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悪の組織の求人広告  作者: Q7/喜友名トト
最終決戦編~メタルジャスティス~
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この道を進むなら相手は俺だ

 メタリカ要塞内ではなく、煉獄島各所に展開する部隊の指揮官はベナンテが務めている。

 これは自ら志願したことでもあったし、他の幹部や首領にも満場一致で賛成されたことだ。


 建物内での戦いを苦手とする魔獣やサンタァナの力を最大限に発揮できるのは野戦であり、彼らを指揮する能力においてベナンテは他の追随を許さない。故に、非常に大事な最前線を任される形となっていた。


「そこから東に移動してください。ガーディアン部隊及び、C級と思われるロックスの一団が突破を仕掛け来るでしょう」


 ベナンテ自身は数名の部下とともに森に潜む。森と闇になれた自分にしてみれば、誰に目にもあきらかな本陣という場所で大勢に守られるよりよほど安全だ。


その上でシャーマンとしての感知能力を駆使し、敵の動きを把握、そして鳥型の魔獣を使役することでそれをタイムラグなく各部隊に通達、めまぐるしく展開する戦場に素早く対応してみせる。

 戦力を縦横無尽に動かし、突破を図ってくる敵に次々に攻撃を仕掛ける。

 

 敵は島中に仕掛けられた防衛兵器を避けるためか、あるいは強すぎる戦闘力を十分に生かすためか、分散して動いている。もっとも、そうしてこなければこちらから小規模爆撃を行い、分断させるつもりだったのだが、いずれにしても、その一つ一つを押さえるのが野戦部隊の役割だ。


 太平洋上の煉獄島には、すでに夜の闇が降りている。数の不利、ロックスという戦術上の脅威を考慮しても、十分に戦うことが出来る。


「さて……。皆は少しここで待機を」

「ベナンテは、どうする?」


 アンスラックス時代から部族の年長者としてベナンテを補佐してきた一族の者の問いかけに、ベナンテは答える。


「西の陣を突破したロックスが二名ほど、こちら付近を通過するようです。私が、対応します」


 ベナンテの役割は、メタリカ要塞に侵入する敵を一人でも多く減らすことだ。

 ゼロにすることはできない。それは理解している。ガーディアンだけならいざ知らず、あの超常の力を持つ英雄たちを一人残らず皆殺しにするなど出来るはずがない。まして、彼らはこの場での戦闘ではなく、あの要塞の最上階にいるたった一人の討伐のみのために進んでいるのだからなおさらだ。


「そうか。お前のことだから大丈夫だと思うが……気をつけろよ」


「ええ」

 クスリと笑ってみせる。


 ロックスが二人、何者なのかまではわからないが手だれであることは間違いない。相手が出来るのは自分くらいのものだろう。



 もちろん、ベナンテは負けるつもりはサラサラない。


「お前は俺たちの預言者だ。まかり間違っても死ぬんじゃないぞ。闇と森の祝福を」

「闇と森の祝福を」


 神の加護を互いに祈り、ベナンテは跳躍した。

 魔獣を召還し、自分自身の肉体に下ろす。褐色だった肌が濃い緑に変質する。


 毒蜥蜴リザードマンに変化したベナンテは夜の闇を跳ぶ。

 

 アンスラックスはメタリカの、ネイト・コモリについている。それはあの男の語った、『自分たちの居場所』を作るためだ。もう古い記憶となってしまったあの時代のような、自分たちの居場所を。


 信じるものは誰にも否定させない。『国際的な現代社会』など知ったことか。あの島を、誰にも穢されない我らの聖地を取り戻す。そして生きていく。


 ネイトは言った。必ず勝ち世界を変えるのだと、そのために共に歩め、と。

 そしてアンスラックスは彼とともにある未来を選んだ。その選択をしたベナンテには部族の理想をかなえ、そして守っていく使命がある。だから負けない。そして死ぬわけにもいかない。


 そして、これまでメタリカとともに歩んできたなかでベナンテにはもう一つ生まれた感情がある。

 ネイト・コモリ。世界を制すというその覇望には一点の曇りもなかった。あれほど強い魂をみたことはなかった。普段はどこか間の抜けたお人よしであり、ショーチューとかいう酒の旨さを教えてくれたあの男を、ベナンテは友だと思うようになっていた。


ネイトが命を懸けて戦うというのなら、そしてその野望を実現するために命を懸けるというのなら。


「……私は、負けない……!」


 アンスラックスは友のために戦う。信じる友への情は、神への祈りと等しきものだ。

 

 ベナンテは木々の間を音もなく跳ぶ。


毒の滴り落ちる爪は、神への祈りとともに敵を切り裂くために。

獰猛な牙は、友への情とともに敵を噛み千切るために。

 

 魔獣の力によって、遠方下方にいるロックスの存在を確認。


 ベナンテは感知能力で戦場全体を把握し、各所に指示を飛ばしながら自身も戦闘態勢に入る。

 目に映るロックスは、少女が二人。


 魔法を使うウイングスという二人だったはずだ。


「……これは幸運でした……」

 アンスラックスもサンタァナも、今この瞬間においても善戦しているはずだ。だが個別に突破を図ってくる数名のロックスは要塞に突入していくだろう。彼らはそれほどまでに強いのだ。


 だが、幸運なことに。ベナンテ自身の手により、その数を二つも減らすことが出来る。

 それによって、要塞内で待ち構えている友たちの負担も減ろうというものだ。


 ツルギ、ニーナ、アニス、そしてネイト。

 ベナンテは彼らが好きだ。ともに信じあい同じ道を走り、修羅の道を歩いても温かさを失わない彼らが好きだ。彼らになら後を任せることができる。


だが、私は私だ。出来うる限り多くの敵を食い尽くそう。


 毒蜥蜴の口元が裂けそうなほどに広がる。

 魔獣の力を存分にふるうのは何年ぶりのことだろう。


 ベナンテは樹上を飛び、敵に襲い掛かる。月明かりに照らされる森を切り裂き、ロックスの喉元めがけて襲い掛かる。


 「ガアアアァァァァァァッッ!!!!!」


 冷静で理知的な表情は、あとから身につけたものだ。

 本来のベナンテはその獰猛さと残忍さにおいても、アンスラックス一と称された男である。

 

 そのベナンテが、牙をむき出しにする。


「!? 上から!?」


 魔法を使うらしい少女たちは驚きの声をあげたが、ベナンテは止まらない。


 知るがいい、聖地を奪った者どもよ。

我らの怒りを、そして世界を変えるために戦う者たちの力を。


※※


要塞の外では激戦が繰り広げられているが、要塞内への突入に成功した者もいる。岩頭イワガシラタツヒトとその部下たちも『成功組』の一員である。


煉獄島攻略とメタリカ首領の打倒は、島という限定された戦場であるが故に大戦力を投入することができず、結果としてロックスを中心とし、精鋭のガーディアン部隊でそれを援護するという形となっていた。


岩頭タツヒト率いる『ガーディアン特別分室』もまた、少数精鋭の部隊として本作戦への参加を要請されていた。


ありがたい話だ。

これほどのヤマだ、応援してるだけで終わるなんて冗談じゃねぇ。

岩頭は心からそう思っている。部下たちも同様だ。


エリート揃いのガーディアン特別分室を率いるただ一人の叩き上げ。それが岩頭だ。


一警察官からここまで登りつめてきたのは、信じるもののためだ。安定した平和な社会を守りたいという願いから。理不尽な暴力を許せなかったから。


戦い続けて来れたのは警察官としての意地があったからだ。


 死に物狂いで自ら鍛え上げてきたのは、この日のためだ。


「行くぞ。油断すんじゃねぞ」


 岩頭は部下たちにそう告げると、要塞内での移動を始めた。


 光力振動刃プラズマエッジ光力強化弾ブラスターショットで武装するガーディアン特別分室。


室長である岩頭の名と、武装使用時の薔薇色の発光から『ガンズ&ローゼス』との異名を持つこの部隊は、今では『公の、組織としてのロックス』『ガーディアン最強』とも呼ばれる戦力であり、故に今回も室長判断での突入権限があった。


「構え。……撃てっ!!」


 強力な装備を持ち、完璧な連携をみせるガンズ&ローゼスは要塞内の防衛施設や罠、敵人員を次々と撃破し、上層へと進む。


ロックスのように、一騎当千というわけではない。だが、一人ひとりがプライドを持って、極限まで自らを鍛えあげ、そして完璧な連携をとるガンズ&ローゼスはディランにすら遅れをとることはないとされている。全員で一体のロックス、それがガーディアン特別分室だ。


現在の形を作り上げるのは容易なことではなかったし、他に同様の部隊を作ることはできていない唯一の成功例である現状だが、岩頭が作り上げたガンズ&ローゼスは強い。

*1 前行へ移動

彼らの快進撃は続いたが、しばらくして、岩頭は立ち止まった。


「……妙だと思わねぇか?」


 部下の一人にそう疑問を投げかける。刑事時代のカンによるものだった。


「……ですね。簡単すぎる。まるで誘導されているようでもあります」

「ああ。やっこさんたちも、要塞に突入されるのは予想がついていたはずだ。なのにその対応がお粗末すぎる」


野戦においての魔獣やサンタァナたちは露払いのような存在だったと考えるのが妥当だ。ならば、この要塞内には、突入に成功した猛者たちと戦うための備えがあるはずなのだ。まして、ガンズ&ローゼスは集団であるという特異性から、絶対に警戒すべき存在のはずなのだ。大きく戦力をさいても、だ。


その自分たちに裂く戦力がこの程度のわけが……


「……!? 下がれ!!」


 瞬間、岩頭は背筋がゾクリとする気配を感じとり、とっさに叫んだ。

 部下たちもそれに即座に反応し、一斉にバックステップで通路を後退した。


 直後、部下たちがさきほどまでいた空間には、閃光が走った。


銃器や爆薬の類ではない。


 それは研ぎ澄まされ、裂帛の気合とともに放たれた剣による一閃だった。


 尋常な速さではない。一瞬でも反応が遅れていれば、まとめて真っ二つに切断されていたはずだ。


「……ふっ、全員かわすとはな。流石は世に名高いガーディアン特別分室だ。見事、と言っておこう」


 通路の奥、闇の中から聞こえてくる声。今の一撃を放った敵だと思われる。一瞬のうちに接近し、鋭い斬撃を放ち、そして反撃に備えて即座に後退したと思われる。


「不意打ちとは、感心しねぇな」


 岩頭は謎の声に対し、憤りをぶつけた。


「あの程度で全員始末できる相手なら、堂々と戦う必要はない」


 謎の声、そう、低く良く通る声だ。その声を発する男が近づいてくる。

 カツカツと冷たい音を響かせ、その男の姿が明らかになってくる。


 スーツを着た長身の男、顔には深い傷跡があり、手には長物を持っている。どうやら、あの刀を武器とするらしい。

 オールバックの髪の下には、狼を思わせる鋭い顔つき。


 知っている。岩頭はこの男を知っている。

 

 男は刀をゆっくりと抜き、まるで切れるような殺気をぶつけて来る。


「室長……この男は……」


 部下たちの声。彼らは少し戸惑っているようだった。ガンズ&ローゼスの危険性を考えれば、大きく戦力を割いて対応すべきなのだ。にもかかわず、実際に現れたのは、たった一人の男。


 だが、誰も楽観してなどいない。

このたった一人の男に、部下たちは全員息を飲んでいた。


 部下たちもみな、修羅場を潜り抜けてきた猛者たちだ。そんな彼らの経験が、猛烈な危険信号を発しているのだろう。


「この道を進むのなら、相手は俺だ。覚悟はいいか?ガーディアン」


 男の言葉と瞳が、けして退かぬという強い意志を放っているようだった。

 常人であれば、失禁しかねないほどの迫力だ。


 だが、


「上等だ……。舐めるなよ。メタリカ」


 岩頭とて意地がある。負けはしない。その重圧を真っ向から跳ね返し、部下たちの闘争心に火をつける。


二人の男のぶつかり合う気迫は、目に写る火花のようだった。


 

次回「天国に行けるような男じゃねぇから」


ここは本作で二番目に書きたかったシーンです。

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