表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤紅朱緋~真っ赤な吸血鬼の異世界奇譚~  作者: 書き手
第一楽章 赤と黒の小夜曲
17/90

惷鎧




鎧の脳天へと振り下ろし──そして甲高い音を立てて、手の中の剣が砕け散った。

さっきの剣戟の応酬で、既に限界を迎えていたという事だろう。

鎧は当然何を語る事もない、ただこのままだとあっさりこのちゃちい拘束から逃れ、私を殺しにかかるであろう事だけは確かだ。

もはや手は無い、全てを出し尽くした。

そう。

既に「五本目」は解き放たれているのだから。

だから私は、もう呟くだけで良かった。


「──舐め殺せ、紅月」


そう言い終わるか言い終わらないかの内に、それは鎧の頭部を刺し貫いた。

煌々と、紅色に燃え盛る──バスタードソード。

銘を、紅月。

私の愛剣──その第二の姿である。

渦巻く炎は更に勢いを増していき、急いで私が鎧から離れた頃には紅色が鎧の全てを覆い隠していた。


「………計画通り」


などと口にしたものの、今の私の表情はゲス顔などではなく、疲弊の色濃い無表情だろう。

鏡が無いので分からないが。

有ったとしても映らないので分からないが。


「ぐああああ………キッツイなぁ、流石に………」


頭痛がヤバい。

まるで脳内を切削されているようだった。

それでもまあ、「誕生日」の時程ではなかったが。

──まあつまりは、私の特攻はもちろん四本の剣すらも(デコイ)

初見の時点で強敵と判断し、赤月を不意打ち用にと仕込んでおいたのが功を奏したというわけだ。

………そういえばついでに助けておいた『彼女』、どこへ行った?

燃え盛る鎧から目を離し、周りを見渡した。

いつの間にか赤月からは逃れていたから、もしかするともう遠くへ行ってしまったのだろうか──


「──ダメッ!」


と、どこからともなく悲鳴じみた声が聞こえてきた。


「………ん?何──」


と、私がその声に応える前に。

私の腹部を、ナニカが貫いた。


「んなぁ………!?が、あぁっ」


かろうじて振り向くと──そこには紅月の炎で黒こげになり、熱でアチコチが変形し、しかしながらかろうじて人型を保った鎧が。同じくドロドロに融解しつつも、ギリギリ形を残した剣を私に突き刺していた。


「な、なんで………もう中身は確実に燃やし尽くした、筈………」


現に融解した隙間から除かせる鎧の中は空っぽで──


「………たはぁ、バカか私は」


そう、いうことか──

つまり。

相手は「蠢く鎧(リビングアーマー)」を纏った「蠢く屍(リビングデッド)」──だったワケだ。

漂う腐臭で早計に判断したのが間違いだったか。

犬じゃねえんだから。

しかし、そうなればあの手強さにも説明がつく。

つまりはかつての戦闘技術を「蠢く屍」が。

強靭な戦闘能力を「蠢く鎧」が担当していた──という事か。

確かに一体の魔物にしちゃあ、ハイスペック過ぎたかもしれない。

まあ、後の祭りだが。

後悔先に立たず、だ。


「グッ、がアァアァァ………!」


左脇腹から生えた、不格好な剣を手でへし折り──折るのはかなり柔くなっていたので簡単だったが、かなり熱を持っていた。吸血鬼の感覚でなければ触っていられなかっただろう──何とか鎧へと向き直る。

満身創痍だが、それはお互い様だ──向こうだって今にも壊れてしまいそうな姿なのだから。

──ではでは。

用意──アクション。


「だぁらあああぁぁぁぁ!」


武器を取り出すヒマは無い、徒手空拳で殴りかかった。

しかしそれもまた、お互い様──

──リーチの差として、相手の拳が先に届いた。

片腕を犠牲に防御するも、そんなものに効果が有ったかどうかは疑わしい。

多少なりとも力を逸らしたはずだが、私の右腕はメチャクチャに破壊された。

折れた骨が肉を裂き、皮膚を破る感覚。人間の痛覚だったとしたら、私は大声で泣き喚いていたかも知れない。

が、当然人外たる私はそんな事に構うこと無く、相手の懐へと踏み込んだ。

左手で相手のもう片方の腕を掴むと、間髪入れずにがらんどうの鎧へと膝蹴りを打ち込んだ。

一発、二発、三発。

その度鎧が凹んでいく、やはり随分と柔くなっているようだ。

まあ当然だろう、紅月の火力は尋常じゃない。私の実力ではまだまだ真価は発揮させられないが、それでも並みの魔物など一瞬で消し炭にしてしまう程だ。

まあそれはともかく。

とにかく、後一押しだ。

それすらも、お互い様だが。

横腹に手甲が突き刺さる。

そのままぶっ飛ばされそうな衝撃に襲われるも、全霊をかけて踏ん張り、相手の腕を握り締める。


「ぐ、う、う、ううう………」


耐えろ。

堪えろ。

動け。

戦え。

もう一押しだ。

あと一撃だ。

あと、もう、一歩、なのに。

──めがかすんできた。

だめだ、おちるな。しんでしまうぞ。

ころされてしまう。

あ、あ、だめだ、しかいが、あかく、あか、く──


…………………………そして。


「白き礫よ、穢れを咎めよ──………《弾閃(リトス)》!」


赤い視界に、純白が疾駆(はし)る。

一気に、意識が覚醒した。

目の前では鎧を、一筋の細い閃光が貫いていた。

何が起こったかは分からない。

しかし、何をするべきかは分かりきっていた。


「と、ど、めえええ!!」


腕を取り鎧を背負い上げる、そして肩越しに思い切りブン投げ、地面へと叩き付けた。

一本背負い。

それでとうとう──鎧は派手な音を立てて、バラバラにぶっ壊れた。


「ーーーー!………………っ!」


膝から崩れ落ちる、もう声も出なかった。

眩んでいく世界の中で、金髪碧眼の少女が目を潤ませながら走ってくるのが見えた気がしたが、きっと見間違いだろう。

そんな益体も無い事を考えながら、私は眠りへと堕ちた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ただただ、闇絶の中をひたすらに歩いていた。

いや、歩いているのかどうかは分からない──一面が闇に閉ざされ、吸血鬼の五感でも一切の情報が遮断されている。

いや、そもそも感じ取れる情報が存在しないのだろう。直感的にそう思った。

ここに在るのは──闇だけなのだと。

やがて、足を止め、目を瞑る。

まあそんなことをしても視界は変わらずの黒闇なのだが。

すると、自らの身体が融けていくのを感じられた。

どうやって感じんだんなもん、とも思ったが感じられるものは仕方ない。

ただ不思議な事に、自分が死ぬのかも知れない、とは思わなかった。そう思うのが自然な状況だろうのに。

瞑っていた目を開き、唯一目視出来る自身の身体に目をやる。

感じた通り、身体はもう殆ど残っておらず、残るは頭と胴体の三分の一程度だった。もっとも、それもすぐに融けてしまうのだろうが。

などと思考する間に胴体が消え去り、残るは頭部だけとなる。

やがてそれすらも融けていく、まあ視界は全く変わらないので、恐らくとしか言えないのだが。

と、その時。

ほんの一瞬。

刹那の刻に。


──目の覚めるような青が、そこに在った気がした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「………………………ああ、あんたか」


『………気付いていたのか』


「いや、何となく口から出ただけ。で?あんた誰よ」


『…………………………』


「うっおーい、無視ですかー?返事しろ返事しろ返事しろーい」


『………闇絶を統べる星霊、名はオプスキュリダーと定められた』


「うお、精霊ねえ。精霊精霊せーれーかあ。イッツファンタジー。THE・異世界っつー感じ?」


『………お前は己自身をどれ程知る?』


「オノレ自身?知らねーよそんなもん。そんな疑問は──もう飽きた」


『………知りたいとは思わないのか』


「思わないね、そんなのはもうずっと『前』に終わらしてるんだ。いや、「こっち」でも最初辺りは引き摺ってたけどもさ、もういいよ、そういうのは。んなこと考えなくても生きてけるし。んなこと考えなくても──笑っていられるし」


『………フ』


「あん?何あんたが笑ってんのさ」


『………何も。ただ──お前が「選ばれた」理由が解っただけの事だ』


「選ばれたぁ?誰に?どこを?」


『………その様子だと記憶してはいないのか。己の前身の事は忘却していないようだが』


「前身………あんた『私』達の事、知ってんの?」


『………存在までは。詳細は知らされていない』


「知らされて?誰によ」


『それは己で知るといい、ここまで招いたのは違う理由なのでな』


「理由?なにそれ」


『お前との霊契約(プロトコル)だ』


「………拒否権は?」


『………無い、というべきだろうがしかし拒否するならば強制はせん』


「………オーケイ、じゃあやろう、契約」


『………いいのか』


「んな偉そうな態度なんだからさぞかし高位の精霊なんでしょ?いいよべつに。まあ何か思惑があるんだろうけど、私がどうこうできるレベルじゃなさそうだ」


『………お前が今のままで在り続ける限りは、お前を害する事は無い。それは約束しよう』


「今のままで、ねえ。精霊様からすりゃ簡単かもしれないけど、それって難しいと思うよ。というか不可能じゃない?『私』なら人は変われない、なんて言ってたかもしれないけど、少なくとも今の私には変わらないでいるなんて事できるとは思えないね」


『………そんな台詞が吐けるようなら心配はあるまい、お前ならば──いや、これは余計だな』


「………ま、約束してくれるだけマシか。んじゃ、ちゃちゃっと終わらしてよ」


『………了解した』


「…………………」


『………では、現世へと還るがいい。お前が世界の中でどう生きるのか、楽しませてもらう、真紅なる堕とし仔よ』


「え、ちょ、もう終わり!?早っ!?普通もっとこう、何かあんでしょ!変な詠唱とか何とかさ!え、ちょ、おいいいぃぃぃ……………………………」


『………………』


『………………』


『………………』


『………………』


『………………』


『………………往ったのかい?』


『………ああ、あいつならば問題あるまい』


『んなこと言って前にとんでもない事になったんじゃないか、全く主も一体全体何を考えておられるのか………いや、まあ何も考えてないんだろうけど』


『………そんな事はなかろう、主が自ら見定めただけはある。間違い無くこの世界を──救うかどうかはともかくとして、何かしらの大きな変革を起こしてみるはずだ』


『そりゃ起こるさ、起こすまでもなく起こるに決まってるさ。起こらないワケがないだろう、「あんなモン」放り出して。問題は何を起こすか──否、何が起こるかのはずだよ、ほっときゃあ世界の一つや二つ、あっという間にオジャンだ』


『………そうはなるまい、あいつは変化を恐れてはいない。だからこそ変革の怖ろしさは理解しているはずだ』


『だからだから理解してようがしてまいがんなこと関係ないってば。理解なんて赤ん坊にだってできる。理解してたって何がどうなるって言うんだ?怒るよ?何かが起こる前に怒るよ?』


『………そこはあいつを──そして世界を信じるしかあるまい。我は信じる』


『だから君は──はあ。ほんと君のソレは治らないよねえ。クソマジメのくせに他人に滅茶苦茶甘い。同じ轍を踏むのはゴメンだぜ…………………ふう』


『………どうした?』


『………僕も君に付き合うよ、あれはどうにも見放してはおけない。良くも悪くも』


『………そうか、礼を言う』


『礼だって誰にでも言えるさ、やれやれ──この世界はどうなっちまうんだろう、ホントに………』




うごめくよろい。




辛うじて強敵撃破、そして更なる強化イベント&露骨な伏線張り。

どうもクレアレッドは無双より凹られる方が似合う気がする。

それで良いのか主人公。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ