第7話 決意
警備部の魔法使いたちが場で検証を始めたことで、六花と久菜は逃げるように学内へ戻った。
人っこ一人いない校舎。
いや、いないと言ってもゼロではない。とある空いた教室に結界を張り、寝かせた二人の少女を置いてきていた。
現在、二人は彼女たちの回収に向かっているのだが、
「え~と、物理室だったわよね~、適当にその辺の教室を選んだから、いまいち記憶が………」
キョロキョロと周囲の教室のプレートを見回しながら、久菜は首を傾げる。
「にしても、学内のあちこちが壊れてるわね~。しばらくは休校になるわよこれ……」
「………」
六花は先ほどから無言を貫いていた。その理由は久菜も理解している。
別れ際に、儒道ジュリが口にしたあのセリフ。
―――ここだけじゃない。セーフティーラインを越える魔物たちは、各エリアで多数出没している。いつまでも平穏な日々は続かないわよぉ……。
この現状、彼女の話は他人事ではない。
自分たちの住まうこの街。この学校に、多数の魔物たちが攻め込んできたのだ。今回は誰も被害に遭うことなく、上手く退けることが出来たが、次も大丈夫だと言い切れる確証はない。
一歩間違えば人が死ぬ。そんなレベルの事態だった。
安全地帯は、もはや絶対ではない。
魔法使いたちに残された道はただ一つ。こちらから魔道区画へ乗り込み、制圧する。
言わばこれは、生き残りを賭けた魔物と人との陣取り合戦。
(……戦うしか……ないのかな……)
六花の心の中でこぼれた思いは、悲しげだった。
平穏な日常が好き。
平凡な日常が好き。
この場所で、友達と一緒に笑っていたい。
そんな幻想も抱けないほどに、苦しい現実。
もはや迷ってもいられない。
(…………何より、)
と、選択の場にたったところで、久菜が教室を見つけたのか声を上げた。
「あ、ここだ!」
久菜は扉に手を置くと、継続されていた結界を解除する。くすねた学校のマスターキーで鍵を開けた。
「あらら、可愛らしいわね……」
中に入って、彼女はクスリと笑みを漏らした。六花も後に続くと、そこには互いに寄りかかって、安らかに眠る少女たち。
(……綾ちゃん……香弥子ちゃん……)
六花は傍まで近付いて屈み込むと、眼鏡のレンズ越しに二人を見詰める。
(……大事な友達を……守らないとね……)
そして、六道六花は覚悟を決めた。
「ねぇ、久菜………」
「わたしも行く……」
決断を言い切る前に、久菜は同意を述べた。
「六花が行くのなら、わたしも……」
にこやかに笑う彼女を見て、六花もつられるように微笑を浮かべた。
仮にも久菜の魔力に当たったということで、念のため綾と香弥子は警備部と一緒に到着していた医療隊の人達に預けた。
「さて、と……」
自分たちの向かう先は決まった。あとは駆け出すために、
「じゃあ準備しよっか! まずは装備からよね~。こんな安物の棒切れじゃ、あと二、三回『風』の魔法を使ったら壊れちゃうよ………」
持ち運び重視で選んでいた杖をスカートのポケットから取り出し、クルクルと指先で回しながら久菜は楽しそうに不満を言う。
敢えてジュリや和希がいる方へは行かず、六花たちはこれからのことについて話し出していた。
「まあ、装備は買いに行くとして、『アース』への連絡を先に済ませよう………MLLに登録申請しなきゃいけないし……」
無断で魔法エリアの踏破に出ることは法律に反する。魔法使いとして『PIエリア』内で活動するためには、きちんとした魔法使いの資格と所属を持ち、エリア踏破に出陣する時分を報告しなければならない。
幸い、まだ六花の携帯には『アース』の連絡先が入ったままだ。
魔法使いの資格と魔法ランクを示したライセンスも所持しているため、再登録に大した手間は掛からないはずだ。
四年も前線から離れていたため、MLLのランキングからは外されているが、実戦に出ればすぐにでも元の順位にまで戻ることだろう。
「久菜は『アース』への連絡をよろしく……装備を買ったら調整やら改造やらしないとダメだから、私はジュリ先輩にラボの方を頼んでみる……」
「了解、姫様!」
◇ ◇ ◇
久菜が予想した通り、校舎の修理やら生徒の精神状態やらで学校は二週間ほど休みになるそうだ。
その休みを利用して、六道六花と久乃木久菜の二人は魔法使いが多く集まる『マギ・ストリート』に来ていた。
ここは、各魔導区画にある魔法使いの商店街。
各区画で手に入る物は違うが、魔法に関係する大概のものはここで揃えられる。
黒いローブ姿の魔法使いたちが大勢行き交う街を見て、久菜は懐かしいとばかりにあっちこっちに目を配っていた。
「うわぁ~、やっぱりここはどの区画でも賑やかね~」
「さすがに他の区画まで行く時間はないから、ここで済ませないとね。もし合う物が無かったら、ジュリ先輩が用意してくれるって言ってたけど……」
メインストリートの地図を見ながら装備屋を目指す二人の少女は、周囲の視線を一手に集めていた。
彼女たちの美しく麗しい整った容姿のせいもあるが、伝説のチーム『E機関』のメンバーは、魔法関係者の中で知らない者はいない。
たった二人が何の気なしにあるく道は、まるで王族の通り道の如く人混みが大きく割かれていく。
近寄ることすら許さないほどの雰囲気。誰一人、彼女たちの道を妨げる者はいない。おかげで動きやすいのだが、
「おい、あれ……六花の姫様だよ……」
「隣には《風術士》久乃木久菜さん……何だって『E機関』伝説の魔法使いがこんなとこに……」
どよめき、ざわめき、向けられる視線の数が多すぎると、どうにも息苦しかった。




