんどの事象は「なるようにしかならない」のさ」


ヤなこと言わないでよ……

で?続きは?


「うん、で英雄の魂魄はあとほんの少しのところで「なり損ねた」。人間を超える存在ではなく単なる人間、赤紅朱緋として転生する事となった」


さり気に私をディスってない?

「なり損ない」ってけっこー酷い言葉だよ?


「ああ、ゴメンね、そんなつもりはなかったんだよ。」


いや、別にいいけどさ。

ぶっちゃけ実感全然湧かないし。


「そうかい、いや君をでぃする気は全くないんだよホントに、君のおかげで■は大助かりなんだからさ」


あーもう、早く話終わらしてよ。


「はいはい。で、赤紅朱緋として人生を送った事でようやく経験値が規定量へと達して、高次存在への道が解放されたということさ。おめでとうー。パチパチ~」


神さまが口で拍手するな……

けどまあようやく話がわかったよ。

だけども話だけだね、やっぱり意味がわからない。


「ん?どうして?」


いやいや、だってさあ。

神さまがなんでそんな事いちいち説明してくれんのさ。

わざわざ魂一つに世話かけないで「輪廻の環」とかのままにサッサと転生させちゃえばいいじゃんか。


「かの英雄の魂魄をスルーしてかい?自身の世界に生まれ落ちる高次存在のタマゴをシカトしてかい?」


そうだよ、私がどんな存在に転生するにしたって世界を統べる神さまが所詮は一個人を贔屓しちゃダメでしょ。


「いいや、そんな事ないね。それは君の生きた世界を鑑みれば致し方ない意見だけども、自分が神も仏もない世界に生きたからって神さまが存在に無関心だなんて思われちゃ困るな。ていうか神も仏もない世界に生きたのなら神も仏も君は「知らない」ってことだろう?自分の独断と偏見で他人を決めつけちゃあダメだぜ」


……………


「まああんな行き詰まりみたいな世界の行き止まりみたいな時代に生きりゃあ当然かもしれないけれどもね、「一つ」の存在ってのは君が思っているよかずっと可能性を秘めているものなんだよ。なんせ■だって元はそうだったんだからさ」


…………へ?


「うおっと、失言かな?まあこんなミスをするくらいなんだから神さまなんざ大したもんじゃないさ、君達人間と同じようにね。ちなみにこれでも■は■の世界においては創造神にして唯一神って役職をやってるんだけどね」


………なんか救われない話だね。


「それも君の勝手な視点だな、つまりは人間も神さまも大した違いなんざないんだからそんな悲観的にならなくていいんだって流れでしょ今のは」


……大して変わらないってんならつまりは変わっても「変わらない」ってことでしょうよ。


「おおう現代っ子。変化を嫌っちゃうか。でも残念ながら変わっても変わらないとしても変わってもらうぜ──変わって変わって変わってもらう、それが■が君を待っていた理由なんだから」


………なんでよ、つまり私はその高次存在とやらに上書き保存されちゃうって流れでしょ。


「それが違うんだなぁ。悪いけど君には「続けて」もらうぜ、変わって変わって変わった上で続けてもらう。これから君は■の創った世界に転生してもらうんだよ、赤紅朱緋の記憶を持ったままね」


は……はあ?何それ?そ、そんな事していいの?あんた神さまでしょ?


「神さまだからそんな事していいのさ。神さまとは傲慢なものなんだよ、神も仏もない世界から来たんだから神の独断にちょっとくらい付き合ってくれたまえ」


ちょっちょっちょっと待て!ちょっと待って!いや、それダメでしょ!勝手にそんな事しちゃ!


「なんでだい?せっかく不慮の事故で亡くなってしまった若き人間を情け深くも「強くてニューゲーム」させてあげようってんだ。感謝しろとは言わないが恨まれる筋合いは無いと思うけどね──


──君が生きたくないってんならまだしも──


       ──ね?」


………っ


「まったく驚いたよ、神さまに平気で嘘吐くんだもんなぁ。■が閻魔様だったら舌抜かれちゃってるよ?」


…………………………


「まあそんなわけだ、ほとんどの事象はなるようにしかならない──だから君には■の都合上、なるようになってもらう。まあそんなに心配しなくても君ならなんとかやってけるよ、創って五千年のちゃっちい世界だが■の創った世界だけあって結構おおざっぱだからさ」


………私に何させる気よ。


「「させる」?そりゃとんだ勘違いだね、■は創造神でありそれ以外の何でもない。創る以外の事をしたことが一度も無いのがポリシーなのさ。確かにこれから■の世界に君を「置く」けれどそれだけだ、なんなら世界を征服するのも滅ぼすのも君の勝手だよ。■はそれをのんびり眺めておくから」


──観測者ってワケ?


「そんなカッチョイイもんじゃないよ、単なる傍観者さ。なんならニート神とでも呼んでくれたまえ」


……神も仏もあったもんじゃないね。


「うは、うまいね。座布団一枚」


………終わってもよかったんだけどなあ


「けど終わりたかったワケじゃないだろう?──だったら、頑張って続けなくちゃね」


………わかった。頑張る。


「おし、頑張れ」


その言葉を聞いた途端に──距離が離れていった気がした。

なんていってもここには距離なんて概念ないんだろうけど。


「君には「深紅の罪禍」と「真紅の天罰」を贈るとしよう、まあ長くなったがこれでサヨナラバイバイだ。あ、あとこの先誰かを恨みたくなったら■を恨んでくれて構わない──ただ■の世界は恨まないであげてほしいな」


──そんな言葉を最後に、私の意識は途切れたのだった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「──行ったかい、やれやれ他人と話すのも一体何時ぶりなのだったっけね──」


そんな風に神は独りごちる。


「しかしながら「赤紅朱緋」ときたか──笑えない名前だね、或いは爆笑モンの名前だ。結局神さまだろうと「輪廻の環」を避けては通れないってことか。「変わっても変わらない」──全くもって言い得て妙だね、いやはや頼もしいよ、星を救った英雄なんかよりはずっとね」


神は──■は、どこか楽しそうに、どこか哀しそうに、呟く。


「これから■の世界がどうなるか──神すらも知らず、かあ。我ながら無責任極まりすぎな神さまだよなあ。「今回」だって両刃の剣どころか単なる危険物をほおりこんだだけかもしれないし、「前回」と同じくね。けどまあそこは■の預かり知らぬトコだ──創造主として黙って信じておこう、■の創った世界はこれくらいじゃあ壊れないということを。このまま放置してたら遅かれ早かれ決壊は目に見えているんだ、一応「前回」から■も学んでいるつもりだしね──結局「つもり」なんだけど、それでも信じておこう。■の世界を、或いは「赤紅朱緋」だった彼女をね。きっと彼女は「あいつ」とは違う、「あいつ」は余りにも強すぎた──或いは余りにも弱すぎたのか」


そこまで言って少しの間をおき、そしてこう締めくくった。


「元「赤紅朱緋」、君はこれから■の創った世界で生きていく──欠陥品たる■が創った欠陥品の世界だ、至らないところも多いだろうがどうか恨まないでやってくれ、みんな君と「変わらない」んだよ、自分なりに頑張ってるんだ。頑張ってるからこそみんな苦しんでるんだよ。君もきっと苦しむ事になるだろう、哀しむ事になるだろう。けれど君が変わってしまって変わってしまって変わってしまって──それでも君でいられたのならば、きっと世界は、終わらない」


こうして世界は巡る。

世界は希望と絶望の匣を、受け取る事となる──



あかきこんぱく。

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