捕まった黒狐(ブラックホックス)
僕は交互に二人を見た
「あっあのー」
「ごめんつかまっちゃった」
僕は彼女に聞く
「なにに」
警部は僕に向かいコホンと咳をすると手錠を彼女の細腕にかけた
そしてそのまま外に出ようとする
「ちょちょと」
二人は振り返った
「彼女が何やったっていうんですか」
僕は警部に聞く
こいつは近所でも有名な汚職刑事だ
全て親のコネで何とかしてきたような屑
名前は聞いたことはあったが実際見たのは初めてだ
その胴太の体 猫のような細い目がねちっこくこちらを見た
「なんですか」
男はそう言って彼女を連れて行こうとした
確かに彼女はおかしなところはあった
しかし すべてはジョークの内のはずだ
さっきの腕だって義腕の彼女のいつもの無駄に外装だけ近未来な役立たずのいたずらに決まっている
そんなヤツが何をしようっていうんだ
「おいイイナ何もしてないよな」
僕は叫んだ すんなりと言葉が前に出た
やつは長い髪を振りながら振り返る
その顔はどこまでも無表情だが
なぜか涙が目尻に浮かぶ
よく見るといつもより少し頬が赤い気がする
これが女の常とう手段か
しかしあれだけ変なやつがやると
リアリティーがある
コクン
それだけで十分だった
外に連れ出されたイイナを僕はただ見ているしかない
「ちょとはなしてよ」
私は先回りして開けた合鍵で家に入った途端
腕を掴まれた
おかしい あいつにそんなスピードは
そう思いながら振り返った
そこにはむさいおじさんが立っていた
(キャー)
と悲鳴でも上げようと思ったがやめた
そんなことをするくらいなら逃げたほうがいい
こういうのもなんだがここは治安が良くない
殺しと聞いて警察よりも葬儀屋が先に来るような場所である
私は素早く腕を引きながら身を引く
すると股を開いて踏ん張ろうとする股間に足をすベりこませませ 蹴る
しかし恐ろしいことに、うだつの上がらない、のんけんな表情を変えることなく
ヤツは、その足を閉じて勢いを消すと同時に
バランスの崩れた私の腕を掴みなおすと引っ張り上げて捻る
「うっ」私の口から苦痛の声が漏れた
「さてお嬢ちゃん いや 怪盗ブラックホックスと言いましょうか」
そう言っていやらしく笑うそれは恐ろしく心が無いように見えた