第0話 前線
PI魔導区画―――第二十エリア。
雄叫びが上がる。
昼時なのに暗い。廃墟のようなその区域に、地響きと共にそれは現れた。
四つ足で体を支え、ギロリと輝る眼。大きく裂けた口と、長い牙。
犬にも見える。
それが、十分の一くらいの大きさならば。
大きな体は、大の大人が見上げるほど。
足を一歩踏み出す度に、地割れでも起こりそうな響きが広がる。
「現れたな……」
「魔物ですか……いくらなんでも巨犬すぎですね」
そこに、数人の人影が見えた。
各人がそれぞれ、剣やら杖やらの武装をした者たち。
――魔法使い。
現代社会で、一般的にそう呼ばれる存在だ。
彼らは魔物を前に、隊列を組み、駆けていく。
後衛を務める者が、杖を向けた。
「『【青】の破弾』」
響いた声と同時に、白光する球体が杖の先から飛び、魔物の顔面に直撃する。
視界を奪った。
その隙に、剣を持った前衛二人が地を蹴った。
大きな二振り。
魔物の首が落とされた。
「ふぅ~、終わったわね…」
一息を入れる魔法使いたち。
だが、廃墟の物陰から、別の三匹が飛び出してきた。
「なっ!!」
「ヤバイ!! 総員退避!!」
叫び、後方へ動く魔法使いたち。
しかし、魔物は、
「後ろからも!!」
「まずい……囲まれた!!」
魔法使いたちは顔を青ざめる。
魔物の牙が、魔法使いの一人を襲った。
喰い付かれ、鮮血が空を舞う。
「あ、ああ…」
仲間が喰われそうになっているのに、他の魔法使いたちは萎縮してしまって、誰一人動けない。
それに構うことなく、魔物たちは動き出した。
人に群がる魔物。
「『【白】の砲弾』」
第三者の介入が、巨大な魔物たちを吹き飛ばした。
赤み掛かった明るい茶髪は長く、風に揺られて美しさを引き立てる。
短剣を片手に、彼女は飛んだ。
「『【白】の剣』」
唱えた魔法によって、彼女の短剣は白い光を纏う。
一振りする度に、魔物から魔物へ。
飛び移り、討ち取っていく。
戦いは終わった。幸いにして、死者はいない。
「あ……ありがとうございます……水嶋さん」
魔法使いの一人が礼を述べる。
「いえ、無事で何よりです。ですが、いったんセーフティーエリアまで下がるべきでしょうね」
「はい…すみません……」
リーダーであるその人は、仲間を引き連れて戦線から離れていく。
人気が無くなった後。彼女はため息を吐いた。
近頃、魔物の動きが活発になっているせいか、敗走する魔法使いやチームが増えている。
このままでは、いずれエリア踏破の前線が保てなくなるだろう。
「…ジュリさんの言う通り………やっぱり……必要なんだ……」
その声は気落ちが見られる。
「強い……頼れる……魔法使いが……」